広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2005年度 第17回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2005年10月28日(金9・10時限,B153)
発表者:高橋祥吾(哲学,D2)
発表題目:アリストテレス『トピカ』における固有性
配付資料:B4原稿3枚+B5原稿1枚orA4原稿7枚
プロトコル:槙尾朋子(西洋哲学,B4)


1. 発表要旨

本発表は,アリストテレス『トピカ』第1巻と第5巻における固有性の定義に関する考察である.アリストテレスは,第1巻5章で,固有性を「本質を示さないが,それだけに属し,事物と交換して述語付けられる」と定義する(Top. A. 5. 102a18-22).この定義についてBarnesは,「それだけに属する」ということの説明として「交換して述語付けられる」と言われていると解釈する.他方でSmithは「それだけに属する」結果として,「交換して述語付けられる」と言われていると解釈する.
第1巻の定義付けとは別に,第5巻で固有性は4種類に分けられる.すなわち,自体的固有性,関係的固有性,恒常的固有性,一時的固有性である.このうち,関係的固有性,何か別のものとの関係に限って,一時的固有性はある一時点に限って固有性であるにすぎず,端的に(無条件的に)は,付帯性である.その一方で,自体的固有性は,関係的固有性と対立していて,他のあらゆるものとの関係で固有である性質のことである.また,恒常的固有性は,一時的固有性と対立し,あらゆる時間に渡って固有である性質である.
アリストテレスは,自体的固有性と恒常的固有性を関連させて述べている.アリストテレスは,自体的固有性について述べるとき,その固有性は恒常的なものであると考えているように見えるのである.というのは,アリストテレスがこのように考えるのは,固有性と固有性を持つ主体との間に必然的な結びつきを考えるからだと思われるからである.アリストテレスにとって,常にあることと必然性は強く結びついている.常にあるということは,必然的にあることでもあるのである (Top. E. 3. 131a37-39; E. 4. 133a20-21; cfE. 3. 131b30-36).固有性とその主体との間に必然的結びつきを考えると言うことは,結果としてその結びつきが常にあるということに繋がるのである.
関係的固有性と一時的固有性は,端的には付帯性であるから,その結果として,自体的で恒常的な固有性が,第1巻で定義されている固有性と同じものであるということになるだろう.したがって,A巻で「それだけに属する」と,アリストテレスが言う時,彼は固有性とその主体の結びつきを自体的で恒常的なものと考えていたのだと思われる.
BarnesとSmithの解釈は,どちらがより妥当であるか述べると,Smithの解釈の方が良いように思われる.というのは,同一性条件だけが用いられている箇所は,トポスとして,または推論の一部として現れているのであって,定義としてではないように思われる.E巻で考察の対象となっている自体的で恒常的固有性が,「これだけに属する」という表現で表されるのならば,一応これだけで固有性を言い表せていると思われるからである.


2.質疑応答

[問]BarnesのA巻の解釈はどのようなものか.

[答]「それだけに属し」を「その事物に交換して述語付けられる」としている.同じことを二度言い直しており,「それだけに属する」で固有性を表すとしている.

[問]「何であったのか」と過去形で表す理由は何か.

[答]ギリシア語のテキストに過去形で書かれている.現在形の表現もあるが,過去形のときと違いがあると思い訳し分けたが,その違いはまだ明確でない.

[問]Barnesの解釈による,同一性条件の定式化によると,AとBが同じものということになるのか。

[答]同じものということになるが,同一性条件を固有性の定義とみなすことに問題がある.

[問]BarnesはA巻の固有性とE巻の固有性は必ずしも同じものではないとしているが,彼のE巻の解釈はどのようなものか.

[答]それぞれの固有性に対しても定式化を行っている.全く異なるものだと言っているのではない.

[問]恒常的固有性の人間の場合の例はどのようなものか.理性的な動物と言ってよいのか.

[答]言える.しかし,理性的な動物を本質と言えるので,広義の固有性ということになる.

[問]人間の場合でも固体によって特性が異なる.その場合,固体に対して複数の固有性があり得るのか.

[答]複数の固有性があり得る.

[問]人間と鳥の固有性を持つことは両立しないと思われるが,「人間であること」と「私であること」との関係では固有性は両立するのか.

[答]両立する.

[問]今回の発表でBarnesSmithをとりあげた理由は何か.

[答]今回の発表に関する箇所を研究している人が少ない.また,この二人は現代の人で,二人の解釈が相容れないのでとりあげた.

[問]自体的固有性と恒常的固有性はどのような関係か.

[答]恒常的であるということは必然的であると言える.自体的に属するということは,属したり属さなかったりすることがなく,その基体にしか帰属しないので必然性がある.必然性を介して恒常性と自体性が結びついている.

[問]関係的固有性が付帯性になるのはどのような場合か.

[答]関係性を除くと他のものに属し得るので,その場合は付帯性と言える.

[問]「AがBただひとつに属する」から「Bであるものは何であれAであり,BであるものだけがAである」と言えるか.

[答]この箇所はSmithの解釈で,論理的にはおかしい.

[問]論理学史と今回の発表にはどのような関係があるのか.

[答]Barnesは種差との関係までは述べていない.Smithに関してはまだ把握していない.

[コメント] インドでは属性は実体を区別するもの.



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