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知的社会研究所

Institute for Studies on the Intellect-based Society

(ISIS)

 

1. この研究所について:立ち上げた経緯、目的

 

1.3. 日本の現実の姿(1)システムの経済

1)議員の審議を素通りする75%の国家予算

2)財政投融資(財投)

 (1)財政投融資(財投)とは何か

 (2)財政投融資(財投)の歴史

3)法人とは何か

 (1)特殊法人

 (2)行政改革と特殊法人などが辿った歴史

 (3)公益法人

 (4)社団法人、財団法人

4)会計検査院は法人の不正をなぜ摘発できないのか

5)膨大な額の赤字国債の発行

6)猪瀬直樹の現状分析の結論

 (1)「大きな政府の末期症状」

 (2)「政」と「官」の癒着がもたらした官僚丸投げ・官僚専制

 

【文献5】猪瀬直樹「日本国の研究」文芸春秋社(1997);1.3., 1.4., 1.10.

 

前章で述べたように、ヴァン・ウォルフレンは想像力を発揮して考える必要があると言いますが、私の場合、知識として頭で納得することはできてもなかなか身に付かなかったのです。具体的な行動も思いつかなかったのです。具体的な事実を十分に認識していなかったからだと思います。猪瀬直樹は、【文献5】で1996年の時点の、この国の官僚丸投げ・官僚専制の一面を具体的な数値と個人の名前を使って示してくれました。

 

1)議員の審議を素通りする75%の国家予算

まず第一に、我々は、日本が立憲民主主義国家であり、国家予算は我々の選んだ議員が国会の場で審議し、多数決で議決すると思っています。しかし、驚くべきことに、これは間違いであって事実ではありません。猪瀬によれば1996年度の国家予算は次のようになっています。

(1)1996年度予算75兆円(税収と国債発行の和)というのは一般会計(まぎらわしい名前です)のこと。その6割近くの43兆円が28の特別会計に振り分けられる。

(2)特別会計は全部で38あり、それぞれ特定の財源を持ち独立採算である。これはつぎの5つに分類される。すなわち、事業(郵政事業「切手や印紙など」や道路整備のための「ガソリン税」など11)、管理(食糧管理や外国為替資金など8)、保険(国民年金など11)、融資(資金運用部など3)、整理(交付税など5)。

(3)これとは別に特別会計予算は実に257兆円もある。それは財政投融資(いわゆる財投)を含むからである。財投は特殊法人や認可法人に出資され、さらにこれらを経由して公益法人や営利法人にも流れていく。融資先は大蔵省資金運用部がきめる。

(4)受益と負担の明確化という意味では特別会計を設けることに積極的な意義があった。しかし、それも過去の話で、特別会計は既得権益化して独り歩きしており、もはや誰にも止められない。

(5)特別会計は国会で議決されるが、驚くべきことに、ほとんど審議されないのである。(【文献5】p.198、図 XI)

 

2)財政投融資(財投)

(1)財政投融資(財投)とは何か

1:轉法輪(行革委員会会長、官民分担小委員会座長)の談話。「財投の大きな性格は、巨大なる社会主義金融である。第二の予算として年間50兆円近くが運用され、過去の累積を含めると450兆円にもなる。これだけ巨額の資金が金融手段として使われている先進国はどこにもない。国家が二つの財政を持つこと、400兆円もの巨大な社会主義金融を行うこと、即刻、この制度は整理されなければならない」

2:450兆円の残高のうち郵便貯金だけでも212兆円である。市中銀行の上位五行の預金量に匹敵する。国民の預金量の実に25パーセントが市場を通過しない。その市場を通過しない融資の金利は、なんと大蔵省と郵政省が決めている。融資先も勝手に決めている。したがって金利市場の自由な形成を妨げている。

3:財投の金利は最近3.4パーセントから2.9パーセントに下がった。

金利は10年ものの国債の利率を基準に、内外の金融情勢を参考に大蔵省理財局が決定する。限り無く市中金利に近づいているが、財投はつねに一律、固定金利である。自由な市場金利が形成されていれば道路公団も住宅都市整備公団も借換えを模索するはずである。決められた財投金利で借換えも許されないまま運用されると、少しでも安い資金を調達しようとする市場原理が働かない。競争を妨げられた社会主義金融は高コスト高価格のツケを国民に回す。つまり財投による損失は結局税金でまかなわれる。(【文献5】p.151)

(2)財政投融資(財投)の歴史

1:資金運用部資金法(1951年3月31日制定)の背景。占領中はアメリカの援助の見返り資金が戦後の復興につかわれた。米軍による占領が終幕に近づいているときで、対日講和条約の制定を目前にして、国内にある乏しい資金をなるべく集中し、かつ効率的に分配する必要があった。

