「ため池 〜共生のシンボル〜 」

木村 公一

 

目次

T.ため池の全国分布

U.ため池とは?

V.ため池に生息する植物

W.ため池に生息する動物

X.東広島のため池

Y.まとめ                              

 

T.ため池の全国分布                                          

 (@)瀬戸内海沿岸地域

瀬戸内海沿岸地域にため池が多いのは、夏冬共に降水量の少ない瀬戸内式気候に属するためである。ちなみに全国で1番ため池の多い県は兵庫県である。

 (A)奈良・岩手などの内陸地

    奈良・岩手などの内陸地にため池が多いのは、付近に利用できる河川や湖沼が少ないためである。

(B)関東平野

    関東平野にため池が少ないのは、付近に利用できる河川が多く、また関東ローム層が影響しているためである。                    〔参考文献:池沼の生態学〕

 

U.ため池とは?

@)ため池の定義

   ため池とは「湖より規模が小さく、水深が2〜4m程度でさらに排水施設を備えている池」のことで、自然の池沼でも後に排水施設を作ればため池と見なされる。ただし、人工的な止水域でもダムのように大規模なものは含まない。

                           〔参考文献:水辺環境の保全〕

 

(A)ため池の種類

    ため池は平地の窪地の周囲に堤防を築いた「皿池」と、や丘陵地を山間部の谷をせき止めた「谷池」の二つに大きく分類される。

    @「皿池」は周囲が住宅地や農耕地帯であることが多く、一般に富栄養化が進んでいる。また、池底が比較的平坦で水深が浅い。 

 A「谷池」は周囲が森林に囲まれ、水質は貧〜中栄養である。谷尻にあたる堤体側が深く、谷頭に向かって徐々に浅くなっていくが、両岸は急傾斜になる。

                           〔参考文献:水辺環境の保全〕

   

B)ため池と米作りの関係

  (例)広島県庄原市高門地区

     高門地区にはため池が全部で35個あり、このため池は「池守り」と呼ばれる人々によって管理、運営されています。ここで言う「池守り」とは、池の水を抜いたり、止めたりしたりして、池の貯水量を調整する権限を持つ人です。「池守り」は毎年、稲が水を必要としなくなった9月には、池の全部の栓を閉めて、水を貯えます。翌年の5月の水抜きまで、冬の間は時々池を回っては、水が洩れないよう点検します。

     6〜7月の梅雨時期に雨が少ない場合(干ばつ)、水の奪い合いが問題になります。というのも、この高門地区だけでなく、広島県の田は傾斜・急傾斜にあるものが約5割を占め、全国平均の2割に比べて大変高くなっているからです。この傾斜にある田とは主に山の斜面を利用して作ってあるため、田の畔の段差はとても高い。そのため付近に河川があってもその水を利用することは大変難しい。このような状況下で最も簡単に水を得る方法は高い所にため池を作り、そこに水をためておき水不足になった時に高い所から低い所へ用水路を使って水を送るという方法である。こうして、農業におけるため池の重要性は増していったと考えられます。

                                                        〔参考文献:高門 ため池と棚田の村から〕 

                

V.ため池に生息する植物

 (@)ため池に生息する植物の種類

    @「皿池」に生息する植物

池の周囲にマコモやヒメガマなどの大型抽水植物群があり、内部にはヒシ、オニバスなどの浮葉植物群落とクロモ、オオトリゲモなどの沈水植物群落が混在もしくは水深などによって棲み分けている。また、水中に栄養塩類が豊富なため、ウキクサなどの浮遊植物が見られる。

 

A「谷池」に生息する植物

大型抽水植物群落は発達しにくく、代わって水位低下とともに干上がる浅水域にクログワイ、カンガレイ、ハリイなど中〜小型の抽水植物群落が成立する。水中に生息する植物は、水質によって変わり、酸性で貧〜腐植栄養の池にはジュンサイ、ヒツジグサ、フトヒルムシロなどが、中栄養になるとヒルムシロやガガブタなどが生息する。

〔参考文献:水辺環境の保全〕

 

(A)ため池に生息する植物の水位変動に対する特性

   @異形葉の形成

異形葉とは葉が展開する環境が水中であるか空気中であるかによって異なる形態の葉であり、顕著な例としてキクモなどが挙げられる。水中で展開する水中葉は細裂した柔らかい羽状葉で、柵状組織と海綿状組織は分化せず、また気孔は退化している。ところが水位の低下によって空気にさらされると、気孔の分化した厚みのある気中葉を展開する。水位の上昇によって再び水中に没すると、今度は水中葉を形成する。

