新入生に送る歓迎の言葉

 

  1. はじめに

みなさん,入学おめでとうございます.広島大学工学部第二類への進学,教員を代表して心からお祝いいたします.今日ここで皆さんとお会いできるのは,皆さんが努力した結果ですが,ご両親や先生方など周りの人のサポートがあってこその入学だと思います.みなさんは,周りの人の期待を受けて入学してきたのですから,ぜひその期待に応えてこれからの大学生活を送ってほしいと思います.

さて,皆さんは,3月までは高校生,今月から大学生になったのですが,高校生活と大学生活は結構違います.高校までの時間というのは,勉強であれ,課外活動であれ,与えられた課題をうまくこなすのが主な仕事だったと思います.受験勉強のように限られた範囲の中でいかに点数をあげるか,これも勉強のひとつだとは思いますが,すべてではありません.大学になると,「何を勉強するのか」について,まず考える必要があります.もちろん,工学部第二類に来ているのですから,徐々に電気系の勉強が多くなりますが,自分で選べることも多くなります.ここが一番大きな違いだと思います.自分で選べる自由を手にする反面,自分で何をすべきかを考えなければならないことは,高校生のときには考える必要のなかった新しい課題となります.この新たに手にする自由と上手に付き合えるようになれば学生生活は楽しくなるでしょう.しかし,誰かに決めてもらえないことが不安につながるとすれば,学生生活が楽しくなくなるかもしれません.そこで,これから始まる大学生活を充実させるためのヒントを3つ今日はお話したいと思います.

2. 好奇心をもって

まずひとつ目は,何事にも好奇心を持ってほしいということです.選ぶ自由というのは捨てる自由と表裏の関係ですが,まずは捨てる前に何か面白いところあるかも,と思う気持ちを持ってほしいと思います.迷ったらとりあえずやってみる,そして好奇心を持ってもらう,そういう順序の方がよいと思います.皆さんはまだ広島大学の中すべて見てはいないと思いますが,キャンパスは広くさまざまな施設があります.食堂も図書館も複数ありますし,課外活動の設備も充実しています.キャンパスに何があるのだろう,このキャンパスで何ができるのだろうと好奇心を持ってもらうというのは大学生活を楽しむ一番最初のきっかけになるでしょう.機会があれば,サークルやクラブを覗いてみるのもよいですね.工学部以外の人と知り合いになれるチャンスが生まれます.専門が違うと考え方も違います.工学部の学生はやっぱりちょっと理屈っぽいかもしれませんが,教育学部の学生はちょっと違うかもしれません.それに,皆さんと同じ世代の人たちだけでなく,学生から教職員まで様々な世代の人たちがひとつのキャンパスで勉強したり仕事をしたりしています.新しく出会うさまざまな人や環境はきっと皆さんの好奇心を引くことでしょう.

でも,もちろん,学生の本分である勉強は大事です.大学での講義は当然高校よりも難しくなります.もちろん,急に難しくなるわけではありませんが,これまで聞いたことのないような話や,少し聞くくらいではわからないような話も増えてくるでしょう.すぐにわからない話を聞くと最初は戸惑うかもしれません.でも,これってなんだろう,と思う気持ち,それが好奇心につながるのですが,忘れないでほしいと思います.わからなかったことがわかるようになる,そして単に知識を獲得するだけでなく,使いこなせるようになるときの喜びは格別です.いろいろなことに好奇心を持って臨むことができれば,少しつらいなと思う勉強もきっと乗り越えられるし,選んだことを後悔することもないと思います.

3. 自分への投資

2つ目は自分への投資についてです.投資というとどういうことが思い浮かぶでしょうか.株を買って,上がったら儲かって下がったら損する,そんなイメージでしょうか?投資のもともとの意味は資本,つまり事業活動を行うための元手を使って将来の資本を増やす行いのことです.ここでお話ししたい投資の対象は,自分,つまり人です.自分への投資は,自分の能力を使って将来の自分の能力を伸ばすことを指しています.みなさん,これまでの高校生活では,かなりかっちりしたレールが引かれていて,目標も,たとえば受験で合格するといった明確なものがある中で,自分の能力を使っていたと思います.しかし,大学は高校ほど目標が明確ではありません.大学あるいはその後の大学院の出口は,就職ということになると思います.もちろん自分の希望するところに就職できるかどうかは大事ですが,希望のところに就職できたらそれで終わりにはなりません.就職後の社会人としての生活は,学生生活全部を足しても,それよりもずっと長い時間になります.その社会人になるまでに,最後にたっぷりと自由が与えられる時間,それが大学生活だと思います.大学生活で与えられた時間を,自分自身の能力を使って自分に投資をし,できれば一生使える能力が伸びるといいですよね.

