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Introduction

 触媒はいろいろな物質を創る化学工業プロセスにおいて、殆どいってよいほど多く使われています。例えば、私たちの身の回りには、多くの化学繊維、プラスチック、塗料等がありますが、これらの高分子化合物あるいはその原料を創る時は必ず触媒を用います。しかし、触媒は最終製品として市場に出ることはありませんので、ともするとその存在が忘れられ勝ちです。目的の物質だけを選択的に、しかも効率よく創るためには、触媒は大変重要な技術です。また現在、地球環境を守りながら有限なエネルギー・資源を効率的に利用しなければ、私たち自身の生存が危ぶまれるところに来ています。例えば、環境中の有害物質を除去するため、あるいは残り少ない化石資源を有効に利用するためには触媒技術は不可欠です。このように、これからの人類の生存のためには欠くことの出来ない触媒ですが、従来はその不可思議な力のために"魔法の石"と呼ばれ、科学的に解明することが難しいとされてきました。しかし近年、触媒の研究は急速に進歩し、例えばゼオライト等に見られるように、極めて高度の科学が技術と融合して生まれた優れた性能の触媒が創れるようになり、その中身についてもよく見えるようになってきました。私たちも、高性能且つ新規な触媒の開発を目指して研究を行なっています。


私たちの研究グループの研究テーマは以下のように大別されます。

 

(1)固相晶析法にいる高分散金属担持触媒の調製と応用

 私たちの研究グループでは、新しい触媒調製法を工夫し、どこでも誰にでも創れる高性能な触媒の開発を目指して研究を行っていますが、その成果の一つとして、金属が表面に安定な超微粒子として担持された触媒を調製することに成功しました。 金属を担持した触媒は、重質油の接触改質、脱硫、天然ガス改質等のエネルギー・環境に関るものから、石油化学誘導体の水素化、酸化等の化学品製造に関るものまで、高効率の炭化水素変換反応のために多種類のものが広範囲に使用されています。これらの金属担持触媒の性能を決定する大きな要因として、金属種が安定に且つ高分散で担体上に固定されていることが挙げられます。この安定な(シンタリング即ち凝集を起こさない)超微粒子(オングストローム・オーダーの)金属種を担持した触媒を再現性よく調製する方法は未だありませんでしたが、私達の最近の研究の成果でそれができることが分かってきました。

 私たちが提案した「固相晶析法」と呼ぶ方法(図1)は、活性な金属種を均質に含む前駆体を調製し、これを適当な条件下で処理することにより、構造内部から触媒表面にクラスター状の活性金属種を生成させる方法です。従来の方法が活性金属種を外部から担体上に付着させるのに対し、この方法では構造内部から活性金属種を染み出させるのが特徴です。この方法によれば、適当な前駆体を選択することにより多くの種類の金属および担体を利用することができ、また構造中の金属イオンもしくは原子から金属を表面に染み出させるため、クラスター状の超微粒子金属を担体上に強く結合させて生成させることができます。従来の方法では金属の粒子径あるいは分散度の制御が容易ではありませんでしたが、この方法だとだれでもどこでも安定な超微粒子金属種を再現性よく調製することができます。

 このように調製した触媒は高い活性を示すと同時に、炭化水素変換反応で常に問題となる触媒上での炭素の析出(コーキング)に対しても強い抵抗性をす示します。 既に、私たちはペロブスカイトと呼ばれる複合金属酸化物を前駆体として用い、安定な超微粒子Ni金属担持触媒を調製し、これがメタンの酸化による合成ガス(COとH2の混合ガス)製造に高活性並びに耐コーキング性を示すことを明らかにしています。合成ガスはメタノール、酢酸等の多くの化学物質を作るための原料として重要で、例えばメタノールだけを取上げても現在世界で2,000万トンの規模で合成され、将来さらにその生産量は増加すると考えられます。また、その他ハイドロタルサイト等の各種の結晶性の前駆体を用いての検討でも、この調製法が各種の触媒反応に有効であることを確かめています。この方法で調製したチタン酸バリウムと言うペロブスカイトにニッケルを担持した触媒(Ni/BaTiO3)上ではニッケルがオングストローム(10-8cm)程度の直径の超微粒子として、ちょうど雲のように表面に分散したものが得られています。この触媒はメタンから合成ガスを作るのに高い活性を示すと同時に、長時間反応しても殆どコーキングが起こりません。このように固相晶析法は高活性の金属担持触媒の調製法として広く利用できると期待されます。