                         

    A陸生形の形成

抽水植物は池底が陸化した状態でもほぼそのままの形で生育を続ける。浮葉植物はヒルムシロ、アサザなどのように土壌の乾燥が限度を超えて進行しない限り、矮生化するが陸生形として成長を続けるものと、ジュンサイなどは土壌表面が乾燥すると地上部が枯れ、地下茎や殖芽だけが生き残る。沈水植物の多くは、陸生形を形成する能力を欠くため、周囲からの流入水によって、乾燥から守られる場所で生き延びるか、干上がり前に種子や栄養繁殖体を形成して休眠に入り、植物体は枯死する。

 

      B越冬手段

ヒシ、オニバスなどの一年草は乾燥や低温に対する耐性がある種子で冬を越し、ヒルムシロ、ガガブタのような多年草の多くは殖芽と呼ばれる特殊な越冬器官を形成して冬を越す。

                         〔参考文献:水辺環境の保全〕

 

A)ため池に生息する植物の現状

    現在ため池に生息する植物は朱によっては危機的状況にある。こうした危機的状況の原因は次の4つである。

    @ため池の埋め立て

     都市化の進行で不足した住宅用地や公共用地を確保するためにため池の埋め立てが進行している。これは、都市部での水田面積の減少によるため池の必要性の低下のためである。

 

Aため池の改修工事

     老朽化したため池の堤防の安全確保や管理のしやすさなどを目的に、ため池の改修工事が行われているが、従来の工事ではため池に生息する植物に対する配慮がほとんどない。また近年まで環境アセスメントの対象外でもあった。

 

B水質汚濁の進行

     家庭排水、産業排水、農地からの肥料の流入による富栄養化が急速に進行した。

こうした富栄養化によって生息する植物群落の衰退が沈水植物➝浮葉植物➝抽水植物の順に進行する。

 

Cその他

     最近は、水中の植物を無差別に食べ尽くすソウギョの無思慮な放流やアクアリウムブームで導入された外来の水草が自然流域で繁茂することで在来種の生育が脅かされる場合もある。

〔参考文献:水辺環境の保全〕

     

W.ため池に生息する動物

  ため池に生息する動物は大きく淡水海綿・クモ類・昆虫類・魚類の4グループにわけられる。各グループには多くの種類があるが、ここでは希少種、絶滅危惧種、そして環境指標動物を挙げてみる。

 

 (@)淡水海綿

 淡水海綿とは水中の構造物に固着し、餌となる細菌、微生物、有機物などを取り込み、生命を維持している生物である。この淡水海綿の外形は、塊状、盤状、薄層状、枝状と様々な型があり、色は色素細胞を持たないので基本的には白色であるが、大部分が水中の汚れを取り込んでいるため黄土色か灰褐色をしている。このような淡水海綿は水質などの条件が整えば、流水・止水域の区別を問わず、河川、用水、湖、ため池に生息する。しかし、淡水海綿の体は強い水流に耐えられない構造なので、河川よりも止水の湖やため池の方が種類数も生息量も多い。淡水淡水海綿は山間部の有機分の少ない渓流や、逆に工場排水や家庭生活排水により汚染がかなり進んでいる水域には生息しない。淡水海綿が生息する水域は他の生物も、種類数および量とも豊富である。こうしたことから、淡水海綿は水質指標動物の1つとなっている。

 

 (A)ミズグモ

クモ類の中で一生を通じて完全に水中で生活するクモはミズグモだけである。しかし、このミズグモは人口のため池では発見されていない。そのため、ミズグモが生息するため池は「本来の自然環境がよく残っており、水のきれいな高層湿原または中間湿原があり、池の周りにはヨシ類・スゲ類・ミズゴケ類が生えているところで、ゲンゴロウ類・ガムシ類・ミズスマシ類などの水生動物が豊富で、大型の魚類が見られない、水深20〜50cm程度の池」である。また、人口のため池に生息しない理由として人工のため池や農業用水は各地に多数あるが、その多くでは水草がなかったり、水位の上昇が激しいのでミズグモにとっては決して安定した環境ではなく、そこで世代を重ねるのは不可能であるということが挙げられる。

 

