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研究活動

概要

はじめに
 広島大学病院 泌尿器科は広島県内における泌尿器疾患の診断・治療において中心的役割を担っています。あらゆる問題に対応できるよう、次の課題を中心に研究を行っています。
1.泌尿器がんの発生、増殖機序の解明と治療への応用
 前立腺がん、腎細胞がん、膀胱がん、精巣がんなど尿路性器がんの発生および増殖機序に関する分子生物学的解析と診断・治療への応用

2.泌尿器癌に対する新しい治療法の開発とその評価
 腹腔鏡下手術など安全かつ低侵襲(痛みが少なく体に優しい)な外科的治療法の開発とアウトカム評価

3.尿路感染症の病態と治療に関する研究
 難治性尿路感染症に対する抗菌薬耐性化の解明・新規抗菌薬の開発

4.排尿機能障害の病態解明と最先端の診断・治療
 排尿障害・尿失禁、骨盤臓器脱の診断・治療法の開発。小児昼間遺尿症の原因解明と治療応用

5.男性学(アンドロロジー)の診断・治療
 男性不妊症、性腺機能不全症の病態解明と治療法の追究

前立腺がんにおけるホルモン依存性消失の機序解明と治療応用

 前立腺がんは初期治療においてホルモン療法が有効ですが、次第にホルモン療法に抵抗性を持つようになり、難治性となる事が知られています。
 私たちは、このような前立腺がんのホルモン依存性から非依存性への進行過程において、FGFR、IGFBP-rP1などの増殖因子が消失あるいは減少すること、ホルモン抵抗性前立腺がん細胞にFGFR、IGFBP-rP1などの増殖因子の遺伝子を移入すると、がん細胞の増殖が強く抑制され、分化も誘導されてホルモン依存性の特性を回復することを明らかにしてきました。さらに、FGFR、IGFBP-rP1を移入したホルモン抵抗性前立腺がん細胞はアポトーシス(細胞死)に陥ること、その変化はFRS2のリン酸化やp44/42 MAPキナーゼと関係があることも判明しています。
 このように、前立腺がんのホルモン依存性消失機構を増殖因子の視点から追求し、治療への応用に向けて基礎的検討を続けています。

FGFR2FGFR2-1

骨転移のメカニズムと治療応用

 前立腺がんのアンドロゲン依存性消失とならんで重要なのは、骨転移の分子機構です。前立腺がんは骨転移を来しやすい特徴をもっており、骨痛に苦悩する患者さんが少なくありません。これに対して、ケモカインとケモカインレセプターの視点からリガンド-レセプター機構を介した前立腺がんの骨転移の機序についての研究を行って参りました。本研究は前立腺がん骨転移の予防や治療につながる可能性をもつ点で重要です。

CXCR4CXCR4-2

前立腺がんの遺伝子異常-DNAメチル化-

 メチル化とは、DNA(デオキシリボ核酸)を構成する塩基の1つ「シトシン」のメチル基という化学構造がつく変化を指します。DNAにはメチル化が起こると正常に働かなくなる部分があり、がんなどを引き起こすことが知られています。
 retinoblastoma protein-interacting zinc finger gene (RIZ1)はヒストンメチル化酵素ドメインを有する蛋白質で、種々のがんにおいてRIZ1遺伝子のDNAメチル化異常が報告されています。
 私達は分子病理学、安井教授のご指導の下に、前立腺がんにおけるRIZ1遺伝子のDNAメチル化の解析を進めています。

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前立腺がん予後予測因子の基礎的研究

 前立腺がんの診断・治療において、そのがんが臨床的に意義のある(生命を脅かすほどの)がんであるのか、予後がどれほどであるか、を予測することはきわめて重要です。大したことのないがんであれば治療の必要はありませんし、逆に攻撃的ながんであれば積極的な治療を早く開始しなければなりません。そこで、私たちは前立腺がんの予後予測因子について研究を行っています。
 現在、注目しているのはRegIVという遺伝子です。RegIVは炎症性腸疾患で発現が亢進している遺伝子としてクローニングされたもので、胃癌、大腸癌で高発現し、腸型形質、神経内分泌分化に関連していることが知られています。
 私たちは広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理学の安井 弥教授のご指導のもとに研究を進め、RegIVが前立腺がんの予後予測因子であること、術後のPSA再発の予測因子であること、血清腫瘍マーカーとして有用である可能性があることなどの研究成果をあげています。
 今後さらに、RegⅣを介したホルモン不応性獲得機序の解明に向けて研究を進める予定です。

