主成分分析とクラスター分析による地域類型

2002年度の2年生には,主成分分析とクラスター分析を用いて,各自が受け持った県を対象に地域類型を実施してもらいました。変数の選択は各自にまかせたので,通常研究者が使用するものとは異なった変数が使われている場合があります。よって,成分名称の付け方で苦労していた学生もいます。ここでは,分析結果の報告と,主成分得点をクラスター分析することによって得られた類型図を掲載しています。


<宮城県>

1, 主成分分析からの考察  
宮城県の市町村別の地域分類をするために、私は多変量解析を行い、それにあたって、主成分分析、クラスター分析を用いた。ここでは主成分分析から得られた考察、分析結果を発表する。まず、主成分分析をするために以下の入力変数を用いた。

@ 人口密度:人/平方キロメートル(2000年宮城県内各市町村別の総人口/総面積)
A 人口増加率:%((2000年宮城県内各市町村別の総人口−前年総人口)/1999年同県内各市町村別の総人口)
B 自然増加率:%((1999年宮城県内各市町村別の出生数−死亡数)/同年同県内市町村別の総人口)
C 社会増加率:%((2000年宮城県内各市町村別の転入者数−転出者数/同年同県内市町村別の総人口)
D 老年増加率:%(2000年宮城県内各市町村別の65歳以上の人口/同年同県内市町村別の総人口)
E 市町村人口に占める女性の割合:%(2000年宮城県内各市町村別の女性人口/同年同県内各市町村別の総人口)
F 第1次産業就業者率:%(1996年宮城県内各市町村別の第1次産業就業者数/同年同県内各市町村別の全就業者数)
G 第3次産業就業者率:%(1996年宮城県内各市町村別の第3次産業就業者数/同年同県内各市町村別の全就業者数)
H 高齢単身世帯率:%(2000年宮城県内各市町村別の65歳以上の方が単身で住んでいる世帯/同年同県内各市町村別の総世帯数)
I 核家族世帯率:%(2000年宮城県内各市町村別の核家族世帯数/同年同県内各市町村別の全世帯数)
J 水道普及率:%(2000年現在給水人口/2000年計画給水人口)
K 教育費の歳出に占める割合:%(2000年宮城県内各市町村別の教育費/同年同県内各市町村別の総歳出額)
L 衛生費の歳出に占める割合:%(2000年宮城県内各市町村別の衛生費/同年同県内各市町村別の総歳出額)
M 市町村道舗装率:%(1999年宮城県内各市町村内の市町村道舗装道路実延長距離/同年同県内各市町村道実延長距離)
N 一世帯あたりの平均乗用車保有台数:%(2000年宮城県内各市町村内の全自動車保有台数/同年同県内各市町村別の全世帯数)

次に、主成分の分析結果について見ていく。上位4つの主成分の固有値、寄与率、累積は次のようになった。

固有値
主成分No. 固有値 寄与率(%) 累積(%)
1 6.98 46.53 46.53
2 2.11 14.05 60.58
3 1.28 8.53 69.11
4 1.06 7.03 76.14
※固有値が1以上のものを表示している。

また、上位4成分の主成分不可量は次のようになった。
 
主成分負荷量
  主成分 1 主成分 2 主成分 3 主成分 4
人口密度 0.6563 -0.3298 -0.0738 -0.0115
人口増加率 0.8897 0.2827 -0.1041 0.1081
自然増加率 0.9051 0.1122 0.1728 -0.0967
社会増加率 0.7260 0.3390 -0.2557 0.2160
老年人口率 -0.9419 -0.1259 -0.1665 0.0689
市町村人口に占める女性の割合 -0.7794 -0.2534 0.1512 0.1799
第1次産業就業者率 -0.7931 0.0903 -0.0893 0.2505
第3次産業就業者率 0.8150 -0.4271 -0.0316 0.0242
高齢単身世帯率 -0.6296 -0.6179 -0.2612 0.1358
核家族世帯率 0.8192 -0.3358 -0.1041 0.0786
水道普及率 0.4092 -0.0902 0.5414 0.4023
教育費の歳出に占める割合 0.2591 0.2509 -0.1809 0.7117
衛生費の歳出に占める割合 0.1151 -0.3910 0.7047 -0.0873
市町村道舗装率 0.4885 -0.3196 -0.4324 -0.3347
一世帯あたりの平均乗用車保有台数 -0.2631 0.8362 0.1430 -0.2725

