灼かれる子供たち

――劣化ウラン氈\―

御庄博実

 

ふかぶかとした絨毯の特別室

国際政治という壁を越えてきた

イラクの二人の医師と話している

被爆医師として僕は「いのち」について問われている

腕に余る重さに耐えながら

 

一九九一年の湾岸戦争

撃ち込まれた劣化ウラン弾

九十五万発・三百二十トン

戦車の鋼板を貫く高熱で

約半分が金属蒸気(ヒューム)になる

半減期四十五億年という

α放射線が撒き散らされた

 

肺胞に入り

血液に取り込まれ

その日から α線を吐きつづけ 

ふれるもの凡てを焼きつくす

じりじり増えつづける「がん」

ふくれ上がった甲状腺 破れた口蓋

異形の細胞と ゆがむいのちと

 

十二才の少女の乳がんを診たことがありますか?

市内の病院のベットは

白血病やがんに冒された子供たちであふれているのです

ヒロシマはどんなでしたか?

バスラ大・腫瘍学の

アルアリ教授の言葉は熱い

 

バスラ地区の「がん死亡率」

肺がん・乳がん・子どもの皮膚がんと奇形

右肩上がりに昇りつづける

十年間で五倍増のグラフは

果てしなく続く迷路か

 

 文明が育ったメソポタミアの

 劣化ウランに汚され

炎で灼かれた 大地

億年という暗渠に 陥ちるのか

アラブの母たち 子どもたち

僕の心も灼かれて陥ちる

 
私の胸のふくらみに

――劣化ウラン――

御庄博実

 

わたしのふくらみはじめた心は花のよう

わたしの髪に飾られたサフランの

薄紫の匂いが好き

わたしは小さな橋をわたり

ムハマド先生の学校に行く

 

 わたしの胸の

やわらかいふくらみに

いつの頃からか冷たい罅が入り

ひびは日ごとに深くなり

ひびは日ごとに固くなり

やわらかなこころが声をあげ

 

胸の芯に切り込まれた冷たい罅が

わたしの心にとげを刺す

わたしは朝 山羊の乳しぼりをし

小さな橋をわたって学校へ行く

おはよう わたしの友達 わたしの先生

 

日ごとに深くなり

日ごとに冷たくなり

日ごとに固くなる

わたしの胸のいたみ

ある日「がん」だといわれたの

その言葉が何であるかを

わたしは知らない

わたしはいつか死ぬのだと

かあさんが泣く

山羊のシロの乳が

こんなにもおいしい朝なのに


広島花幻忌の会『雲雀』第3号、2003年、pp.3-6.


HP管理者から:著者からの2003年7月10日付けおよび2003年8月14日受領の手紙による指示に基づいて一部改訂しました。