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癌幹細胞の同定およびそれを標的とした新治療法の開発

 神経幹細胞に発現するヌクレオステミン(NS)とそのファミリー(GNL3L、Ngp1)は、GTP binding proteinの中でG4-G1-G2-G3のモチーフを有するサブファミリーを形成しており、核と核小体に局在する蛋白である。このファミリーはES細胞を含む幹細胞で発現が亢進しており、幹細胞の自己複製能、増殖能、分化能の維持に重要な役割を担っていると考えられています。当講座では癌細胞におけるヌクレオステミンファミリーの役割に注目し、泌尿器癌における癌幹細胞の同定およびそれを標的とした新治療法の開発を視野に入れ、Texas A&M Health Science CenterのRobert Yu-Lin Tsai博士の研究室に研究員を派遣しています。

陰茎海綿体神経再生

 前立腺全摘除術は限局性前立腺がんにおける最も有効な治療法の1つですが、術後のED (erectile dysfunction:勃起機能不全)や尿失禁などの課題もあります。
 根治性の点から陰茎海綿体神経(勃起神経)を切除するとEDとなり、大きく生活の質を損ないます。そのため、神経を温存した前立腺全摘除術の適応症例も増加しています
 一方、根治性を保つため勃起神経を含めて前立腺をしっかりと摘除し、かつ勃起機能を保つ手段として、腓腹神経などの知覚神経を採取、勃起神経の代わりとして移植する自家神経移植が試みられております。しかし、健常な神経の採取に伴う知覚障害が必発であること、特殊な機械が必要であること、神経吻合に時間がかかることなどの問題点が存在するため、一般に普及しておりません。
 これに対して、私たちは前立腺全摘除術における神経合併切除後の神経再生を目的として、ヒト末梢血から分離した血液幹細胞を陰茎海綿体神経が欠損したラットに移植し、陰茎海綿体神経の再生を研究しております。この研究が前立腺全摘除術における合併症を軽減する方法の開発につなげるのが目的です。

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CAST法を用いた前立腺癌特異的な分泌・膜蛋白質の同定と臨床応用

 癌に特異的に発現する細胞表面蛋白質は薬剤が到達しやすいという点から治療標的として理想的であり、また癌特異的な分泌蛋白質は血清腫瘍マーカーとして理想的です。我々は膜・分泌蛋白質を効率良く同定するEscherichia coli ampicillin secretion trap(CAST)法を用いて前立腺癌の新規診断・治療標的を同定することを目標に研究を行っています。
 CAST法の概略は以下のfigureのように、シグナルシークエンスを欠損させたアンピシリン耐性遺伝子を組みこんだpCAST vectorに前立腺癌と正常前立腺サンプルのcDNAライブラリーを組み込み、これらを大腸菌に導入してアンピシリン含有培地で培養します。ここでコロニーを形成する大腸菌は膜貫通ドメインもしくはシグナルシークエンスドメインを持つ遺伝子が挿入された場合であり、これらアンピシリン耐性コロニーの塩基配列を解析して膜・分泌蛋白質をコードする遺伝子を同定します。
 さらにCAST法による候補遺伝子の発現は全身の正常重要臓器や多数例の前立腺癌と非癌部前立腺で比較し、前立腺癌に特異的な遺伝子を抽出します。我々はこの前立腺癌におけるCAST法によって、細胞表面受容体であるCDONが前立腺癌で高発現し前立腺癌の増殖と浸潤に関与していることや、分泌蛋白質であるNBL1が前立腺に特異性が高く血清マーカーとして可能性が示唆されることなどを見いだしています。これらを臨床の現場での診断と治療の改良につなげたいと考えて研究を続けています。