それでは、各主成分の特徴を見ていくことにする。

主成分1に関して:ここでは自然増加率、人口増加率、社会増加率、人口密度、第3次産業就業者率の負荷量が高く、逆に老年人口率、第1次産業就業者率の負荷量が低い。このことから、極めて都市的な性格の強い成分であることが言える。このことより、主成分1を「都市の性格」と命名する。

主成分2に関して:ここでは一世帯あたりの平均乗用車保有台数の負荷量が飛びぬけて高い。また、逆に高齢単身世帯率の負荷量が大きく低い。その他に、第1次産業就業者率の負荷量が少し高いことに対して、第3次産業就業者の負荷量が低く、人口密度、核家族世帯率それぞれの負荷量も低いことから、都市というよりかむしろ農村の性格が強い成分である。そのような性格が強い成分でありながら、高齢単身世帯率の負荷量が低いことが特徴的で、つまり大家族のもとで人々が生活をしていることが考えられる。このことは、東北地方の農村によくみられることである。世帯あたりの自動車保有台数が多いことから、モータライゼーションが進んでいる農村であることも言えるので、主成分2は「現代の東北的農村」と命名する。

主成分3に関して:ここでは衛生費の歳出に占める割合、水道普及率のそれぞれの負荷量が極端に高く、逆に市町村道舗装率の負荷量が大きく低い。これはインフラ整備にあたって、道路よりもむしろ水道、特に下水道の整備に重点をおいていることが考えられる。この他では、第1次産業就業者率、第3次産業就業者率、社会増加率のそれぞれの負荷量が低いことから第2次産業に従事している人が多い農村であることが考えられる。よって、主成分3は「清潔重視農村」と命名する。

主成分4に関して:ここでは教育費の歳出に占める割合の負荷量が飛びぬけて高い。また、水道普及率、第1次産業就業者率、社会増加率のそれぞれの負荷量が高いことから、人口増加が進んでいる農村の性格を帯びている。よって主成分4は「教育熱心農村」と命名する。

2・クラスター解析からの考察
 次に、主成分分析をした後、上位4つの主成分に関してクラスター分析を行った。尚、類型数は6である。それでは、解析結果からの考察を発表する。各クラスターごとの主成分負荷量の平均値は以下のようになった。

平均値 主成分1 主成分2 主成分3 主成分4
No.1 1.6875 0.2610 0.2290 -0.2001
No.2 -3.2804 1.8654 0.4070 0.3595
No.3 -7.0591 -0.5495 -0.8003 -0.2430
No.4 10.0032 -1.4938 0.1474 -0.3582
No.5 -7.2446 -4.9904 0.2677 0.4566
No.6 18.2214 0.5561 -1.2942 0.8432

では、各クラスターごとの該当市町村、特徴をみていくことにする。


 クラスター1に関して
(該当市町村:気仙沼市や築館町、瀬峰町等の県中央北部の市町村、白石市や角田市、村田町等の県南部の市町村)
このグループは、主成分1の平均負荷量が1を超えていることから、都市化が起こっていると考えられる。特に、仙台市に接する大和町、岩沼市に接する亘理町の主成分1の負荷量が高く、県中心部を基点に都市化が進んでいると言える。しかし、このグループは市町村ごとの各主成分の負荷量にばらつきがあり、特定の主成分負荷量が高いところもあれば、全体的に負荷量が同じ値をとっている市町村もあり、緩やかに都市化が進んでいるようである。

