広島大学大学院文学研究科
比較論理学プロジェクト研究センター
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哲学・インド哲学「論文ゼミ」の記録


2006年度 第22回
哲学・インド哲学 論文ゼミ
発表日: 2006年12月8日(金9・10時限)
発表者: 高橋祥吾(哲学, D3)
発表題目:「アリストテレスにおける自体性と付帯性の問題点」
配布資料:A3(両面)1枚,A4(片面)1枚
プロトコル: 高橋淳友

1.発表要旨

 以下の要旨は,発表者によって配布された資料を参考にしてまとめたもので ある(「」内の文章は資料からの引用である).発表者によると,今回の発表の 目的は,「アリストテレスの「自体性」と「付帯性」という概念について,この 概念の持つ困難さの一端を明らかにすることにある」とされる.発表者はこのた めに,「それぞれの定義,そして「自体的付帯性」という概念と,この概念を巡 る議論を見てゆく」と述べる.
 「付帯性の定義」という点で,発表者は, アリストテレス『トピカ』A巻5章に見られる次のような定義をS1,S2として引用 する.すなわち,「付帯性は,これらのもののいずれでもないもの,すなわち定 義でも,固有性でも,類でもないものであるが,しかし事物に属するものであ る」という定義(S1),「付帯性は,何であれ一つの同じものに,属することも属 さないこともあり得るものである」という定義(S2)の二つである.発表者によ ると,付帯性の「この二つの定義」は「等しいものではない」が,しかしアリス トテレスは,「どちらであっても,同じように付帯性を得ることができると考え ているように見える」という.そして発表者は,ここで述べられている定義で は,「不完全であるように見える」と述べる.
 「自体性の定義」は,発表者によると,『分析論後書』A巻4章で行われてお り,そこでは,自体性について4種類の説明が述べられているという.そのう ち,「主に自体性の定義として取り上げられる」のは,発表者によると次の二 つ,配布資料ではA1と称される,「自体的属性は,基体の「何であるか」の中に 属しているものである」という説明と,配布資料ではA2と称される,「自体的属 性は,その属性が「何であるか」を述べる定義の中に基体が属しているもの」と いう説明であるという(残り二つの説明は,「何か別の基体に語られることのな いもの」,つまり「個物のこと」と,「それ自体の故に,それぞれのものに属す るもの」であるという).発表者によると,A1とA2という「この二つの定義に基 づく自体性と対立するものとして,付帯性が挙げられている」という.発表者 は,このように『分析論後書』で述べられていることから,「自体性の対立概念 として付帯性は非必然性を伴うことがわかる」という.
 「「自体的付帯性」の定義」に該当すると思われるものとして,発表者は『形 而上学』の中で,「「三角形」に「二直角を持つ」が属する」ような在り方を例 として挙げている個所(1025a30-34)を引用する.なお,発表者によると,「自 体性」と「付帯性」は「対立する関係にある」が,「自体的付帯性」は,「両者 を合わせもっているような性質であると思われ」,その点に,「「自体的付帯 性」という概念が持つ難解さ」があるという.発表者は,この「自体的付帯性」 という概念とは何かについて,先行研究に見られる次のような諸見解,「固有性 である」(Ross),「固有性ではない」(Barnes),「A2の意味での自体的な属 性である」(Graham),「種差が類の自体的付帯性である」(Granger)等を紹 介し,その上で,断言するには不充分であると留保付きながらも,上述の「A2の 意味での自体性」を,「自体的付帯性であるとみなす解釈が比較的多い」,「自 体的付帯性が固有性と等しいと解釈できる可能性は低いように思われる」と述べ る.

2.質疑応答

[問]アリストテレスにとっての「定義」とは,どのように〈定義〉されるの か.

[答]本質を表す〈ロゴス(表現,文)〉である.具体的に言えば,〈類〉と 〈種差〉が複合された文-これが本質を表す-である.

[問]4番目の「自体性」の説明,つまり,「それ自体の故に,それぞれのもの に属するもの」を説明する例として,資料では,「人が喉を刺されて死んだ場 合,刺されたときにたまたま死んだのではないなら,その死は喉を刺されたこと 故に死んだのであり,喉を刺されたことは,その人の死に自体的に属することに なる」という,「アリストテレスの例」が挙げられている.この意味は何か.

[答]間接的な原因としてさえ,他の死因-例えば刺されたショックによる心臓 麻痺のようなもの-が考えられない場合,「その死は喉を刺されたこと故に死ん だのであり,喉を刺されたことは,その人の死に自体的に属することになる」と いうことである.

[問]S2の「付帯性」の定義において,「属する」こともあれば,「属さない」 こともあるとは,どういう意味か.

[答]例えば,「座っている」という在り方は,人間が座っているときその属性 であるが,立ち上がったときは,その属性ではなくなる,といったことである.
 
[問]A2の定義における,「定義の中に基体が属している」とはどういう意味 か.

[答]定義の中に基体が〈主語〉として使われ, 述語の定義の中に〈基体〉が現 れるということだと思われる(なお,配布資料中では,「「直」と「曲」が 「線」に属している場合」,「「奇」や「偶」が「数」に属している場合」とい う「アリストテレスの例」が挙げられている).

[問]「付帯性」の説明で,〈白いもの〉と〈白さ〉が使われることがあるが, 〈白いもの〉と,〈白いもの〉すべてに見られる〈白さ〉の関係は,今回の議論 ではどう関わってくるのか.

[答]〈白さ〉は〈白いもの〉にあるものであって,〈抽象された白さ〉のよう な考え方はアリストテレスにはないのではないかと思われる.

 以上の他には,「自体性」と「自体的付帯性」の意味についての確認等,配布 資料中に見られる表現,記述内容について,発表者に対して確認を求める質問が 二,三あった.

 以上.



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