2:機能は国営銀行である。原資提供母体は、郵便貯金、厚生年金、国民年金、簡易保険、輸出入開発銀行やNTTや銀行等。(【文献5】p.153、図 VIII)

3:1966年度から、なんと国債(建設国債)が新しい投資先に加わる。

4:1960年代の高度経済成長(池田勇人首相の所得倍増計画で知られる)で郵便貯金も倍増し、財投資金は豊富になり、貸付先として特殊法人が叢生する。

5:1973年に、資金運用部資金と簡易保険の長期運用について国会の議決を経ることが定められた(資金運用部資金並びに簡易保険及び郵便年金の積立金の長期運用に対する特別措置法)。しかし、大蔵省は実質的な換骨奪胎を行っているのだ。即ち、大蔵省は予算審議前に議決用の予算書に添えて「予算及び財投計画の説明」という冊子を提出することになるが、設置法に記された特殊法人の業務内容が数字を変えて並ぶだけの形式的なもので、前年にどんな事業にどのような資金を投入したか、など本当に必要な情報は掲載されていない。

6:財投資金運用部の残高は1955年度の0.9兆円から20年後の1975年には43兆円(48倍)となり、さらに20年後の1995年度には374兆円(約9倍)となった。(【文献5】p.155、図 IX)

7:財投は有償資金である。大半は郵便貯金が原資である。郵便貯金は絶対につぶれることのない庶民の銀行として善男善女の信仰を集めている。だから、融資先の公団が借金を返済できなければ、信仰を維持するためにさらに公的資金である税金を投入する羽目になる。

8:公務員を減らしても、それは見せかけの数合わせであり、公団がその仕事を肩代わりするだけのことである。したがって逆の方向から、すなわち、まず公団を民営化し、子会社を精算し、その上で中央省庁をスリムに再編成することが重要だ。公団や特殊法人は官僚が退職後天下るポジションを用意する機関として利用されている。(【文献5】p.152)

 

3)法人とは何か

(1)特殊法人

1:公共の利益や国家の政策上の特殊な事業を遂行するため特別法により設立された法人である。

2:政府または政府の命じた設立委員によって設立される。

3:各省庁、政府が50%以上を出資している。

4:主務官庁(監督官庁)があり、別に総務庁が特殊法人全体を把握する。全体で92ある。例;森林開発公団、水資源開発公団、日本道路公団、住宅都市公団などの公団、住宅金融公庫などの公庫、年金福祉事業団などの事業団、電源開発株式会社などの特殊会社、日本輸出入銀行や海外協力基金など。

5:特殊法人の理事長や理事のポストは、監督官庁からの天下り、あるいは複数の官庁の官僚の相互乗り入れの天下りに使われる。

6:【文献5】では、具体的につぎの法人について特殊法人のおどろおどろしい実体が報告されている。省庁所管の公団:森林開発公団、水資源開発公団、関西国際空港株式会社(政府が80%出資)、日本道路公団、住宅都市整備公団。事業団:社会福祉・医療事業団。その他:日本船舶振興会、日本自転車振興会。(【文献5】p.25)

(2)行政改革と特殊法人などが辿った歴史

1:土光臨調(第二次臨時行政調査会、土光敏夫会長、1980年代に入って鈴木善幸内閣時代に成立)以前の段階では、特殊法人の新設は制限されていた。官僚は、その代わりとして認可法人を活用した。

2:土光臨調で「特殊法人等を制限」が盛り込まれた。「等」には認可法人も含まれていた。

3:今度は、その代わりとして、官僚は曖昧な存在である公益法人を狙った。この時期以降、公益法人の社団・財団法人が増えてしまった。

4:臨時行政改革推進審議会(土光会長、1983年)に引き継がれ、NTTと

日本たばこが発足、国鉄分割・民営化へと進んだ。このころの合い言葉が「民活」で、行政機能の代替えとばかりに公益法人が手掛ける検査、検定、認定、資格付与などが増えた。たとえば健康産業やスポーツ振興では、講習会、研修会、施設の認定、指導員の資格付与などで利益をあげるのである。不必要なものは山ほどある。

5:1996年の総選挙の争点は行政改革であった。しかし、投票率は低かった。特殊法人の実体について国民は知らなかったから。(【文献5】p.233)

