有機ケイ素の化学とその利用(暫定版)
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ケイ素の性質と特徴シリコーンの製造シリコーン製品ポリシランページの最後

1.はじめに

 地殻を構成する元素を重量%順に並べたものはクラーク数と称される。ケイ素(28%)は2番目に位置しており、酸素(50%)に次いでリッチな元素であるが、長い間有機合成資源として利用される事なく放置されてきた。その理由は、ケイ素は地殻中に複合ケイ酸塩若しくはシリカなどの酸化物の形で多量に存在するが、それらは非常に安定であるため合成原料として利用しにくかったからである。そのため、煉瓦、陶磁器、セメント、硝子などのような無機酸化物の形態で利用されてきたに過ぎなかった。ちなみに有機化合物を構成する炭素はクラーク数14番目、わずか0.08%しか存在しない。

 有機化学すなわち炭素の化学は18世紀以来目覚ましい発展を遂げてきた。一方、有機ケイ素化学が発展したのは高々ここ50年である。しかしながら、ケイ素の優れた性質と機能が明らかになるにつれて有機ケイ素化学は最も注目される分野の一つとなってきている。本稿では、先ずケイ素の性質について述べ、次に現在汎用されているシリコーン系ポリマーの製造原理と概略を示す。また、現在新しい機能材料として注目を集めているポリシラン系ポリマーの動向にも多少触れたい。

2.ケイ素の性質と特徴 [1]

 ケイ素は周期律表第14族に属し、炭素の真下に位置する。その外殻電子配置は3s23p2であり、炭素の2s22p2と等電子構造である。このため炭素類似の性質を持ち、安定な4配位型化合物を容易につくる。例えば SiH4, SiCl4, SiMe4, SiO2 (tetrahedral)などである。名称はSiH4(シラン)誘導体としてつける。また、-Si-O-, -Si-Si-, -Si-C-, -Si-N- などの結合で連なった高分子をつくる。一方、ケイ素特有の性質も顕著に表れる。ケイ素の共有半径は1.17Åと炭素の0.77Åに比べて大きい。このため、炭素−ケイ素およびケイ素−ケイ素結合は炭素−炭素結合に比べてそれぞれ25%、50%程度長い。このためケイ素−ケイ素単結合まわりの回転障壁は小さく、また多重結合を作りにくい。またケイ素の電気陰性度は1.9であり、炭素の2.6よりかなり小さいため、ケイ素−炭素結合はSi(+)−C(-)に分極している。ケイ素−ハロゲン結合では分極は更に著しい。ケイ素−酸素結合は安定で非常に強いため、クロロシランは加水分解されやすく、シラノールと呼ばれる水酸化物となる。シラノールは容易に脱水縮合してシロキサン(Si-O-Si型化合物の総称)を与える。またケイ素は5配位、6配位のような高配位型化合物を容易につくる。

炭素とケイ素の性質の比較

3.シリコーンの製造法 [2]

 有機ケイ素化合物の歴史は古く、1823年にはBerzeliusがケイ素の単離に成功し、さらにSiCl4を合成している。1863年にはFreidel, CraftsがEt4Siを合成した。1904年にKippingはSiCl4とGrignard試薬の反応による有機ケイ素化合物の合成法を確立し、以降半世紀近くに及ぶ研究により有機ケイ素化学発展の基礎を築いた。今日Kippingの名は米国化学会が優れた有機ケイ素化学者に贈る学会賞名に冠せられている。
 ケイ素化合物が広く合成原料として利用されるようになったのは、1940年代に直接法(Rochow法)と呼ばれる工業プロセスが確立されてからである。直接法ではケイ素酸化物を炭素アーク炉で還元して得られる粗金属ケイ素を原料として、これを銅を触媒として塩化メチルと250-350℃で反応させることにより、ジクロロジメチルシラン(60-70%)を含む複雑な反応混合物を得る。クロロベンゼンを用いればフェニル誘導体も得られ、原料と反応条件を調節することにより、各種の有機クロロシラン類をつくることができる。得られた粗シランは分留により分けられ、需要の少ない留分は再分配反応や塩化水素によるクラッキングのプロセスを経て、有用なクロロシラン類に再変換される。

直接法(Rochow法)によるクロロシラン製造

 クロロシランの最大の用途はシリコーンと称される有機ポリシロキサンの製造である。シリコーンはシリカやケイ酸塩と同じSi-O-Si結合を主骨格とし、有機基で置換された構造の有機/無機混成型ポリマーである。製造原理はクロロシランを加水分解して得られるシラノールを脱水縮合させることによる。用いる原料とその比率、また適当な二次加工によりオイルからレジンに到る種々の形態の製品が製造される(下図参照)。シリコーンは半世紀前に市場に登場して以来、熱安定性、耐寒性、柔軟性、電気絶縁性、はっ水性、離型性、泡消性など優れた特徴を持つため、食品添加剤、繊維加工剤、ドライクリーニング剤、塗料、化粧品、電気・電子工業用、自動車工業用、建築用、医療用、宇宙技術用などとして広い分野で利用されるようになってきた。身近なところではソフトコンタクトレンズの成分、哺乳壜の乳首、ビール瓶コーティング剤、防水スプレー、浴槽の目張り剤、歯科治療の型どり剤、自動車エンジンルーム部品、床ワックスなどとして生活にも密着している。講演ではこれらの幾つかを例示する。
 1992年のわが国のシリコーン(シロキサン)製造量は全プラスチックス量の0.5%を占めており、金額ベースでは5%相当となっている。生産量はここ十数年は10%前後の伸びが続いている。粗金属ケイ素の製造には大量の電力を必要とするため、電力コストの高いわが国ではその全量を輸入に頼っている。わが国では信越化学、東芝シリコーン、東レ・ダウコーニング・シリコーンの3社が粗シランからのシリコーン製品の一貫生産を行っており、国内市場の約9割を占めていると云われる。

