【更新は不定期。】

『フィンランドに学ぶ』
   表面的には親切で社交的であっても、心の中で人を蔑んだり、差別したりしていることは、よくあることです。私は中学生の頃、夜になると師匠の前に坐って、眠い目をこすりながら、論語の素読をさせられていましたが、いくつか今でも覚えているフレーズの中に、「巧言令色少なし仁」というのがあります。
 つまり、言葉巧みに、愛想よく人と接している人にかぎって、真心がないということです。ほんとうに誠意ある人というのは、どこか朴訥としていて、口下手なものです。なんで、こんな話をするのかと言えば、最近訪れたフィンランドの国民は、ヨーロッパ人の間では、内気で口下手なことで知られているからです。
 フィンランドは、これで二回目の訪問ですが、今回もまた痛く感動しました。国土の80%が森と湖で、町を外れれば、ほとんど人間を見ることはありません。何しろ面積は、日本から九州を外したぐらいの大きさですが、そこに福岡県の人口と同じ約五百万人だけが暮らしているのです。
 そんな自然がいっぱいの国でも、教育水準・国際競争力・生活水準の三点において、世界のトップクラスに位置しているのが、驚きです。税金が高すぎるのが難点のようですが、そのぶん教育が充実していて、国家の推進力になっているわけですから、日本もそのへんは見習うべきではないでしょうか。
 それにフィンランド人は、とてもオシャレです。地味な色合いながら、優れたデザインの服を若者から年配者まで、じつにうまく着こなしています。北欧全般に家具や家屋のデザインが良いことで知られていますが、フィンランドは服装のデザインがいちばんいいように思いました。
 食事も、新鮮な魚や野菜、木の実やヨーグルトなど酵素がいっぱい含まれているような食べ物を摂っているようで、きっと国民の健康に貢献していると思います。美人が非常に多いのも、食べ物のせいかもしれません。
 フィンランドと言えば、サウナですが、たしかに各家庭にそれがあり、子供の時から入るそうです。森の山荘にあるサウナは、白樺の薪で温め、そこで体が真っ赤にほてるまで入り、外に出て、焼いたソーセージをつまみにウォッカを飲んでから、湖に飛び込むのが、彼らの温冷浴のやり方です。
 大いに感心したのは、首都のヘルシンキ駅周辺以外、町や森のどこに行ってもゴミがないことです。ポイ捨てをする人も自然の中に粗大ゴミを放置する人もいないわけです。それだけで、フィンランド人の民度の高さを証明しています。
 人が見ていなければ、どこでもゴミを捨てる日本人の民度は、残念ながら、かなり低いと言わざるを得ません。私は大学まで高速道路を運転して通っていますが、インターチェンジ付近のゴミを見るたびに、「いつからこんな国民になってしまったのか」と思ってしまいます。
 歴史的にも、フィンランドはロシアとスウェーデンの間に挟まれ、その両国からの侵略を何度も受けて来たのですが、たくみな政治力で東西両陣営のどちらとも適度な距離を置きながら、独自の国の在り方を作って来たのです。アメリカと中国に挟まれて、主権を放棄したようなどこかの国の政治力は、いったいどうなっているのでしょう。
 しかし何と言っても、フィンランドの美しさは、森と湖です。私は世界各国の森を訪れるのが趣味の一つですが、フィンランドの森は、格別な美しさを湛えています。大きなクジラが浮き上がって来たかのような巨岩が大地のあちこちに顔を覗かせ、その上を刺繍でもしたかのような多様な苔・粘菌類が覆っているのです。どこを見ても森の妖精か、ムーミンが潜んでいそうな気配があります。
 自然と共生する生き方をもう一度、日本も考え直してみるべきだと思います。国民が穏やかに暮らすためには、経済大国なんかである必要はありません。教育水準をあげ、自分の生き方をしっかりと思索できる人間を増やすことが、この国の再生につながるのではないかと、今回の旅でつくづく思いました。(2012・9・21)



「ムーミンがいる」




「森のサウナで」


「折々の言葉」バックナンバー