広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 分子病理学研究室

主な成果

消化管癌・泌尿器系癌についての解析から、癌の発生・進展過程における遺伝子・分子異常の多様性と形態との関連、新しい診断・治療標的同定におけるSAGE法・CAST法の優位性、microRNA制御と癌幹細胞の重要性、遺伝子多型と癌の発生・進展との関連、等を明らかにしています。
具体的事項を以下にご紹介します。

消化管癌の分子病態

長年にわたる分子病理学的解析から、消化管癌にみられる遺伝子・分子の異常には、組織型で見ても共通性と特異性があることを明らかにしてきました。
DNAのメチル化・ヒストンのアセチル化、microRNAによる制御等のエピジェネティクな異常の重要性も指摘しています。
消化管癌の分子病態

消化管癌と前立腺癌の網羅的遺伝子発現解析–SAGE法とCAST法–

SAGE法による食道癌、胃癌についての網羅的遺伝子発現解析において、様々な興味ある知見を得ています。胃癌では世界最大のSAGEライブラリーを完成し、NCBIのdatabaseに登録(GEO: GSE545)し、世界に情報発信しています。
 胃癌と正常粘膜のSAGEライブラリーの比較および定量的RT-PCR解析によって、CDH17、YF13H12、APOE、FUS等が胃癌で高頻度に過剰発現することを見いだしました。生存に必須の14臓器のライブラリーの比較および定量的RT-PCR法により、APIN, TRAG3, CYP2W1, MIA, MMP-10, DKK4, OLFM4, REGIV, HORMAD1の9遺伝子が胃癌に特異的に発現することを同定しています。また、CLDN18の発現低下が腸型胃癌に特徴的であることを示しました。食道癌では、ADAMTS16やNRD1が、正常粘膜と比較して高発現することを突き止めました。
 CAST法による胃癌および前立腺癌についての解析から、胃癌では、DSC2、TSPAN8、TM9SF3、ZDHHC14などが、前立腺癌ではSTEAP1、ADAM9、CDON、NBL1、TMEM50B、PRL1などが特徴的な発現態度を示すことを明らかにしました。

新規同定遺伝子の診断・治療標的としての意義

様々な分子生物学的、細胞生物学的解析および臨床検体における検証から、新規に同定したいくつかの遺伝子の診断・治療標的としての意義を明らかにしました。
 REGIV蛋白は、EGFRの活性化を介して細胞増殖を亢進、アポトーシスを抑制すること、マウスモデルでは転移を促進すること、5-FUに対して抵抗性になること、などが分かりました。さらに、REGIVとOLFM4は共に分泌蛋白であり、ELISAによる血清値の測定では、胃癌患者での陽性率(診断感度)は57%、CEAやCA19-9に比べて4倍近くの感度を示しました(特願2008-005023)。一方、食道扁平上皮癌では、ADAMTS16が新しい診断・治療のターゲットとして有望であることを示しました(特許第5055543号)。NRD1についても同様の傾向を認めています。
 CAST法による胃癌解析で同定した遺伝子群では、TSPAN8およびTM9SF3が癌細胞の増殖・浸潤に関与し、不良な予後と相関することを見いだしています。前立腺癌では、CDONが細胞浸潤や5-FU耐性に関与すること、NBL1の発現は前立腺特異的であり、癌の進行とともに発現が低下すること、などを明らかにしました。

病理形態と遺伝子・分子の異常

胃癌は、腺管形成による形態学的な分類(高分化と低分化)に加えて、発現する粘液の特徴から胃型と腸型に分類することができます。胃型では、OLFM4、TSPAN8、miR-486の発現亢進、腸型では、REGIV、CDX2、DSC2、MDR1、HOXA10の高発現とCLDN18の発現低下が特徴的であることを示しました。また、肝細胞癌に類似した形態を示す肝様腺癌の組織マーカーとしてPLUNCが有用であることを見いだしました。
 大腸癌においても割合は多くありませんが、胃癌に類似した組織形態を示す症例があります。これらは、MUC5AC陽性、CDX2陰性の傾向にありますが、CLDN18が特異的に発現してきわめて予後不良であり、CLDN18が独立した予後因子であることを明らかにしました。