 

(2)低級アルカン部分酸化触媒に関する研究

 アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪酸は有機ガラス、吸水性ポリマー等の私たちに身近な高分子材料の原料として重要な化合物ですが、今までは炭素・炭素二重結合を有するアルケンを酸化して合成されて来ました。このアルケンは石油中に含まれるアルカンを原料として合成されますので、アルカンを直接酸化して不飽和脂肪酸を合成することができれば、今までの二段で行なわれている反応を一段で行なうことができます。この直接、一段で合成する方法が開発できれば、装置が簡略なものとなりエネルギー消費を大きく削減できるので、地球環境の保全あるいは省エネルギーという観点からは、大きな効果が期待されます。これを可能にするのは高性能の触媒の開発しかありませんので、企業各社および大学の研究者と共に「シンプルケミストリー」という国家プロジェクトに参加して触媒の研究開発を共同で行なっています。

 

(3)燃料電池用触媒に関する研究

 燃料電池は水素あるいはメタノール等の燃料を電極触媒上で燃焼させ、そのエネルギーを電力に変換するシステムをいい、そのエネルギー変換効率はいままで開発されているエンジン、タービン等の各種のシステムの中では最も高いという優れた特性を有しています。この燃料電池の性能を決定する重要な技術要素として、高性能の電極触媒の開発がありますが、特に水素以外の各種の燃料を燃焼させ電力を取り出すには、新規な電極触媒を開発する必要があります。現在、世界各国で無公害の電気自動車の開発が行なわれていますが、本研究では、この電気自動車に搭載するための燃料電池の開発を目指して、導電性のペロブスカイトという金属酸化物系の材料を用いて、メタノールを燃料とする燃料電池用の電極触媒の開発を行ないます。

 

(4)分子状酸素による液相酸化反応の研究

 酸化反応は空気中に無尽蔵にある酸素を酸化剤として用いて、各種の炭化水素原料から有用な含酸素化合物を合成することができるので、工業的には極めて重要な反応です。特に、液相での酸素酸化反応は常温、常圧の温和な条件下で、空気と炭化水素を触媒の存在下で反応させて、有用化合物を合成できるのが特徴です。ここで、生体中の金属酵素が行なっている酸化反応には学ぶべき点が多くあり、酸素分子の活性化による選択的な酸化反応を行なうための触媒の開発においては、酵素の機能との接点が多く認められます。我々は、既にパラジウム等の貴金属あるいは銅の化合物を触媒として、生体の中で機能する酵素と同様に、酸素分子を活性化してオレフィンあるいはフェノールのような化合物を酸化して有用な化合物に変換する反応を見出しております。本研究ではこれらの成果をさらに発展させて、高性能の触媒を開発すると同時に新規な合成反応を開発することを目的としています。

 

(5)希土類錯体触媒による新反応探索

 選択的有機合成手法の開発 

 特に希土類元素の持つ高い酸化・還元力、強い酸素親和力、高配位数等の特徴を活用した効率的な合成反応を研究しています。希土類金属-シリルブロミドや亜鉛-希土類塩化物等の新規な還元剤の開発、希土類塩基によるアルドール反応、希土類ルイス酸による[4+2]反応等の特色ある合成反応を見出しています。また最近では希土類イミン錯体を用いる触媒反応やアリル、アレニル、ビニル錯体の構造と反応選択性の関係を研究しています。

 C-H結合活性化反応の開発 

 反応性の乏しいアルカンを穏和な条件で選択的に有用な工業原料に変換することを目的として均一系触媒の研究を行っています。パラジウム-銅触媒を用いるとメタン、エタン、プロパンを含むアルカンのC-H結合が活性化され、一酸化炭素と反応してカルボン酸が生成する反応を発見しました。また、一酸化炭素に代えて二酸化炭素もアルカンと反応します。さらに活性の高い、新しい触媒系の探索を行っています。


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