 クラスター2に関して
(該当市町村:中田町や南方町等の県北部の町、本吉町や歌津町等の県北部太平洋沿いの町、色麻町等の県中央部の町村、蔵王町)
このグループは、主成分1の平均負荷量が低く、主成分2平均負荷量が高い。また、主成分3,4の平均値がやや高く、このことから東北地方の農村の姿が残っている地域であることが言える。また、世帯あたりの自動車保有台数が多い地域でもある。特に県内陸部の中田町、米山町、小野田町は主成分1の負荷量が低く、逆に主成分2の値が高い。また、どの町村も主成分1の負荷量はマイナスを示しており、都市化が起こってない地域であると推測される。

 クラスター3に関して
(該当市町村:栗駒町や一迫町の県北西部の町村、東和町や登米町の県北東部の町、丸森町)
このグループは、クラスター2よりもさらに主成分1の平均負荷量が低い。さらに、すべての主成分の平均負荷量がマイナスを示しており、農村の度合いががつよく、かつ車の所有台数が少ない町村のグループである。どの町村も主成分1の負荷量が−5を下回っている。北上町はそのなかで、主成分3の負荷量が3を越え、水道を中心にインフラ整備が進んでいると言える。しかしすべての負荷量でマイナスの値を示している町もあり、全体的に前近代的な町村の集合体であることが言える。該当町村を見ると、内陸地が多い。

 クラスター4に関して
(該当市町村:仙台市、名取市、岩沼市等の県中央南部の市町、石巻市、矢本町、古川市)
このグループは、主成分1の平均負荷量が圧倒的に高く、都市化が大きく進んでいる、あるいは都市である市町の集合体である。該当市町を見ても仙台市、名取市等、県のほぼ中央部に位置している中心都市がかたまっている。注目すべきは大河原町、七ケ浜町で、石巻市や塩釜市よりも主成分1の負荷量が高く、都市的性格の強い町であることが言える。

 クラスター5について
(該当市町村:鳴子町、雄勝町、女川町、牡鹿町)
このグループは、主成分1、主成分2の平均負荷量が大きく低く、主成分3、4の平均負荷量はやや高い。このことから水道を中心としたインフラ整備、人口増加が少しではあるが進んでいるが、東北的でない農村と言える。鳴子町な内陸部に位置しているが、残りの3つの町は、太平洋沿いに位置しており、第1,3次産業就業者率が低いことから、海産物の加工品業に従事する人が多いと考えられる。

 クラスター6について
(該当市町村:多賀城市、利府町、富谷町)
このグループは、圧倒的に主成分1の負荷量が高く、クラスター4よりも大きい。つまり、さらに都市的な性格の強い市町である。人口増加率、核家族世帯率、第3次産業就業者率、人口密度が高く、また3市町とも仙台市に隣接しているので、仙台市の衛星都市としての役割を担っていると言える。これらの市町から、仙台市などの中心都市に通勤、通学する人が多いと考えられる。

 3・全体的な考察
 最後に、地域分類をした上での県全体の分類の様子を考察する。クラスター4,6のグループが県の中心からやや南部に位置し、ここが中心都市の役割を担っている。その周りには、人口増加がやや起こっている地域もある。さらに中心部から離れると、東北地方に良く見られる、大家族制の世帯からなる農村が多くなる。この地域は、世帯当たりの自動車保有台数がおおいので、モータライゼーションの波が農村に広がっているようだ。
 今回の宮城県の地域分類を行い、今まで行ったことも無い地域の特色がつかむことができた。しかし、入力変数をさらに吟味することで、ここでは見えなかったことがもっと見えたかもしれない。これからの地域分類での鍵は、入力変数にあることを実感した。


<福岡県>

 主成分分析ならびクラスター分析を手法として,福岡県の各市町村における地域的特徴の把握と類型化を行い,その結果について考察した。

1.主成分分析の入力変数

 主成分分析を行うにあたって,人口・産業・生活等のあらゆる分野の統計資料(95〜2000年)から以下の17の指標を集め,分析に使用する変数とした(第1表)。

2.主成分分析:各主成分の特徴と命名

 上記の17変数を用いて主成分分析を行った結果,7つの成分が得られた。そのうち,固有値が1.0以上の成分は4個抽出された。また,第1成分の寄与率は41%に達し,変数の変動に大きな影響を与えている(第2表)。さらに,成分負荷量(第3表)の数値から7主成分の特徴を把握し,各々の主成分に適した命名を行った。