(3)公益法人

1:営利を追求せず、また公益に関する事業を行う法人である。いろいろな省庁が主務官庁となり認可する。民法により規定される。

2:公益事業から生じる所得については非課税になる。非課税が目をつけられたのだ。

3:収益事業に課税される場合でも普通の法人税率37.5%よりも低い、軽減税率27%が適用される。

4:収益事業で得た所得を公益事業に繰り入れると、その30%を寄付金として損金算入することがみとめられている(みなし寄付金)。これも抜け道として利用される。

5:監督は甘く、申請すれば公的資金から補助金も出る。なんと公的資金までもらうのだ。

6:相続税対策のため公益法人の認可を得て、財産を移転するケースがある。家族が理事長に収まれば相続は安泰だからである(五島美術館、根津美術館など)。そこで、休眠財団、幽霊財団を探して売り歩く商売が成立する。引き継げば新たな認可を受ける必要がないからである。運営できない財団が売りに出ている場合もある。(【文献5】p.170)

(4)社団法人、財団法人

1:法律の規定がいちばんゆるいので、いずれこのふたつが主役になるだろう。

社団法人=人の集合体で民法で法人格を与えられ、商法による場合は会社になる。総会を開かねばならない(1994年12月の時点で総数25,906)。

財団法人=基本財産をもとに公益を目的として管理運営される。総会を開く規定はない。理事が設立者の意志を執行する。学校法人、社会福祉法人、宗教法人、その他(1994年12月の時点で総数253,156)。

2:社団法人および財団法人の常勤理事の数は22,000人、常勤幹事600人、職員47万人、総資産21兆2000億円である。1994年度の決算ベースで国費が3900億円投入されている。

3:所管省庁別の数:文部省(1778)、通産省(901)、運輸省(842)、大蔵省(781)、厚生省(571)、農林水産省(494)、労働省(435)、建設省(334)、法務省(298)、外務省(244)、郵政省(228)など。

4:1994年度は171法人が解散、432法人が新規設立なので増え続けている。

5:高級官僚、労働組合、公務員全体が共犯構造になって上から下から支え合っているシステムである。

6:郵政省関係の財団法人の事業である郵政互助会担当の人事部厚生課の井上一也厚生課長の発言:「互助会が出資している。その先の私企業について郵政省が関知するつもりはない」と述べているように堂々と営利事業で儲けている。(【文献5】p.179 図 X 郵政互助会の周辺図)

7:郵政省の人事部管理課長、平勝典の組合い関係者の天下りについての弁「労働組合の方々は、郵政職員の事情をよく知っている。したがって福利厚生についてのご理解が深く、労働組合を卒業して公益法人に入ることは意義がある」。(【文献5】p.191)

8:株式会社 水の友社とは:

「水資源開発公団の管理業務の効率的な執行を計ると同時に、将来の公団の退職者のための職場づくりに役立つような補助的機関」であり、しかも受注の9割までが水資源開発公団の発注である。職員の実に5割強が水資源開発公団のOBであり、さらに驚くべきことにこの会社は実質的に公団OBが株主である(資本金3000万円のうち2700万円)。

9:【文献5】で具体的にとり上げられている公益法人。

A)社団法人:日本船舶電装協会、日本作業船協会、日本造船研究協会、全国競輪施行者協議会、日本エアロビックフィットネス協会。

B)財団法人:水資源協会、道路施設協会、郵政互助会、郵政弘済会、郵政福祉協会、機械システム振興協会、機械振興協会、日本産業技術振興協会、産業研究所、日本サイクルスポーツセンター、日本サイクリング協会、結核予防会、日本成人病予防会、大阪府警察協会、全日本交通安全協会、全日本交通福祉協会、健康・体力づくり事業団、日本健康スポーツ連盟、日本体育協会、日本建築センター、無線設備検査検定協会、厚生年金事業振興団、グリーンピアは年金保養協会、年金保養協会など。

C)その他の公益法人:主都高速道路協会、特別養護老人ホーム「彩福祉グループ」。

その他の認可法人:郵便貯金振興会、自動車事故対策センター、自動車安全運転センター。

D)公団の出資先の株式会社:水の友社、日本総合住生活株式会社。

(【文献5】p.164、p.165、表4)

 

4)会計検査院は法人の不正をなぜ摘発できないのか

会計検査院はなぜこのような不正を摘発できないのでしょうか、なぜ抑止力が無いのでしょうか。この疑問については以下の説明があります。

(1)検査の対象は特殊法人および特殊法人が出資している株式会社、約3、000である。設置法で認められていない子会社も対象に入るはずである。例えば(財)水資源協会や(株)水の友社など。

