長津功三良『詩集 影たちの葬列』(幻棲舎、2003年)より


白い鴉

 

いちばんうえのあにきゃのや ピカにおぉてもおらんのに

げんばくびょうで しによったんや

いわくにのねんりょうしょうに つとめとって

なんにもしらんとからに

すぐ きゅうえんに いかされたけぇね

 

  投下された新型爆弾で 熱線と 爆風・火災などで

  やられたが ほかにガンマ線と 中性子が

  爆発点付近から 大量に放射されていた

  中性子は ウランやプルトニュウムの原子核が

  分裂するときに発生

  初期放射能は 物質への透過力が非常に強力で

  人体内部にも 深く浸透して 組織を破壊する

 

ひろしまが やられたちゅうて めいれいでいかされて

そのこらぁ みんな なんもしりゃぁせんけぇ

みんなといって いっしょうけんめい

きゅうえんかつどう したげな

 

  爆心地における放射能数値(単位 ラド)

  広島 ガンマ線10300 中性子 14100

  長崎 ガンマ線25100 中性子 3900

  広島が 残留放射能が強く

  長崎は 直射の影響が強い

  人体の全身が受ける放射能の許容量は

  一年間に 約0.5ラド と考えられている

 

からだに ちからが のうなってしもうち

あつい あつい ちゅうて くるしんでの

そのこらぁ わしぁこどもじゃったろう

まいにち あいたにへ こおりを かいにやらされての

いえのもんも できるだけのこたぁ

しちゃったんじゃが

なんぼぉ こおりで ひやしゃっても

あつい あつい

ちゅうて くるしんでの めもあてられんかったい

 

  大火災は 火事嵐を 伴う

  広島では 爆心地から 北西方面に

  広範囲に 長時間 降った

  すさまじい火の海で発生した 大量の塵を含んだ

  油っぽい 粘りけのある 黒い雨であった

 

きいた はなしじゃが

ひとときは ひどいあめじゃったげな

まなつで やけどで のどがかわいて しょうがないけぇ

のもうと おもったら みずたまりにあぶらみたいなもんが

ういとったんじゃと そんでも

ほしゅうて しょうがないけぇ のんだんじゃと

 

  黒い雨 には

  ウラン またはプルトニゥウムの 核分裂で出来た

  放射性元素(死の灰)が大量に含まれ

  ひとらは この雨に 打たれ

  溶け込んだ 水槽や 川の水を 飲んだ

 

きゅうえんにいっち

みんな みるもむざん じゃったと

でも あにきゃ なんもしらんと

あのこらぁ だれも ほうしゃのうのこたぁ

しりゃあせんが

めいれいのまんま ひろしまぁへ いっち

じぶんも むざんなもんや

おんなも しらんとからに

しんじ しもぉた

 

  広島の夏は 内海を抱え

  夏は 夕凪があり

  暑い日が 続く

  空は あくまでも 碧蒼(あお)く 深い

  そんな日の たそがれどき

  旧産業奨励館(ゲンバクドーム)のあたり

  うすい かすれたかげの

  しろい からすの

  むれ とぶのが

  みられる


そして誰もいなくなった

 

父の話を 聞いておけばよかった

そのときに あのときに

 

母の話を 聴いておけばよかった

そのときに あのときに

 

ひろしまでは

被爆者の平均年齢が 七十を 越えた

 

  どうする

  いま 話をきいとかにゃぁ もう聞けんど

 

  そんでも あんひとたちゃぁ めをそむけち

  あんまり はなしたがってんないのよね

  そぉはいぅが もうじゅうねんもたっちみい

  みんな しんだりぼけちしもうて だれも

  はなしちゃぁ くれんようになるで

 

時間 という 消しゴムが

人間たちの 昨日の記憶を 消し始めている

 

あの話 聞いとけばよかった あのひとに

あのとき ちょっと ついでに声かけちみりゃよかった


HP管理者より:2003年8月15日に開催された「8.15原爆・反戦詩を読む市民の集い」で朗読された詩を収録しました。なお、本HP掲載については著作権者本人の了解を得ております。