(1)主成分1…「総合的な都市性」
 人口に関する成分負荷量を見ると,人口増加率・人口密度ならび幼年人口率が高く,老年人口率が低い。人口的な特徴からすれば,極めて都市的であると思われる。さらに,1人当たり製造業出荷額・1人当たり卸・小売販売額の高さから,工業・商業といった都市的な産業に特化しているといえる。また,1人当たり交通事故件数・1人当たり所得額などの成分負荷量の高さも,都市的特徴を示している。さらに,通勤者流入・流出比率から通勤者の流入が比較的に多い。総合的に判断しても都市的な特徴を示すものが多いことから,都市と農村部を分ける成分であると考え,主成分1は「総合的な都市性」と命名した。

(2)主成分2…「産業衰退地域」
 特徴的ともいえるのが,完全失業率の高さと人口増加率の低さである。このことからも,地域産業の衰退が比較的進み,人口流動にも影響を与えていると考えられる。また,1人当たり製造業出荷額や1人当たり卸・小売販売額が極めて0に近いこと,人口1人当たり所得額の値が極めて低いなど,産業面・所得面から考えても産業衰退の傾向が見られるといえる。よって,主成分2は「産業衰退地域」と命名した。

(3)主成分3…「通勤者流入」
 最も特徴的なのが,通勤者流入・流出比率の高さである。その他,人口面・産業面の指標には目立った特徴はなく,結局,この成分は通勤者の流動の特徴を位置づける成分であると考えられる。通勤者流入・流出比率の値が高いことから,主成分3は「通勤者流入性」と命名した。

(4)主成分4…「中心都市性」
 人口密度の値が極めて高いことから,比較的人口の密集した地域であり都市的な特徴を示すものといえる。かつ,通勤者流入・流出比率はやや高く,人口増加率はやや低めである。人口増加率の低さを,ドーナツ化現象など地域の衰退と見れば,これは中心都市的な特徴を示すものと考えられる。よって,この成分は都市地域のうち,中心都市としての性格が強い成分であると考え,主成分4は「中心都市性」と命名した。

3.クラスター分析の結果:各類型の特徴について

 次に,7主成分のうち,固有値が1以上である主成分1〜4の主成分得点を用いて,クラスター分析を行った(類型数は4)。
 その結果得られた4つの類型(クラスター)について,各々4つの主成分得点ならびその基準値をもとに,特徴をまとめた(第4表)。

(1)類型1
 「総合的な都市性」の得点・基準値ともマイナスであり,都市に対する周辺地域であると思われる。「通勤者流入性」や「中心都市性」も基準値がマイナスであることからも,このことは明白といえよう。さらに「産業衰退地域」の基準値は約0.2とややプラスであることから,地域産業が停滞から衰退の傾向にあると考えられる。よって,農村地域や過疎地域といった地域が多く当てはまる類型ではないかと思われる。

(2)類型2
 「総合的な都市性」の基準値が0.7弱であり,比較的高い値を示している。「通勤者流入性」の基準値が若干プラスを示していることからも,都市的な性格が見られるといえる。しかし,「産業衰退地域」は基準値がほぼ0であり,停滞気味であると考えられる。さらに,「中心都市性」の基準値が若干マイナスであることから,大都市と農村地域の中間的存在である中・小規模都市を示す類型ではないだろうか。

(3)類型3
 「総合的な都市性」の基準値が‐1.0を越えており,類型1よりも都市に対する周辺地域としての性格は強い。
しかし,「産業衰退地域」の基準値はマイナスを示し,さらに「通勤者流入性」「中心都市性」の基準値がプラスを示していることから,単なる農村地域あるいは過疎地域とは考えにくい。全体的な視点では周辺地域に位置するも,その周辺地域において中心地的な地域を担っていると考えられる。

