研究内容・研究室の様子

はじめに

 研究室主宰者(PI)である浮穴の科学的興味は、「私達の感情や気持ち、つまり“こころ”というものは、脳内物質の働きにより説明できるのだろうか?」というものです。80年代後半に多感な高校時代を過ごした私は、勉強はそこそこで、運動部での活動が中心でした。そのような中、しんどい運動がある域を超えると「ランナーズ・ハイ」と呼ばれる多幸感が得られることを本能的に経験していました。この原因が脳内麻薬と呼ばれる物質の作用であることを知り、「大学へ進学したら是非ともこのような研究がしてみたい」と夢見て広島大学へ入学しました。当時の広島大学には宗岡洋二郎先生や小林惇先生といった動物生理学の世界的権威の先生方がおられました(両先生共に現・広島大学名誉教授)。運よく卒業研究時には一門の松島治先生(元・広島大学及び広島工業大学教授)の下で研究をさせていただく機会を得ました。その時から、アミノ酸が幾つか繋がった分子である「ペプチド」というものを研究対象にしてきました。脳・神経組織が作るペプチドは、「神経ペプチド」と呼ばれたり、それがホルモンとして作用する場合には、「ペプチドホルモン」と呼ばれたりします。驚くべきことに、それらの物質はヒルやミミズのような環形動物から私達人間まで、物質としての構造と生理的な機能が非常に高く保存されているものがあるということが分かってきました。
 このような研究を行っている中で、2006年頃に研究室を立ち上げた際に、「私達の脳の中にはまだ見つかっていないペプチドが存在しているのではないだろうか?もしそうならば、自分たちの手で見つけたい」と考えるようになり、動物を用いて研究を進めています。冒頭の通り、最終的には「自分のこころ」を知りたいのですが、これは中々難しいテーマです。そこで思いついたのは、「イライラしたら暴飲暴食に走る。気分がすぐれないときは食欲も低下する。美味しいものを食べれば幸福感が得られる」というものでした。つまり、食欲調節に関わる脳内物質を見つけることができれば、“こころ”の理解に繋がる近道になるのではないかと考えました。そこで研究材料として用いたのが、食欲旺盛なニワトリの雛でした。雛鳥は生後すぐに餌をついばみ、餌があれば長時間、間欠的に摂食行動を続けます。このニワトリの雛を対象として脳内に存在する「私達以外は誰も知らない新しいペプチド」を見つけつつあります。もしもニワトリの雛で生じる現象が私達にも当てはまれば、食欲を上手く調節して食べ過ぎによる肥満を予防できるかもしれないと思っています。応用研究には結びつくのは長い年月がかかるとは思いますが、私自身の「メタボ対策」に役立つ日も来るかもしれないと期待をしています。
 「新しいものを見つたい、誰も知らないことを発見したい」というのはある種の本能だと思います。食欲も本能のひとつです。毎日、若い大学院生やポスドク研究員とともに研究を進めています。毎日がワクワク・ドキドキする中で研究をさせていただいていることに感謝しつつ、この発見の喜びを若い学部生の人達にも伝えたいと思い、日々教育・研究活動を行っています。


現在進めている研究内容(丸8年間、90%以上の勢力をこの研究につぎ込んでいます!)

研究テーマ:脊椎動物の脳に存在する新しいエネルギー代謝調節因子の発見と機能解析

 平成18年夏に指導教授の筒井先生が早稲田大に転出され、それ以降、独自の研究テーマを探す長くて厳しい放浪の旅に出ました(筒井先生の研究テーマで研究を進めていても脱皮できないと思い、過去の研究テーマを一度リセットしました。新規脳内シグナル因子を探す目的で、サブトラクション解析やマイクロアレイ解析を鳥類の脳を使ってやりました)。丸2年彷徨った末の平成20年7月に漸く研究室のテーマの柱となる脳内新規遺伝子をニワトリの脳で発見しました。この新規遺伝子はエネルギーホメオスタシスに関与していると考えており、分泌性のペプチド因子をコードしていると予測しています。その後、主にラット、マウス、ニワトリ雛などを用い、様々なエネルギー代謝状態での遺伝子発現変動の解析や局在解析を行ってきました。平成21年度からは総科の卒論生3名が入室したことを契機に、プロジェクト研究として研究テーマを分担し、ペプチド産出や個体への投与実験を行っています。ペプチド産出が極めて難しく、平成21・22年度の大部分をペプチド産出法の確立に費やしました。少しずつペプチド産出も出来るようになり、現在、ラットやニワトリの脳内に投与し、摂食行動や体重変化を測定しています。
 21年度以降の卒論生による総合科学部岡本賞受賞3件、平成22年度以降の学会発表賞受賞13件などがあります(出来事欄参照)。