クロロシランからのシリコーン製造原理

シリコーンの基本単位と製品の形態別分類

4.シリコーン系ポリマー製品 [2]

(1)シリコーンオイル
 シリコーンオイルはシリコーン工業の基幹製品の一つであり、シリコーンの中でも最も汎用性に富む。使用形態もオイル単独のみならず、二次加工した応用製品の形でも大量に使用されている。シリコーンオイルはポリジメチルシロキサンを基本骨格とするが、これを化学修飾することで多くの製品が開発されており、ケイ素原子上の有機基の種類によりストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルとに大別される。ストレート型は、直接法で製造された各種オルガノクロロシランをそのまま用いて、加水分解、重合の工程を経てつくられる。一方、変性型は二次的に誘導される構成部分を持ち、クロロシランからのオイルに至る過程で他の有機物との反応工程を含むものである。これらは反応性の有無で分類することもできる。反応性のものには、ケイ素原子上に直接反応基がついたケイ素官能性のものと炭素を介して反応基を持つ有機(炭素)官能性のものとがある。また粘度によるグレード分けも重要である。
 シリコーンオイルは多くの優れた性質を持つため応用分野は極めて広い。一般的な特徴は、透明で、温度による粘度変化が小さく低温でも流動性を保っている、熱安定性が高い、化学的安定に優れている、生理的にほとんど不活性である、潤滑性が高い、電気絶縁性に優れている、表面張力が小さい、撥水性がある、離型性・非粘着性を付与する、などである。この特徴を生かして種々の用途に用いられている。代表的な用途は絶縁油、液体カップリング剤、緩衝油、潤滑油、熱媒、撥水剤、表面処理剤、離型剤、消泡剤、ワックス、化粧品原料、プラスチック添加剤、塗料添加剤、ウレタンフォーム整泡剤などである。

(2)シリコーングリース・オイルコンパウンド
 グリースとオイルコンパウンドは、シリコーンオイル(基油)と充填剤(増ちょう剤)を配合して固形状および半固形状にしたものである。金属石けん系の増ちょう剤を用いて主に潤滑を目的として使用されるものをグリースと呼び、また非石けん系のものを用いて電気・電子部品、機器などの電気絶縁・防水シールを目的としたものをコンパウンドと称することが多い。

(3)シリコーンゴム
 シリコーンゴムは重合度によってミラブル型シリコーンゴムと液状シリコーンゴムに大別される。ミラブル型は直鎖状で高重合度のポリオルガノシロキサン(生ゴム)を主原料とし、シリカ系の補強性充填剤、および添加剤を配合してゴムコンパウンドを調製し、ついで加硫剤を添加して加熱、硬化するタイプのゴムである。加工・成形工程を経て製造されるためミラブル型と呼ばれる。
 液状型は硬化反応の形により縮合型と付加型に分けられ、それぞれ一成分型と多成分型がある。一成分型では密閉容器からペーストあるいは液状物を押し出して、二成分型では混合して、湿気にさらすかまたは若干加熱することで硬化が始まり、容易にゴム弾性体が得られる。特殊な加工機・成型機を必要とせず、あまり熟練もいらない。機械的強度が比較的弱いこと以外はゴムとして要求されるほとんどの特性において優れていること、加工が容易なことから応用分野が広がりつつある。最近では導電性、熱伝導性、耐熱性を付与したものや、ゲル状、フォーム状のものまで開発されている。
 シリコーン系ゴムの第一の特長は熱安定性性が優れていることである。一般に200℃の空気中でも著しい物性低下はなく、長時間の使用に耐えることが出来る。低温側では-50℃でも柔軟性は失われない。耐オゾン性、耐候性にも優れており、また多くの極性有機溶剤に優れた耐性を持っている。また、シリコーン系ゴムおよびレジンは分子鎖距離が大きく、このため有機ゴムやプラスチックに比べてけた違いにガス透過率が大きい。シリコーンゴム膜が優れた選択透過率を示すことはよく知られており、この性質を利用して酸素富化装置などへの応用がはかられている。
 シリコーン系ゴムは各種の用途に広く使われている。一例をあげると、電線(電力ケーブル、耐熱用配線)、自動車工業(エンジンルームの各種材料)、電気機器(トランス、温水器チューブ、コンデンサ、複写機ロール)、食品・医用関連(自販機チューブ、哺乳壜ニップル、炊飯ジャー・電子レンジのパッキング、各種カテーテル、薬栓)、建築用(耐火目地剤、建築用ガスケット)などである。