(4)類型4
 「総合的な都市性」の基準値が2.0を越え,都市の性格がかなり強い。「産業衰退地域」の基準値もややマイナスであり,さらに「通勤者流入」「中心都市性」の基準値もやや高いことから,中心性のかなり強い地域といえる。よって,この4類型の中で最も都市的な地域であり,広範囲な地域の中心として重要な役割を担っていると思われる。

都市性でいえば、類型4、2、1、3の順にその性格が強く、逆に周辺地域性でいえば、3、1、2,4の順でその性格が強いといえる。


4.各類型の分布の状況とその特徴

 さらに,各類型に当てはまる市町村がどう分布し,その分布にどのような特徴があるかをまとめた(第1図)。

(1)類型1
・主な分布地域…筑豊地方の市町村,久留米市周辺部など。
 石炭産業の衰退によって過疎化の進む,筑豊炭田を中心とした地域,または玄界灘沿岸や平野部の地域など農村部にも多く分布している。さらに、山田市・豊前市・中間市の都市も含まれている。

(2)類型2
・主な分布地域…福岡市周辺の市町(前原市・筑紫野市・古賀市など)・県中心部の都市および周辺の町(田川市・飯塚市・直方市など)・県南部の都市(大牟田市・筑後市・八女市など)
 福岡市・北九州市の中間に位置し,両市の通勤圏ともいえる地域に多く分布しており,県内の中・小規模都市の殆どがこれに該当しているのが特徴である。

(3)類型3
・主な分布地域…大分県・熊本県に隣接する山間部の町村。
 山間部の県境に分布しており,極めて周辺地域の性格の強い地域に分布している。例外として,福岡・北九州の中間地点に位置する若宮町がこれに該当している。福岡市への通勤圏であり,ベッドタウンとしての性格から,典型的な農村・過疎地域の分類(類型1)から外れたと考えられる。

(4)類型4
・主な分布地域…福岡市・北九州市・久留米市など。
 県の主要3都市が該当した。福岡市は県庁所在地であり,北九州市は北部・関門地域の中心であるといえる。かつ,両市とも人口100万を越える政令指定都市であり,県を越え,九州地方あるいは国内レベルにおいても中心都市としての役割を担っているといえる。久留米市は人口23万を擁し,南部・筑紫平野の中心都市であるといえる。
 また,北九州市に隣接する苅田町,福岡市のベッドタウンの性格が強い春日市・大野城市など,2つの大都市に隣接する市町にも分布している。これは,2都市の市街地拡大あるいは通勤圏としての繋がりの強化によって,周辺地域の中心都市への同化が進んでいることが原因ではないかと考えられる。

 県全体から見ると、福岡・北九州・久留米の三大都市が分布し、その三都市を結ぶ範囲内に小・中規模都市が多く分布している。さらに、それらの周辺部に農村地域が分布する構造になっている。ほぼ各類型の特徴をよく反映した分布状況であり、福岡県における中心地域と周辺地域の関係がよく表れた結果になったといえる。


<千葉県>

1.多変量解析の結果からの考察

第1表の通り計18項目を元に多変量解析を行った。以下主成分ごとにその特徴をまとめていく。

1. 大都市
私は主成分1を大都市と命名した。理由は出生率が高く死産率が低いことから病院の質が良いこと,人口密度・千人当りの犯罪件数が高いことから人が多くかつ犯罪が横行していること,人口密度が高く小学校密度が低いことから小学校数が充実している,農家比率が低いことからほとんどの人が工業やサービス業に従事しているなど,他の大都市で見られそうな特徴が多く見られるからである。

2. 大都市近郊
 主成分2は大都市近郊と命名した。理由は1世帯当りの人数・人口増加率が高いが出生率とはあまり関係がないことから,この人口増加は他の地域から家族単位で移り住んだものだと思われるからである。従って,この地域では今後出生率が上昇することが予想される。大都市のドーナツ化現象に伴って人口増加が起こったと思われることからこのように命名した。