 また、得られた成果は平成23年3・11月、平成25年10月、平成26年10月に特許出願を行っています。
 研究費の援助として、東レ財団をはじめ複数の民間財団、科研費の基盤B・若手A・新学術公募・挑戦的萌芽、さらに生研センターの大型プロジェクトの採択をいただき研究を遂行しています。地方大学の小さな研究室ですが、潤沢な研究費と最新設備、何よりも優秀な研究室員に恵まれ研究を行っています。「新たな発見を我々の手で!未知の脳内因子を発見しよう!難しいことにチャレンジしよう!」(実際の合言葉は、「良いデータが出たら飲み会しよう!」です)をスローガンに研究室一丸となって同じ目標に向かって研究に励んでいます。研究の醍醐味を思う存分味わえるワクワク・ドキドキする研究テーマに出会えたことに感謝です。


研究室の様子・歴史

 広島大学は、メインキャンパスがある東広島キャンパスと医歯薬系研究科がある広島市内の霞キャンパスとに別れていますが、私達の研究室は東広島キャンパスにあります。東広島キャンパスは田舎のイメージがあると思いますが、ここに四半世紀近く住んでいる浮穴からすれば最近はずいぶんと拓けてきたと感じます。広島空港へも車で30分ほどで行けますし、新幹線の駅も近くにあります(主に、こだましか停まりませんので、不便といえば不便ですが)。
 その中で総合科学研究科は、2006年にできた比較的新しい研究科ですが、学部自体は40年ほど前に設立されました。文理融合を目指した学際教育・研究を推進している部局です。現在の研究室の前身は、指導教授であった筒井和義先生(現・早稲田大)の研究室であり、それ以前には、比較生理生化学の分野で活躍された小林惇先生や宗岡洋二郎先生(両先生ともに広島大・名誉教授)の研究室が源流となっています。これらの著名な3名の先生方の特色は、「新しい生理活性物質を探索し、その生理機能を解明する」というものでした。私もこの流れに従い研究を行っています。特に、筒井先生が早稲田大に移られてからは、鳥類や哺乳類の脳の視床下部領域に存在する新しい神経ペプチドの探索と機能解析を進めています。発現クローニング、抗体カラム精製、消化管収縮アッセイなどで新規神経ペプチドの探索を行ってきましたが、最近になって組織特異的なサブトラクションクローニングにより、神経ペプチドをコードする新規遺伝子を発見しました。ただ、この神経ペプチドは80アミノ酸残基というペプチドと呼ぶには少々長い小タンパク質です。またC末端構造がGL-amide構造をしているという特徴からNeurosecretory protein GL(NPGL)と命名しました。この遺伝子は、脊椎動物に広く存在することは分かっていますが、現在、研究室で進めている動物種は鳥類のニワトリと哺乳類のラット・マウスです。
 平成28年度の研究室メンバーは、私に加え、ポスドク研究員1名、研究補助員1名、博士課程後期学生1名(学振DC)、博士課程前期学生3名、学部4年生1名の計8名であり、小回りの利くちょうど良いラボサイズと思っています。研究内容は、NPGL遺伝子の発現解析、内因性小タンパク質の構造解析、小タンパク質の合成、投与実験、過剰発現や遺伝子改変動物を用いた生理機能解析など、分子レベルから個体レベルまで広範囲の解析をラボ内で行える環境を整えています。中でも、小タンパク質の合成は難しく、ペプチド有機合成も行っています。マイクロウェーブ照射が可能な特殊ペプチド合成装置を用い、効率的な小タンパク質の産出方法の確立を進めています。このようにして合成できた小タンパク質をラットやニワトリに投与し、生理・内分泌学的な変化を解析しています。その中でも特に、摂食行動やエネルギー代謝調節に着目して機能解析を行っています。「投与チーム」と呼んでいる行動解析は鹿野(D2)が中心となり進めています。赤外線モニターを用いた行動解析や呼吸代謝装置を用いたエネルギー代謝解析なども行っています。遺伝子から見出した小タンパク質ですので、「本当に生理機能を持った物質なのか?」というところから始まり、合成方法や投与方法の立ち上げから行う必要があり、ほとんどがネガティブデータばかりの徒労に終わる実験を繰り返してきました。生理的負荷をかけた際の遺伝子発現量や脳内の発現部位から生理機能を予測し、投与実験により生じる変化を解析するという流れで現在まで来ました。ここ数年で、急性投与では変化が見られず、長期的な投与でようやく変化が認められるという気長な実験系が必要であることが分かってきました。何もないところから手探りで実験を進めるという研究の醍醐味、また予想を超えたところでしか得られないという想定外の発見の喜びを大切にしています。昨今は早急な成果が求められる時代であり、時間のかかる地道な研究を行うことは敬遠される風潮がありますが、「本当にやりたい研究を進める」ためには、少々時間がかかっても失敗しても良いので、「とことん自分の頭で考えて実験を行う」ように学生指導を行っているつもりです。最近では学生達の成果として、学会発表賞、学長表彰、学振DC採択、奨学金返還免除といった形で表れてきているように思え、指導教員冥利に尽きます。私自身も平成25年度から「広島大学 特に優れた研究を行う若手教員」という過分な称号を与えられ、研究専念型教員として期待をされています(講義や委員会業務は普通に行っています)。さらに、文部科学省・研究大学強化促進事業の一環で、広島大学インキュベーション研究拠点という全学プロジェクトが立ち上がり、本年度から「本能行動と生活習慣・科学リテラシー拠点」のリーダーを務めさせていただいています。本プロジェクトは、食欲・睡眠欲・性欲といった本能行動の分子メカニズムの解明と、その得られた成果を大学生の生活習慣の確立や科学への理解力を高めるように役立てる、という使命を担っています。
 共同研究としては、愛媛大の橘哲也先生とニワトリ・ヒナを用いた研究を進めています。研究科内では、GPCR研究の大家である斎藤祐見子先生や電気生理のスペシャリストである古川康雄先生らの研究室が近くにあり、小林・宗岡先生時代から続く、「生理系ラボネットワーク」により、毎週、合同セミナーを行っています。さらに、研究科内には生命科学系以外にも実験心理学や健康・スポーツ科学のラボも多くあり、他分野との共同研究を進めたり、成果を分かり易く発表する機会も多いという恵まれた環境にあると言えます。
 浮穴研究室にご興味があれば、いつでもお立ち寄りください。

