ほとんどすべての膜タンパク質は、小胞体膜上で合成され、その後、細胞内小胞輸送によって特異的な細胞内小器官や細胞膜に輸送されます。細胞内小胞輸送の分子機構解明が生物学において重要課題であることは平成25年度のノーベル医学生理学賞が小胞輸送の分子機構の解明に関わる3人の研究者、Randy Schekman(ランディ・シェクマン)博士、James Rothman(ジェームズ・ロスマン)博士、Thomas Südhof(トーマス・ズートホフ)博士に送られたことでも明らかですね
この20-30年間、細胞内小胞輸送の分子機構は培養細胞や酵母を用いて活発に研究され、多くの知見が得られてきたました。しかし多細胞生物の体を構成する細胞の多くは多方向性で調節性の小胞輸送機構を持っており、それにより複雑で多様な細胞形態を形成することで高次な機能を実現していますが、このような膜タンパク質の選別輸送(極性輸送)の分子機構はまだよく分かっていません。このような極性輸送の研究は、高等動物や植物中にin situ に存在する細胞を用いる必要があります。近年、これらの過程の欠損が様々な疾患をもたらすことが理解されるようになり、高等動物・植物を用いた膜輸送システムの研究が世界的に盛んになってきました。
私達の研究グループでは、ショウジョウバエ網膜を用いて膜タンパク質の選別輸送機能の研究に取り組んでいます。ショウジョウバエ視細胞は、頂端面の一部が増幅した光受容膜・その周辺のストーク膜・側底面膜・軸索とシナプスという少なくとも4つの明瞭に分極化した細胞膜区画を持ちます(図1)。私達は、視細胞のこの4つの膜区画を形作る選別輸送システムの全容を明らかにし、さらに視細胞以外の細胞における役割も検討していきたいと考えています。このために私達は独自に開発したロドプシン輸送開始実験法(図2)や簡便なロドプシンの細胞内局在観察法(図3)とショウジョウバエ遺伝学を組合せ、精巧な実験系を作り上げてきました。