日本教育大学協会 平成12年度研究集会 発表資料

               20001014

於)大阪教育大学

 

学級規模の教育上の効果 −教員調査を中心に−

 

○山崎 博敏(広島大学教育学部教授)

世羅 博昭(鳴門教育大学学校教育学部教授)

伴  恒信(鳴門教育大学学校教育学部教授)

金子 之史(香川大学教育学部教授)

田中 晴彦(広島大学教育学部教授)

 

T.研究の目的と方法

 

6次公立義務教育諸学校教職員配置改善計画(以下、改善計画と略)は、2000年度をもって終了する。1998年の中教審答申「今後の地方教育行政の在り方」では、学級編制の標準はあくまでも給与法の国庫負担算定の基準であり、教育条件の向上を図る観点から特に必要がある場合には都道府県が学級編制の標準を下回る人数の学級編制基準を定めることができるようにする等の弾力的運用が提言され、関係法令の改正がはかられた。2001年度以降の計画の基本方針については、20005月に教職員配置の在り方に関する調査研究協力者会議の答申が出され、現在、第7次改善計画の具体的な施策については大蔵省への概算要求の途上にある。

 学級規模や学級編制について全国の自治体の裁量が増大したわけだが、それだけに、果たして学級規模を縮小したり、新しい学級教授組織を導入することによって、教育上の効果がどの程度向上するかが重要な判断材料になってくる。本研究では、学級規模やティーム・ティーチングがどのような教育上の効果をもっているかを明らかにすることを最終的な目標として、学級規模に関する統計調査、学級規模とティーム・ティーチングに関する全国教員調査と児童生徒調査を行った。

 このうち、本発表では、教員調査に基づいて、学級規模とティーム・ティーチングの教育上の効果を明らかにしたい。なお、ここでいう学級規模の教育上の効果とは、学級規模の違いによって(教師によって認識された)児童生徒の学習や学校生活の状況がどのように異なっているかをさしている。

 

U.教職員配置改善計画の概要

 

「すし詰め学級の解消」を求める動きのなか、1958年、公立義務教育諸学校を対象に、学級規模と教職員の配置の適正化を図り、義務教育水準の維持向上に資することを目的として、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準等に関する法律(以下、義務標準法と略)」が制定され、翌年の1959年より第1次改善計画(-1963年)が実施された。表1は、第1次から第6次までの改善計画の概要、および、それに伴う教職員定数の増減を示したものである。

まず、第1次改善計画では、小・中学校ともに単式学級の編制標準が50人と法定化された(但し、4学級以上の場合)。ただ、1958年時点で、児童生徒数が51人以上の学級が、小学校100,430学級(33.3%)、中学校28,376学級(25.2%)とかなりを占めていたため、1959年の暫定標準は小学校60人、中学校55人とされ、5カ年計画終了にあたる1963年までに段階的に学級規模縮小を実施していった。また、義務標準法では、複式学級及び特殊教育学級、特殊教育諸学校の編制標準、教職員定数の標準も制定され、教育水準の維持向上に向けての形式的整備が行われた。

 


2次改善計画(1964-68年)においては、児童生徒の急減期の到来及び学習指導要領改定にともなう授業時間増による教員定数確保の必要から、編制標準は50人から45人へと縮小された。しかし、続く第3次改善計画(1969-73年)では、へき地などに多い小規模学校および特殊教育諸学校の学級編制の改善を当面の重点課題としたこと、加えて、第4次改善計画(1974-78年)では、第2次ベビーブームによる児童生徒数の急増によって必要となる教職員数の増加等の理由により、編制標準は据え置かれた。ただ、この間も学級規模縮小の世論は強まっており、ベビーブームの終了も手伝って、第5次改善計画(1980-91年)では、児童生徒減少市町村より編制標準は40人へと縮小された。教職員定数の改善については、第1次から第5次改善計画の間、学級規模の縮小という形で実行されてきたといえる。


しかし、第6次改善計画では、少子化傾向にも関わらず、1学級40人の編制標準は据え置かれ、教職員定数の改善は「指導方法の工夫など個に応じた教育の展開」「効果的な教育指導の実施」等のための加配という形で、30,400人の教職員増員が行われた(表2参照)。ただ、78,600人の自然減が見込まれており、加配措置を行ったとしても、48,200人が減員されることとなる。

また、第7次改善計画においても、「学級規模と学習効果の相関について、学習効果の上での適正規模等に関する定説的な見解が見いだせないこと(1)」等の理由により、40人の標準編制の縮小は実施されない方向で進んでいる。すなわち、「基礎学力の向上を図り、学校でのきめ細かな指導の充実を図る観点から、教科等の特性に応じ学級編制と異なる学習集団を編制して小人数授業を行う(2)」等の方法で教職員の加配を行う方向性が打ち出されており、小学校では国語、算数、理科、中学校では英語、数学、理科の各3教科で20人の学習集団を実施するとともに、教頭の複数配置の拡充、養護教諭等の教職員定数改善及び長期社会体験研修の拡充に伴う研修定数改善などが盛り込まれている。

