骨盤臓器脱
【こういった症状はありませんか?】
・おなかの何かが下がった感じ(下垂感)で、気持ち悪い。
・お風呂で何か丸い異物が出てきているのに触れる(脱出)。
・いすに座るときに、陰部のあたりで何か押し込まれるような違和感がある。
・残尿感があり、すっきりしない。
・排尿困難、残尿感がある。

【何が下がってくるの?】
臓器としては、膀胱が多く、おしっこがちかくなったり、出にくくなったり、尿がもれたりすることがあります。
【骨盤臓器脱は多いの?】
・日本での調査はありませんが、スウェーデンの調査では、出産経験者の44%に骨盤臓器脱が認められています。
・仮に、40歳以上の女性人口の10%が骨盤臓器脱とすれば国内の患者数は約350万人となります。(我が国の高血圧患者は約700万人と言われています。)
【骨盤臓器脱の原因は?】

【骨盤臓器脱はどのような病気?】

女性の骨盤内には子宮や膀胱、直腸などが収まっています。骨盤臓器脱はそれらの臓器の位置が下がって膣の中に落ち込み、外に飛び出す病気です。下がってきた臓器によって「子宮脱」、「膀胱りゅう(瘤)」、「直腸りゅう(りゅう)」などと言い、それらを総称して『骨盤臓器脱』と呼びます。
【治療は必要なの?】
・骨盤臓器脱の患者さんの全てが治療しないといけないわけではありません。
・臓器が下がることで「困るなぁ」「嫌だなぁ」「気持ち悪いなぁ」「今後が心配だなぁ」と思われる方で、治療を希望される方が対象になります。
・ただし、骨盤臓器脱は、進行することはあっても、自然によくなる病気ではありません。
症状でお困りの方が治療の対象になります。
【骨盤臓器脱の治療は?】
手術以外の治療としてペッサリーによる治療がありますが、根治的な治療ではありません。
また、出血・感染などのリスクもあり、長期的な使用は困難です。

【骨盤臓器脱の手術とは? ー従来法ー】
子宮をとってしまい、のびきった膣粘膜を切り取って、縫い縮めたり、膣を閉鎖したりする方法。
従来の問題点
・子宮をとらなければいけない。
・体の負担が大きい(出血、長時間の手術や入院)。
・もともと弱かった組織を縫い縮めるため、再発率が高く、海外での報告では29〜58%再発率。
【骨盤臓器脱の手術とは? ーメッシュ手術ー】
安全で効果の高いメッシュ手術(TVM手術)
メッシュを膣から埋め込む方法がフランスで開発されました。

[メッシュを埋め込む場所]
図のように埋め込みます。膀胱瘤の時と(青)、直腸瘤(オレンジ)では、埋め込む場所が違います。

[メッシュ手術のポイント]
・子宮を取らなくてもよい。
・従来法に比べて体の負担が小さい。
(出血や合併症が少なく、翌日から食事や歩行が可能)
・傷が小さく、術後の疼痛が軽く、入院が短い。
・再発率が低い。
・保険適応である。
従来の方法と比べて、子宮の摘出が必要なく、手術の合併症が少なく、術後の再発率が低いことが大きな違いです。
[メッシュ手術の合併症は?]
・術中合併症
膀胱損傷1%前後、直腸損傷1%以下、出血0.2%、血腫形成1.6%など
まれに、輸血、血管塞栓術、メッシュ除去、人口肛門などの処置が必要になります。
・術直後合併症
排尿障害18.5%、術後疼痛など
自分で管を用いて、膀胱に残った尿を取ってもらう手技(導尿)を覚えてもらうことがあります
(大半は一時的です)。
・術後合併症
メッシュ露出1.4%、腹圧性尿失禁-高頻度、再発-低頻度など
尿失禁に対して、薬物治療や失禁の手術が必要になることがあります。
【さいごに】
骨盤臓器脱は、以前はおもに婦人科が診察していました。
しかし、現在では子宮を温存することが可能であるため、術後の尿失禁や排尿障害、頻尿などに対しても適切に対応できる泌尿器科が治療にあたることが多くなっております。私たちは広島県内でいち早くメッシュ手術を導入し、その手術件数は広島県内トップクラスです。
子宮や膀胱の下垂や脱出による会陰部や下腹部の不快感、牽引感、排尿困難などに対して、お困りの方、ご心配な方、治療を希望される方は、広島大学病院泌尿器科にご相談ください。
間質性膀胱炎の有効な新しい治療=膀胱水圧拡張術

