広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2005年度 第12回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2005年7月14日(木7・8時限,B102)
発表者:松本誠代(総合文化学,M1)
発表題目:ラス・カサスについて
配付資料:A3(両面)2枚
プロトコル:米森慈子(哲学,M1)


1.発表要旨

1492年,スペイン王室の援助を受けたクリストバル・コロンのインディアス発見以来,数多くのスペイン人がエスパニョーラ島を始めとして植民に関わっていくこととなった.インディアスの征服はスペイン人の入植者の私欲を満たす私事であると同時に,国王の名によって実行されたキリスト教の布教を伴う公けの事業でもあった.修道士としてインディアス事業に参加したバルトロメ・デ・ラス・カサスは自国スペインによる新大陸の征服・統治が,先住民族であるインディオを虐待し,残酷で過酷な搾取のうえに成り立っていることを告発した.スペイン王室とその側にいる人々は,インディアスの住民を布教を通してキリスト教文明生活へ導くという大儀を掲げ,インディオはかって気ままに暮らし,怠情と悪癖にひたる異教徒であるので,キリスト教化の過程で犠牲が生ずるのは,キリスト教の恩恵をこうむることができる利益とくらべたら問題ではないという考えを主張した.それに対してラス・カサスは,自身の長年に渡るインディアスの滞在経験から,インディオは人間的,良識ある資質を備えた人々であると主張し,セプルペダと激論を戦わした.ラス・カサスは数多くの著作を通してなされた,インディオの人間性を尊重するべきであるという正義の主張は,当時の時代的制約のなかであっても社会的に大きな影響力を国内外に与え,普遍的力となり,次の時代に引き継がれることとなる.


2.質疑応答

[問] スペイン以外のヨーロッパ諸国がインディアス支配に対する自由な論争を受け入れる風土はなかったとする理由はなにか.

[答] ポルトガルはスペインに先行して海外進出していたが,政策に関して内部からの告発は少なかった.スペインはアジアなどを征服し,植民地化したことに関し,ラス・カサスなどの糾弾が沸き起こった.スペイン政府は糾弾を受け入れる風土があった.

[問] ドミニコ会はどういう会か.

[答] フランシスコ会より少し前にできた清貧をモットーとする会である. [補足]13世紀,アルビジョワにいた異端に対してキリスト教を伝えることを発端としてできた.説教を重んじ,学者が多かった.スペインの植民地化時代,キリスト教の布教も目的であったので,政府に用いられた.植民地化に関してはドミニコ会の中でも賛成派と反対派に二分化されていた.

[問] 16世紀のヨーロッパキリスト教圏においてアリストテレスはどのようにとらえられていたか.

[答] アリストテレスの人間の中には先天的奴隷人が存在するという説をインディアスの人々に適用しようとしたり,一方業火の中にいる異教徒であるとされたり,学問や神学領域のみならず,政治的にも関心をもたれていた.

[問] インディアスとはどこか.

[答] コロンの前までは日本も含めた東南アジアの地域を称していたが,コロンブスがエスパニョーラ諸島のドミニカをインドと間違えて上陸したことからインディアスという名前が使われた.現在の中南米辺りをさしている.

[問] ラス・カサスという人物研究の魅力はどこにあるのか.

[答] 洗礼を与える際,相手の同意を得ることからわかるように,キリストとその弟子が用いた説諭による布教(平和的改宗化)によるべきであると説き,人間性を重視した生き方への魅力.

[問] セプルベダの所属はどこか.

[答] 修道会ではなく,宮廷において力をもっており,アリストテレスの研究に熱心であった学者である.

[問] キリスト教弘布の方法において目的は手段を正当化するという意味は.

[答] 説諭による平和的改宗化が不可能な場合,正当な目的があれば戦争は正当化できるという解釈であり,トマス・アクィナスの思想の影響があった.

[問] セペルベダの見解における「自然法」の解釈は.

[答] 16世紀のキリスト教徒としてのスペイン人の見方によるものと解釈できる. [補足]実定法は人々の合意によって成立するものであり,自然法は自然科学一般(例えばリンゴは木から落ちる)も含めた人間の行為に対して当然という法体系である

[問] 自然法の解釈はキリスト教の教えと重なるといえるのか.

[答] 聖書と自然法は容易に結ばれていたものである.自然法の根拠は創造論におかれており,世界存在の根拠と人間の理性は自然法と結びついていた.

[問] 当時のスペインにおける審議会とはいかなるものか.

[答] 当時の国王であると同時に,ドイツ皇帝も兼任のカルロス5世が主催するものであり,ラス・カサスやセペルベダの見解の検討など,正しいインディアス統治に向けての専門家による民主的結論を導き出す審議の場である.裁判をする性質はもたない.

[問] 元来インディアスの人々はどのような宗教形態をとっており,宗教観をもっていたか.

[答] 人間を生贄として捧げたり,偶像崇拝などキリスト教の教義に反することを行っていた.当時の現地の人々の生に対する考え方や宗教教義について調べることが今後の課題である.

[補足] 戦争は元来悪であるが,価値の違いを正当化するものと,理屈に訴えて正当化する戦争は考慮される.私的な争いは否定されるべきだが,集団に含まれている構成員を指導者が自衛のために行うものは認められた.ラス・カサスやトマスの研究者であるビトリアなど南米征服に反対するものは少数派であったが,彼らはキリスト教思想に動かされ行動したのである.

[その他] ラス・カサスの意味する悟性と意思に関すること,及び戦争と武力行使の原語によるニュアンスの違いに関する質問や提言があげられた.




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