広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2005年度 第1回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2005年4月21日(木7・8時限,B102)
発表者:成瀬毅(インド哲学,M2)
発表題目:Bodhicarya@vata@raの二種の菩提心について
配付資料:A3用紙4枚(両面)
プロトコル:江崎公児(インド哲学,D3)

1.発表要旨

 今回は,シャーンティデーヴァ(c.685-763)によるBodhicarya@vata@ra(以下BCA) に説かれている二種の菩提心について,おもにプラジュニャーカラマティ (c.930-1030)の註釈Bodhicarya@vata@rapaj@jika@(『入菩提行経』以下BCAP)を 通して考察した.
 シャーンティデーヴァの思想的立場は,後期中観派の劈頭に位置し,中期中観派の チャンドラキールティと思想的に近しかった.そして,それまでナーガールジュナ のMadhyamakaka@rika@に対する註釈よって展開されていた「一切法無自性空」の思想 を,端麗かつ簡潔な詩頌によって語り,中観派の中でも異彩を放つ存在である.また, シャーンティデーヴァ以降の後期中観派の学匠―ジュニャーナガルバやシャーンタラ クシタ・カマラシーラ師弟ら―が,総じて中期中観派のバーヴァヴィヴェーカによる 自立論証派に与しているのとは対照的に,プラジュニャーカラマティは,例外的にチャ ンドラキールティ以来の帰謬論証派に分類され,後期中観派の他の学匠とは異なった 独自の思想を表明している.
 シャーンティデーヴァによる菩提心の発見の重要性は,それまでの大乗経典や論書 に説かれていた菩提心を,菩提誓願心と菩提進趣心の二種に分類し,華厳経の十地思 想と関連させたことであった.また,BCA第1章は,具体的に菩提心の効果や特徴を描 き,大乗仏教における修行(六波羅蜜多)の前提として捉えている.さらにプラジュ ニャーカラマティは,註釈(paj@jika@において,難解な語を説明するという手法 を通して,シャーンティデーヴァの菩提心説を解説している.その際に多くの経典を 引用し,唯識派の論書(Maha@ya@nasu@tra@lam@ka@raやBodhisattvabhu@mi)に散説 されている菩提心に関する見解と同様な理解を提示している.
 プラジュニャーカラマティの註釈は,BCA第1章から第8章まで,ときに論理学派や 唯識派の論書とパラレルな文章によって解説している場合があるが,第9章「般若波 羅蜜多」章では,論理学派や唯識派を批判しているため,大乗思想の共通基盤として, 唯識派と思想を共有していた可能性が指摘できる.


2.質疑応答

[問]菩提心は菩薩だけでなく,一般の衆生にも起こりえるのか.

[答]そのことに関する明確な記述がBCAには見られないので,不明である.しかし, 実際には一般の衆生が菩提心を起こすことは十分ありうると考えられる.

[問]レジュメにある「初地」・「十地」等の語に関して,「地」とは何か.

[答]修業の段階を示す言葉である.

[問]菩提誓願心から菩提進趣心への移行はどのように行われるのか.

[答]BCAには特に説明がみられないため,不明である.

[問]どのような歴史的展開を経て,二種の菩提心がBCAに説かれるようになったの か.

[答]それは現段階では不明である.今後の課題としたい.

以上.



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