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ICT活用と氏間研究室

氏間研究室では,1998年からICTと視覚障害教育への利用について取り組んでいます。ここではこれまでの流れの概要を記しています。

1998年
氏間(1998)は,HTMLとCSSの組合せに着目し,HTMLにより教科書や教材の構造化をはかり,CSSにより弱視の見え方に応じた表示情報を管理することを提案した。このことにより,より個別的な個に応じた教材作成が可能になることから,HTML + CSSは弱視教育にとても向いていることを指摘した。
1999年
しかし,HTML + CSSで教材を作成するためには作成者に相応の知識が求められた。そこで,国立特殊教育総合研究所(現 特別支援教育総合研究所)への1年間の留学期間に,様々なCSSを動的にHTMLに適用する「HTML viewer」というシステムを開発した(氏間, 1999)。このシステムの開発により,教材作成者はHTML viewerをHTMLでタグ付けされた教材(以下,HTML化教材)に組み込むだけでCSSの動的な適用が可能となり,面倒はCSSの設定の必要性が無くなった。これら,一連のHTML + CSSの利用は,現在,注目されているePubやDAISYの原型であるといえる。
2000年
HTML viewerの弱視教育における有効性を教育システム情報学会にて発表した(氏間・村田, 2000)。
HTML viewerの開発は,最近,注目を集めている,教科書等のオンデマンド印刷,あるいは「オンソース マルチユース」を実現する現実的な方法論でもあった。氏間(2000a)は,HTML viewerを利用した教科書の「オンデマンド印刷」「ワンソース マルチユース」の可能性について,特殊教育学会で発表した。
HTML viewerの授業場面での導入事例を報告した(氏間, 2000b)。
HTML化教材を授業で利用している様子
2001年
授業や自宅学習で弱視者がHTML化教材を利用する有効性について実践に導入し,その有効性を示したと同時にHTML化教材の様々な可能性について指摘した(氏間, 2001)。 学校の教員が,どのように作業を行うことでHTML化教科書を作成し,弱視児が利用できる状態に作り上げることができるか,一つの事例を分析し,HTML化教科書作成のプロセスやポイントを発表した(氏間・窪田・森永, 2001)。 さらに,点字使用者がHTML化教材を利用する現実的方法について,漢字部分を片仮名で記した教材の有効性を指摘した(氏間, 2001)。
2002年
HTML viewerによる個に応じた教材表示と,電子板書の両方を用いた,完全オンライン指導を授業に導入し,受講者にアンケート調査を行った結果を報告した。弱視者・全盲者ともに,従来の黒板や教科書を利用した方法と比べて評価が高かった(氏間, 2002)。
それまで,PC上での動作を想定して実践されてきたHTML化教材であるが,ここにきて,携帯版の可能性が開けてきた。Windows CEがリリースされ,PDAといわれる携帯型の情報端末が安価に手に入るようになったためである。そこで,氏間・小田(2003)は,HTML vewerをPDAの一つであるCASIOPEAに搭載した。このシステムを初めて公開したのはスウェーデンのイエテボリで開催された,ロービジョンの国際学会であった(K. Ujima and K. Oda, 2002)。
HTML化教材「PDA」を授業で利用している様子
同年,これまでのHTML化教材の活用と評価に関する一連の研究業績が認められ,上月情報教育賞を受賞した。
2003年
PDA版のHTML viewerは主にRPなどのような中心視力がある程度温存されているが,視野が狭くなっているタイプの弱視者に有効であることを発表した(氏間・小田, 2003)。
同時に,HTML viewerの様々なアプリケーションにも着手した。その中でも最も重要な開発は,漢字筆順学習ソフト「かけるクン」である(大城・氏間, 2002; 氏間, 2003)。 HTML化教材「かけるクン」を授業で利用している様子