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尿路上皮癌の予後予測の研究

 尿路上皮癌は多様な分化傾向を持つことが知られており、これら特殊型の尿路上皮癌は通常型と比べて病期が進行し、予後が悪い傾向にあるため診断と治療には十分な注意が必要です。我々は特殊型のなかで最も頻度が高い扁平上皮への分化を持つ尿路上皮癌を正確に診断することを目的として、Desmocollin 2 (DSC2)に注目し研究を行っています。
 DSC2はdesmosomeの構成要素の一つで扁平上皮に広く分布しています。このDSC2は通常型の尿路上皮癌ではほとんど発現していないのに対し扁平上皮癌で発現が高いことにから、手術標本での診断マーカーとしての有用性を検討しました。膀胱癌の免疫染色の結果、DSC2は扁平上皮への分化を示す部分を高い感度と特異度で染色することが判明しました。さらにこのDSC2が陽性となった場合は有意に病期が進行し、予後が不良となることが判りました。
 DSC2は扁平上皮への分化をもつ特殊型の尿路上皮癌を正確に診断することに役立ち、患者様個人個人に相応しい治療法を決定するのに役立つと考えています。

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難治性尿路感染症に対する抗菌薬耐性化の解明・新規抗菌薬の開発

 抗菌薬などの開発や臨床応用が進んだ現代でも、人類の25%は感染症により死亡し発展途上国においては死因の約50%を感染症が占めています。微生物に由来する感染症の克服は未だ重要な世界的課題です。
 日本を含めた先進諸国における現代の最近感染症の問題点として、種々の抗菌薬の開発により病原性の強い細菌による感染症は減少した反面、抗菌薬に対する耐性化やいわゆる日和見(ひよりみ)感染症が大きな課題となっています。
 種々の抗菌薬によって、従来の緑膿菌感染症の治療は比較的容易になりましたが、耐性を示す株が急激に増加し、遂には多くの抗菌薬に耐性を示す多剤耐性緑膿菌MDRPが出現するに至っています。日本国内の病院でも院内感染で多数の死者が出た報道がなされました(図1)。
私たちは、昭和61年より緑膿菌の薬剤耐性の一因であるバイオフィルムに関する研究を国内で先駆けて開始しました。院内で汎用される尿路カテーテルにバイオフィルムが形成され、各種抗菌薬が届きにくくなることを基礎実験にて明らかにしてきました(図2)。これは、外国雑誌Chemotherapyに多数論文掲載され、院内感染のリスクマネージメントに大きな影響を与えました。
近年では、私たちは、新たな緑膿菌多剤耐性化の一因であるメタロβラクタマーゼ産生に注目し、その病原体の調査や、原因遺伝子の同定・ゲノタイプの解析(図3)を行っています。今後、耐性菌を誘導しない抗菌薬の使用法の解明や新規抗菌薬の開発を目指した研究への発展を目指しています。
これまでに得られた研究成果は、国内のみならず海外での学会や論文にて報告(Jounal of Infection and ChemotherapyやJournal of antimicrobial chemotherapyなどの国際的に権威のある雑誌に掲載されました)し、高い評価を得ています。

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受賞

<平成18年以降>

第58回日本泌尿器科学会西日本総会 学術奨励賞(平成18年)
三田耕司,他
術中癒着が危惧された症例に対する後腹膜鏡下腎摘除術

第7回日本間質性膀胱炎研究会研究会賞(平成19年)
梶原 充、他
前立腺癌を合併した男性間質性膀胱炎について 前立腺生検の安全性と意義は?

日本泌尿器科学会西日本総会学術奨励賞(平成20年)
亭島 淳、他
前立腺癌に対するI-125密封小線源永久挿入治療後のQOL評価

第82回日本細菌学会総会優秀ポスター賞(平成21年)
小林加直、他
多剤耐性緑膿菌のblaIMP-1インテグロンカセットに存在 する新規アミノグリコシド耐性遺伝子の解析

第62回広島医学会総会優秀賞(平成21年)
梶原 充、他
子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤(POP)に対する子宮温存腟式メッシュ手術の初期経験-TVM手術について

第63回広島医学会総会優秀賞(平成22年)
亭島 淳
ロボット支援下根治的前立腺全摘除術の初期経験

第63回日本泌尿器泌尿器科学西日本総会 
ヤングウロロジストリサーチコンテスト最優秀賞(平成23年)
林 哲太郎
The search for novel genes encoding secreted and transmembrane proteins in prostate cancer by the Escherichia coli ampicillin secretion trap.

29th World Congress of Endourology and ESWL(平成23年)
Olympus Best Laparoscopy/Robotic Award
亭島 淳
Impact of the Experience of Laparoscopic Surgery on Technical Adaptability to Robotic Surgery.