 研究室紹介として、広島大学総合科学部報である「飛翔」に記事が掲載されました(2016年3月第89号)。内容は自己紹介ですが、許可を得て掲載します。


平成28年度
 浮穴研の初の学位取得者となった益田さんは、5月から理研の研究員として転出しました。
 浮穴は科研費・国際共同研究加速基金の支援により8月からUC Berkeleyへ共同研究のために長期出張となりました。そのため、今年度の3年生仮配属(平成29年度の卒論配属も)は行わないことになりました。この間の学生指導はOneDriveを利用したウェブ上でのファイルのやり取り、電子メール、電話等で行っています。周りの先生方や事務の方々には多大なご迷惑をおかけしておりますが、気持ちよく送り出していただき感謝の気持ちで一杯です。今後のためにも吸収できるものは何でも吸収して帰国したいと思っています(あくまで体脂肪以外ですが)。この間、最上級生の鹿野君を筆頭に、「鬼のいぬ間の洗濯」ではないですが、自由に研究活動を頑張ってくれると思います(私のこれまでの指導方針は、先生がいなくても自分の頭で考えて自主的に研究を進める力を付ける、ことでしたので実践のチャンスと思います)。また、学生には研究を思う存分してほしいということから、今まで研究室の雑用をさせてこなかったので、それを行うことも社会勉強になることでしょう。浮穴のスローガンは、「遠くにいても心は近く!」です(何?寒いって??)。



平成27年度
 4名しかいない生命科学プログラムの学年ながら、越智祐太君が卒論生として加わりました。他のメンバーは皆、絶対に今年度はゼロだろうと予測していていましたが、出来事欄に記したように近藤君の研究に感動して入室してくれました。益田さんが最終学年のD3、鹿野君がD1、松浦君と加藤君がM1となりました。今年は、「成果を形に」をスローガンに頑張っていきます。
 追記:本年度から3年生の後期から仮配属というシステムが始まり、3年生の齋藤鷹也君が10月に入室しました。齋藤君はなかなかの先輩泣かせのキャラのようです(浮穴は彼に対して甘いようで、それも皆の反感を買っているようですが...。短所を直すよりも長所を活かしましょう。)。