皮質盲による読み書き困難を示す児童に対して実施した、トーキングエイドによる文字での表出の有効性をしめした実践を発表しました(鶴井・氏間, 2003)。
2004年
ICT活用の中で,解決したい課題に板書の問題があった。氏間(2004)は,PHPとMySQLを利用して,ユニバーサルデザインのオンライン板書システムを開発した。同時に授業への導入も行い,弱視の見え方に応じた表示,全盲生徒の音声ソフトによる利用が可能であり,効果的であることを明らかにした。
2005年
Flashを用いた,弱視者及び全盲者が利用できるマルチメディア教材の開発を行い,報告した(氏間・豊田・和田・上甲・村上・小田, 2005)。
2006年(H18)
Flashを用いた,弱視者にとって視認性の高い,及び画面を視認できなくても利用できるマルチメディア教材を開発し,授業実践を行い,その有効性を明らかにした(氏間・和田・小田, 2006)。
2007年(H19)
ICTを活用した方法に,プロジェクタなどを用いた大型提示教材がある。この教材を用いるために弱視者に対してどのような評価を行い,文字サイズを規定したらよいかは重大な問題である。氏間・島田・小田(2007)はこのことについてMNREADテストの利用可能性を指摘した。
オンライン教科書を弱視や全盲の人が利用することを想定して,ワンソースマルチユースを実現する具体的方略として,サーバサイドでの工夫,コンテンツの作りこの工夫について指摘した(氏間, 2007)。つまり,コンテンツはルビ付きで準備し,弱視が利用する際は,弱視者に応じた画面レイアウトで表示し,全盲者が利用する際は,ルビを片仮名に置き換えて表示し,それを音声ソフトや点字ディスプレイで利用することで,変換ミスが無くなり,教育での利用可能性が飛躍的に高まることを指摘した。同システムは,ブラウザ機能を持った携帯電での利用も想定しており,携帯端末として携帯電話の利用に注目していた。
2008年(H20)
<現在準備中です。今しばらくお待ちください。>
2009年(H21)
<現在準備中です。今しばらくお待ちください。>
2010年(H22)
iPadの発売を契機に,弱視教育での利用可能性を強く感じ。科学研究費の獲得を目指した準備を始めた。
2011年(H23)
HTML viewerを組み込んだアプリ,漢字筆順学習ソフト「かけるクン」の弱視教育での有効性をまとめて報告した(大財・氏間, 2011)。
教材等のデジタルデータを作成する場合、文字情報のみではありません。図表等を音声化に最適化された読み上げ方に関する研究を行いました(氏間, 2011)。
2012年(H24)
iPadを利用したEVES(これまでCCTVと呼ばれていた)の利用について,レンズをカメラに取り付けることで,ズーム時の低コントラスト視標の視認性を向上することを明らかにした(氏間・木内, 2012)。
iPadによるEVES 視覚障害者や関係者にiPadを少しでも正確に理解してもらうことを目的として,各地で「視覚障害者のためのiPad体験会」を実施している。
iPadを利用した教育的視機能評価の基礎的な研究について報告した(氏間・木内, 2012)。
iPadによる日用視力測定ツール
2002年にPDAにHTML化書籍を載せて「e-Book」として利用していたことを思うと,やっと,当時夢見ていたことが実現できる時代がやってきたかという思いに至る。これを活用してよりよい社会を目指したい。
iPadによる読書
この研究を始めた,14年前とは違い,現在は,理解者も多く,仲間も増えた。とても望ましい状況になりつつある。みなさんで盛り上げていきましょう。
教材等のデジタルデータを作成する場合、文字情報のみではありません。図表等を音声化に最適化された読み上げ方に関する研究を行いました(氏間, 2012)。
2013年(H25)
