広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2004年度 第12回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2004年7月15日(木7・8時限,B102)14:50-17:45
発表者:田中聡美(西洋哲学,B4)
発表題目:「非有」「像」「虚偽」をめぐる問題提起 -『ソピステス』236D9-241B4-
配付資料:A3原稿4枚(両面)
プロトコル:高橋祥吾(哲学,D1)

1.発表要旨

 プラトンの後期対話編『ソピステス』の構造は,従来「中央部」と「外枠 部」に分けて考えられてきた.「中央部」は「ある」や「ない」についての議 論.対して「外枠部」はソフィストの定義である.そして哲学的な議論は「中 央部」の方で行われているという見方が大勢を占めていた.しかしながら, 『ソピステス』の根本問題はあくまで「ソフィスト」の定義であり,中央部は その問題を解決する際に現れた困難であると考えられる.そして『ソピステ ス』の根本問題がソフィストの定義を確立することであるとを確かめるため に,『ソピステス』236D9-241B4の展開と他の対話編との関係から考察してい る.
 まず他の対話編との関連から,『ソピステス』は,「哲学者」「ソフィス ト」「政治家」の区別を行うための一環として,「ソフィスト」の定義を目的 としていることが確認される.つぎに,『ソピステス』では分割による定義づ けにより,定義が行われているが,この方法では,複数の「ソフィスト」の定 義が可能になってしまうっている.つまり,ソフィストが我々に対して多様な 「現れ」になっているのである.それゆえ,ソフィストの本質はさまざまな 「現れ」をなすことにあると考えられる.
 そしてさらにソフィストの本質とされた「現れ」とは何かということへ,議 論が移項する.「現れ」は「そう見えたり思われたりするけど,実際にはそう ではないこと」と言われる.それゆえ,「現れ」は「ないもの」や「虚偽」, 「像」と関連して議論されることになる.結果として,「現れ」に関する問題 は「像」と「虚偽」に関する問題を解決しなければ,議論できず,「像」と 「虚偽」の問題は「ないもの」に関する問題を解決することなしには解消でき ないという構造になっている.この構造は,『ソピステス』という著作の主題 が「ソフィスト」の定義付けであると考えるならば,ある種の哲学的な「脱 線」と解釈できるかもしれないが,この解釈が妥当であるかどうか,そして著 作全体からみたときどう考えられるのかは,今後の課題である.


2.質疑応答

[問] 「ソフィスト」という言葉が良くない意味で用いられるようになったの は,いつ頃なのか.それはプラトンの『ソピステス』に由来するのか.そうで はないのか.
[答] 今回の調査では,時間の前後関係に基づいていないため,明確に答えら れない.今後の課題である.

[問] 「形相」という言葉を用いているが,これはどのような意味で使われて いるのか.「現れ」と同じ意味で使っているのか.
[答] デュナミスである.本質を表すようもの,共通的なもののことを意味し て使用した.

[問] インドのある学派には,ものの命名について,命名の根拠はものの側に は存在しないとする考え方があるのだが,古代ギリシアの哲学者たちはどのよ うに考えていたのか.
[答] (教員による補足回答)プラトンの対話編『クラテュロス』では,もの の側に命名の根拠も求める考え方や,人間による恣意的な命名が行われる例が 挙げられている.実際のところ,古代ギリシアの哲学者たちに共通の命名に対 する考え方というものがあるとは言えない.

[問] エリスティケー(eristike: 争論の技術)とアンティロギケー (antilogike: 反論(の術))を同じものであると考えるのか.
[答] 分からない.

[問] 「第六の定義が,『分離する術』を起点としている」とはどういうことか.
[答] 分割による定義づけは,「製作術」と「獲得術」に別れることからはじ まる系譜を形作っていたが,その系譜からはみだした「分離する術」というも のを用いているということ.

[問] 「現れ」とは,一つの見方,一側面のことを意味していると考えて良いのか.
[答] 一つの見方,一側面としての「現れ」だけでなく,真実として分ってき た,現れてきたことも意味するように思われる.詳しくは,今後の課題.

[問] 定義についての定義,定義論は,古代ギリシアで論じられてきたのか.
[答] まだそこまで把握していない.



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