平成26年度
 ついに隔年での卒論生が2名(松浦大智君、加藤正暉君)、加わってくれました。これでM2の3名は漸く先輩になれました。後輩を指導している彼らを見ていると私も感慨深いものがあります。研究もまとめの段階なので、詰めの実験をしていこうと思っています。世間はS○AP細胞の話題で持ちきりですので、慎重にしないといけないところは石橋を叩いて渡ろうと思います。すでに、十分叩き過ぎ?再現性は6度以上確認済みです(しかも1度の実験で2ヵ月以上はかかる。)。
 追記:平成26年度は少し学会に出かけるのをセーブし、論文執筆に専念しました。結果的にはダメで、我々の実力が分かったのも収穫となりました。いつもより卒論生の面倒を見れませんでしたが、逆に彼らも自由にできたのではないかと思います。年明けからは、修論生3名と4年生2名の計5名の仕上げに必死でした。最後には生まれてから二度目のインフルエンザにかかりました。3年間頑張ってくれた別所さんと近藤君が修了となり、新社会人として巣立っていきました。寂しい限りです。またいつでも顔を出してください。浮穴研の今後の目標は第二の別所・近藤となるべく人材を育てることだと確信をしました。

平成25年度
 またしても卒論配属ゼロとなりました。最近は4名→ゼロ→3名→ゼロと来ているので、卒論生が来た翌年は疲れ果てて勧誘をしなくなり、翌年は慌てて勧誘を行うといった具合ですね。来年度はもう少し対策を練りましょう。後輩の面倒を見てこそ先輩も力を付けていくと思います。前年度実働メンバー9名が全員残るため、実験の引き継ぎや指導もなく、全員トップスピードで新年度を迎えることが出来たのはラッキーだったと思います。生研センターのプロジェクトも3年目を迎え、いよいよ完成させないといけませんし、実際にその直前まで来ているという手応えがあります。勢いを落とさないように頑張っていきましょう!
 追記:昨年度の後半からの勢いそのままに突っ走っていきました。研究室として、14の学会・研究会・シンポジウムに出席し、延べ37の発表を行いました。「こんな結果が出ましたが、信じてもらえますか?」という全国行脚でした。ネガ・ポジともに多くのコメントをいただき、大変勉強になりました。そして、平成25年度で生研センターのプロジェクトも終了となりました。若いポスドク二人とも、次のポスドク先が決まり一安心です。どちらもステップアップなので、新しい職場でも頑張ってほしいです。久しぶりに卒論・修論生がいなかったため、1・2月は論文執筆に力を入れることが出来ました。

平成24年度
 生研センターのプロジェクト研究員として前嶋翔さんが新メンバーとして加わりました。前嶋さんは富山大の内山実先生の下で博士号を取ったばかりです。これで研究室の博士号持ちが計5人となりました。3人の新4年生(別所裕紀さん、近藤邦裕君、鹿野健史朗君)も加わり、総勢11名となりました。今年の4年生は真面目な一方でボスを小馬鹿にするキャラです。新人もベテランも一丸となり、前向きに皆で頑張っていきましょう!
 追記:平成24年度も2/3が長い長いトンネルの暗闇の中を這いずりまわっていたような気がしました。それでも後半には一筋の光を見つけたと皆が手応えを得ました。行動解析チームの頑張りはもちろんのこと、合成・形態・同定チームの全員が力を合わせた結果です。「諦めなければ何とかなる!!」と信じることはとても大切だと思える年でした。研究員の大山さんは9月末で出産準備のために退職され、翌2月に無事に元気なお子さんを出産されました(たまに研究室に母娘で来てくれます)。平成20年度の田中さんに続く研究員のおめでたとなりました。