視覚特別支援学校の中学部理科授業においてタブレット端末の活用事例をまとめました。実際に理科授業でタブレット端末を活用することにより,従来の方法で十分に行える活動,従来の方法よりも効果的に行える活動,従来の方法では行えなかった活動があることがわかりました。また,生徒たちに積極的にタブレット端末を活用さえることにより,その効果的な活用を自身が判断できるようになり,3ヶ月ほどたつと,自らが,タブレット端末がよいとか拡大読書器がよいとか,拡大鏡がよいなどの選択を行う行動が見られるようになりました。よって,短期間の活用でタブレット端末の効果をみるのではなく,半年程度は活用してみて判断することが求められることや,生徒自身に活用させる機会を豊富にとることが必要であることが分かりました(北野・氏間, 2013)。
2014年(H26)
視覚特別支援学校において、ePub形式の教材を導入した場合と従来の紙教科書での指導を実施し、ePub形式の教材を用いることで、教師の説明時間が短縮し、実験など、生徒主体の活動時間が増えることを明らかにしました(松下萌・北野琢磨・佐々木良治・氏間和仁, 2014) 。
2015年(H27)
視覚特別支援学校で実施されてきた理科授業へのタブレット端末の3年間の活用状況を報告しました。当初は従来の機器の代用としての活用が中心でしたが,徐々にICTらしい、ICTでしかできない活用が現れ,ICTを利用することで高次の認知活動を実施することが可能になったことを明らかにしました(北野琢磨・氏間和仁, 2015)
視覚補助は,拡大鏡や単眼鏡といった光学的補助具から,拡大読書器やタブレット端末といった電子的補助具まで様々です。それらを現役の児童生徒および社会人がどのように使い分けているのか,タスクや市機能によりどういった使い方をしているのか,観察法を用いて調べました。低年齢であると光学的補助具や拡大コピーや拡大教科書などのサイズ拡大法が用いられる割合が高く,年齢が上がるとタブレットなどの電子的拡大が用いられていました(落石美菜子・氏間和仁 , 2015)。こういった現状を踏まえ,学校教育では組織的,計画的にタスクやニーズに応じた拡大法の利用技術の習得を計画的に進めていく必要性があること考えられます。
2016年(H28)
スマートフォンを含むタブレット端末を学習上,生活上の困難を克服するための道具としてどのように視覚障害者は利用しているのか,全国から140事例を収集し,現状を明らかにしました。また,それらを自立活動のどの項目で指導できるのかをまとめ,自立活動での指導の手がかりになる資料を掲載しました(河野・氏間, 2016)。その内容はiPhone, iPod, iPad音声使用マニュアルに掲載しています。

文献

  1. 氏間和仁 (1998) 学校教育におけるHTMLの活用, 愛媛県高等学校教育研究会障害児教育部会誌, 20, 12-21.
  2. 氏間和仁 (1999) 弱視者の使いやすいHTML文書表示ツールの試作, 第25回感覚代行シンポジウム, 47-52.
  3. 氏間和仁・村田健史 (2000) 弱視者に配慮したHTML教材とビューアの試作と評価, 教育システム情報学会誌, 17 , 3, 415-424.
  4. 氏間和仁 (2000a) 拡大教材作成システムの提案 HTML教材とHTMLビューアで拡大教材を作成する試み, 日本特殊教育学会第38回大会発表論文集, 186.
  5. 氏間和仁 (2000b) ロービジョンのHTML教材、HTMLビューア利用の有効性について, 第9回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集, 89-92, 2000
  6. 氏間和仁・窪田憲二・森永貴美 (2001) 弱視児のためのHTML教科書の試作, 第10回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集, 48-49, 2001
  7. 氏間和仁 (2001) 視覚障害教育におけるWEBサーバの活用 点字用HTMLコンテンツの試作, 特殊教育学会第39回大会発表論文集 CD-ROM.
