広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2004年度 第4回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2004年5月20日(木7・8時限,B102)
発表者:中野冴香(インド哲学,M1)
発表題目:バーガヴァタ・プラーナ研究
配付資料:A3原稿3枚(表裏)
プロトコル:石村克(インド哲学,M1)

1.発表要旨

 バクティ(bhakti、信愛、献身)は、ヒンドゥー教における崇拝形態のひとつであり、「神への愛」をいう。『バーガヴァタ・プラー ナ』(Bha@gavatapura@na)には、南インドの地に発達したヴィラハ・バクティ(virahabhakti、別離のバクティ)と、北イン ドの伝統である一元論的なバクティとの統合と説明される、この思想の円熟がみられる。この書は、バクティそれ自体を最高目的として教示し、神とひととの 二元性を物語りとして描きつつ、究極的には神が一切であるという真理をかたるのである。
 この書がうたう帰依者の神への愛は、実に、ひとびとのあいだの愛に等しい。とくに、この書にもっとも有名で人気のある第十巻に、バクティ思想は、最高 神クリシュナと帰依者としての牧女たちの恋愛を巡ってうたわれ、最高神と帰依者の断絶は恋人たちの別離として叙述される。
 この熱狂的なバクティは、ひとびとに、解脱よりも、この世への輪廻をくり返し、神を愛しつづけることを切望させるといわれる。牧女たちのクリシュナと の身体的結合が、彼女たちに最高の歓喜として表現されるのである。しかし、この書がバクティより下位におく、その解脱とはなにか。
 今後は、『バーガヴァタ・プラーナ』におけるバクティが解脱への熱望を克服するという結論を確信的に導こうと考えている。そのために、今回は、インド 思想の伝統の形成に大きな影響を与え、この書の身体観、世界観を形成したマーヤ(ma@ya@、幻力)の基本的概念を提示した。語源的解釈を紹介し、 語の使用がウパニシャッド文献にさかのぼることを記したのちに、とくには大乗仏教やヴェーダーンタ学諸派、ヒンドゥー教諸派がさまざまに論じてきたその 概念を形而上学的側面、また認識論的側面から説明した。

2.質疑応答

[問] 『バーガヴァタプラーナ』に示される思想においては,「解脱」は望ましいものではないとのことであるが,その場合どうしてここに解脱の概念をも ちこむ必要があったのだろうか.
[答] 解脱はインドで一般的に最高の目的として認められているが,この作品ではバクティ(信愛)を最高のものとして解かなければならないのだから,す でに確固として確立している解脱の概念との対照によって,その優越性と特殊性を明確にするために,そうする意味は十分にある.



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