超国籍企業論
担当教官: 李東碩(い とん そく)
(研究室の場所) 広島大学総合科学部A818(電話番号) 0824-24-6407
開設曜日時限:
世界経済体制論の中でのこの授業の位置:
世界経済体制論は、世界経済体制の転換とその到達点、今後の方向性を
解明するため、世界経済史・世界経済構造論・世界経済管理体制論・世界環境
管理体制論・世界危機管理体制論の五つの領域で構成される。
世界経済史は、1万年前の農業革命以降、18-19世紀の産業革命をへて20-21世紀
の情報革命に至るまでの富の生産・配分・蓄積をめぐる世界経済・統治構造転換の動因、
人類の対立構図の到達点を検討する。その上で、富の世界一極集中化と飢餓・貧困の
世界化の仕組みと、近未来のグローバル・コミュニティのあり方を析出する。
世界経済構造論は、世界開発と世界資金循環の加速に伴う企業・産業・労働可能
人口間の世界重層化過程を、支配的資本、主に多国籍企業・銀行(1970年代まで)、
さらには超国籍金融資本(1980年代以降)の蓄積水準、組織形態および行動様式の
転換過程の検討を通して明らかにする。
世界経済管理体制論は、支配的資本の蓄積体制の転換に伴う世界経済構造の再
構築過程を、各国国家体制の転換、超国家機関による世界貿易・通貨体制の再構築
過程を中心に検討する。主に、1980年代以降の支配的資本である超国籍金融資本の
蓄積体制の確立過程で、世界各国の国家体制と各地域の経済体制が如何に再編した
のが、また、その背景にある超国家機関による世界経済管理体制はどのような規定関
係を通して変容しているかを明らかにする。
世界環境管理体制論は、超国家機関(国連)、二国間(FTA)・多国間(WTO・G20)協
力による世界環境管理体制が、IT・ET超国籍金融資本の蓄積体制と世界各国の排除型
格差社会化とどう関わっているかを検討する。富の世界一極集中化と飢餓・貧困の世界
化といった社会環境のみならず、自然環境までを悪化させ、世界大多数の社会・自然
環境権を剥奪しているメカニズムを明らかにする。
世界危機管理体制論は、一握りの超国籍金融資本による富の世界独占が、如何に
して世界規模で排除型格差社会化を加速させるかを明らかにする。また、世界労働可能
人口間の重層化過程のメカニズムとその到達点を通して、「環境権」をめぐる人類の対
立構図を析出する。その上で、世界「反平和」的状況から脱却し、マイノリティの環境権
回復に向けた新しいグローバル・コミュニティづくりへの道筋を模索する。
「超国籍企業論」は、主に世界経済構造論を扱う。
授業の目標等:
世界経済構造と世界統治権力の再構築に伴い、東アジア各国政府は従来の「福祉
国家」の看板を捨て、「市場国家」へと構造改革を加速している。現段階世界経済体制
の転換に伴う企業・産業間の世界重層化過程を、世界経済の重層的統合化の主体で
ある企業の多国籍化・超国籍化を中心に明らかにする。主に、東アジアの主要産業を
取り上げ、超国籍企業の新しい蓄積体制が各国のサプライヤ・システムを含めた経済
構造を如何に統合するか、また、各国の金融・貿易体制がIMF、WTO、FTAなどの世界
経済管理体制下に如何に編入されていくかを具体的に検討する。
授業の内容・計画等:
1.授業概要
2.近現代世界経済体制の諸段階
3.世界統合手段の変化1:国際貿易/資本輸出
4.世界統合手段の変化2:F.D.I/世界M&A&A
5.企業の多国籍化と企業内世界貿易の拡大
6.銀行の多国籍化と超国籍金融資本家の台頭
7.グロ−バリゼ−ションと国民国家体制の転換
8.グロ−バリゼ−ションと超国家的機関の役割変化
9.現段階の超国籍企業のグロ−バル構造
10.企業間重層化とバックワ−ド・リンケ−ジの構築
11.M&A&Aの世界化とアライアンス・キャピタリズムの実相
12.アメリカの海外直接投資の変遷
13.企業・銀行の多国籍化・超国籍化と世界投資戦略の変容
14.企業の超国籍化と企業内世界貿易の変容
15.アメリカ超国籍企業の企業内世界貿易の特質と趨勢
16.日本企業の対米直接投資と在米日系子会社の役割
17.戦後米・日多国籍企業の東アジア国際投資戦略
18.アグリビジネスの世界戦略と東アジアの世界重層化
19.石油超国籍企業の世界戦略と東アジアの世界重層化
20.鉄鋼超国籍企業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
21.自動車超国籍企業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
22.半導体超国籍企業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
23.情報通信超国籍企業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
24.航空・製薬超国籍企業の世界M&A&Aと東アジアの世界重層化
25.企業・銀行間の世界重層化と東アジアの輸出指向型工業化の盛衰
26.世界経済の重層的統合化の拡大・深化と「新・南北問題」との連鎖構造
