広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2004年度 第7回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2004年6月10日(木7・8時限,B102)
発表者:脇田恵実(西洋哲学,B4)
発表題目:ニーチェの仏教観―キリスト教観との比較において―
配付資料:B4原稿4枚(裏表)
プロトコル:脇田恵実(西洋哲学,B4)

1.発表要旨

 この発表では,ニーチェが仏教に対してどのような見解を持っているのか,またニーチェと仏教がどのような関係なのかについて考察する.
 ニーチェは,仏教もキリスト教も最終的には同じくニヒリズムの運動として厳しく拒絶する(『反キリスト者』Der Antichrist, 20).ニーチェはニヒリズムを,受動的ニヒリズムder passive Nihilismusと能動的ニヒリズムder active Nihilismusに分けて,仏教やキリスト教は前者に属すると述べる(『権力への意志』Der Wille zur Macht, 23).しかしニーチェは,「ニヒリズム的宗教の内部でもキリスト教のそれと仏教のそれとはいぜんとして鋭く区別される必要がある(『権力への意志』154)」と言う.
 ニーチェによると,キリスト教道徳は弱者のルサンチマン(怨恨感情)によって形成されたものである.弱者は強者を憎悪するにもかかわらず,現実にはその上下関係を逆転できないために,本来の価値を転倒させ自分たちを正当化するという想像上の復讐を行う.そして「神」「彼岸」といった現世の生を否定する観念を捏造する.それに対して仏教は,ルサンチマンを克服しようとする(『この人を見よ』Ecce Homo, 1章6).また,超越的原理を否定する無神論としての仏教をニーチェは称賛する. ニーチェの課題は新しい価値の創造であった.そこで彼は,ニヒリズムに徹することによって既存の価値を価値転換し,ニヒリズムを超克しようとする能動的ニヒリズムを提唱した.そして彼はニヒリズムの極限形式として「永劫回帰」die ewige Wiederkehrを挙げ,これを「仏教のヨーロッパ的形式」die europaeische Form des Buddhismusと呼んでいる(『権力への意志』55).ニーチェはヨーロッパ的な意味の価値観に立たない仏教をニヒリズムの宗教と捉えながらも,親近性を感じているのである.
 また,ニーチェの思想と仏教にはある種の類縁性が見られるように思われる.  ニーチェの永劫回帰の思想と仏教の輪廻の思想の比較において,大河内了義氏は,苦としての有限存在が生まれ変わり死に変わりつつ永遠に続くという時間性をその特色としている点や,かつてあったこと,今現にあることをそのままに受け容れるという点で,両者は共通しているという述べる(『ニーチェと佛教』p.165,195).それに対して臼木淑夫氏は,永劫回帰は極めてヨーロッパ的な思想であり,仏教思想との関連は間接的なものにすぎないと述べる(「ニーチェと仏教」p.430).


2.質疑応答

[問(意見)] 慈悲とは悲しむという意味だけではなく,助けてあげたいという意味も含まれているのでそのことも考慮に入れたほうがいい.

[問] 輪廻の思想と永劫回帰の思想はどちらが先に登場したのか.年代を調べたらどうか.

[答] 輪廻の思想が先だと思う.ニーチェが輪廻の思想をあらかじめ知っていたか調べてみる.

[問] ニーチェはなぜそんなにキリスト教を批判したのか.

[答] 彼の父親は牧師であったのだが….彼が当時感じたニヒリズムを,キリスト教を批判することによって克服しようとしたのではないだろうか.

[問] キリスト教では神と人間は縦の関係であり,仏教では仏と人間は横の関係であるから,両宗教の愛の概念は違うのではないか.

[答] 本発表では,ニーチェの運命愛の思想と扱っていてキリスト教の愛ではない.




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