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『マウイの夢』
  先週、ハワイに行って来ました。今までも幾度となくハワイには足を運んだことがありますが、今回訪れたのは、十数年ぶりでした。たしか前回は、心理学者の河合隼男氏と一緒に、ハワイ大学の東西センターで講演した記憶があります。
 今回は、現地で布教活動しておられる仏教僧の方たちの要望で、なんと一週間で七回も講演をすることになりました。場所と聴衆によって、使用言語を英語もしくは日本語に切り替えるという複雑さはありましたが、どこでも皆さんが熱心に聞いてくださり、ありがたかったです。
 この旅の大半をマウイ島で過ごしましたが、マウイを訪れるのは何と三十二年ぶりでした。当時は、本場日本からやって来た雲水として禅センターの人たちに歓待してもらいましたが、今回は主に浄土宗の皆さんのお世話になりました。不思議なご縁です。
 とくにラハイナにある浄土ミッションは三重塔もある立派なお寺ですが、そこの御住職の原源照師とご家族は、どなたも素晴らしいお人柄で、頭が下がる思いがしました。四十五年もそこに暮らしておられる原師を慕って、人種や職業を問わず、いろんな人が集まってこられるのを目の当たりにして、やはり人間に必要なのは人徳だとつくづく思いました。外国で日本仏教の根を下ろすというのは、たいへんな仕事ですが、原師はじめ各島の開教使の方たちは、さまざまな試練を乗り越えて頑張っておられます。
 マウイ島は、オアフ島と違って、のどかな場所が多いのですが、この季節はどの岸に立っても、真っ青な海に潮を吹きながら泳ぎまわるクジラの姿を見ることができます。私がお寺の本堂で講演している時は、目と鼻の先にある海岸にアザラシが上陸して、日向ぼっこしていたそうです。そういうことは年に二、三度しかないそうで、とても嬉しくなりました。私の講演は、人間だけではなく、アザラシ君も、昼寝するのにちょうど心地よい波長を出しているのかもしれません。
 講演の合間をぬって、フラダンスの著名な指導者であるホクラニ師とカポノアイ師ともお会いする幸運に恵まれましたが、お二人ともハワイ文化に深い見識と自信をもっておられることに感銘を受けました。とくにフラ練習場では男性のフラを見てから、カポルアイ師の朗誦を聞かせて頂きましたが、大地から湧き上ってくるようなその声は物凄い迫力で、魂まで清められたような気がしました。拙著『縄文からアイヌへ』(せりか書房)でも論じたことですが、先住民文化というのは、われわれ近代人が真剣に学ぶべきものがあります。
 地元の大学では、三十人あまりの学生と感謝念仏を実践しましたが、何人かの学生は、涙を流していました。やはり「ありがとう」は、民族や宗教の壁を乗り越える力をもつものであることを再確認しました。
 私は高校生の時から、「将来は、鈴木大拙のように東西融合の架け橋になる仕事をしたい」という夢を抱きながら生きてきました。今回のハワイ訪問で、その夢がより具体的な形を取り始めたような気がします。
 その一環として、いつかハワイに「風の集い」の拠点作りをしたいと考えています。それが実現すれば、ぜひ皆様もサーフボードもしくはフラ用ムームーをご持参の上、ご参加ください。
 ちなみに、先日放送された私のインタビュー番組『愚かさの再発見』は、NHKラジオ深夜便のホームページで、この一か月間だけ公開しているそうですので、何かの折にお聞きくだされば光栄です。アザラシ君同様、昼寝にはもってこいだと思います。(2012・2・12)



「原師ご夫妻と」


「地元学生たちと感謝念仏」


「ホテルのバルコニーから」