(2)会計検査院は、その使命にかんがみ内閣に対して独立の地位を有する。また、決算を担う以上、予算を司る大蔵省主計局と同等あるいはそれ以上の重要な使命があるはずである。アメリカの会計検査院(GAO)も議会の付属機関ではあるが行政府から独立している。

(3)検査院の性格上、大臣も出さないし族議員もいない。結果として検査院の立場を弱めることになる。そもそも日本の支配階級には公正、フェアープレイの精神は希薄であり、力関係で全てがきまるからである。

(4)検査院のトップは3人の検査官(大蔵省出身1人、国会事務総長、検査院プロパー1人)からなり国会の承認が必要である。彼らの互選で大臣にあたる院長が決まるが、彼らは名誉職で飾り物にすぎない。実務のトップは事務総長であるが、これも飾り物。実務はその下の事務次長が取り仕切っている。

(5)検査院が摘発する金額は100億から200億どまりであり、検査院の予算140億円と大して変わらない。事務総長や事務次長は大蔵省出身であることがおおく、これでは独立機関とはいえない。

(6)警察のように捜査令状を出すことができないので抽出調査でやるしかない。そうなると相手省庁の協力が必要になるが、これも当然得られない。逆に省庁から圧力がかかるのがおちである。

(7)摘発案件は事務次長と官房が中心の調整委員会にあがり、最後は事務総長との面談になる。この最後の最後の段階でボツになることがおおい。

(8)独自の天下り先を持っていないので他省庁所管の特殊法人の幹事になったりすることしかできない。つまり、検査する相手に将来の椅子が握られているので検査は自ずから及び腰になる。天下りは単に役得ということに止まらない。天下り現象の底に無責任と惰性が横たわっている。

(【文献5】p.75-82)

 

5)膨大な額の赤字国債の発行

(1)国債残高(1996年の大蔵省財政制度審議会の発表)は241兆円、国鉄精算事業団長期債務28兆円、林野庁特別会計の赤字3兆3000億円、各種特別会計に組み込まれているもの、および地方債136兆円など、総額442兆円であり、GDPの496兆円と並んでいる。(【文献5】p.15)

(2)赤字国債が本格的に発行されたのは1975年度である。決算調整資金(歳入が歳出を上回る時、その資金をプールして赤字の補填に使う)は、自然増収のあるときに作らず遅れて1978年に作られたが1982年以降は空のままである。国債整理基金特別会計(赤字国債を償還するため毎年支払っている金)は、1992、1993年度はバブル景気で税収が増えて赤字国債を発行していないとされたのに返済分の繰り入れは停止されたままである。(【文献5】p.19、図I - p.24)

(3)建設国債は1966年度から発行を開始した。公共事業費、特殊法人への出資金、貸付金の財源として使途を絞ったもので赤字国債とは区別された。国会の議決を経た金額の範囲内でおこなうものとされる。(【文献5】p.20, p.25)

(4)日本の国債は格下げにつぐ格下げである。しかしながら価格は下がらず金利は低いままである。債務不履行の心配もない。銀行と官僚のなれ合いで銀行団が引き受けるし、財投で買うこともできる。

 

6)猪瀬直樹の現状分析の結論

(1)「大きな政府の末期症状」

以上のことから、結論として、猪瀬直樹は現状を「大きな政府の末期症状」と表現しています。

これまで特殊法人、認可法人、公益法人について分析してきた。三者は複雑に絡み合い地下茎のように自己増殖している。それだけではなく補助金漬けで、天下りの素地となり、民業を圧迫し、寄生虫のように国家財政を喰い荒らしている。行政の代行をタテマエにしながら、厚生省の贈収賄事件でも明らかなように省庁自体が腐食していく。旧ソビエト連邦や東ヨーロッパ諸国で起きた大きな政府の末期症状に似ている。

ここまで来ている、ということを国民は知らない。知らされていない。

第一の問題点は、行政情報が開示されないことにある。一刻も早く情報公開法がつくられなければならない。だが、11月に公表された情報公開法要綱案(行政改革委員会情報公開部会総務庁)には特殊法人についての規定がない。特殊法人以下、行政代行機関を含めて情報公開の対象にしなければならない。情報公開は待っているものではない。積極的にアクセスしなければならない。

第二の問題点は、日本独特のマスメディアのあり方にある。記者クラブが行政情報の宣伝機関に成り下がっている。部屋代はもちろん、電話代やファクシミリ代すら払っていない。省庁と内線電話で繋がっていることがおかしい、と気づかない。勉強不足で役人にバカにされていることにも気づかない。テレビ局が郵政省からの天下りを受け入れているようでは情けないし、現職の新聞社の幹部が役所の審議会委員になるのもやめたほうがよい。心理的な癒着を断ち切らないかぎり、国民の代弁者にはなれない。

