広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2006年4月28日(金9・10時限)
発表者:高橋祥吾(哲学,D3)
発表題目:アリストテレス『トピカ』における固有性の概念
配付資料:B4(片面)2枚,B5(片面)1枚
プロトコル:高橋淳友(哲学)

1.発表要旨

 本要旨は,発表当日に発表者により配布された資料(発表原稿)に基づいてまとめたものである(以下,「 」内は配布資料からの引用).

 発表者によると,今回の発表のテーマは,「アリストテレスの『トピカ』の中で論じられている「固有性」について考察すること」である.発表者は,『トピカ』1巻であげられている固有性の在り方,すなわち,「本質を示さないが,その事物だけに属し,事物と交換して述語付けられるもの」という在り方と,5巻で挙げられている4種の固有性―「自体的な固有性」,「関係的な固有性」,「恒常的な固有性」,「一時的な固有性」―のうち,アリストテレスが「トポスを通じて考察するべき」だと考えていたという,「自体的」で「恒常的」な固有性について,次の点を吟味することを意図する.発表者曰く,「5巻で述べられている固有性,自体的で恒常的固有性と,1巻で述べられている固有性は,どのような関係にあるのか」.発表者によると,「アリストテレスは1巻でも5巻でも,固有性を一貫して同じように理解していることが分かる」とのことであるが,では,「「自体的」であるとか,「恒常的」であるということは,どのような意味を持っていて,それは1巻で語られている固有性と一致するのか」と発表者は自問する.そして発表者はこの点を,「1巻と5巻のそれぞれで述べられている固有性の再吟味を通じて」検討してゆく.

 その検討の結果,発表者は,「関係的な固有性との対比で説明されている」「自体的な固有性」―「すべてのものとの関係,つまり関係を限定しないで固有である性質」―は,「属する基体以外の他のものには属することがないもの」なので,「1巻の固有性の定義と同じ」であるが,「恒常的な固有性は,1巻での固有性の説明と共通する部分を見出せない」と述べる.ただし発表者によると,アリストテレスの考えでは,「恒常的であること,つまり「常に属する」ということは,「必然的にある」こと」であって,このことから,「自体的な固有性が,ほかのものに属することがないゆえに必然性を持つならば,自体的な固有性はその必然性ゆえに恒常的でもある」と,「アリストテレスは考えている」と発表者は主張する.そして,「必然的に帰属することと恒常的に帰属することが,アリストテレスによって同じように見なされている」ということによって,「恒常的な固有性に関するトポス」は,アリストテレスにより「固有性を肯定する場合」にも用いられるに至っているのだという.

 だが発表者によるなら,「固有性であるための必要条件の一つとして,恒常的な固有性に関するトポスは有用」なのであり,このトポスはあくまで「必要条件にすぎないため」,「固有性である事を否定する時にしか用いることができない」はずなのだという.このようなアリストテレスの「混同」は,発表者によるなら,「「付帯性」が可能性と一時性を持ち合わせているものと考え,同じように扱っていることに起因すると考えられる」のだという.



2.質疑応答

[問]発表において,自体的な「固有性」に関し,「関係を限定しない」云々ということが言われていたが,この「関係を限定しない」とは如何なることを意味するのか.

[答]〈なにか特定のもの〉との「関係」ではないということである.

[問]アリストテレスにより,「付帯性」が「一時性を持ち合わせているものと考え」られたのなら,「一時的な固有性」と「付帯性」の違いはどこにあるとされるのか.

[答]「一時的な固有性」とは,いわば,ある〈特定のとき〉に備わった「固有性」のことであるといえよう.しかし,「一時的」という在り方は,基本的には「付帯性」の在り方であって,「固有性」としては曖昧である.

[問]これまでなされてきた,アリストテレスの「固有性」の概念研究に鑑みて,今回の発表はどこに特色があるのか.

[答]トピカ』研究者は,『トピカ』の1巻と5巻のどちらかを研究する傾向にある.対して今回の発表では,両方に留意している点に特色がある.

 この他,「恒常性」を考える場合,「本質」との関係を抜きにして考えることは出来ないのではないかという意見が出された.また,『トピカ』5巻1章から発表者が引用している文の一節,「自体的な固有性とは,(他の)あらゆるものとの関係で与えられ,(他の)あらゆるものから切り離すものである」の意味するところについて,確認する質問があった.



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