平成23年度
 卒論生だった佐藤真実さんと益田恵子さんはそのまま大学院へ進学しました。新4年生は何故かゼロでした(これだけエキサイティングな研究を進めているのに、それが理解されなかったのは私の力不足(アピール不足)です。研究室員には申し訳なく思います。)。岩越栄子さんは遂に3年任期最後の広島大学特別研究員となりました。欲を言ってもしょうがないので、とにかくあるパイで研究を進めるしかありません。何事も積極的に出来ることから進めましょう!ここでの撤退はあり得ません。
 追記:10月から生研センターのプロジェクト研究員として谷内秀輔さんと大山晴香さんが新メンバーとして加わりました。谷内さんは岡山大の竹内栄先生(鳥類内分泌の専門家)の下で博士号を取ったばかりで、大山さんは高知大の有機化学分野で博士号を取ったばかりです。谷内さんは主に動物実験を、大山さんには有機化学(ペプチド合成)の研究を進めていっていただきます。研究室も二人の新メンバーのおかげで新陳代謝が高まり、活気づいています!
 平成23年度で卒論・博士前期課程の3年間頑張ってくれた大口君も修了し、企業に就職しました。初めての修了生となりました。

平成22年度
 卒論生だった佐藤さんと大口君はそのまま大学院へ進学し、古満さんは研究員として研究室に残ることとなりました。配属説明会での研究紹介が好評だったのか、4人の卒論生(佐藤真実さん、益田恵子さん、山崎玲子さん、山本拓宜君)が加わりました。岩越栄子さんは21年度に引き続き広島大学特別研究員として採用されました。研究室も総勢9名となり、学部でも大所帯の研究室となりました。「今年こそは機能解析を」という強い決意を持って難しい課題に挑戦していきましょう!皆で壁を突破しましょう!
 追記:今までの研究人生の中でも最も多くの研究費を費やし、研究に邁進しました。「雑感」のところにも記しましたが、希望と絶望の狭間を揺れ動いた一年でした。一進一退でゴールに近づくことが可能か皆半信半疑でした。しかし、失敗と試行錯誤を経験することで少しずつ何かヒントを得た気がします。年度末に近づき、今までつまづいて苦労していた実験(形態解析やペプチド産出)がことごとく上手く回り出し、手応えを得ました。小さい灯りを頼りに突き進んでいきましょう!

平成21年度
 卒論生が4名加わりました。総科の卒論生として佐藤瑠奈さん、古満芽久美さん、大口悦宏君、県立広島大の卒論生として岡田玄也君が入室しました。ようやく研究室らしくなってきたので4月に花見を研究室で行いました。
 岡田君は抗菌ペプチドの研究を、それ以外は新規脳内物質の研究を行いました。特に新規脳内物質の研究は20年度から本格的に開始した全くのオリジナルな研究で(論文になるまでなかなか公表はできませんが)、我ながら面白い研究だと思っています。幸運の女神の前髪をつかめそうなところまで来ているので、困難ばかりの大変な仕事が残っていますが、一丸となって頑張っていきたいと決意を新たにしました。岩越栄子さんも21年度は広島大学特別研究員として採用され、正式なポスドクの身分でフルタイム働くことが出来ました。
 追記:卒論生4人とも優秀で「理想の研究室像」に近付いた感じがしました。研究成果としてはそれぞれのレベルで頑張ってくれたと思いますが、肝心な課題解決は先送りとなりました。

平成20年度
 2月の新4年生用の卒論配属説明会ではかなり厳しいことを伝えたため(浮穴研はやる気のない学生はいらない!!)、卒論生の配属はゼロでした(甘い言葉で学生を誘っておいてから後で尻たたくのは卑怯ですので、ありのままの私の研究室希望像を伝えて関心を持たれなかったのですからしょうがないです。逆にやる気のない学生を受け入れてもこちらが自律神経失調症になるだけです。19年度のほとんどはこれでやられました。顔では笑っていても内面はボロボロでした。今はすっかり良くなり、以前の気力・体力・時の運だけの腕力脳みそ筋肉生命科学者に戻りました。)。
 19年度に引き続き、岩越栄子さんと彼女の研究補助員の田中幸恵さんとで研究を進めました。田中さんは出産のため6月末で研究補助員を終了しました(8月に元気な赤ちゃんを出産されました!)。その後任として9月から3年生の佐藤瑠奈さんが研究補助員として加わりました。
 追記:前年度から開始していたマイクロアレイやサブトラクションの膨大なデータ解析(田中さんの任期終了間際)の結果、7月上旬に狙っていた遺伝子を見つけたという確信を得ました。ここからは私も復活しフルパワーで研究に専念することとなりました。

