アリババの子供たち

――劣化ウラン」――

御庄博実 

 

チグリス ユーフラテス

八千年まえ 緑豊かな

人類文明発祥の大地

いま 無人の砂漠を

砂塵を巻いて走るアメリカの戦車の列

僕の胸内で 嵐が吹き

二本の轍が 血を流す

 

バグダッドの夜を裂いて

火箭が飛ぶ

無数の火箭が飛び続ける

火箭は僕の胸に突き刺さり

火箭は君の胸に突き刺さり

あなたの一言が

僕の脳髄に突き刺さる

 

バグダッド大学医学部

フサーム・ジョルマクリ先生

「白血病の子供が こんなにも増え続けているのです

「これ以上 いくさで人々が傷つくのは 止めてもらいたいのです

 

僕に何ができる

僕に何ができたか

僕は何も答えることができない

僕の心は 声をあげて泣いている

 

両腕を失った

十歳の アリ・アッバス君

「僕の両腕を返してください

僕は働きたいのです

腕が返らないのなら

僕に死をください」と 言う

 

両腕を失った

アリババの子供は

壊れた壺になって

科学兵器の アリ地獄の

砂のなかに埋まってしまうのか


尋ねるな 教えるな

――劣化ウラン、――

御庄博実

 

機密の膨大な資料が入ってくる

机上の細密地図に

標的の座標をプロットする

大統領宮殿であろうが

名も知らぬ部屋であろうが

目標を如何に破壊するか

最高・最強の方法を指示する

俺の仕事さ

 

狙った目標は絶対だ

あらゆる武器がある 勿論

劣化ウラン弾頭のバンカーバスター・五○○ポンド

最新の誘導装置を組み込んでいる

鋼鉄での強化バンカーの破壊に

他のどんな爆弾が役立つかネ

バグダッドの繁華街も砲撃したサ

破壊することが目的だからね

二万台以上の軍用車両も破壊した

 

劣化ウラン弾はテレビで見ればすぐわかるサ

爆発すると白いオレンジの炎をあげて燃える

花火みたいだ 特に夜はね

テレビ効果もいい

ペンタゴンは 視聴率も気にしているしね

 

劣化ウランが健康に大きな危険があることは

ペンタゴンは知ってるサ

イラクには 高度汚染地区の指定がいくつかある

バスラ・ジアリバー・タリル周辺・南部砂漠地帯など

バクダッドの一部も汚染されている

サウジアラビアの射爆地もだ

米国内に極端に汚染された射爆地もある

極秘だね

「尋ねるな・教えるな」だ

 

俺の軍隊が汚染されているか?って

「尋ねるな・教えるな」といったろう

敵の軍用車両も完全に破壊するのだ

一つのこらず

二度と戦うことができなくなるまでにだ

大量の砲弾が必要だった

25ミリ・30ミリ・120ミリ貫通砲弾だ

知る限る使われた劣化ウランは五○○トン以上だね

俺は俺の仕事を完璧にこなしたと自負している

(注・某米軍上級将校の発言より)

 


広島のなかのイラク

――劣化ウラン・――

御庄博実

 

鯉城どうり 袋町

日本銀行 広島支店

花崗岩造りの ゴチック風

五十八年まえ

一瞬の閃光に

渦まき 融け

崩れ 燃え上がった叫喚のなか

爆心より三百メートル余

地下深く鋼鉄の金庫を守った

飛び散るガラスで

事務室は血染めとなり

壁にはいまも深い傷あとが残っている

 

威風を正すというべきか

ギリシャ神殿風の

四本の石柱の影に

あの日の 炎がにおってくる

あの日の うめき声が聞こえてくる

屋内は 床も階段も

幾百人かの被爆者で埋められ

僕は一人ひとりを確かめる

僕は死の影をたどっていた

 

今日 五十八年前の部屋に

焼け焦げた イラクの

風景がひろげられている

『戦乱のバクダッド・三十日間』

豊田直巳 写真展だ

ミサイルで打ち抜かれた天井に

肉親の死者を嘆く老人が

両腕をひろげ 僕を迎える

 

直撃された市場の家族を

母親のブルカにすがって

黙って見つめている少女の瞳

五十八年前のヒロシマが

声にならないM子のうめきが

目をおおう母親の

黒いブルカから聞こえてくる

 

両腕を失った

アリ・アッバス君は何処へいった

父さんと兄さんたちを亡くした

イラクの少女は

今宵何処で眠ったか

僕はいつのまにか

バグダッドの打ち抜かれた市場にいて

濡れた少女の瞳のなかにいる