(B)ベッコウトンボ

   ベッコウトンボが生息する池に共通する環境は、丈の低い疎らなヨシ群落が生息する水深の浅い部分があり、後背に草地と林を伴うことである。そのような環境下で、ベッコウトンボの雄はヨシ帯に午前中に多く現れ、雌はヨシの間を縫うようにして打水産卵する。羽化直後の成虫は池近くの草地で体が固まるのを待ち、そのあと分散し成熟した後再びヨシ原に戻ってくる。また、ベッコウトンボの環境に対する反応はデリケートで、平地の池沼の喪失と相まって、日本のレッドデータブックでは最も緊急度の高い絶滅危惧種に、さらに「種の保存法」により国内希少野生動植物種に指定され採取が規制された。

 

 (C)マダラナニワトンボ

        マダラナニワトンボは日本特産の主に本州西部に局地的に分布する黒いアカトンボで、丘陵から低山地にかけて、決まって松林に囲まれた遠浅の池に生息する。愛知県から瀬戸内地方にかけては、降水量の少ない痩せ地で禿山が多く、そこにはアカマツ林が多く存在する。そのような場所にはため池も多いため、マダラナニワトンボはアカマツ、コナラを主体とする里山に存在する自然状態のよいため池の指標種であると言える。

 

 (D)オオキトンボ

    オオキトンボはベッコウトンボと並ぶ稀種であり、このオオキトンボの雄は大きな池の開けた岸を広範囲にパトロールするタイプの縄張りを持ち、産卵も植物が生えた遠浅の岸に沿って、多くは雌雄連結して飛びながら行われる。このような習性に応えうる環境が少なくなったことが、オオキトンボの減少の大きな理由であると考えられている。

 

 (E)トビケラ

    トビケラとはチョウ・ガ類と共通の祖先から分化したと推定されている。トビケラは卵、幼虫、さなぎは水生であるため、河川、湖、池沼に見られる。池に住むトビケラは一般に水質の悪化に対して敏感であり、生活排水が流れ込むようなため池ではほとんど見られない。このことより、トビケラが生息していることは環境条件が比較的良好であると言える。

 

 (F)フサカ

    フサカとは卵、幼虫、さなぎが水生であり、成虫は全体に毛深い感じの蚊様の形態である。フサカは水質汚濁により有機物が大量に流入した池で、低層が無酸素状態で、底泥が黒色を呈し、硫化水素臭がするところでも採集されるため「大変汚れた水の指標動物」として知られている。しかし、実際は池を眺める限りあまり変化がなくても、底に汚濁物質が沈殿し、堆積し始めていることが予測される。したがって、このフサカが見られることは、つまり汚濁の黄信号であると言える。

                   〔参考文献:身近な水辺 ため池の自然学入門〕 

 

 

X.東広島のため池

  東広島市は広島県の中央付近に位置し、夏冬共に降水量の少ない瀬戸内式気候に属している。そのため、東広島市には水不足に備えたため池が数多く存在する。東広島市の地図を調べてみると745個ものため池が存在しました。このような地図から読み取れるため池の情報からため池がどのようなところに、そして、何のために作られたのかなどを調べてみる。

 

 (@)標高とため池の個数の関係

    図1よりため池の個数は標高210m〜250mに最も集中している。この区間の個数は全体の約50%を占めている。ここで、案外高いところにため池が多いと思うかもしれないが、それは間違いで東広島市は西条盆地に属しているため海岸部より200m以上高いからだ。(ちなみに広島大学は220〜230m)したがって、図2からわかるように西条盆地から見てみればこれらのため池の多くは平地に存在している。また、この区間で谷地の割合が比較的高いのは山裾が多いためである。これは西条盆地が周囲を山地に囲まれているためである。また標高がかなり高いところにもため池が存在するがこれらのため池は山間部の谷地部に作られているので図2では谷 地部の割合が高い。

 

 

 

   さらに図3より最もため池に多い区間の土地利用として水田と森林があげられる。水田の方は多くが平地に存在するが、森林に利用されているため池は山地、谷地、そして山裾に近い平地に存在 する。これらのため池は農業用に作られたのではなく、自然に近いため池だと思われる。また、この区間では生活排水が多いように思えるがそれは都市部の標高がこの区間の数値に近いためだと考えられる。また図3では350mあたりまでしか水田に利用されていないのを見るとどうやら高いところにため池を作ればいいと言うものではないようである。

 

    

 (A)サイズとため池の個数の関係

    図4より東広島市には小さなため池が密集していることは明らかである。また、標高が高くなると大規模なため池は存在しない。これは、標高の高い地域には大規模なため池を構成することと大規模なため池は存在しない。これは、標高の高い地域には大規模なため池を構成することでため池を大規模にする必要がないという理由だと思われる。次に図5より水田に利用されるたでため池を大規模にする必要がないという理由だと思われる。次に図5より水田に利用されるたやすいところに個人用あるいは少人数用にため池を形成したためである。個人用あるいは少人 数用であるからそれほど規模が大きくなくてもいい。また、森林に利用されているため池に小規 模なものが多いのは主に山間部に存在するためだとおもわれる。さらに図6より小規模なため池が平地に多いのということと図5とを一緒に考慮すると水田に利用されるため池はほとんどが平地に存在しているということがわかる。同様に森林に利用されているため池は山間部と谷地部に多いことがわかる。