平成19年度
 岩越栄子さんも子供が1歳になったのを契機に出勤できる時間が以前より増えました。さらに、平成20年1月から平成19年度科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」事業により、研究補助員として田中幸恵さんが加わりました。
 昨年度の沖本さんに引き続き、県立広島女子大から曽我美幸さんが加わり、卒業研究を行いました。また、曽我さんは卒論生ながら、沖縄で開催された爬虫類・両生類学会で学会デビューを果たしました。
 追記:平成19年度はこれまでの研究人生の中で最も辛い1年でした。完全独立のプレッシャーや理想と現実とのギャップに苦しみ、自律神経失調症を患い、研究もソコソコに終わりました。しかし、苦しみながらも夫婦で研究のシーズ探しに翻弄しました。このときの辛い経験は今の肥やしになっています。

平成18年度
 岩越栄子さんが、半年間の産前産後・育児休暇を経て、平成18年10月より復帰しました。
 県立広島大学人間文化学部の藤井保先生・広島大学理学研究科の住田正幸先生との共同研究で、県立広島女子大学の学部4年生・沖本愛子さんが浮穴研究室に加わり、卒業研究を行いました(立派な成果を数多く出し、就職しました)。
 さらに、筒井研の大学院生(M2)だった鈴木沙織さんも修士論文を完成するため研究室に残り、岡本賞を受賞しました(出来事参照)。
 お茶の時間にはお菓子を囲んで研究以外の話で盛り上がっています。
 毎週火曜日の夕方から脳科学分野合同(安藤研・古川研・斎藤研・浮穴研)のセミナーを開催しています。異なった研究内容や論文を紹介することで非常に勉強になります。
 追記:平成18年度は9月に筒井先生が早稲田大に転出され完全独立の第一歩の年でした。独自の研究テーマを探し彷徨っていました。不安と期待で胸一杯という感じの船出の年でした。

関連する研究テーマ

1.動物の脳からの新規脳内伝達物質の単離・同定と機能解析
 まだ哺乳類でも報告されていない新しい脳内伝達物質が非哺乳類の脳にはありそうなので、それを見つけて、働きを明らかにする研究です。さらに哺乳類での機能解析も行います。特に、摂食行動やエネルギー代謝調節に着目した新規脳内伝達物質の同定に関する研究を展開しています(上記の「現在進めている研究内容」参照)。ストレスによる過食と肥満は私自身の重大テーマです(泣)。

2.ストレス応答に関与する脳内タンパク質の同定と機能解析
 ストレス(特に浸透圧ストレス)により発現量が変化する未知のタンパク質があるという予備実験の結果を得ていますので、それを見つけて、働きを明らかにする研究です。

3.系統発生学(進化)的観点からの脳内伝達物質の同定と機能解析
 私たち人間は、神によって創られたのではなく、原始的な生物から進化してきたのです。ただし、脳内で利用している情報伝達物質には多くの共通点があります。下等な動物を実験材料に用いて、我々哺乳類で未だ見つかっていない脳内伝達物質を同定し、私たち人間を含めた哺乳類での研究に還元する研究です。
 これに関係して、尾索類ホヤの神経ペプチドの成果について出来事欄に記事を書きました(2008.6.14)。

4.生体防御機構に関わる抗菌ペプチドの同定と機能解析
 平成18年度から開始した上記の住田先生・藤井先生らとの共同研究で、両生類研究施設で特別に飼育されている絶滅危惧両生類を用いて抗菌ペプチドを同定する研究です。絶滅危惧種の生体防御機構の解明と強化という地球環境問題としての課題に加え、院内感染の原因となる抗生物質耐性菌や食中毒の原因となる病原菌の駆除という応用課題も含んでおり、多大な成果が期待されます。次々と新規の抗菌ペプチドを同定しており、特許出願も行っています。これに関して出来事欄に記事を書きました(2011.8.29)。

 鳥類や下等動物を利用するのは、哺乳類を扱うよりも多くの魅力があると考えるからです。それらを利用して、哺乳類の研究にフィードバックし、最終的に人間の“こころ”と“からだ”を理解したいと考えています。
 十数年前、私たちが研究を進めていた新しい脳内伝達物質の同定と機能解析の研究テーマがアイデアとなり、日本大手の某製薬会社により研究が進められました。これは、我々の研究テーマが、世界的にトップクラスであることを裏付けており、小さな研究室でも大製薬会社をギャフンと言わせられる可能性があると思っています。
 つまり、私の目指す研究は、科学によって得られた成果を社会(医学やQuality of Lifeの向上)に還元することです。我々人間の“こころ”と“からだ”を理解するために生物脳科学は絶対に必要な研究分野だと考えています。


