高分子結晶化のモルフォロジーとキネティクス

結晶性高分子の結晶化では非常に複雑で多彩な高次構造が自己組織化されます。すなわち、直鎖状の分子鎖の束ねられた周期構造が結晶構造の基本単位となりますが、通常の高分子結晶化では、分子鎖が途中で折り畳まれて結晶化します。規則正しく折り畳まれた分子鎖が整然と配列されていると考えられているのが、希薄溶液から結晶化させたときに得られる単結晶です。一方、溶融体からの結晶化では、この薄い板状の単結晶が分岐を繰り返しながら三次元空間を充填していき、球晶などの高次構造を作ります。最終的には球晶の集合体が高分子材料となるわけです。
 結晶成長理論の大家 Sir Charles Frank のことば「モルフォロジーを理解した人間は、結晶成長を理解した人間である。」にもあるように、高次構造を理解することと結晶の成長キネティクスを解明することは表裏一体の関係にあります。私たちは、このような観点に立って高分子結晶化のモルフォロジーとキネティクスについて研究を進めています。

1.モルフォロジー
下図はポリエチレン単結晶の電子顕微鏡写真とその概念図です。図c、dのように {100} 面が丸みを帯び、極端な場合には丸みを帯びた {100} 面のみで単結晶が作られる場合もあり、2次元形態は様々な変化を見せてくれます。3次元形態に関してもポリエチレンではテント型・イス型の形態が見られます。私たちは、このようなモルフォロジーを光学顕微鏡、電子顕微鏡、原始間力顕微鏡などを駆使して観察しています。

2.キネティクス
高分子の結晶化は厚さ一定の成長面上で分子鎖が折り畳まれていく過程なので、下図のように1次元基底上での kink・anti-kink の生成・移動・消滅のキネティクスとして記述可能です。私たちは、このモデルを用いて成長様式や成長面の丸みに関する議論しています。

[参考文献]
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