世界経済体制論・講義
担当教官: 李 東碩(い とん そく)
(研究室の場所): 総合科学部 A818 (内線番号): 6407
開設曜日時限:水1・2限
キーワード:超国籍金融資本、世界経済構造、国家、環境権、世界統治権力
世界経済体制論の範囲:
世界経済体制論は、世界経済の重層的統合化の動因と到達点、今後の方向性を解
明し、大多数の貧しい人々が自らの「人間的権利」である社会・自然環境権を確保できる
道筋を析出し、それを実践するための平和科学でなければならない。そのために、世界
経済史・世界経済構造論・世界経済管理体制論・世界環境管理体制論・世界危機管理
体制論の五つ領域を総合的に検討する。
世界経済史は、紀元前の農業革命から現段階の情報革命に至るまでの富の生産・配
分・蓄積をめぐる世界経済構造と世界統治権力の動因と規定関係を中心に検討する。そ
の上で、1万年に及ぶ人類史のなかで、コインの両面のような富の世界一極集中化と飢
餓・貧困の世界化という人類の対立激化の展開過程と到達点、近未来像を展望する。
世界経済構造論は、1980年代以降の世界分業・資金循環構造の転換過程の背景に
ある超国籍企業・銀行の蓄積水準、組織形態および行動様式、つまり、資本蓄積体制を、
主要産業を取り上げて検討する。主に、IT超国籍企業を頂点とする企業・製品間の世界
重層構造と、金融のグロ-バル証券化を介した、超国籍銀行を頂点とする銀行・金融商品
間の世界重層化、そして、超国籍金融資本としての両者の結合関係を明らかにする。
世界経済管理体制論は、1980年代以降の新たな世界経済構造の転換過程のなかで、
超国籍金融資本がWTOとFTAを媒介として、各国の国家体制と世界各地域の貿易・
通貨体制を如何に再構築しているかを検討する。主に、東アジア地域の例を取り上げて、
超国籍金融資本が東アジア各国の国家体制と当該地域経済体制を、如何に新しい世界
経済管理体制下に編入させているかを明らかにする。
世界環境管理体制論は、富の世界一極集中化と飢餓・貧困の世界化がもたらした社会
環境悪化が、自然環境までを破壊し、世界大多数の人々の環境権を剥奪するメカニズムを
明らかにする。特に、京都議定書などの世界環境管理体制の再構築過程を通して、超国
籍金融資本が国家共同体と地方自治体を再組織していくメカニズムとその方向性を解明
する。その上で、草の根の東アジア地域住民が、超国籍金融資本によって剥奪されている
社会・自然環境権を如何にして取り戻せるかを模索・実践していく。
世界危機管理体制論は、グローバル・キャピタリズムの強化のために、世界帝国という
グローバル・ガバナンスの確立に向けた世界危機管理体制の再構築過程を検討する。
また、その背景にある一握りの超国籍金融資本家による富の世界独占と、大多数の貧しい
人々の環境権の剥奪による人類の対立激化の連鎖メカニズムを明らかにする。さらに、
このような世界「反平和」を回避するために、グロ−バル・ヒュ−マニズムに基づいた草の根
の東アジア人の新しい経済・環境・文化共同体を構築する道筋を模索し実践する。
授業の目標等:
現段階の世界経済体制の仕組みと到達点,その方向性を解説する。まず,
世界経済の統合手段を歴史的に鳥瞰した後、主要産業を取り上げ,企業の
超国籍化に伴う企業・製品間の世界重層化過程を検討する。また,各国国
家体制と世界経済・環境・危機管理体制の構築過程を検討する。さらに,
東アジア経済体制化について,超国籍金融資本を頂点とする企業・製品
間の世界重層化,東アジア各国の市場国家への転換過程、東アジアの
FTA体制化と環境権の縮小・剥奪過程との関連で検討する。
授業の内容・計画等:
1.世界経済体制の過去・現在・未来
2.世界統合手段1:国際貿易/資本輸出
3.世界統合手段2:F.D.I/世界M&A&A
4.企業の多国籍化と企業内世界分業構造
5.企業の超国籍化と超国籍金融資本の支配
6.アグリビジネスの世界戦略と世界重層化過程
7.石油多国籍企業の世界戦略と世界重層化過程
8.鉄鋼企業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
9.自動車企業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
10.半導体企業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
11.情報通信産業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
12.バイオ・製薬産業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