  8. 氏間和仁 (2001) 弱視者のためのHTML教材の活用, 弱視教育, 39, 1, 6-15, 2001
  9. 氏間和仁 (2002) HTML教科書と電子黒板を利用した授業の実践例, 弱視教育, 40, 3, 1-6, 2002
  10. K. ujima, K. Oda (2002)DEVELOPMENT AND EVALUATION OF A NEW HTML/BROWSER METHOD OF PRESENTING READING MATERIAL FOR PERSONS WITH LOW VISION, The International Conference on Low Vision ABSTRACT BOOK, 179. (abstract)(スウェーデン)
  11. 氏間和仁 (2002) ホームページ作成技術を活用したロービジョンの学習を支援するための教育用コンテンツ開発に関する研究,平成13年度上月情報教育賞受賞論文
  12. 大城英名・氏間和仁 (2002) 小学校教育漢字筆順学習ソフトウェアの開発とその活用, 日本特殊教育学会第40回大会, 293, 2002(2002.9.14(sat)-9.16(mon))
  13. 氏間和仁, 小田浩一 (2003) PDAを利用したロービジョン用読書支援ツール, 電子情報通信学会技術研究報告(信学技報), 103, 114, 19-24. (平成15年6月13日/東京NHK放送技研)
  14. 氏間和仁 (2004) ウェブアプリケーションによる視覚障害教育に適した板書システムの開発と評価, 第13回視覚障害リハビリテーション研究発表大会, (サマリー集 p.23),会期:2004/06/12-13、於:障害者職業総合センター(千葉県幕張)
  15. 氏間和仁 (2003) 漢字の筆順が学習できる かけるクン, NEW教育とコンピュータ2月号, 42-44.学研(学習研究社)
  16. 氏間和仁・豊田秀三・和田浩一・上甲泰史・村上正人・小田浩一 (2005) ロービジョンに配慮したアニメーション教材,第46回弱視教育研究全国大会,大会抄録集,p.8-9,2005/1/20-21(山形県かみのやま温泉)
  17. 氏間和仁・和田浩一 ・小田 浩一 (2006) 視認性の高いマルチメディア教材の作成と評価. 鍼灸手技療法教育, Vol.2 (2006/03) pp. 36~40
  18. 氏間和仁 (2007)重度視覚障害者の利用を想定した教材コンテンツを実装したe-Learningシステム , 障害児治療教育センター年報, 第20号, 15頁~20頁, 2007年3月
  19. 氏間和仁・島田博祐・小田浩一 (2007) 大型電子化提示教材で使用するロービジョンに適した文字サイズの規定法-読書評価チャートの応用-, 特殊教育学研究, 45(1), 1-12.
  20. 大財誠・氏間和仁 (2011) 漢字学習ソフト「かけるクン」を活用した弱視児への漢字指導. 福岡教育大学附属特別支援教育センター研究紀要, 第3号, 99-104, 2011(H23)年3月
  21. 氏間和仁 (2011) 文章以外の素材の音声化の主観的難易度による評価. 福岡教育大学附属特別支援教育センター研究紀要, 第3号, 105-110, 2011(H23)年3月
  22. 氏間和仁・木内良明 (2012) 弱視教育における携帯端末の活用に関する基礎的研究-EVESとしての活用のための基礎的研究-. 第53回弱視教育研究全国大会抄録集, 10-11. 2012.01
  23. 氏間和仁・木内良明 (2012) 携帯端末による教育的視機能評価の基礎的研究. 第21回視覚障害リハビリテーション研究発表大会抄録集, 130.(国立障害者リハビリテーションセンター(所沢), 2012.6.16,17)
  24. 氏間和仁 (2012) 小学校教科書のグラフの音声化ルールの提案. 福岡教育大学附属特別支援教育センター研究紀要, 第4号, 9-13. (H24-03)
  25. 北野琢磨・氏間和仁 (2013) 理科授業における弱視生徒への多機能携帯端末の活用について-iPadを中心とした検討-. 弱視教育, 51(1), 20-27.
  26. 松下萌・北野琢磨・佐々木良治・氏間和仁 (2014) 弱視教育における電子教材の作成と実践例. 弱視教育, 52, 2, 19-26. 2014-09.
  27. 落石美菜子・氏間和仁 (2015) 弱視者における視覚補助具の使用について. 弱視教育, 53(1), 1-9. (2015/06)(PDFファイル )
  28. 北野琢磨・氏間和仁 (2015) 視覚特別支援学校における3年間のタブレット端末の活用状況. 弱視教育, 53(3), 6-16.(2015/12/25)
  29. 氏間和仁 (2015) 小学校におけるタブレットPCの活用の効果-弱視特別支援学級のA児の指導過程を通して-. 弱視教育, 53(2), 1-11, 2015/09/30発行,
  30. 河野友架・氏間和仁 (2016) 視覚障害教育自立活動における携帯情報端末活用に関する指導について. 弱視教育, 54 (1), 17 - 23. (2016 平成28年, 6月)