研究手法

分子レベルから個体レベルまで;分子生物学、生化学・有機化学、形態学、生理学的な手法

1.物質の単離同定のための生化学的手法(HPLCなどのカラム操作)・有機化学的手法(ペプチド合成)・物質科学的手法(質量分析計やアミノ酸シークエンサー)
2.同定した脳内伝達物質や脳内物質の局在や神経連絡を調べるための形態学的手法(切片作成や免疫組織化学的手法、神経トレーサーを用いた解析)
3.脳内伝達物質や受容体をコードしている遺伝子を解析するための分子生物学的手法(cDNAクローニングやmRNAの発現量の解析、遺伝子改変動物を用いた解析)
4.機能解析のための脳手術や行動解析、細胞培養5.その他、研究の進展に必要な手技手法は積極的に学び、取り入れていきます(脳を知るためには色々な研究手法を積極的に取り入れていく必要があります)。


科学的興味

 私たちはどのような脳内伝達物質を利用して生体調節・喜怒哀楽・ストレス応答などに対応しているのかということに興味があります。高校生のころに「脳内麻薬や快楽物質」の存在を知り、脳内物質について興味を持ったのが、現在の研究のきっかけです(研究者となり趣味(!?)と実益をかねて好きな研究が出来るということはこの上ない幸せです。もちろん研究で得られた成果を教育にも還元していきたいと思っています)。現在の研究テーマは「新しい脳内伝達物質を見つけ、その働きを調べる」ことです。まだまだ私たちの脳の中には未発見の脳内伝達物質があると思うので、それらを見つけて働きを明らかにすることで、不明なことの多い脳の機能を知ることが出来るし、脳を有効に賢く使う手助けになるのではないかと思っています。他人がやっている研究の後追いはせず、地道に「オンリーワン」の研究を進めていこうと思います。かつ、世界トップクラスの研究を目指します。さらに最近、生体防御機構(自然免疫)を分子レベルで解明するために、両生類の皮膚に存在する抗菌ペプチドに関する研究も行っています。つまり、神経・内分泌・免疫機構のクロスネットワークの解明を目指しています。


脳内伝達物質に関わる研究の重要性

 我々人間はすごい生き物だと思います。色々なものを想像・創造し、夢や希望を持って生きているからです。日常生活においても、怒ったり、驚いたり、喜んだり、悲しんだりといった文字通りの喜怒哀楽や他人を好きになったり嫌いになったり・・・と色々なことを感じています。もちろんこのような感情は全て脳の中で生じてくるものであり、霊や超常現象を信じることも脳の働きによります。現代社会を見回してみますと、幼児虐待や性犯罪、さらには理解不能な事件といったニュースは途切れることが無く、犯罪の繰り返しから脱却できない様子を見ていると「脳への刷り込み」は、「脳の可塑性(粘土のような柔らかい性質)」を上回って修復不能ではないかと感じます。ただし、希望的観測としては脳内伝達物質や脳内分子の機能を明らかにすることで、犯罪の予防やこころの理解ができるのではと考えています。もちろん脳内伝達物質を理解することで、学習・記憶、情動、本能などあらゆる脳機能を理解できるのではないかと期待しています。何故そう考えるかは「雑感」の項に浮穴の考えを記しています。


浮穴研究室の教育・指導方針(new)

 研究室選びを行う際の学部3年生によく聞かれるので、まとめてみました。研究室の雰囲気・環境・目指すところを中心に記してみました。

研究室メンバーが研究を自分の仕事だと思ってほしい
 良い研究をしたいとか、やりたい研究というものは、研究を始めて間もない若い人が見つけることは難しいと思います。面白いことや結果が最初から分かっているとしたら、それは本当に面白いことなのでしょうか。分からないことがあるから研究ができ、分かろうとする過程こそが楽しいのではないでしょうか。苦労の先にこそ本当の喜びがあると私(浮穴)は信じています。とはいっても最初は分からないことが何だか分からないといった様子です。まずは先輩のやっていることを真似て、そして自分の手で何でもよいので結果を出してみましょう。その中で自分の頭でじっくりと考える癖を付けましょう。何も考えずに作業をしているだけでは研究をする意味がありません。やらされていることほど苦痛なものはありません。自ら積極的に問題点や課題を見つけて欲しいです。自分から進んでやりたいと思えたことは、責任も感じるし、なにより興味や思い入れが湧くはずです。研究に対するモチベーションが最も研究室では大事です。
 学部3年生までと違い、研究室に配属されると研究室の生活が中心となります。馬車馬の如く働くことを強要しませんが、実験は待ち時間が多い分だけ研究室に滞在する時間も伸びてくるのはある意味しかたがない部分もあります。折角の待ち時間を有効に使いながら文献を読んだり調べ物をしたりしましょう。自分が如何に無知であるか、また新しいことを知るのは結構楽しいことにも気付くでしょう。「知らないことを知りたいと思う気持ち、新しいことを知る喜び」も本能です。強要された勉強は苦痛ですが、宝探しや新発見は本当に楽しいものです。
 というわけで、「浮穴研で何ができるか?」と聞かれれば、「分からない課題がたくさんあります。自分の手で解決するように躊躇せず飛び込んでみてください。他では経験できない様々なことを体感できます。」と言いたいです。