27.超国籍企業・銀行主導による世界経済体制の転換過程:その到達点と展望
28.期末試験
成績評価の方法:
レポート(40x40x5枚:8000字)・出席日数・試験
テキスト等:
関下稔著『現代多国籍企業のグロ−バル化構造』、文眞堂、2002年
履修上の注意・受講条件等:
レポートの課題は、http://home.hiroshima-u.ac.jp/dslee(超国籍企業論)を、
授業の質問等は、dslee@hiroshima-u.ac.jp(件名:超国籍企業論)を使うこと。
メッセージ:
富の世界一極集中化に伴う貧富格差の拡大と貧困・飢餓の蔓延、壊滅的な地球
環境破壊による「種の終焉」の危機に直面して、その連鎖構造と今後の方向性を的
確に捉え、その世界「反平和」的状況から脱却するために、草の根の東アジア人の
経済・環境・文化共同体構築に実践的に参加してほしい。
レポートの課題
A.【総論】
現段階世界経済の構造転換とそれに伴う世界統治形態の転換過程について、以下
の「七つの標識」間の規定関係に焦点をしぼりながら論述せよ。
@
超国籍企業・銀行の蓄積体制の転換とこれに伴う「企業・銀行間の世界重層化」、
A
中核産業のIT化と金融のグローバル証券化に伴う「産業・金融間の世界重層化」、
(@〜A:世界経済の構造転換)
B
WTO・FTAに伴う世界各国の企業・金融構造改革、税制改革などの国家体制の転換、
C
超国籍金融資本による富の世界独占を強化するための世界経済管理体制の転換、
D
世界経済管理体制の再構築に伴う貧しい世界労働可能人口の社会環境権の消失、
E
世界環境管理体制の構築に伴う貧しい世界労働可能人口の自然環境権の消失、
F
世界危機管理体制の構築に伴う世界労働可能人口間の両極分化と人類の対立激化
(B〜F:世界統治の形態転換)
B 【各論】
1. 1930年代から第二次世界大戦までの世界経済重層化について、米国・ドイツ
を中心とした機械関連製造業への中核産業の転換、国家主導型経済政策への
転換、新たな世界貿易・通貨体制の模索、海外直接投資を介した企業の多国
籍化の順に論述せよ。
2.
1950年代から70年代にかけての世界覇権国家であるアメリカ主導の世界貿易
・通貨体制への転換とこれに伴う南北問題の連鎖メカニズムについて論述せよ。
3. アグリビジネスの戦後世界再編過程について、「緑の革命」と関連づけて論ぜよ。
4. 石油産業の戦後世界再編過程について、途上国の資源ナショナリズムの台頭
との関連で論述せよ。
3. プロダクト・ライフ・サイクル論と内部化理論を略述した後、世界貿易、海外直接
投資、ライセンシングの三つの世界統合手段の推移について、企業の多国籍化と
超国籍化過程との関連で論述せよ。
4. 1980年代以降の米国経済の構造転換について、レ−ガノミックス、マルチメディア
化と通商政策の転換、金融のグローバル証券化と不良債権処理、ブラック・マンデ−
後の国際協調政策の転換、90年代のニュ−エコノミ−の盛衰の順で略述せよ。
7. 戦後米国の世界直接投資の推移と到達点を略述した後、米国系多国籍企業の企業
内貿易の特徴について、米国の国際収支不均衡を促す非米国系多国籍企業の在米子
会社との企業内貿易の特徴と比較しながら論述せよ。
8.
東アジア諸国の輸出指向型工業化について、米・日多国籍企業を頂点とした産業
・企業間の東アジア重層化過程に焦点をしぼって論ぜよ。
9.
1980年代後半から1990年代前半にかけての米・日・韓の経済重層化について、
自動車産業か半導体産業を選んで、貿易摩擦、二国間交渉、水平・垂直的提携の
進展、米国超国籍企業を頂点とした各国での製品群間でのすみ分けの順で論ぜよ。
10. 1980年代以降の「福祉国家」から「市場国家」への国家体制の転換について、
特定の国を一つ選んで、超国籍企業の蓄積水準の転換、組織形態および行動様式
の変化に伴う企業・銀行間の世界重層化が、当該国の企業・金融構造改革に与え
た影響と今後の方向性について述べよ。
11.
1990年代以降の銀行・金融の世界重層化について、過剰貨幣資本の累積化、
ドル本位制の確立とグロ−バル証券化に伴う世界資金循環構造の変化、世界M&A&Aを
介した超国籍銀行の世界戦略の変化との関連で論ぜよ。
12.
一つの産業を選んで、当該産業における企業間の世界重層化について、貿易摩
擦の激化に伴う管理貿易体制、IT化とグロ−バル証券化に伴う世界M&A&A化、
企業の超国籍化に伴う資本の世界集積・集中化、IT超国籍企業を頂点とした企
業間での製品群のトランスナショナルなすみ分けの順で論述せよ。
13. 1980年代以降の世界資金循環構造の変化と世界通貨・金融危機の変遷を略述し
た後、90年代半ば以降の世界危機管理政策の転換について、各国の企業・金融構造
改革および税制改革の推移、超国籍金融資本による富の世界一極集中化(=剰余価値の
グローバル搾取メカニズムの再構築)、所得格差の拡大および饑餓・貧困の蔓延といった
世界規模での社会環境破壊の順で、具体的に一つの国を例に取りながら論述せよ。