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『スロージョギングのすすめ』
  先日、『ランニングの世界』という雑誌のために、山西哲郎・日本体育学会会長と対談しました。私の「メンタルなことはフィジカルに」というモットーが、スポーツ科学の専門家にも認めて頂けたことを有難く思いました。それにしても、宗教学者もこういう分野の研究者と対話をする時代になったのだと、感慨深いものがありました。
 最近、ある方からスロージョギングというものを教えてもらって、旅先などでホテルの周辺を走ったりしています。NHK番組『ためしてガッテン』でも、生活習慣病予防や脳の活性化などに効果がある有酸素運動として取り上げられましたが、たしかにしっかりと汗が出て、とても気持ちがいいものです。
 ニコニコとお喋りしながらでも走れる速さ、つまり歩くのと同じぐらい速さが良いとされていますが、スロージョギングは、そういう無理のないところがいいと思います。じつはプリンストン時代に、毎朝、湖の周りをジョギングすることにしていたのですが、膝を痛め、止めてしまったのです。でも、スロージョギングなら膝への負担も軽くてすみます。
 私は以前から道具のいらないスポーツが好きなので、水泳も二十年近く続けています。水泳はプールがなければ出来ないところが難点ですが、ジョギングならスニーカーさえあれば、どこでも出来ます。それに、ゆっくりと走りながら町の風景を楽しむことができます。
 とくに私が楽しみにしているのは、走っているうちに、知らない町のお寺や神社に出くわして、お参りすることです。このあいだも、台湾の台中市の街並みを当てもなく走っていたら、落ち着いた佇みのお寺があって、扉を押し開けて入っていくと、想像もしなかったような美しい観音様がおられました。不思議なのは、何の当てもなく走っていても、そういう寺社仏閣に出会うことが多いことです。走りながら神仏に導かれているのかな、と思ってしまいます。
 ジョギングは健康によいだけでなく、続けていると、無心の境地になれますから、「走る坐禅」と言ってもいいでしょう。昔のお坊さんに智恵があったのは、寺から寺へ良師を求めて、諸国行脚をしたことです。歩くということが、思想を深めるのです。
 坂本龍馬は土佐藩を脱藩する時、130キロを三日で走り抜けたそうですが、それぐらいの元気があったから、大政奉還という一大事業をやってのけることができたのかもしれません。東日本大震災を節目として、平成日本が新しい国の形へと脱皮しなくてはならない現在も、まずなすべきは国民の体力作りではないでしょうか。このスロージョギングが国民運動になれば、医療費大幅削減に貢献するだけでなく、きっと精神の高揚に役立つはずです。みなさんも、明日からゆっくりと走ってみませんか。
(2011・7・8)