熱力学は温度が関与する巨視的な現象を対象とする。巨視的(マクロ)な現象とは,膨大な数(例えば1モル)の分子・原子や,電磁波・光などの輻射の集団が起こす現象である。
熱力学の法則により,自然界における変化の向き,最終的な安定状態が決まる。物質の状態変化や化学反応,電磁波の輻射が関与しうる全ての現象・分野の基礎となることで,巨視的な系である地球環境あるいは宇宙も適用対象となり,高い普遍性を有する。
熱力学の法則は,分子・原子や輻射の集団の統計的振る舞いによって巨視的な現象が引き起こされることを前提とはしていない。「温かさの異なる2物体を接触させると,必ず一方向に変化が生じ,最終的には2物体とも一様な温かさの状態に至る」という,私たちの普段の経験に基づく。さらには,全体としてはどのようにしても元に戻すことができない不可逆過程が存在することを認める。その上で,実験により確認された熱の仕事等量や内部エネルギーを加えたエネルギー保存則の下,論理的に整理することで,エントロピー増大の原理を含む熱力学の諸法則が得られる。巨視的現象が必ず従うべき,これら諸法則から成る学問体系が応用にも活かされている。
そのような立場から,上記日常経験に基づく最小限の前提による伝統的な手法に沿った解説を詳細に進める。
(参考0)
熱力学第0法則による温度の定義
<
熱力学 まとめ>(熱力学 講義ノート)の内容
1熱平衡と温度:
熱平衡,熱力学第0法則,力学平衡,温度,理想気体, ボイル-シャルルの法則,絶対温度,状態量,状態方程式,圧縮率
2熱力学第1法則と第2法則:
仕事,熱,熱の仕事当量,内部エネルギー,熱力学第1法則,熱力学第2法則,クラウジウスの原理,トムソンの原理,熱機関,サイクル,熱源,可逆・不可逆過程,永久機関の不可能性
3可逆過程1(具体的な可逆操作,理想気体):
可逆過程とは,昇降温時の熱容量,断熱変化,理想気体の性質,可逆熱機関としての理想気体のカルノーサイクルとスターリングサイクル
4可逆過程2(一般の過程,エントロピーの導入):
カルノーの定理1,熱力学温度,クラウジウスの定理1,エントロピーの定義,理想気体のエントロピー
5不可逆過程(エントロピー増大の原理):
カルノーの定理2,クラウジウスの定理2,エントロピー増大の原理,理想気体の断熱自由膨張
6熱力学第3法則:
熱力学第3法則,絶対零度の到達不可能性
7可能な変化と熱力学関数:
最大仕事の原理,エンタルピー,ヘルムホルツ自由エネルギー,ギブズ自由エネルギー,ギブズ-ヘルムホルツの式,マクスウェルの関係式,熱力学的状態方程式
8熱力学的平衡条件と熱力学不等式:
熱力学的平衡条件,熱容量,圧縮率
9粒子数が変化する系:
化学ポテンシャル,ギブズ-デュエムの関係式,部分系間の熱力学的平衡条件
10 相平衡:
1次相転移,相図,2相共存,クラペイロン-クラウジウスの式,ル・シャトリエの法則(平衡移動の法則),ギブズの相律,過冷却・過加熱
11 化学平衡:
理想気体の混合のエントロピー,化学平衡の法則 (質量作用の法則),反応熱,ル・シャトリエの法則
<熱力学の基本法則>
第0法則 (温度の定義)
熱的な釣合い(熱平衡)を表す状態量として温度が定義される。
第1法則 (第1種永久機関の不可能性,エネルギー保存則)
物体のもつ内部エネルギー(物体を構成する分子・原子の総エネルギー)について,力学的な仕事による変化に加え,熱の仕事当量に基づく加熱・冷却による変化を取り入れる。
第2法則 (第2種永久機関の不可能性,巨視的変化の不可逆性)
エネルギー保存則に反しない全ての巨視的な変化が自然に(自発的に)起こりうるとは限らない。
ある種の巨視的な変化は一方向にしか起こらない(不可逆である)。
第0-2法則により,平衡状態について熱力学温度目盛とエントロピーを定義することができ,第2法則の1つの表現となるエントロピー増大の原理が導かれる。
第3法則 (絶対零度について)
「絶対零度」は到達不可能な極限の最低温度である。
「エントロピー」の基点となることが,量子力学により根拠づけられる。
熱力学的平衡条件,熱力学不等式
安定で一様な平衡状態の存在,平衡状態へと向かう自発的な変化を保証する条件式。
熱力学法則の応用
自由エネルギーなどの熱力学関数の導入。
物質の集合状態(相)変化への適用。
物質の化学反応への適用。