胃癌と泌尿器癌における非翻訳RNA

胃癌についてのmicroRNAマイクロアレイによる解析から、miR-125b、miR-199a、miR-100などの発現は胃癌の進展と相関し、Let-7, miR-214, miR-433の発現は予後因子となることを見いだしました。また、miR-148aは、胃癌ではメチル化によって発現が低下していること、MMP-7をターゲットとし癌細胞の浸潤に関わることを示しています。一方、miR143/145は一般に胃癌では発現低下していますが、スキルス型胃癌組織では発現が保たれていることを見いだしました。miR143/145の主な発現細胞は、癌細胞ではなく間質の線維芽細胞であり、TGF-βと協調しコラーゲンの産生を制御していました。また、miR143/145高発現例は有意に予後不良であることを突き止めました。
 腎細胞癌では、miR-155およびmiR-486の発現は一般に亢進していましたが、進行期のステージIII/IV症例では、miR-155の低発現例、miR-486の高発現例が予後不良であり、予後因子となる可能性が示唆されました。

 Transcribed Ultraconserved Region (T-UCR)は、生物種をこえて配列が保存されている長鎖非翻訳RNAです。胃癌と前立腺癌についての検討から、特定のT-UCR に発現異常が認められること、Uc.158+A、Uc.160+の発現低下はメチル化によること、Uc.416+Aは癌で発現亢進することなどを見いだしました。また、Uc.416+Aは、miR-153で発現が制御されており、IGF結合蛋白を介して細胞増殖能を変化させることが分かりました。さらに、Uc.63は血中でも捉えられ、去勢抵抗性前立腺癌の診断マーカーになることを明らかにしました。

消化管癌の癌幹細胞の役割

胃癌の原発巣と転移巣における癌幹細胞マーカーADLH1、CD44、CD133の発現解析において、CD44およびCD133陽性例は予後不良であり、また、低分化腺癌ではALDH1陽性細胞が転移巣において有意に多いことから、癌幹細胞の転移における関与が確認されました。一方、東京大学の宮園先生のグループは、ALDH1とRegIV陽性細胞が低分化腺癌の癌幹細胞の性質を示すことを報告されています。私たちは、胃癌細胞株のside population分画や過酸化物質(Reactive oxygen species)低下細胞における網羅的な解析から、いくつかの新しい癌幹細胞マーカー候補を同定しています。

 癌幹細胞のひとつの特性であるspheroid形成を指標として、胃癌細胞を対象に網羅的遺伝子発現解析を行い、spheroid形成細胞塊に特徴的に高発現するものとして、KIFC1, KIF11, KIF23等のkinesin遺伝子群を同定しました。これらは、既知のがん幹細胞マーカーとも有意な相関を示し、ノックダウンにより、増殖ならびにspheroid形成が抑制されました。食道癌、大腸癌においても同様の知見が得られました。

オルガノイドを用いた癌研究

幹細胞ニッチの研究が進み、3次元培養系において臓器様の構造をとるオルガノイドを作製することが可能になっています。ミシガン大学との共同研究で、大腸癌の約10%に認められる鋸歯状腺癌の発生にはCDX2欠損とBAF変異が必須であることをマウスモデルで証明し、その癌オルガノイドを用いてPDX1の発現が重要であることを報告しました。ヒト大腸癌の解析では、違った部位から樹立した癌オルガノイドでは薬剤感受性が異なることを見いだしています。
 正常の胃および大腸のオルガノイドを作製し、ゲノム編集システムを用いることにより、様々な形態や粘液形質、分化度や生物学的特性を示すがんに絶対的に関与する遺伝子Driver pathwayの同定を目指しています。

遺伝子多型と癌の発生・進展

HER2、HIF-1α、EGF、MMP-1、MMP-9、CDH1等のSNPと発癌および臨床病理学的所見との関連を、症例-対照研究、症例-症例研究で解析し、胃癌の発生・進展との関連を見出しています。また、国立がん研究センター研究所との共同研究で、PSCAやMUC1の遺伝子多型と胃低分化腺癌の発生リスクとの関連を報告しています。




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