研究室メンバーで喜びも苦しみも共有してほしい
 得られた実験結果を積極的に他の研究室メンバーへ話してみましょう。「ある目的でこの実験をやって○○という結果が出た。当初は△△という結果を期待していたけど、これは□□という原因でこうなったのかもしれない。次は◎◎の実験をしてみたいと思う」というような会話はとても重要なことです。周りの人も積極的に意見を出して、そこから得た情報を取捨選択して実行するという過程が研究室の活動のベースとなります。それがあるかどうかで、自分自身の成長にも大きな影響があります。皆で考える、共有するということは研究室の活動として極めて重要です。誰も答えを知らないことをやっているわけだし、研究者として先生も学生も皆平等です。研究室のチームワークやサポート、フォローなしで独自路線を進むことはあり得ません。独りよがりな行動は周りを不愉快にしてしまいます。
 例えば、研究室メンバーの誰かが学会で受賞した際にも、その成果は個人のものではありません。誰が抜けてもその成果は得られなかったでしょう。直接関係が無くともまわりまわって現在があります。そのことを決して忘れてはいけません。感謝の気持ちが大事です。

研究室のボスは最高の環境を提供する努力を惜しまない
 もしやりたいことがあったとしても研究費や実験手技の制約で進められないことがあれば悲しいことです。研究室のボスであれば研究費や設備の確保、そして学術論文をまとめることが使命です。最高の研究環境を提供し、思う存分研究を楽しんでほしいと考えています。現在の生命科学研究は一つの技術で論文として成果がまとまることは少なくなりました。この数年は、分子、遺伝子、細胞、組織、個体、行動レベルの様々な解析手法を用いて一気に研究を進めていく実験手法とその設備を構築する努力をしてきました。最高の食材と調理道具が揃っているとして、料理を美味しくするのもまずくするのも貴方次第です。たとえ美味しくなかったとしても、自分で作った料理は不思議と最後まで食べられるものですし、次の料理を作る際に必ず活かされます。

どうせやるならトップを目指す
 いきなり世界トップを目指せとは言っていません。自分の中での限界を超えることから始め、同僚や研究室レベルでトップになれるようにしていきましょう。そうなれば、いずれは学部や学会でも評価されてくるはずです。誰よりも早く研究室に来るというのでも構いません。自分の能力や限界を早々に決めないでください。物理的な壁よりも精神的な壁の方が厄介です。若者の特権はミスをしても許されるところです。ミスを恐れて何もしないことは怠慢です。逆に失敗を多くすることが後々の成功への近道です。期待は必ず裏切られるので、予想外の展開を大事にする姿勢を忘れないでください。自然科学の真理は期待外れから生まれることの方が多いような気がしますので、小さな変化を見落とさないように注意をしてください。私(浮穴)自体が全くの期待をされていない人間でしたが、それでも、なんとかそこそこ生きていけています。興味を持ち続ければ道は開けるはずですし、努力無くして成功はあり得ません。「小さいことからコツコツと」が重要ですし、逆に小さいことができないのに大きなことはできません。
 あと、自信をつけるということは重要なことです。毎日努力していれば、長い目で見れば少しずつ成長しているはずです。それに気づくことも大切なことです。それを上手く自信に変えてください。「自信と成長」こそが、モチベーションの次に重要なことだと思います。手法は変われど臨機応変に対応することは、今の世の中必ず何処でも何時でも役立ちます。この世に役に立たないことは存在しません。「この役立たず!」というのは家でのお父さん(私のこと)だけにしてほしいものです。