広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2006年度 第17回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2006年10月27日(金9・10時限,B253)
発表者:イ・ジェヒョン(インド哲学,D1)
発表題目:<驚くべき作用>(atyadbhuta@ vr@ttih@)−バルトリハリの形而上学における因果と仮現−
配付資料:A3用紙4枚, A4用紙1枚(片面)
プロトコル:田村昌己(インド哲学,M1)

1. 発表要旨

 因果関係の実在性を否定するバルトリハリは,<驚くべき作用>(atyadbhuta@ vr@ttih@)という概念を導入して現象世界における事象の生起と消滅を説明する.

 これに関してSharmaは,<驚くべき作用>が何に属するのかをバルトリハリは明らかにしていないと主張し,また,<驚くべき作用>を通じたブラフ マンの<仮現>(vivarta)と因果関係の構想の関係については説明を与えていない.本発表では当該箇所を検討してSharmaの主張の妥当性につ いて再検討する一方,因果関係は<驚くべき作用>の結果として概念的に構想されるものであるというバルトリハリの見解について考察した.

 事象は本質的には順序を持たず,生じたり滅したりすることのないものであるが,<驚くべき作用>によって順序をもって生起・持続・消滅するものとして 顕われる.この<驚くべき作用>は<時間>能力であり,ブラフマンに属するものである.この<驚くべき作用>を通じて様々な事象が順序を持って顕われる とき,我々は実際には存在しない因果関係を,事象間に実在しているかのように構想してしまう.

 このようにバルトリハリが因果関係を否定し,<驚くべき作用>によって事象の生起や消滅を説明するのは,諸事象の多様な展開を仮現説で一貫的に説明し ようとする彼の意図が隠れているのである.


2. 質疑応答

[問]存在と実在の違いは何か.

[答]二つのレベルで説明しなければならない.言語活動のレベルでは,存在だけでなく非存在も言葉の対象としての存在性(比喩的存在性)を持つと認めら れる.しかし,形而上学的なレベルでは,非存在に実在性は全く認められない.

[問]なぜバルトリハリは因果関係を認めないのか.

[答]バルトリハリは,すべての事象は単一なブラフマンが多様な能力を通じて現れたものであるという仮現説の立場をとっているためである.

[問]「時間(ka@la)」とはどのような概念か.

[答]時間はバルトリハリによれば,時間は唯一の実在であるブラフマンが持つ自立性能力であり,すべての事象に秩序を与える能力である.時間能力がある からこそ,ブラフマンの仮現であるすべての事象は一貫した秩序と関係を持つものとしてあらわれるのである.

[問]<抑制>と<認容>という二つの能力によって様々な事象が持つ能力を制限すると説明されるが,<認容>という能力だけで十分ではないのか.

[答]事象の生起・持続・衰退・消滅という過程の内,<認容>は生起・持続を,<抑制>は衰退・消滅を説明するのに必要である.したがってどちらの能力 も必要である.また,事象の能力の制限は<認容>の有無によって説明できると考えるかもしれないが,<認容>を止めさせる能力は<抑制>であるので,< 認容>と<抑制>の二つの能力が必要である.

[問]仮現説はいつ頃から説かれるのか.

[答]ウパニシャッドにまで遡ることが可能である.

[コメント]イスラム教では,事象間の因果関係は否定され,神がそのように見せている,という考え方をとっている.参考にしてはどうか.




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