3. 農村的性格
 主成分3は農村地域とした。理由は病床数が多いということは福祉・医療施設が充実していると思われ,結婚/離婚比率が高いということは婚姻数が極端に多いか離婚数が極端に少ないことを意味し、さらに完全失業者率がやや低いことなどを総合的に判断すると,その土地に残った人達が多くかつ産業はあまり発展していないが職はある、つまり農業に従事する人の多い農村地域であると思われるからである。

4. 交通規制強化(?)
 主成分4は断定できなかったが,一応交通規制強化とした。図1を見ると交通事故密度が低い。ということは警察などによる交通違反の取り締まりが厳しいものと思われる。

5. 単身者増加(?)
 主成分5も断定は出来ないが、一応単身者増加と命名した。理由は人口増加率が高いが1世帯当りの人数や出生率とはあまり関係がなく,さらに保育所入所率がやや低くなっていることを考えると,この人口増加は家族単位での引越しや子どもの増加からではなく,単身赴任などによってやってきた人たちが増えているからだと考えられるからである。

2.クラスター分析の結果からの考察
 次に多変量解析の結果出た千葉県各都市の主成分得点に対してクラスター分析を行った。第3表はその結果である。以下各クラスターの特徴について言及する。

1.クラスター1の特徴
 主成分1の基準値が約−1.7であることからも伺えるように,大都市としての性格が弱いことがわかる。その他は取りたてて特徴の無い地域であるといえる。ここに属するのは海上町・飯岡町・八日市場市・光町・野栄町・長柄町・白子町・長生町・岬町・大原町・御宿帳・勝浦市・天津小湊町・鴨川市などで,千葉県東部沿岸部に分布している。

2. クラスター2の特徴
 主成分1の基準値が約3.3であることから大都市としての性格がわりと強いことが予想される。また,(一応ではあるが)交通規制強化とした主成分4の基準値が約−1.1であることから交通規制は厳しくないものと思われる。ここに属するのは野田市・佐倉市・八街市・木更津市など次に述べるクラスター3の周辺に分布している。

3. クラスター3の特徴
 主成分1の基準値が10に近いことから都市部としての性格が非常に強く,他の地域との繋がりもそこそこあることが推測される。反面大都市近郊としての性格は備えていないようである。ここに属するのは千葉市・市原市・習志野市・船橋市・浦安市などで、千葉県西部沿岸地域に分布している。

4.クラスター4の特徴
 主成分1の基準値が−6を下回っていることから大都市としての性格がかなり弱いと考えられる。だが,主成分2・主成分3の基準値がやや高いことから特徴的に大都市近郊・農村地域の中間にあると思われる。ここに属するのはクラスター3に属する成田市の周辺に位置する下総町・大栄町・芝山町など,同じくクラスター3に属する市原市およびクラスター2に属する君津市の周辺に位置する長南町・大多喜町など殆どが大都市としての性格が強い地域の周辺に位置している。

5・クラスター5の特徴
 主成分1の基準値が−11と,大都市としての性格が著しく弱いことが伺える。5つのクラスターの中でもっとも主成分5の基準値が高いので人口が増加していることが予想される。しかし、この地域自体は主成分2の基準値が−2と低いことから、大都市近郊としての性格も備えていないものと推測できる。このクラスターに属する地域がなぜ人口増加しているのかは不明であるため、今後調査すべきであろう。ここに属するのは富山町・富浦町・和田町・丸山町・白浜町などすべて千葉県南部に集中している。

6・総論
各クラスターのごとの分布を見てみると、一部例外はあるものの千葉市を中心に主成分1の基準値が高いほど近く,低いほど遠いという同心円状になっていることがわかる。例外が生じる理由は東京都などと隣り合わせであることや成田空港・館山港の存在などが考えられる。クラスター3の分布が,東京湾沿岸に広がる京葉工業地帯とほぼ同一であることも見逃してはならない点であろう。つまり千葉県は東京都に近い千葉市を中心とした大都市圏を基点に発展している地域であるといえる。