 

V.学級規模の現状

@)小学校

国立はその81.5%が「36-40人」学級と大部分を占めている。私立も「36-40人」学級が43.3%と最も多く、次いで、「41-45人」学級19.9%となっている。これに対し、公立は「31-36人」学級が29.9%と最も多く、国立、私立と比較して、学級規模が小さいこと、学級規模分布の幅が広いことがわかる。

A)中学校 

中学校の場合、小学校と比較して、全体的に学級規模が大きい。国立は「36-40人」学級67.0%、「41-45人」学級28.6%と、かなり大規模学級が多い。私立はさらに大規模学級が多く、41人以上の学級が46.6%を占める。これに対し公立は、「36-40人」学級が49.0%と約半数を占めるものの、41人以上の学級は0.1%とほとんどみられない。

(図略)

 

W 学級規模の教育上の効果

 

全国の小・中学校教員を対象として実施した質問紙調査を基に、学級規模による教育上の効果の違いを分析し、学級規模の大小やティーム・ティーチングによって教育上の効果がどの程度異なっているかを明らかにする。

 

(1)調査の概要

まず、2000年7月、2大学・3学部の卒業者名簿・3県の教職員名簿をもとに、2000年度現在60歳以下の全国の小・中学校教員、計3,019名をランダムに抽出し質問紙を郵送した。有効回答者数は872名、回収率は28.9%であった。さらに、同年8月、共同研究者が小・中学校に直接依託する形で、質問紙を配布した。回答者数は270名である。

以上よりサンプルは郵送法による872名、依託による270名、計1,142名である。なお、特殊教育諸学校勤務者はデータから除外し、1,139名のデータを用いて分析を行った。

質問紙は、@学級定数等の改善について、Aティーム・ティーチングについて、B児童生徒の学習状況・教員の学習指導について、C児童生徒の学校生活・教員の生徒指導について、D教員の多忙さ(平均勤務時間)について、等で構成されている。

3は、回答者の属性である。(省略)

 

(2)学級規模に対する認識

 


 


(3)教職員数増加の方法

 


 



(4)ティーム・ティーチングの実施状況と評価

 

 



(5)学習と学校生活の状況

 


 


(6)学級規模と教育上の効果

続いて、「児童生徒の学習状況」「教員の学習指導」「児童生徒の学校生活」「教員の生徒指導」それぞれについて主成分分析を行った。それぞれの分析結果のうち、第1成分の主成分分析の得点を用いて、学級規模による教育上の効果の違いを検討する。なお、単式学級、複式学級、特殊学級では学級規模の編制標準が異なるため、以下の分析は、単式学級のみを対象として行った。表9〜表12は主成分分析の結果である。


 


 



 4つの成分得点を従属変数として行った重回帰分析の説明変数は、以下のとおりである。

@          男性      (男性=1、女性=0のダミー変数)

A          年齢      (20歳代=1、30歳代=2、40歳代=3、50歳以上=4)

B          教職経験年数  (2年未満=1、2年以上5年未満=2、5年以上10年未満=3、

           10年以上20年未満=4、20年以上=5)

C          勤務校の所在地域(市街地=1、農村部・へき地(指定校)=0のダミー変数)

D          校種      (小学校=1、中学校=0のダミー変数)

E          学校規模    (児童生徒数20人未満=1、50-99人=2、100-199人=3、200-499人=4、

           500-999人=5、1000人以上=6)

F          学級規模    (7人以下=1、8-12人=2、13-20人=3、21-25人=4、26-30人=5、

           31-35人=6、36人以上=7)

G          TT実施     (勤務校でTTを実施している=1、TTを実施していない=0のダミー変数)

 

【注】

1)教職員配置の在り方等に関する調査研究協力者会議報告「今後の学級編制及び教職員配置について(概要)」20005月。

2)同上。

 

【主要参考文献】

1)                            加藤幸次『学級集団の規模とその教育効果についての研究−20人、30人、40人学級の比較研究−』平成元・2年度文部省科学研究補助金(総合研究A)研究成果報告書、1999年。

2)民主教育研究所「教職員」研究委員会「学級規模と教職員定数に関する調査報告及び30人以下学級関連論文」19995月。

3)教職員配置の在り方等に関する調査研究協力者会議「今後の学級編制及び教職員配置について(報告)」20005月。

4)日本教育行政学会編『教育行政学会年報・6 学級編制の諸問題』第6号、1980年。

5)杉江修治「学級規模と教育効果」『中京大学教養論叢』第37巻第1 1996年、pp.147-190

6)中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」19989月。

 

(付記1)なお、本研究は、日本教育大学協会第二常置委員会「学級定数の適正規模に関する調査研究部会」によるものであり、文部省科学研究費補助金基盤研究(C)(研究代表者 世羅博昭)の研究成果の一部である。

 

(付記2)この発表資料は、2000年10月15日(土)、大阪教育大学(柏原キャンパス)で開催された平成12年度日本教育大学協会研究集会・分科会12「現代教育をめぐる諸問題」において配布したものである(一部修正有)。