 

 

 

 

 (B)まとめ

    これまで見てきたように東広島市のため池は大きく分けると自然のため池と人工のため池に分けることができる。自然のため池とは、森林や水田、畑に利用されているものの一部である。この中でも特に、山間部の小規模なため池は自然のため池である可能性が高い。ここで、山間部に あるため池の規模が小さいのは、大規模なため池を構成できる場所がないか、それとも水田に利用しないので大規模にする必要がないか、あるいは、昔は使っていたが今では使っていないかのどれかだとおもわれる。また、人工のため池とは、水田、畑の一部に利用されていたり、工場排水、生活排水、ゴルフ場に利用されているものである。ここで、水田に利用されている小規模なため池はまだため池の重要性が高かった頃の農業事情に大きく関係していると思われる。それにため池は高いところにあればいいと言うものではなく、利用できる高さには限度があると考えられる。さてここで、どのグラフでも畑に利用されているため池が少ないのは、畑は水田ほ考えられる。さてここで、どのグラフでも畑に利用されているため池が少ないのは、畑は水田ほ ど水を必要としないためだと思われる。

 

 

Y.まとめ

  ため池の重要性の低下から、ため池が埋め立てられてきたが、ため池が地域の生物多様性を支える重要な水辺空間であるということが明らかとなった今、今後、良好な自然を残すために池をどのようにして保全していくのかが重要な課題となる。   

(@)水辺環境としてのため池の保全

最近は防災面から貯水機能や遊水機能が注目されているが、生き物の生活する水辺空間としての役割を評価した保全として水質の保全・池の形状の保全がある。水質の保全については、単に汚濁な排水の直接的な流入を防ぐだけでなく、集水域の環境全体を保全するという視点が重要である。

(A)ため池管理の継続

     冬場に水を抜き、栄養分に富んだ底泥を採取する慣習は、有機物「ヘドロ」の堆積によって還元状態に陥りがちな底泥に酸素を供給し、窒素やリンなどの栄養塩類を除去して富栄養化の進行を抑える効用があった。

  (B)生物群集としての保全の視点

     特定種の保全だけを問題にするのではなく、その種の存続を可能にしてきた環境こそを保全の主たる対象とみなすべきであり、水質などの物理・化学条件だけでなく、生物的環境である動物や菌類など他の生物種との関係が今後重要視されるべきである。

  (C)遺伝的多様性の保全

     地域に密着した水辺環境の保全のために、地域のため池群が有する遺伝的多様性と地域特有のあり方を解明し、保全のガイドラインを作ることが重要である。

                           〔参考文献:水辺環境の保全〕

  

   最近、ため池が生物多様性を支える水辺空間としてその重要性が見直されてが、一般人が知らないことは数多く存在する。そのために例えば東広島市の場合、最近の人口増加率が全国で上位に入るなどの著しい発展の裏でその人口増加に対する住宅地の需要を満たすために自然のため池が一般人たちの知らないところで次々と埋め立てられ、自然が破壊されているという可能性があるかもしれない。このようなことを許さないためにも一般人はこのため池について学び、理解し、そして協力することが重要になってくると思う。また地方公共団体も専門家から意見を積極的に求めたり、環境アセスメントなどを積極的に推進したりして、今問題になっているため池の無思慮な埋め立て・開発をなくしていくべきだと思う。こうした一般人の理解・協力、地方公共団体の自然環境の保全への努力があって初めて、上記したため池の保全に関する課題は達成されるし、ため池の重要性を再び向上させることができると思う。そのためにも今後は、一般人が生物の宝庫となり得る場所であるため池を学部ことができる環境を整えることが重要になってくると思う。(例:学校での紹介、身近なため池ハンドブックの形成など)こうしたため池の重要性の向上、一般人の理解・協力の獲得、地方公共団体の自然環境の保全への努力は、21世紀にため池を残す上での最大の保全の課題であると思う。今後は地方公共団体、一般市民が互いに協力して、この課題を何としても克服し、『自然との共生』という言葉を当てはめるにまさにふさわしい『ため池』を21世紀に残していかなければならないと思う。

 

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