<広島県>

 筆者は上記の授業で広島県を担当し,同県における20の統計項目を元に主成分分析を行い、そのうち寄与率が1を上回った成分4つを利用して同県の市町村を五つの類型に分類するクラスター分析を行った。まず、使用した統計項目を第一表に記載しておく。


 第1表の変数について広島県の市町村のデータを入力し、主成分分析を行った結果、固有値が1以上の成分は4つ出現した(第2表)。中でも上位二成分の寄与率が飛びぬけて高くなっているのがお分かりいただけるであろう。上位2成分の寄与率は合わせて60%近くに及び、大きな影響を与える成分であることが分かる。



 第3表は上位4成分の主成分負荷量行列である。クラスター分析に移る前に、数値に基づき各主成分に名づけを行っておこう。同時に、名づけの根拠となった、突出した負荷量を示す統計項目も挙げておく。

主成分1・・・「都市型成分」
   負荷量が高い項目・・・人口密度・出生率・自然増加率・第三次産業就業者率
   負荷量が低い項目・・・65歳以上人口率・死亡率・第一次産業就業者率

主成分2・・・「過疎・高齢化の進行」
   負荷量が高い項目・・・水道普及率・生活保護率
   負荷量が低い項目・・・一世帯当たり人員・0〜14歳人口率・労働力率・
             世帯当たりの自動車保有台数

主成分3・・・「外国人の流入」
   負荷量が高い項目・・・外国人人口率・労働力率
   負荷量が低い項目・・・一世帯あたり人員・第3次産業就業者率・
             世帯数あたりの自動車保有台数・持家率

主成分4・・・「人口流出」
   負荷量が高い項目・・・進学率
   負荷量が低い項目・・・社会増加率・生活保護率


 以上の上位4成分を用いてクラスター分析を行った。なお、同分析を行う際、合併後の距離計算にはウォード法を、原データの距離計算は原データのユークリッド距離を用いた。その結果を第4表に記載する。

 第4表の数値を元に,各類型の特徴を要約し、分布と共に以下に挙げておく。なお、分布については図1も参照していただきたい。


第一類型(クラスター1)
   「農村」を示す類型。主成分1・2が低い数値を示す。
    山間部のほぼすべての市町村がこの類型。島嶼部では瀬戸田町にのみ
    分布する。

第二類型(クラスター2)
   第四類型には及ばないもののかなり都市化の進んだ類型。
   瀬戸内海沿岸地域はほとんどの市町村がこの類型であり、他に三好盆地
   周辺と広島・福山市周辺部に分布する。

第三類型(クラスター3)
   主成分2・4が極度に高い数値を示す、高齢化・過疎化が進行した類型。
   「漁村型」を示し、第一類型よりもインフラは発達しているようである。
   島嶼部の殆どの市町村がこの類型に属し、内陸では加計町のみが属する。

第四類型(クラスター4)
   極度に都会化した類型。都会型成分の得点が飛びぬけて高い。
   広島市およびその近接市町村と、福山市にのみ分布する。

第五類型(クラスター5)
   第三類型よりもさらに激しい高齢化が進行する類型。
   島嶼部の一部の市町村にのみ分布する。



―分布の特徴―
 類型ごとに色分けした地図を見ると、都市型の第四類型は広島市と福山市にかたまって分布し、その周辺の通勤圏の市町村および中小の都市・その通勤圏に第二類型が分布していることが分かる。今回地図には記載していないが、第二類型は主にJR線(山陽本線・呉線・芸備線・福塩線など)にそって分布していることから、ベッドタウンを示すことも推測できる。そのなかで三次市は、山間部の農村地域の中心地という従来の立場から、内陸地域の中核都市としてさらに発展する過渡期に入っており、今後第四類型化することが見込まれる。
 島嶼部では高齢化と過疎化が深刻な問題となっており、なかんずく深刻化している4つの町が別の類型として認識されるに至っている。漁業より農業が盛んな瀬戸田町のみが農村型に分類されているのも注目に値する。内陸部で唯一,第三類型に属する加計町も深刻な過疎に悩まされており、今後JR可部線が正式に廃止に至った後の動向が注目されるところである。


