論理学II(2005.01.26および02.02.)補足&課題プリント
I. 多項述語
述語は,それにつく項の数によって,単項述語・多項述語(二項述語,三項述語・・・n項述語)に分類される.
1.単項述語
洋隆をa,「・・・は評論家である」をFとすると,
「洋隆は評論家である」は,Fa [単称命題]
洋子をb,「・・・はよく笑う」をGとすると,
「洋子はよく笑う」は,Gb [単称命題]
「すべての評論家はよく笑う」は,∀x(Fx⊃Gx) [全称命題]
「ある評論家はよく笑う」は,∃x(Fx∧Gx) [存在命題]
2.多項述語
それぞれの多項述語は,個体記号を置く順序が決まっている.
(a)二項述語
太郎をa,次郎をb,「・・・は・・・の兄である」をFとすると,
「太郎は次郎の兄である」は,Fab
ロシアをc,台湾をd,「・・・は・・・より広い」をGとすると,
「ロシアは台湾より広い」は,Gcd
(b)三項述語
太郎をa,洋子をb,次郎をc,「・・・は・・・を・・・に紹介する」をFとすると,
「太郎は洋子を次郎に紹介する」は,Fabc
名古屋をd,東京をe,大阪をf,「・・・は・・・と・・・の間にある」をGとすると,
「名古屋は東京と大阪の間にある」は,Gdef
(c)個体定項を含む二項述語
太郎をa,「・・・は・・・を愛している」をF,個体領域を人間の集合とすると,
「太郎はある人を愛している」は,∃xFax
「ある人は太郎を愛している」は,∃xFxa
「太郎はすべての人を愛している」は,∀xFax
「すべての人は太郎を愛している」は,∀xFxa
3.量化記号の順序
例えば,二項述語の場合,∀x∀yFxy は,∀x(∀yFxy) のカッコを省略したものである.(1)全称記号どうしの場合と(2)存在記号どうしの場合は,それらを入れ替えてもそれらの命題は等値である.
(1) ∀x∀yFxy 「すべての人はすべての人を愛している」
∀y∀xFxy 「すべての人はすべての人を愛している」
個体領域を(a, b)として,上記の命題を展開すると,
∀x∀yFxy≡∀x(∀yFxy)
≡∀yFay∧∀yFby
≡(Faa∧Fab)∧(Fba∧Fba)
∀y∀xFxy≡∀y(∀xFxy)
≡∀xFxa∧∀xFxb
≡(Faa∧Fba)∧(Fab∧Fbb)
∴∀x∀yFxy≡∀y∀xFxy
(2) ∃x∃yFxy 「ある人はある人を愛している」
∃y∃xFxy 「ある人はある人を愛している」
問題3(2) 個体領域を(a, b)として,上記の(2)の命題を展開し,等値であることを示しなさい.
次に,全称記号と存在記号が混在する場合は,その順序の違いによって,命題の意味が異なることを示す.
(3) ∀x∃yFxy 「すべての人はある人を愛している」
∃y∀xFxy 「ある人がすべての人によって愛されている」
個体領域を(a, b)として,上記の命題を展開すると,
∀x∃yFxy≡∀x(∃yFxy)
≡∃yFay∧∃yFby
≡(Faa∨Fab)∧(Fba∨Fbb)
∃y∀xFxy≡∃y(∀xFxy)
≡∀xFxa∨∀xFxb
≡(Faa∧Fba)∨(Fab∧Fbb)
従って,等値ではない.
(4) ∃x∀yFxy 「ある人はすべての人を愛している」
∀y∃xFxy 「すべての人はある人によって愛されている」
問題3(4) 個体領域を(a, b)として,上記の(2)の命題を展開し,等値でないことを示しなさい.
II. 同一性
1. 同一性の関係
(1)「Bolzanoは,Wissenschaftslehre(4Bde, 1837)の著者である」に関して,
Bolzano(ボルツァーノ)をa,Wissenschaftslehre(4Bde, 1837)の著者をbとすると,上記の文は,「aとbは同一である」と主張していることになる.これを同一性の関係と呼び,記号=によって,
a=b
と表すことにする.ところで,(2)「Bolzanoは,哲学者である」という場合,「・・・は哲学者である」をFという述語で表すと,
Fa
となるが,(1)の「・・・である」と(2)の「・・・である」は,意味が異なる.
