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『三十年ぶりの坊主頭』
  先日、沖縄を訪れたおりに、頭髪をばっさりと切り落とし、頭を丸刈りにしてしまいました。バリカンでいちばん薄い三ミリという長さです。いざ丸刈りにしてみると、髪の乱れも気にしなくていいし、結構、気持ちがいいものです。それに、今は暑いですから、持ち運び自在の空調システムとして、重宝します。
 ただ、ちょっと困るのは、学者として公式な会議や委員会に出席した時、場違いな印象を与えてしまうかもしれない、ということです。そういう場に集う人たちは、みなさんそうそうたる肩書きを持っていますから、「なんでこんな場所に、田舎の坊さんみたい人が座ってるのか」と不審がられるでしょう。
 34歳で渡米するまでは、きれいにカミソリで剃髪していましたが、向こうで学生となってからは、だんだんと髪を伸ばし始めました。坊主頭になるのはそれ以来ですから、おおよそ三十年ぶりです。それにしても、なぜ私が急に頭を丸めたのか、その理由については、風の集い参加者の間で諸説紛々です。
 代表的な憶測に三種類あります。一つ目は、私が誰かと賭け事をして負けたらから、頭を丸めたという説。以前箱根駅伝の結果を賭けて、小銭を稼いだことがあるので、今回もさもありなん、というわけです。
 二つ目は、ちょうどお盆の時期なので、どこかのお寺さんの雇われ坊主となって、棚経周りに奔走していた、という説。そういうアルバイトは、自分でも思い着きませんでしたが、いつか小遣いに困るようになったら、やってみてもいいかもしれません。
 三つ目は、私が何か警察のご厄介になるようなことをしてしまい、しばらくの間、塀の中にいたという説。なかなか面白い憶測ですが、もしも私が警察のご厄介になるようなことをしていれば、すでに「広大教授、満員電車の中で女の子のお尻を触る!」というような新聞沙汰になって、全国的に知名度を高めているはずです。
 結論から言えば、三説とも間違っています。私は、自分の心を入れ替えようと思って頭を丸めたのです。還暦もとっくに過ぎてしまい、このまま自分をいたぶるような生き方をしていてはならない、もっとそのままの自分を認め、自分の魂を大切にしなければならないと、沖縄の宮古島にいる間に反省するような出来事があったのです。
 私が真に自分を良き友とし、自分を愛することが出来るまで、当分の間は丸坊主でいるつもりです。坊主頭の私を見かけられたら、「ああ、町田さんは、まだ反省中なんだな」と納得して頂きますよう、謹んでお願い致します。(2012・8・19)



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