広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2012年度(後期) 第21回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日:2012年11月30日(金9・10時限,B201)
発表者:蔵敷壮志(西洋哲学,B4)
発表題目:後期ヴィトゲンシュタインとマウトナーの影響関係について
配付資料:A4(両面), 9頁
プロトコル:阿南貴之(哲学,M2)

1.発表要旨

 ヴィトゲンシュタインはその前期の著作とされる『論理哲学論考』T. 4. 0031 においてマウトナーに言及している. このことから, マウトナーと前期ヴィトゲンシュタインについての関係について論じられることは多いが, 後期ヴィトゲンシュタインにおける主要概念である「言語ゲーム」へマウトナーが与えた影響が考察されることは少ない. だが, マウトナーも『言語批判論集』にみることができるように, 言語をゲームの規則(Spielregel)のようなものであると述べている. また藤本隆志もまた, 「言語批判」「像」「言語ゲーム」といったヴィトゲンシュタイン独自の用語とみられる用語のうちにマウトナーなどの同時代人の影響をみることができると述べている. これらのことから, 発表者は, ヴィトゲンシュタインの「言語ゲーム」にマウトナーが与えた影響を検討することを目的とした.
 本稿では, 前期ヴィトゲンシュタインの基礎概念となる写像理論の理解のため, 言語と世界の対応等々の前期ヴィトゲンシュタインの主要な概念の正確な理解が試みられた. その後に, 写像理論に代わるものとして後期ヴィトゲンシュタインの用いる「言語ゲーム」の理解を試み, 発表者はグレーリングを援用し, 言語を唯一の本質をもつものとしてではなくて, それぞれの論理をもったさまざまな実践行為の集合だ, と述べた. これをしてある表現の意味とは言葉とものとの写像関係のうちにあるのではなくて, そうではなくて言語を構成する多様な実践のなかでの表現の使用にあると述べる.
 また, 「言語ゲーム」に関するヴィトゲンシュタインとマウトナーとの影響関係についての解釈として, マウトナーの『言語批判論集』を参照し, マウトナーの言語観を確認した後に, その内容としても強い影響をヴィトゲンシュタインが受けたとする解釈の例としてKühnの説を取り上げ, マウトナーの著作を読んだことから「言語ゲーム」という言葉を用いることに関しては影響を受けたが, その内容にまでは影響を受けなかったとするWeiler の説の両者を紹介した.
 これらの結論として筆者はマウトナーとヴィトゲンシュタインとの間に言語とGebruch との関係について述べる点や, 言語をゲームとして特徴つける点においてマウトナーと後期ヴィトゲンシュタインの類似をみることが出来る暫定的に結論付けた.


2.質疑応答

[問] 言語ゲームについて, どういう概念か?

[答] 中から後期のヴィトゲンシュタインの著作において散見される言葉であるが, その文脈ごとに詳細な意味は異なり, これが, それらの全てに当てはまるような「言語ゲーム」である. といえるような定義付けは難しい.

[問] ヴィトゲンシュタインの用いた概念として有名である「言語ゲーム」はその発端がマウトナーにあると, この発表では主張したいのか.

[答] この件についての解釈は先行研究においてことなっている. ひとつはKühn のように, マウトナーは言語ゲームの本質を既に突いていて, ヴィトゲンシュタインはその概念を自覚的にアレンジして用いたとする解釈, もう一つはWeiler のように, ヴィトゲンシュタインがマウトナーの著作を見ていたとしても, それを偶々覚えていて, 言葉のみを借用したとする解釈, 二様ある.

[問] ヴィトゲンシュタインの前期思想から後期思想への変遷に影響を与えたとされるウィーン学団との関係ではなくて, あえてマウトナーとの関係に焦点をあてるのはなぜか.

[答] ウィーン学団との関係について扱っている先行研究は既に多くあり, 筆者としては今まで焦点のあまりあてられてこなかった, マウトナーとの関係について自分なりに検討したかったから.

[問] 言語に関してGebrauch (慣用) という側面に焦点をあてたのはマウトナーが始めてであるのか.

[答] 着目し, 主軸においたのはマウトナーが初めてだと思われる.

[問] 写像理論の否定から, ヴィトゲンシュタイン後期思想においては言語ゲームという概念を用いたと, 発表で述べられたが, これら二つについての今回の説明を聞く限り, これは発展, あるいは展開と呼ばれるべきではないか.

[答] この点の解釈もヴィトゲンシュタイン研究の焦点となっている. 筆者としては, 前期思想の中に既に後期思想の萌芽が含まれており, 展開したという立場を支持する.



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