そのためには,将来何の役に立つのだろうとあまり考えすぎてはいけません.自分の将来,必ずしも自分の思い描いた道を進むとは限らないからです.どのような将来が待っていたとしても,学生時代もうちょっと頑張ればよかったと後悔しないためには,すぐに役立ちそうなものに限定せずいろいろ勉強してほしいと思います.卒業要件について後ほど教務委員の先生から説明があると思いますが,大学は卒業することが最大の目的ではありません.学生さん一人一人が自分を磨き,生涯にわたって役立つ能力を身に着けていただきたいと思います.それと,勉強だけでなく,余裕があれば,課外活動も楽しんでもらいたいと思います.私自身は学生時代水泳部に属していましたが,講義だけでは学べないさまざまな人生の知恵を学びました.そうした講義では学べないことが学べるのも課外活動のひとつの魅力だと思います.大学での自由を,自分の能力を高めるために最大限利用してほしいと思っています.

4. 多様性

3つ目は多様性をもつということについてです.ここで言う多様性は個人の性格のことを指しているではありません.どの分野に,より興味を持って深く取り組むことができるかという専門性の話です.これから与えられる自由をどのように使うか,それはみなさんそれぞれが考えることですが,人からアドバイスをもらうこともよいでしょう.今の時代はインターネットが発達しているのでさまざまな情報があふれていると思います.そして,こんなことが面白そうだよという情報もいっぱいあると思います.ただ,ひとつ注意してほしいのは,伝搬力が強いネット時代に生きている私たちは,ひとつの方向に流されやすくなっているということです.みなさんが生きている社会は大勢の人で成り立っています.多様な分野があり,それぞれの専門を活かして形作られる社会です.ビジネスとして華やかな分野もあれば,目立たないけど大事な分野もあるでしょう.今華やかな分野ばかりに目を奪われて,その分野で仕事することを全員が望んでいたとすればどうなるでしょうか.将来どの分野が成長するかは,10年後まではある程度見通せたとしても20年後を見通すのはなかなか難しい.みんなが同じ目標に向かってしまうと20年後には時代の変化にうまく対応できなくなっているかもしれません.そこで,できれば皆さんには与えられた自由を活かし,それぞれが多様な興味を持って様々なことに取り組んでほしいと思っています.ただ,たとえどの分野に進むにせよ,全員が力強く生き延びる必要があります.そのためには,専門以外にも目を向けてできるだけ多くの分野に興味を持つことも大事です.多くのことに興味を持って自分への投資をしていれば,時代に合わせて自分を変えることもできます.

話が少しそれますが,食べ物にはそれぞれ好き嫌いがありますよね.生まれてすぐの赤ん坊は,ミルクから始まり離乳食へと移行しながら,食べる訓練を積んでいきます.うまく食べられるようになって,いろいろな味を試していくうちに,味の好き嫌いが生まれます.もちろん,子供に好まれる味とそうでない味はありますが,すべての子供が同じ料理を好きにはなりません.味の好みも年を取るにつれて少しずつ変わってきます.私の場合,子供の時にはあまり肉料理は好きではなかったのですが,大人になるにつれて肉料理も好きになりました.今は脂っこい料理よりも和食が好きになっていますが,好みは自然と変わります.興味についても,今やりたいと思うこと,来年やりたいと思うこと,これから10年たってやりたいと思うこと,きっと変わると思います.人として成長し今まで見えなかったことが見えるようになった.そのために,自分のやりたいことが変わるのは自然なことです.たぶん,今君たちがやりたいと思っていることは,インターネットやほかの人から話を少し聞いたことがある,あるいは今まで自分が体験してきた範囲に含まれるのではないでしょうか.君たちが想像するよりも,ずっと大きな世界が未来には広がっています.すぐにはわからないことに,実は本当にやりたかったことが含まれているかもしれません.逆に,わかることが来年もし増えていなければ.自分に向いていた何かを見逃すことになるかもしれません.ぜひ,与えられる自由を活用し,自分自身への投資をして,いろいろなものが見えるようになって,本当のやりがいを見つけてください.好奇心を持って自分への投資が順調に回っていけば,自然と学生さんひとりひとりの多様性が生まれてくるはずです.そしてその結果生まれる多様性は,きっと皆さんだけでなく,周りの人までしあわせに暮らせる社会につながると思います.

5. おわりに

さて,みなさん,今日は自由が与えられる大学で充実した生活を送るための3つのお話をしました.1つ目は,いろいろなことに好奇心を持って取り組んでほしいということ.2つ目は,自分自身への投資を心がけてほしいということ.3つ目は,その結果,皆さん多様性を持ってほしいということです.みなさん,これから4年間ぜひ大学生活を楽しんでください.そして4年後のみなさんの成長した姿にお会いできることを楽しみにしています.