<間質性膀胱炎とは>
間質性膀胱炎とは、頻尿および膀胱痛を特徴とする原因不明の慢性有痛性膀胱疾患のことです。頻尿、尿意切迫感、強い尿意、排尿困難や膀胱充満時に増強する下腹部、膀胱、膣、会陰など骨盤の慢性疼痛が主症状です。膀胱症状以外にも精神疾患や全身疾患の合併症が多く、診断は困難で、症状出現から間質性膀胱炎と診断されるまでに数年以上を要することが多いのが現状です。
<患者数は>
間質性膀胱炎の患者数は、欧米では一般女性10万人あたり67-450人と高く、‘ありふれた病気;common disease’と考えられています。しかし、わが国では女性泌尿器科患者の10万人あたり4-5人と低く、非常にまれな疾患と考えられてきました。私たちが行った大規模アンケート調査から、診断基準や症例数、治療法が医療施設により大きく異なることや、一般女性における頻度の調査では実際は多くのひとが本疾患で悩まれていると考えています。また、私たちは間質性膀胱炎が、若年者、男性、小児においても認められることをわが国でもいち早く報告しました。現在、男性の難治性の慢性前立腺炎や前立腺肥大症と間質炎膀胱炎との関連性や、小児の難治性の尿失禁と間質性膀胱炎との関連性についても検討中です。
<診断は>
間質性膀胱炎の診断には、1987年NIDDKクライテリアが使用されていましたが、現在では日本間質性膀胱炎研究会により間質性膀胱炎診療ガイドラインが作成されており、間質性膀胱炎の診療に役立つと考えられます。
<治療は>
治療には、診断的意義を含め治療効果がもっとも確実な膀胱水圧拡張術を、まず行なうことが薦められています。しかし、水圧拡張術は先進医療と認定されているため、認定された医療施設でしか治療できません。広島大学泌尿器科は認定施設であり、いままで60例以上の症例を治療してきました。また、早期診断や治療に有益と考えられる外来で行なう膀胱水圧拡張や間質性膀胱炎の尿中マーカーに対する研究も、わが国においていち早く取り組んでおり、良好な成績を上げています。その他、膀胱内にDMSOという薬剤を膀胱内に注入して、症状を緩和させる治療も行なっています。
日本間質性膀胱炎研究会はホームページ(http://sicj.umin.jp/)で間質性膀胱炎についての情報と間質性膀胱炎の診療を引き受けることができると意思表示している医師氏名、病院名を示しており、診療の参考になると考えられます。頻尿、尿意切迫感、強い尿意、排尿困難や膀胱充満時に増強する下腹部、膀胱、膣、会陰など骨盤の慢性疼痛でお悩みのかたや、間質性膀胱炎についてご不明な点があるかたには、一度このホームページを参照されるか、または広島大学泌尿器科を受診することをお勧めします。
(参考論文)
梶原 充ほか:持続性身体表現性疼痛障害に合併した間質性膀胱炎の1例. 西日泌尿.68:60-63, 2006.
加藤昌生ほか:広島県内泌尿器科専門医教育施設における間質性膀胱炎の実態調査. 広島医学 57:847-849,2004.
Y. Inoue et al.: Prevalence of painful bladder syndrome (PBS) symptoms in adult women in the general population in Japan. Neurourol Urodyn. 2009;28(3):214-8.
M. Kajiwara et al.: Safety and pathological findings of prostate biopsy in male interstitial cystitis patients with an elevated PAS level: What dose an elevated PSA level mean? 29th Congress of the Societe Internationale d’Urologie. Paris, Palais des congres de Paris.
M. Kajiwara et al.: Clinical evaluation of interstitial cystitis in Japanese men: Dose interstitial cystitis overlap with chronic prostatitis and/or prostate carcinoma? 2nd International Consultation on Interstitial Cystitis, Japan (ICICJ), Kyoto, Japan.
M. Kajiwara et al.: Glomerulations observed in children with overactive bladder- Are glomerulations possible diagnostic hallmarks of interstitial cystitis in children?-. 35th. Annual meeting of the International Continence Society. Canada, Montreal.
加藤昌生ほか: 間質性膀胱炎に対する外来仙骨硬膜外麻酔下水圧拡張の臨床的検討. 西日泌66: 129, 2004.
小児の夜尿症と尿失禁
<疫学と病態>
夜尿症(おねしょ)や尿失禁は、幼小児や学童児において高い頻度で認められる排尿障害のひとつです。夜尿症や尿失禁はひとつの原因で生じるのではありません。様々な要因が複雑に絡まりあって‘尿もれ’という‘ひとつの症状’が引き起こされるわけであり、それらを解きほぐして原因を見つけ、原因にあった治療を行なうことが大切です。夜尿症の全体うち、‘夜間、睡眠中の尿もれ’だけの夜尿症は約6割であり、その場合は背後に大きな基礎疾患が隠れている可能性は少なく、自然に軽快、治癒することが期待されます。しかし、夜尿症に昼間の尿失禁や頻尿、尿路感染症、便秘などを合併している場合(過活動膀胱と呼びます)、泌尿器科的疾患が隠れている可能性もあり、専門的な治療や検査が必要となることがあります。
広島大学泌尿器科では、以前から小児排尿障害外来(おねしょ外来)を設立しており、幅広い研究、治療を行なっております。疫学調査として、8000名以上のわが国の小中学生の排尿、排便状態を調査し、夜尿症が小学生の5.9%に認められ、男児に有意に多く(男児7.6%、女児4.2%)、それらは欧米の結果とほぼ同等であること、過活動膀胱を合併する夜尿症が‘夜間、睡眠中の尿もれ’だけの夜尿症と異なり、泌尿器科的疾患が隠れている可能性が高いことを報告しています。それは小児の過活動膀胱の疫学、自然史についての世界で初めての大規模疫学調査でした。