13.企業・製品間の世界重層化と東アジアの市場国家体制への転換
14.世界情報経済体制の構築過程と東アジア経済体制の到達点と方向性
15.試験
成績評価の方法:
レジュメ(2回)、出席日数
テキスト・教材・参考書等:
論文などの関連資料をあらかじめ配布する。
履修上の注意・受講条件等:
授業の質問は、dslee@hiroshima-u.ac.jp(件名は世界経済体制論)を使うこと。
メッセージ:
富の世界一極集中化と飢餓や貧困の世界化といった人類対立のメカニズム
とその方向性を的確に捉えた上で、草の根の21世紀東アジア人の新しい歴史
共同体を構築してほしい。
レポートの課題
A.【総論】
現段階世界経済の構造転換とそれに伴う世界統治形態の転換過程について、以下
の「七つの標識」間の規定関係に焦点をしぼりながら論述せよ。
@
超国籍資本の蓄積水準の変化に伴う超国籍資本を頂点とした「資本間の世界重層化」、
A
中核産業のIT化と金融のグローバル証券化に伴う「産業間の世界重層化」、
(@〜A:世界経済の構造転換)
B
世界各国の企業・金融構造改革および税制改革に伴う国家体制の転換、
C
超国籍資本による富の世界一極集中化を支える世界経済管理体制の転換、
D
世界環境管理体制の転換に伴う世界労働可能人口の自然環境・社会環境権の剥奪、
E
相対的・絶対的貧困の世界化に伴う「世界労働可能人口間の世界重層化」、
F
世界「反平和」的状況下の人間同士の対立激化に伴う世界危機管理体制の再構築
(B〜F:世界統治の形態転換)
B 【各論】
1. 1930年代から第二次世界大戦までの世界経済重層化過程について、米国・
ドイツを中心とした機械関連製造業への中核産業の転換、国家主導型経済政
策への転換、新たな世界貿易・通貨体制の模索、海外直接投資を介した企業
の多国籍化の順で述べよ。
2. 1950年代から70年代にかけての世界覇権国家主導の世界貿易・通貨体制へ
の転換と南北問題の顕在化との連鎖メカニズムについて論述せよ。
3. 戦後アグリビジネスの世界再編過程について、「緑の革命」と「IT革命」と関連
づけながら論述せよ。
4. 戦後石油産業の世界再編過程について、途上国の資源ナショナリズムとの
関連で論述せよ。
5. プロダクト・ライフ・サイクル論と内部化理論を略述した後、国際貿易、海外直接
投資、ライセンシングという戦後の世界統合手段の推移について、企業の多国籍
化と超国籍化過程との関連で論述せよ。
6. 1980年代以降の米国経済の構造転換について、レ−ガノミックス、IT化と通商
政策の転換、金融の証券化と不良債権処理、ブラック・マンデ−後の国際協調政策
の転換、90年代のニュ−エコノミ−の興隆と衰退の順で略述せよ。
7. 戦後米国の国際直接投資の推移と到達点を略述した後、米国系超国籍企業の企業
内貿易の特徴について、米国の国際収支不均衡を促す非米国系多国籍企業の在米
子会社との企業内貿易の特徴と比較しながら論述せよ。
8.
東アジア諸国の輸出工業化について、米・日超国籍企業を頂点とした産業・企業
間の東アジア重層化過程に焦点をしぼって論ぜよ。
9. 1980年代後半から1990年代の前半にかけての米・日・韓の経済重層化について、
特定の産業を一つ選んで、貿易摩擦、二国間交渉、水平・垂直的提携の進展、
米国超国籍企業を頂点とした各国企業間での製品群のトランスナショナルなすみ
分けの順で論述せよ。
10. 1980年代以降の「福祉国家」から「市場国家」への国家体制の転換過程について、
特定の国・地域を一つ選んで、超国籍企業の蓄積水準、組織形態および行動様式
の変化に伴う企業・銀行間の世界重層化が、当該国の企業・金融構造改革に与え
た影響と今後の方向性について述べよ。
11. 1990年代以降の銀行・金融の世界重層化について、過剰貨幣資本の累積化、IT化
とグロ−バル証券化に伴う世界資金循環構造の変化、世界M&A&Aを介した超国籍
銀行の世界戦略の変化との関連で論ぜよ。
12. 1980年代以降の世界資金循環構造の変化と世界通貨・金融危機の変遷を略述した後、
90年代半ば以降の世界危機管理政策の転換について、各国の企業・金融構造改革及び
税制改革の推移、超国籍資本による富の世界一極集中化(=剰余価値のグローバル搾
取メカニズムの再構築)、所得格差の拡大および饑餓・貧困の蔓延といった世界規模での
社会環境破壊の順で、具体的に一つの国を例に取りながら論述せよ。
13. 一つの産業を選んで、当該産業における企業間の世界重層化について、貿易摩
擦の激化に伴う管理貿易体制、IT化とグロ−バル証券化に伴う世界M&A&A化、
企業の超国籍化に伴う資本の世界集積・集中化、IT超国籍企業を頂点とした企業
間での製品群のトランスナショナルなすみ分けの順で論述せよ。