最後に、言いにくいことだがあえて言う。官僚だけが悪いのではなく国民にも問題がある。お上の権威に弱くいちいちお伺いを立てて、ややこしいことは役人に任せてきた。

一例をあげれば、O-157事件でかいわれ協会が登場して、こんな協会まであるのかと驚いたが、上は経営者団体まで、業界が固まって役所向けの窓口を用意するような「官」依存体質を変えないかぎり、行財政改革はできないのである。(【文献5】)

(2)「政」と「官」の癒着がもたらした官僚丸投げ・官僚専制

あとがきで猪瀬直樹はつぎのように述べています。

この本は立花隆の「田中角栄研究」を念頭において企図された。文芸春秋誌上に発表(1974年11月号)されてから22年が経つ。その後、なにがどう変わったのか、新しい不正はどんな貌をしているのか、いや、なによりも日本国はどんな構造改革を迫られているのか、誰かが解きあかさなければいけないと思っていた。

かって田中角栄は金権政治の権化と言われた。財政赤字は現在の数字に較べるとまだ微々たるものだったが、大蔵省が誇りを失いはじめるきっかけはあの時代に求められよう。

族議員のチャンピオン、強腕の田中角栄は土建屋的発想で日本列島改造をスローガンに公共事業を押し進めた。田中がまず議員立法でつくったのがガソリン税という目的税である。これで大蔵省が手のおよばない道路整備特別会計ができた。地方出身の議員は、こぞって予算をむしりとって選挙区に道路をつくり橋をつくりトンネルをつくった。それが民主主義なのだと理解された。その後、族議員の権化は死して日本国のなかに溶解し、制度化された。省庁と族議員がシステムと化して、視えない仕組みが生まれたのである。日本国は不正を構造的に隠ぺいする装置を備えた、なにやら怪しい国のごとくになっている。

442兆円の財政赤字は、いまや500兆円突破も間近と試算されている。財政支出を減らすためにはバラマキ行政を止めるしかない。だが、道路特別会計だけでなく各種の特別会計は縦割り行政のなかで各省庁の既得権益と化しており、大蔵省でさえなかなか口を挟まないのが実情である。放っておいても3兆円たまる道路特会もあれば、3兆円を超える赤字を累積している国有林野特別会計もある。特会相互の壁は厚く、余っているところは使わないものまでつくり、足りないところは予算を要求する。

97年度予算で、林野庁は財政投融資(財投)の借り換え分を含む2850億円を要求したが、財投担当の大蔵省理財局がノーと言った。12月11日に発表された会計検査院の検査報告でも、特記事項として独立採算の国有林野事業は破綻しており再建は不可能との結論を出しているからだ。大蔵原案では、職員の退職金分の900億円が提示された。ところが年末に農林族議員が押しかけた。結局、三塚博蔵相と藤本孝雄農相との大臣折衝で、ほぼ林野庁の要求が通ってしまったのである。住専問題のときも、大蔵省は一銭も出す気はなかったのに農林族議員のゴリ押しで6850億円の税金投入が決まった。同じ光景が繰り返されているのだ。

もはや、ノーと言える大蔵省はいないも同然である。1997年は行政改革元年のはずだった。大きな政府から小さな政府へと転換できるか否か、最初の試練が97年度の予算案のはずだった。ところが、こうして早くも躓いている。彩福祉グループは特別養護老人ホームというハコモノを狙った新型の土建屋だった。こんな化け物まで、いまのシステムは産み落としている。厚生省のある役人が、このままではやりきれない、と苦衷を漏らした。「どの市町村も隣の自治体にハコができれば、うちにも欲しい、とハコが増える構造ができてしまった。全国三千余の市町村がすべて要求したら福祉予算が幾らあっても足りず、優先順位をつけなければいけない役人の頭は混乱するばかりだ。地方分権を広域的な自治でやれないだろうか。江戸時代は三百諸候と呼ばれた。ホールも病院も特養も、そのぐらいのエリアを単位にバランスを考え有機的に配置したらよいのに、現状では国会議員も地方の首長もひたすら地域のエゴを主張する。」(【文献5】あとがき)

直接的には「政」と「官」の癒着がもたらした官僚丸投げ・官僚専制に問題がある。しかし、「産」も「学」もジャーナリズムもなってない。分っていても改まらない、その原因を明らかにして取り除く必要があるでしょう。さて、どうするか、です。

 

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