27th EAU Annual Congress, Paris, 2012 (平成24年)
Best Poster Presentation 亭島 淳
Localization of Fibroblast Growth Factor 9 in Prostate Cancer Cells Is Associated with Postoperative Recurrence

先進医療

5-アミノレブリン酸溶解液の経口又は経尿道投与による蛍光膀胱鏡を用いた膀胱がんの光力学診断



臨床研究/共同研究

腎細胞がん

1. 腎細胞癌におけるインターフェロン-αの治療効果と-塩基多型の関連性研究

2. 腎細胞癌に対するインターフェロンα+ソラフェニブ併用療法の有効性および安全性の検討

3. 腎細胞癌有転移症例に対するスニチニブ, ソラフェニブクロスオーバー、ランダム試験

4. 進行性腎細胞癌に対するIL-2+インターフェロンα+テガフール療法第二相試験

5. 転移性腎細胞癌における転移巣切除術の有用性

6. 進行性腎細胞癌に対する分子標的薬の有害事象と有効性に関する遺伝子多型の研究

7. mTOR阻害剤エベロリムス使用腎癌患者に関する後方観察研究

前立腺がん

1. 前立腺がん検診の死亡率減少効果に関する検証研究

2. 早期前立腺がんに対するPSA監視療法 国際共同比較研究(PRIAS試験)

3. 限局性前立腺癌に対するホルモン療法の有効性に関する研究

4. 日本における前立腺癌に対するヨウ素125密封小線源永久挿入療法に関する前向きコホート研究

5. 再燃性前立腺癌における非ステロイド性抗アンドロゲン剤交替療法の適正使用に関する薬理遺伝学的検討

6. 再燃前立腺癌における非ステロイド性抗アンドロゲン剤交替療法の有用性の予測に関する検討(NASA-PC)

7. 骨転移を有する前立腺患者の一次内分泌療法に対するゾレドロン酸初期併用療法のランダム化比較試験

8.前立腺全摘除術の外科的切除縁における残存癌検出を目指した5-アミノレブリン酸(5-ALA)による蛍光腹腔鏡を用いた術中光力学診断

尿路上皮がん

1. 筋層浸潤膀胱癌に対するゲムシタビン、シスプラチン、ゾレドロン酸 の術前併用療法

2. 浸潤性膀胱癌に対する動脈内抗癌剤投与および放射線療法の有効性に関する検討

3. アミノレブリン酸と蛍光膀胱鏡を用いた尿路上皮癌の光力学的診断(PDD試験)


科学研究/助成金

<2005年以降>

2005年ー2006年
基盤(C)
松原 昭郎
ホルモン不応性ヒト前立腺癌に対する新しい治療法の研究

若手(B)
亭島 淳
前立腺癌におけるTip60のアンドロゲン依存性および放射線感受性への関与

若手(B)
石  光広
ホルモン不応性前立腺癌におけるIGFBP-γP1を用いた新治療法の基礎的検討

2006年ー2007年
基盤(C)
碓井 亞
前立腺癌におけるアンドロゲンレセプター共役因子の機能解析と臨床応用

2007年ー2008年
基盤(C)
松原 昭郎
前立腺のホルモン依存性消失におけるFGF受容体に関わりと新しい治療法への応用

2009年ー2011年
基盤(C)
松原 昭郎
CAST法による前立腺癌の分泌・膜蛋白検索と診断・治療への応用

2009年
財団法人緑風会教育研究奨励賞(若手研究者助成金)
宮本 克利
腎区域動脈の解剖学的検討と腎細胞癌部分切除術における機能温存への応用

2010年ー2011年
若手(B)
井上 省吾
ヒト末梢血CD133陽性細胞移植とアルギン酸シートによる新たな陰茎海綿体神経再生2009年

2010年
財団法人緑風会教育研究奨励賞(若手研究者助成金)
岩本 秀雄
尿道発生におけるサブスタンスPの関与における検討

2011年
財団法人緑風会教育研究奨励賞(若手研究者助成金)
前立腺癌細胞の化学療法感受性におけるFGFR2の意義
正路 晃一

武田科学振興財団「特定研究助成」
小胞体シグナリングの制御による疾患横断的な新規治療戦略の開発