(4)シリコーンレジン
 シリコーンレジンは、シリコーンオイルおよびシリコーンゴムなどの製品が主として2官能性単位で構成されているのに対して、分子中に3官能あるいは4官能性の単位を多く取り入れており、3次元網目構造が密であるため堅い皮膜や成型品を形成する特長がある。硬さ以外の性質はシリコーンオイル、シリコーンゴムの項で述べた性質と同様である。シリコーンレジンは、各種シリコーンワニスやシリコーンコーティング剤などの形で各種用途に広く使用されている。
 純シリコーンワニスは通常、2官能性単位と3官能性単位の組み合わせ、または3官能性単位のみからなる。基本的にはジクロロシランとトリクロロシランを組み合わせて加水分解することで製造される。純シリコーンワニスは、これをさらに高分子量化してキシレンやトルエンに溶解したものである。塗膜形成後に更に架橋して不溶化する。
 用途により、シリコーンレジン中間体とアルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、アクリル樹脂などを反応させて変性したワニスも製造される。耐熱性、電気絶縁性、耐水性、耐候性などに優れており、塗料用、電気用、積層板用に用いられている。

(5)コーティング用シリコーン
 シリコーンハードコート剤はシリコーンワニスの一種である。ワニスと異なる点は用途にあり、ワニスが無機材料表面への皮膜形成を目的としているのに対して、有機系プラスチック表面のコーティングを目的としている。希釈溶剤にはアルコール系のものが用いられる。反応性が極めて高く、保管には冷蔵庫が必要である。シリコーンハードコート膜はガラスに近い構造を持ち、基材の傷つきを防止することが本来の目的である。また、有機基材の紫外線劣化防止機能も合わせ持つ必要がある。  剥離紙用シリコーンは各種粘着物に対する優れた剥離性を生かして、粘着ラベル、テープ製品、剥離性シート製品などに広く用いられる。剥離剤にはシリコーン系のものと非シリコーン系のものがあるが、量的にはシリコーン系が圧倒的に多い。基材である紙は多孔質であるため、剥離剤の塗布に当たっては予め目止め処理が行われる。硬化機構は多岐にわたり用途によって使い分けられている。
 シリコーンエラストマーコーティング剤は、ゴム製品などの表面に固着防止処理を施す目的で使われる。例えば、自動車ドア、プリンターロールなどである。

5.ポリシラン系ポリマー

 近年、主骨格がケイ素−ケイ素結合からなる有機ポリシランは、シリコーンとは違う優れた特長をもつことが明らかになるにつれて、多くの研究者から注目されるようになってきた [3]。なかでも、主鎖がケイ素−ケイ素結合のみからなるポリシランポリマーや、ケイ素−ケイ素結合とπ電子系ユニットとの繰り返しからなるπ電子系−ジシラニレン交互ポリマーは興味深い紫外線特性や光反応性を示し、また適度の酸化ドーピングにより電導性を発現するなど、特有の優れた性質を示すゆえにセラミック前駆体、フォトレジスト材料、導電材料、発光材料、非線形光学材料などとしての応用の可能性が追求され、研究競争が益々激化している。
 現在、通産プロジェクト「ケイ素系高分子材料」が10年計画で進行中である [4-6]。目標は高い電子・光機能を有する材料ならびに優れた特性を持つ構造材料の開発で、企業、国研、大学が協力して基礎研究および材料開発に当たっている。炭素系材料では実現しがたい機能・物性を追求しており、対象としてはポリシランポリマーやπ電子系−ジシラニレン交互ポリマー、また一部にはシリコーン系材料が取り上げられている。

6.おわりに

 以上紹介したように、シリコーン系ポリマーの実用化はほぼ達成されていると言える。一方、ポリシラン系ポリマーの開発はこれからの分野である。21世紀初頭には新しいケイ素系高機能材料が続々開発され、実用化されていくことを期待する。本稿では紙面の関係で紹介したい多くのものを割愛した。また、シリコーン製造法ならびに製品に関しては東芝シリコーン社の資料 [2] から引用させて頂いた。厚く謝意を表したい。

参考文献

[1] Y. Apeloig, "Theoretical Aspect of Organosilicon Compounds" in "The Chemistry of Organic Silicon Compounds" ed. by S. Patai and Z. Rappoport, Chapter 2, John Wiley & Sons, New York (1989).
[2] 東芝シリコーン株式会社刊「新・シリコーンとその応用」(1994).
[3] 石川満夫監修「有機ケイ素戦略資料第1集」、サイエンスフォーラム、東京(1991).
[4] 第1回ケイ素系高分子材料シンポジウム予稿集、高分子素材センター、東京(1993).
[5] 第2回ケイ素系高分子材料シンポジウム予稿集、高分子素材センター、東京(1994).
[6] International Symposium on Silicon-Based Polymers, Abstracts, JHPC, Tokyo (1997).


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