<岡山県>

主要成分の特徴とその命名
(1)「中心都市的性格」(第1成分)
  第1成分は、人口密度や第三次産業の割合に高い順相関を示し、第一次産業の割合や世帯当たりの農家数、老年人口率などで約−0.9の非常に高い負の相関を示した。ここから、第一成分が非常に都市的な要素に高い順相関を示し、田舎的な要素に高い負の相関を示しているのが良く分かる。ほかに正の相関を示したものは、水道水普及率、小学校あたりの小学生数などがあげられる。水道水普及率の高さはインフラの整備の進み具合の高さを示し、小学校あたりの小学生数の高さは、人口密度と深い関係を持っており、若年層の高さも示している。ほかの負の相関を示したものは、衆議院議員選挙区投票率、人口あたりの宗教法人数である。最近は、都市部では選挙の投票率は上がらない傾向があり、宗教法人数の低さは、神社などの数が少ないことを示している。よって第1成分は「中心都市的性格」と命名することができる。
(2)「農村的性格」(第2成分)
  第2成分は世帯当たりの人員数、世帯あたりの自動車保有台数などで高い順相関を示し、人口あたりの医師数で高い負の相関を示した。また、あまり高くはないのであるが、第一次産業の割合が正の相関を示していた。これらのことから、第2成分を「農村的性格」と命名できる。
(3)「衛星都市的性格」(第2成分)
  第3成分は際立って高い順相関を示したものはなく、世帯あたりの自動車保有台数や、衆議院議員選挙区投票率で比較的高い負の相関を示した。世帯あたりの自動車保有台数の高さは、買い物や通学通勤など、中心的な都市へ出向くのに鉄道網がしっかりしているのや、近いところに位置しているので電車を使いやすいということなどから来るのではないかと推測される。また、あまり高くない数字ではあるが、人口密度や水道水普及率も順相関を示しているので、規模は大きくないが、都市も発達していることがうかがえる。このような点で、第3成分は「衛星都市的性格」と命名できる。
各類型の特徴
 クラスター1は第2成分の値が高かった。それと同時に第1成分も低い数値を示した。よってこれに分類された地域は農村的な性格が非常に強い地域なのではないかと推測できる。 
 クラスター2は第1成分の伸びが比較的に高かった。このことから、中心的な役割を担うまでは行っていない中規模の都市がこのクラスターに分類されたのではないだろうか。
 クラスター3は第1成分が極端に低く、第3成分が高い数値を示した。このことから、農村的な性格が強いが、ほかの地域とのつながりが強いということがうかがえる。そのつながりというのは、観光客が流れてくる結果、こうなったのであろう。
 クラスター4は第一成分の伸びがほかと比べて群を抜いて多い高い。非常に都市化が進んでいることが分かる。それに比例して、第2成分の値は低くなっている。
各類型の分布の特徴
 クラスター1は、新見市や中央町、鏡野町など、岡山県中北部に分布しているものが多かった。このクラスターは主成分2の農村的性格が強かったので、ほかの地域と比べ、農業の盛んな地域の集まりなのであろう
 クラスター2は、玉野市や井原市、総社市など、中規模な都市の分布が多かった。その他も、比較的海に近く、岡山や倉敷市とも程々に近いものが分布していた。よって、これらの都市のベッドタウンとして栄えている地域も多いのではないかと推測される。
 クラスター3は、神郷町や吉井町、阿波村など、岡山県の端に分布している市町村が多く看られた。岡山県の中心的な都市である岡山市や倉敷市からは遠く、あまり都市が発達せず、過疎化が進行している地域であると、この分布を見ても分かる。
 クラスター4は、岡山市、倉敷市、津山市などの岡山県の中で中心的な意味を持っている都市や、その周辺の中で発達している早島町、山陽町などが分布されていた。特に早島町は、岡山市と倉敷市の間にあり、この両市の影響を強く受けており、おなじクラスターに分類されたのであろう。