(1)は,同一性を表す「・・・である」であって,「aはbと同一(人物・もの)である」という意味であるが,(2)の「・・・である」には,同一性の関係を表しておらず,「aは,Fであらわされる集合に属する」という意味である.
さらに,数学では,= を等号と呼んで,例えば,二等辺三角形ABCの等しい二辺ABとACについて,
AB=AC
と表記し,辺ABの長さと辺ACの長さが等しいことだけを表現している.これは,論理学で用いる同一性の = とは意味がことなる.論理学の同一性の意味で理解すれば,辺ABと辺ACが長さだけでなく,辺そのものが同一の辺であることになってしまうからである.
2. 同一性の記号化
(1)同一性は,反射性・対称性・推移性をもつ.
a=a は,恒真である.
〜(a=b) を a≠b と表記する.
∀x(x=x) 「すべてのものは自分自身と同一である」(反射性)
∀x∀y((x=y)⊃(y=x)) (対称性)
∀x∀y∀z(((x=y)∧(y=z))⊃(x=z)) (推移性)
(2)同一性の代入可能性
もし,a=bであれば,aについて言えることは,bについても言える.
「Croceは,Filosofia dello Spirito(1902-1917)の著者である」
「Croceは,二度文部大臣になった」
Croce(クローチェ)をa,Filosofia dello Spirito(1902-1917)の著者をb,「・・・は二度文部大臣になった」をFで表すと,
「Croce = Filosofia dello Spirito(1902-1917)の著者」であれば,その場合,
「Croceは,二度文部大臣になった」が真であれば,
「Filosofia dello Spirito(1902-1917)の著者は,二度文部大臣になった」も真である.
a=b,Fa ∴Fb
これは,同一性の代入可能性を表わしている.より一般的には,次のように表現できる.
∀x∀y((x=y)⊃(Fx≡Fy))
これはまた,外延性の原理とも言われる.すなわち,二つのものが同一であれば,一方について成り立つことは,他方についても成り立つ,という原理である.
(3)数表現の記号化
「少なくとも一つのFがある」は,∃xFx と表現できた.
さらに,「少なくとも二つのFがある」は,=の否定≠を用いて,次のように表現できる.
∃x∃y(Fx∧Fy∧(x≠y))
「少なくとも三つのFがある」は,同様に次のようになる.
∃x∃y∃z(Fx∧Fy∧Fz∧(x≠y)∧(x≠z)∧(y≠z))
一般に,「少なくともn個のものがFである」は,次のようになる.
∃x1・・・∃xn (Fx1∧・・・∧Fxn∧(x1≠x2)∧・・・∧(x1≠xn)∧(x2≠x3)∧・・・∧(x2≠xn)∧・・・∧(xn−1≠xn))
また,「高々(多くても)一つのものがFである」は,「少なくとも二つのものがある」の否定だから,
〜∃x∃y(Fx∧Fy∧(x≠y))
となり,量化子を交換すると,次のようになる.
∀x∀y((Fx∧Fy)⊃(x=y))
一般に,「高々(多くても)n個のものがFである」は,次のようになる.
∀x1・・・∀xn+1((Fx1∧・・・∧Fxn+1)⊃((x1=x2)∨・・・∨(x1=xn+1)∨(x2=x3)∨・・・∨(x2=xn+1)∨・・・∨(xn=xn+1))
また,「ちょうど(きっかり)一つのものがFである」は,「少なくとも一つの,そして,高々一つのものがFである」となるから,
∃xFx∧∀x∀y((Fx∧Fy)⊃(x=y))
となる.これは,次のようにも記号化できる.
∃x(Fx∧∀y(Fy⊃(x=y)))
「ちょうど二つのものがFである」は,次のようになる.
∃x∃y(Fx∧Fy∧(x≠y)∧∀z(Fz⊃((z=x)∨(z=y))))
一般に,「ちょうどn個のものがFである」は,次のようになる.
∃x1・・・∃xn(Fx1∧・・・∧Fxn∧(x1≠x2)∧・・・∧(x1≠xn)∧(x2≠x3)∧・・・∧(x2≠xn)∧・・・∧(xn≠xn+1)∧∀xn+1(Fxn+1⊃(xn+1=x1)∨・・・∨(xn+1=xn)))
課題:問題3(2)および問題3(4)を解いて,2005年2月15日中にA663まで提出すること.問題の意味,解法について疑問がある場合は,2月15日までに直接質問に来ること.全部解けなくても,必ず提出すること.