問題
しかられないと勉強しない(真)
↓対偶
勉強するとしかられる(偽) これはどうしてか?です。
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その1(〜と,〜ならば:条件のイミ)
日常言語としての「しかられないと勉強しない」のイミ.
→「しかられない限り,勉強しない」「しかられてはじめて勉強する」つまり,「しかられると勉強する」という意味で,「しかられない」ときはどうしているかというと,「しかられ(てい)ないときは,勉強している」というイミ.
命題p, q をそれぞれ,肯定形で以下のように表す.
p : (私は)しかられる
q : (私は)勉強する(している)
さらに,「〜と〜」を「〜ならば〜」(条件:⊃)で表すとすれば,与えられた問題では,
「しかられないと勉強しない」は,このまま,条件(⊃)で表現できない(表現するとイミが変わってしまう).
条件(⊃)で表現するならば,
「しかられないときは(ならば),勉強している(する)」 〜p ⊃ q
↓対偶
「勉強しないときは(ならば),しかられる」 〜q ⊃ p
となるはず.
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その2(「しかられないと勉強しない」の「〜と」のイミ)
実は,上述のその1で,「しかられないときは(ならば),勉強している(する)」 のように,「〜とき」とか「している(する)」のように,時間の同時性を表現することばを使っていたのは,通常の命題論理では,時間性,時間の前後関係が問題になる原因・結果の関係を問題にしないで,無時間的に(同時に)成り立つ事柄を扱っているから.
そこで,与えられた問題の表現をもう一度見てみると,
しかられないと勉強しない
↓対偶
勉強するとしかられる
「しかられないと勉強しない」では,前件「しかられない」(時間的に先)は,後件「勉強しない」(時間的に後)に対して,時間的に先行する原因になっているけれども,「勉強するとしかられる」では,前件「勉強する」は,もともと時間的に後であったものが,前件に置かれたために,時間的に先行する原因になってしまっており,同じく,後件「しかられる」は,もともと時間的に先であったものが,時間的に後から生じる結果になっていることがわかる.つまり,この場合の「〜と」には,時間性のイミが(暗黙のうちに)こめられていたのに,それを無視して,機械的に対偶をとったために,イミが変わってしまったというわけです.
従って,対偶をとることによって,前件と後件の位置が入れ代わっても,時間的な前後関係が,もとのまま保たれるとすれば,
しかられないと勉強しない
↓対偶
勉強するとしかられる
このイミは,「(今)勉強しているならば,(さっき)しかられた(から)」ということになって,「勉強すれば,(勉強したことが原因となって)(これから)しかられる」というイミとはちがうので,全くおかしくないことになる.
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まとめ
問題に対する答としては,
1)その2にあるように,「〜と」(条件:⊃)が,時間性(前後関係,原因・結果)を無視する(逆転する)ことによって,一見するとおかしいように見えるが,時間性を保持して,対偶の「勉強するとしかられる」を「(今)勉強しているならば,(さっき)しかられた(から)」とすれば対偶の真理値も同じ(真)と答えられる.
2)しかし,通常,時間性を考慮しないでもなりたつ命題どうしの関係を扱う命題論理の範囲内で,記号化するためには,
日常言語の「しかられないと勉強しない」のイミを解釈して,「しかられないときは(ならば),勉強している(する)」とすれば,対偶は「勉強しないときは(ならば),しかられる」となって,やはり,対偶の真理値も同じ(真)になる.
以上です.
2003.05.29. 文責:赤井清晃(あかいきよあき)