広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2005年度 第15回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2005年10月14日(金9・10時限,B153)
発表者:間瀬忍(インド哲学,M修了)
発表題目:u@T@Hの示すantarag@ga性
配付資料:A4用紙7枚
プロトコル:田村昌己(インド哲学,B4)


1.発表要旨

‘antarag@ga’とはパーニニ文法学で複数の文法操作が同時に適用可能な場合にそれらのうちどの規則が優先的に適用されるべきかを決定するため に必要な概念である.その概念の必要性はP.6.4.132 va@ha u@t@hにu@T@Hと言及していることで示されている.
 しかし,ナーゲーシャ著『パリバーシェーンドゥシェーカラ』の注釈者,及び先行研究者のantarag@gaに対する見解には論理的不備がある.
 例えば,注釈者パーヤグンダは,‘vic@vauhas’という語の派生において,P.6.4.132の間接的根拠とP.7.3.86の根拠を比較 し,P.7.3.86の根拠の方がP.6.4.132の根拠よりも前にあるので,P.7.3.86はP.6.4.132に対してantarag@gaで あるとする.しかし,ナーゲーシャが間接的な根拠を用いてbahirag@ga性を決定することを否定している点,また,根拠の前後関係によって antarag@ga性が決定される場合にはすでに適用されたbahirag@gaは有効であると説明している点をパーヤグンダの見解では説明できな い.
 これに対して発表者は,語の派生の順序で各規則は適用されると考える.すなわち,先に派生されるものを根拠とする規則がantarag@gaであり, 後に派生されるものを根拠とする規則がbahirag@gaである.このように考えた場合,パーヤグンダの持つ二つの難点も回避され,また,『パリバー シェーンドゥシェーカラ』における前後の箇所とのつながりも自然である.したがって,発表者の見解がナーゲーシャの意図していた見解であると思われる.


2.質疑応答

[問]先行研究者は‘vic@vauhas’という語がupapada複合語であることを考えていないのか.

[答]考えていない.先行研究者は各要素の前後関係に着目してantarag@gaかbahirag@gaかを決めている.

[問]ナーゲーシャとパーヤグンダはどういう関係にあるのか.

[答]ナーゲーシャの弟子がパーヤグンダである.

[問]発表原稿79行目に「P.6.4.132の根拠である‘bha’という術語の根拠をP.6.4.132の間接的な根拠ととらえて……」とあるが, 間接的な根拠ととらえるとはどういうことか.

[答]P.6.4.132は「‘bha’という術語」を根拠としており,その「‘bha’という術語」は「‘sam@prasa@ran@a’以外のy 音と母音で始まる格接辞」を根拠としている.したがって,P.6.4.132に対して「‘bha’という術語」は直接的根拠であり, 「‘sam@prasa@ran@a’以外のy音と母音で始まる格接辞」は間接的根拠といえる.  パーヤグンダは,P.6.4.132の間接的根拠である「‘sam@prasa@ran@a’以外のy音と母音で始まる格接辞(as)」と P.7.3.86の(直接的)根拠である「‘sa@rvadha@tuka’と‘a@rdhadha@tuka’接辞(N@vi)」を比較し, P.7.3.86の根拠N@viの方がP.6.4.132の根拠asよりも前にあるので,P.7.3.86はP.6.4.132に対して antarag@gaであるとする.

[問]antarag@gaとbahirag@gaは相対的なものであるから,ある規則がantarag@gaであるかどうかは言えないのではないか.

[答]そうではない.発表者の理解では,先に派生されるものを根拠とする規則がantarag@gaであり,後に派生されるものを根拠とする規則が bahirag@gaである.

[問]‘pra@tipadika’とは何か.

[答]名詞語幹のことであり,kr@t接辞で終わるもの,taddhita接辞で終わるもの,複合語の三種類がある.

[問]‘sam@prasa@ran@a’とは何か.

[答]半母音が母音となることである.

[問]発表者と同様の解釈をした先行研究者や注釈者はいないのか.

[答]発表者の知る限りいない.

[問]なぜ,ナーゲーシャの『パリバーシェーンドゥシェーカラ』をテキストとして選んだのか.

[答]ナーゲーシャの『パリバーシェーンドゥシェーカラ』はパーニニの規則を集めたものであり,その中で最も権威があるからである.

[問]‘sarvana@mastha@na’とは何か.

[答]格接辞の一部,具体的にはNom.sg, Nom.du, Nom.pl, Acc.sg, Acc.duの五つを示す.

[問]パーニニの文法は彼の生きていた時代では記述的文法であったが,後世では規範的文法となったと言えると思うが,この発表で取り上げられた問題は, パーニニの文法を記述的文法としてとらえるか規範的文法としてとらえるかという点に起因する問題なのか.

[答]そうではない.antarag@gaとbahirag@gaを先行研究者のように場所的前後関係で規定するか,発表者のように時間的前後関係で規 定するか,の問題である.

[問]派生の優先順位に関して,パーニニとは異なった考えはあるのか.

[答]パーニニが考えていたことは一つではあったが,時代が下るにつれつじつまが合わない箇所も出てきた.それを合わせるように調整したのが後の文法家 たちである.
[問]なぜ,u@T@Hが言及されない場合を考える必要があるのか.

[答]u@T@Hが言及されない場合でも正しい語の派生は行なわれるが,パーニニの規則にu@T@Hが言及されている以上,パーニニは何らかの意図が あってu@T@Hを言及したと考えなければならない.そこでu@T@Hが言及されない場合を検討してみると,各規則の適用に際して不合理があるため, パーニニはu@T@Hと言及することによって,antarag@ga規則の存在を意図していたと考えることができるのである.





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