Research

先端集積システム工学研究室では,ミリ波からテラヘルツで動作する集積回路の研究を行っています.

ミリ波は,自動車の安全を守るためのレーダーや,携帯電話の次世代規格5Gでの超高速無線通信を実現する技術として使われている技術です.

ミリ波とそれより周波数の高いテラヘルツは光と電波の中間の性質を持つ電磁波で,技術的に取り扱いが難しかったことから,これまであまり使われていませんでした.最近のエレクトロニクスの進歩により実用化にようやくこぎつけられるようになってきました.

一方で,まだまだ技術的難易度が高いことから,ミリ波やテラヘルツを活用するデバイスの価格は高く,その優れた性質を幅広い分野で活用するに至っていません.

私たちは,無限の応用が広がるテラヘルツ領域を,人々に幅広く活用してもらえるように,価格の安いシリコン集積回路を用いたデバイスでの実用化を目指しています.


研究テーマ例


1.300GHz帯無線の研究

電波は有限の資源です.IoTでは,人だけでなくモノも無線を利用します.そのため電波のユーザが爆発的に増えています.何もしなければ,電波資源は枯渇してしまいます.そこで,電波資源を開拓する研究が世界中で進められています.その中のひとつに,テラヘルツ波を無線で利用する研究があります.テラヘルツ波は光と電波の間の電磁波です.テラヘルツ波は技術的に取り扱いが困難でした.乗り越えなければならない技術的な課題が多くあります.技術的な課題に挑みながら,私たちはテラヘルツ波の中の300GHz帯を用いた無線を研究しています.


2.広帯域増幅回路の研究

高速無線通信を実現するには,10GHzを超える広い周波数帯域を増幅する増幅器が必要となります.そのような増幅器は,平坦な周波数特性と低消費電力動作が必要です.このような増幅器の設計法について研究を行っています.


3.低雑音発振器の研究

高周波回路で良い性能を発揮するためには,発振器の位相雑音は低くなければなりません.位相雑音は,周波数の2乗に比例して悪化することが知られています.テラヘルツ波のような高い周波数での低位相雑音発振器の設計法を研究します.


4.超広帯域電源の研究

電源のインピーダンスは理想的にはゼロです.そこで,電源には,高周波で低いインピーダンスを示すデカップリングキャパシタが接続されます.しかしながら,寄生インダクタンスや寄生抵抗の影響で,デカップリングキャパシタのインピーダンスは実際には周波数が高くなると上昇します.私たちは300GHz以上まで低いインピーダンスを示すゼロオーム伝送線路と呼ぶデカップリングデバイスを開発しました.すべての周波数で理想的な電源の研究を行っています.


5.テラヘルツ実装の研究

回路が正しく動作しても,実際には,アンテナなどの外部デバイスと接続できない場合,回路は利用できません.集積回路を他のデバイスとつなげるための工程は実装と呼ばれています.テラヘルツにおいて,CMOS集積回路を低損失に実装する研究をしています.


6.テラヘルツレイアウトの研究

間取りが同じ家の場合でも,異なる設計では住み心地が変わります.同様に,同じ回路であっても,異なるレイアウト(集積回路の図面)では性能が変わります.そこで,電磁界シミュレーションなどを用いて,私たちは超高周波でも高性能を維持するレイアウトを研究しています.


7.通信システムの研究

通信システムを実現するには,無線回路にブレークダウンする前に,それぞれの要素に求められる性能を見積もる必要があります.この性能を見積るためのシミュレーションは機能シミュレーションと呼ばれています.しかしながら,テラヘルツでは多くの回路が新しく開発されます.そのため,既存のモデルを使ったままシステムをシミュレーションできません.そこで,最終性能を見積もる前に,回路設計と並行して,機能シミュレーション用モデルを構築しています.私たちはテラヘルツで効率的に機能シミュレーションを行う方法を研究しています.


8.周波数逓倍の研究

発振器単体で実現できる周波数の上限はトランジスタの動作限界周波数で決まってしまいます.それよりも高い周波数を合成するためには,周波数逓倍器を使う必要がありますが,テラヘルツで用いられる周波数逓倍器の効率は1%以下と極めて低く,ほとんどのエネルギーを無駄にしてしまうだけでなく,高い出力のテラヘルツ波を発生することもできません.そこで,周波数逓倍器の効率をあげるとともに,低雑音を実現できる周波数逓倍器の研究を行っています.


9.デバイスモデルの研究

集積回路を設計するには,普通は集積回路の製造メーカー(ファウンドリーと呼ばれる)から回路シミュレーションに用いるデバイスモデルが提供されます.このデバイスモデルが適切であれば,回路シミュレーションの結果は実測と良い一致を示しますが,テラヘルツで実測結果と合うモデルがどのようなものなのか誰にも分かりません.そこで私たちは,増幅回路に必要なトランジスタの線形特性が良い一致を示すだけでなく,発振器,ミキサ,逓倍器といったトランジスタの非線形特性を利用する回路でも実測とよい一致を示すモデルの研究を行っています.


10.高周波測定,評価の研究

測定器と集積回路があるだけでは必ずしも正しい測定ができるとは限りません.そもそも正しい測定とは,真値(リファレンスと呼ばれる)に近い結果が得られることでしょうが,周波数が高くなると真値を見出すことも困難になります.そこで我々は,リファレンスを適切に選び,測定法や校正法を工夫することで,物理的に見て正解に近いと思われるような測定技術の研究を行っています.