<診断と治療>
診療においては、小児の夜尿症や過活動膀胱の病態解明、原因検索のために、ビデオウロダイナミックスという特殊検査を行い、正確な診断、適切な治療に役立てています。
治療としては、夜尿症に対してはガイドラインに基づきデスモプレッシンと夜尿アラーム治療を第一選択とし、良好な治療成績を上げております。また、昼間の尿失禁などの過活動膀胱に対しては行動療法や抗コリン薬を用いて治療をおこなっております。また、夜尿症や過活動膀胱は、自尊心(self-esteem)や生活の質(QOL)に大きく関係する症状であるため、治療効果のみならず症状や治療がself-esteemやQOLに与える影響、効果についても研究しております。
(参考論文)
M. Kajiwar et al. Urol Int. 80:57-61, 2008.
M. Kajiwara et al. J Urol.171:403-407.2004.
M. Kajiwara et al. Int J Urol. 13:36-41, 2006.
M. Kajiwara et al. Acta Urol. Jpn. 52:107-111, 2006.
M. Kajiwara et al. Int J Urol. 14: 156-160, 2007.
梶原 充・他. Urology View 5巻1号: 78-81, 2007.
梶原 充・他. 排尿障害プラクティス 15(1): 56-61, 2007.
腹圧性尿失禁の新しい治療
<腹圧性尿失禁とは>
腹圧性尿失禁とは、せき、くしゃみや重いものを持った時など腹圧がかかったときに起こる尿失禁のことであり、中高年の女性で最も頻度が高率です。
<治療>
軽度の腹圧性尿失禁に対しては、骨盤底筋訓練や膀胱訓練、生活指導があり、いずれかを単独、または組み合わせることで行なわれる理学療法があります。現時点では、理学療法が腹圧性尿失禁に対してまず行なわれる治療法と考えられています。効果が乏しい場合は、薬物療法もあります。しかし、中等度から重度の腹圧性尿失禁の場合、治療希望者に対しては外科的治療が選択されることがあります。また、腹圧性尿失禁のある方は、子宮脱や膀胱瘤などの骨盤臓器脱を合併していることもあります。
< 外科的治療 (TOT手術について)>
いままでは腹圧性尿失禁に対して、コラーゲン注入やTVT手術(tension-free vaginal tape)を行なってきました。TVT手術は、効果的で低侵襲な手術法でしたが、ごくまれに膀胱損傷や出血、腸管損傷などの合併症があることが問題となっていました。近年では、より安全で施行可能なTOT手術が海外において主流となっており、広島大学泌尿器科はTOT手術を広島県内においていち早く導入し、施行しております。



< 麻酔方法と手術方法>
手術は下半身麻酔後に、膣壁を1~2cm切開して行ないます (経膣式手術)。開腹手術ではなく、15分~30分の手術で、体に与える影響が少なく (低侵襲)、手術日夕方から食事開始で、多くの方は術後2~5日程度で軽快退院となります。
< さいごに>
腹圧性尿失禁は、生死に関与する疾患ではありませんが、生活の質を著しく低下させ、健康で健全な生活を送る上で大きな支障になる症状と考えられております。腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱にお困りの方、ご心配な方、治療を希望される方は、広島大学病院泌尿器科にご相談ください。
