広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
(仮設Webページ)


哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2008年度(前期) 第3回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2008年05月09日(金9・10時限,B253)
発表者:高橋祥吾(哲学,D3)
発表題目:『トピカ』におけるアリストテレスの「付帯性」概念とその意義
配付資料:B4原稿5枚(片面)
プロトコル:加藤良太(西洋哲学,B3)

1. 発表要旨

 「トピカ」における付帯性の定義S1「定義でも,固有性でも,類でもないが,事物に属するもの」,定義S2「何であれ同一のものに属することも,属さないこともあるもの」についてアリストテレスは両者を平等に考えていたのではないかと思われるが,しかしそのようではない解釈をアフロディシスのアレクサンドロスは「付加分離的付帯性」で以て示す.その「付加分離的付帯性」とはS1を満たすが,S2を満たさない在り方の付帯性のことを指す.彼に拠れば,そのような付帯性の在り方も含む点でS1がより優れているとのことである.

 以下ではS2であっても「不可分離的付帯性」という付帯性の在り方を定義するのに足ると考える解釈を観る.

 まずポリュピュリオスは,S1,S2の両者を平等と考える.それは現実には不可分だとしても,思考の上での可能性としてならば可分であるとすることで,S2でも「付加分離的付帯性」を定義することができるとする. 

 Ebertも同様に両者を平等に考えるのではあるが,それは固有性に対比する「他のものに属しうるもの」という付帯性の性質を強調して,S2も十分に付帯性の定義に足るものと主張することに拠る.

 しかし,両者の解釈では付帯性の二つの定義の不平等は解消されないと考える.というのもEbertの場合は,アリストテレスがS2について彼のような解釈をしていなかったと思われるからであり,一方ポリュピュリオスの場合は彼の解釈を「トピカ」び直接求めることができないという問題がある.

  そこで三つ目の解釈は,Brunschwigが七巻五章を根拠にし,付帯性の定義としてS3「AがBに属する」を付け加えるものである.しかし,S3はその他の述語様式の必要条件であるからその有用性は考えられなければならない.

  そして七巻五章とは述語様式の確立と破棄についての難易度に関するものであるが,その観点に立つと,付帯性の両定義が平等であるか否かは問題になっておらず,それゆえアレクサンドロスの問題提起はアリストテレスにとっては疑似問題というべきものになっていると考えられるのである.


2. 質疑応答

[問]実際にアリストテレスがS1,S2を等しいと考えていたのか.

[答]明言はしていないが,等しいと考えていたものとして議論を始めている.

[問]ペリパトス派の付帯性の定義とは何か.

[答]ここで基体のなかに実在するというのは,付帯性があらわれるのは常に基体においてである,という意味である.

[問]雪は常に白いのか.

[答]アリストテレスは「雪は常に白い」と言及することも「雪は古くなると赤黒くなる」と言及することもあるので分らない.

[問]一般に付帯性とはどういう意味か.

[答]非本質的なものというのが基本的な意味である.

[問]人間にも白さは属するのか.

[答]議論はあるが,白人や髪が白いということは言い得る.

[問]「属することも属さないこともある」の例として,座ることと,座らなないことは当てはまるか.

[答]それを種のレベルで考えるか,それとも個人のレベルで考えるかは別だが,例として適当であるといえる.

[問]本質を示す条件に「固有性」の定義が挙げられていないのはなぜか.

[答]固有性には,本質を示さないことが条件の一つとしてあるから.

[問]述語様式とは何か.

[答]定義,類,固有性,付帯性のことである.

[問]付帯性について,現代における固有の定義はあるか.

[答]哲学史的に見ても定義の統一はない.偶有的,非必然的という意味で用いられていると考える.

[問]トポスとはどういう意味か.

[答]日本語では「場所」のこと.ここでは議論をするための論拠,論点のこと.

[問]交換して秩序づけられる,とはどういう意味か.

[答]「AはBである.」とも「BはAである」としても真といえるということ.

[問]不平等とはどういうことか.

[答]S1とS2では規定する範囲が違うということ.

[問]定義が肯定的,否定的と区別されるのはどういう基準によるのか.

[答]S1は「〜でない」と否定することで定義しているから否定的という.ちなみに優劣とは,定義のしやすさ,つまり使い勝手について言われている.

[問]アリストテレスにとって,S1,S2の不平等性は問題のではないのか.

[答]両者は違うと知りつつも,アリストテレスの文脈ではそのように考えても問題はなかったという解釈をここでは試みている.

[問]やはりポリュピュリオスの解釈が支配的なのか.

[答]中世から近世も引き続いて影響力を与え続けた.一見すると説得力があるので広く伝わっている

[問]論理空間を限定するのが問答であるが,その設定如何では議論が相対的になり得るのではないか.

[答]たしかに相対化は在り得ることではある.だが,それを承知で議論に勝つことを目的にしているという側面も一方である.

[問]付帯性に関して様々な定義があるということは,すなわち定義が確立していないということであるが,付帯性という恒常性のないものを定義しようとするのが初めから無謀ではないのか.そもそも付帯性というものがあるのか.

[答]「トピカ」で語られているので,それ以後の人々がそれを有るものとして信じ込んでいるだけかもしれない.最終的には「非本質的」という否定的な定義しかできないのかもしれない.



戻る→ 哲学・インド哲学「論文ゼミ」