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多角形間の距離

ここでは、提案した距離の性質として、正3角形から正8角形まで角数を変化させた とき正9角形との距離がどう変化するか調べた。

図 7.8: 正9角形と正多角形間の距離
\begin{figure}\begin{center}
\psfig{file=images/fig-7.8.eps, width=120mm}\end{center}\end{figure}

各多角形の輪郭点数 $N$$64$ とし、輪郭点列に $1$ 次から $5$ 次まで の複素自己回帰モデルを適用した。正9角形を基準としたときの正3角形から 正8角形までの複素自己回帰係数のユークリッド距離 $Da(1,2)$、複素PARCOR 係数のユークリッド距離 $Dp(1,2)$、対数尤度比距離 $Dsl(1,2)$、複素パワー ケプストラム距離$Dc(1,2)$、複素パワーメルケプストラム距離 $Dm(1,2)$ の 変化を、それぞれ、図7.8 (a) から (e) に示す。ここで、図の 横軸は角数を表わし、縦軸は距離を表わしている。

7.8 (a) からわかるように、複素自己回帰係数のユークリッ ド距離 $Da(1,2)$ は、$1$ 次と $2$ 次のモデルでは、角数の増加に伴い距離 が単調減少しているが、$3$ 次以上のモデルでは単調減少しておらず、$4$ 次 以上のモデルでは、それが特に顕著である。すなわち、複素自己回帰係数のユー クリッド距離は、低次のモデルでは、多角形の角数のような輪郭形状の大局的 な特性を旨く捉えているが、モデルの次数の増加とともに、大局的な特性以外 の要因に影響されてしまうと言える。また、$1$ 次のモデルでは、$2$ 次以上 のモデルに比べて距離の変化が小さい。

一方、複素PARCOR係数のユークリッド距離では、図7.8 (b) からわか るように、角数の増加に伴い距離がほぼ単調減少している。これは、モデルの次数が 増加しても、その次数より下の複素PARCOR係数は変化しないため、低次のモデルの複 素自己回帰係数に反映されている輪郭形状の大局的な特性が、高次のモデルの間の距 離にも継承されていることによると考えられる。また、図7.8 (b) か ら、先に示した複素PARCOR係数のユークリッド距離のモデルの次数に対する単調増加 性も確かめられる。

また、図7.8 (c)、(d)、(e)から、対数尤度比距離 $Dsl(1,2)$、複素 パワーケプストラム距離 $Dc(1,2)$、および複素パワーメルケプストラム距離 $Dm(1,2)$ は角数の増加とともに単調減少している。角数の増加に伴う距離の変化量 は、 $Dsl(1,2)$ よりも$Dc(1,2)$ あるいは $Dm(1,2)$ の方が大きくなっている。 特に、$Dc(1,2)$ および $Dm(1,2)$ は、$1$ 次のモデルでの変化が大きい。

以上の結果から、距離 $Dp(1,2)$$Dsl(1,2)$$Dc(1,2)$ および $Dm(1,2)$ は、 多角形の角数の違いのような輪郭形状の大局的な違いを旨く捕えていると言える。特 に、$Dsl(1,2)$$Dc(1,2)$ および $Dm(1,2)$ は、高次のモデルでも安定している。



Takio Kurita 平成14年7月3日