JPLT設立目的

小児肝癌は、小児の肝臓に発生するまれな悪性腫瘍で、その大部分が肝芽腫と呼ばれる小児に特有な腫瘍で、一部に成人型肝癌が含まれ、日本では、年間3040例の発生である。
1980
年代までは手術による完全切除が唯一の治療手段であったが、1990年代になり、抗癌剤を併用することで、従来、手術不可能であった腫瘍や、転移のある腫瘍も治癒する症例が報告されるようになり、手術後の腫瘍の再発率も減少してきた。ただし、全国で年間3040例、一施設当り12例にすぎない。発生頻度の低い腫瘍を、全国の各施設が独自に治療を行ってきたために、日本全体の長期的な治療成績やその問題点が不明のまま治療が行われてきた。
従って、本症の治療成績向上にはグループスタディによる研究が必須であるとの観点から、19896月、これに強い関心を持つ数名の小児外科医により発起人会が持たれ、スタディグループ発足の準備が進められた。その間、SIOPのグループスタディより日本の参加の要請があり、これについても検討が重ねられた。しかし、日本独自のプロトコールにより行うべきとの意見で一致し、小児肝癌に対する治療法の改善を目指し、1991年に日本小児肝癌スタディグループ(JPLT)が北海道大学(代表世話人:内野純一)を中心に全国規模で結成された。

 米国においては、COGChildren Oncology Group)により、術後肝芽腫症例でCisplatin, Vincristine, Fluorouracil を用いたPhase III の無作為臨床治験(COG-P9645)が進行しており、また、欧州ではSIOPEL (Liver Tumour Strategy Group)cisplatin単剤とcisplatin doxorubicin (PLADO)の比較試験を行いながら、肝における腫瘍の占拠部位からPRETEXTという病期分類を提唱し、進行例に術前化学療法の有効性の検討を継続している1)。このように、化学療法の併用によって治療成績の向上が得られている中で、本邦では、JPLT-1が1991年に立ち上がり、グループスタディの治療成績は毎年集計され、学会および学会誌等で2) 3) 報告され、その集計結果も報告された4)1991年から199512月までの集計では103例の悪性肝腫瘍が登録され、うち95例が肝芽腫であった。検索適格症例は74例で各stage別の2年生存率は、100%、95.5%、ⅢA88.5%、ⅢB58.3%、55.6%であった。全体の2年生存率は81%でSIOPEL 5)79%、CC6)71%と比較しても勝るとも劣らない治療成績であった。
しかし、その治療内容の分析から
1
T1T2はいずれも切除されれば治癒率ほぼ100%であり、91A191A2はほぼ満足できるプロトコールである。しかし、動注例の症例が少なく、腫瘍縮小効果の結論が出ていない。

291B191B2に反応する例の2年生存率は約90%と良好なので、現在の治療プロトコールを変える必要はない。  91B191B2とも生存率に差はないが91B1の登録が少ない。


3
)層別例が少ない。理由は家族への説明が難しく、動注の準備に手間がかかり、早く治療を開始したいとの要望に逆行するためである。


4
)腫瘍遺残や摘出術不能例、肺転移例が難治例である。

これらの成果より、プロトコールの改訂がせまられることになり199612JPLT世話人・幹事会で検討され以下の点が変更された。

191Aはこのままとする。術前動注療法は、血管造影時に行われることが多いのでこのままのプロトコールを続ける。現在、生存率100%であることにより、将来は化学療法を軽減することがあり得る。

291Bは静注化学療法群のみとする。動注化学療法群は参考群とする。

3)再発例、91A91B無効例、成人例は各施設の治療プロトコールにより治療する。後日その効果について検討する。

などの点であった。


 19984月よりJPLTの代表世話人(大沼直躬)の交代に伴い、1996年の改訂点をふまえ、治療プロトコールの改訂が開始された。また、1999318日から20日まで、スイスの主都ベルンにおいて、SIOP Liver Tumor Study Group 主催の第二回小児肝癌国際会議が開かれ、SIOP, CCG, POG, Intergroup (USA), ドイツ、ノルウェイ、ポーランドの各代表が討論を行った。JPLT からもこれに参加し、以下の問題点が明らかになった。

1)欧米、特にSIOP では、小児外科医のみならず、oncologist、病理医、放射線科医が結集し、足りない面は成人の肝臓外科医を招き、非常に精力的に取り組んでいる。その中心は oncologist であり、外科医の主な役割は肝切除と肝移植の適応の討議である。

2)これに対して JPLT の主体は小児外科医であり、動注療法を特色とした日本のプロトコールは外科医の発想からなっている。その結果は注目されていた可能性はあるが、現実的には日本においてすら広く行われることはなく、結果として世界に対してインパクトを持つことはなかった。

3JPLT の治療プロトコールは、静注療法に関しては、採用し易い簡潔なものであるが、その反面、切除可能に至らない(最も大事な点)症例に対し、具体的な手順を示しておらず、治療のデザイン、研究目的が欧米に比べ不明確である。

4JPLT の優れている点は、切除可能な T1, T2 症例(二区域までの腫瘍)に対し、欧米のほぼ半分の量の抗癌剤でほぼ同等の100%近い生存率を得ていることである。ただし、T3 症例(三区域の腫瘍)を切除不能または困難とする分類の仕方は(特に英語で Unresectable と分類上表記した時)、誤解を与える可能性が高い。

5)成人肝癌に対する日本の治療方法は、世界に対して大きく貢献している。成人肝癌の手術適応の決定法、TACE (Trans-Arterial Chemo Embolization)PEIT (Percutaneous Ethanol Injection Therapy) などの治療方法についても紹介があり、CCG においてはすでに TACE によるtrial study が開始されている。また、日本の一部の施設が行っている小児肝癌に対する造血幹細胞移植についても触れられていた。

6)小児肝癌に対する基礎的研究は局所的、散発的であり、優れた研究もあるが (b-catenin 遺伝子の高率な変異など)、臨床に直結したものはいまだ無く、唯一本研究グループで、テロメラーゼ活性とテロメラーゼ酵素蛋白(hTERT)の発現が予後と相関することが示された7)。また、腫瘍検体数が少ないことが研究の遅れの大きな原因となっている。

 JPLT-11991年から1997年までの登録症例(1年以上経過観察)を解析したところ、以下の症例が治癒困難であり、それに応じた新たな治療プログラムが必要であると考えられた。

1Stage IIIB における完全切除率は55.0%にとどまっており、手術不能例においては、腫瘍なしで生存している例が存在しない。従って、初期の化学療法に反応しない症例は積極的に他の Salvage therapy に移行していくべきであり、この具体的治療法を示す必要が有る。

2Stage IIIA, IIIB の症例で、治療経過中に転移を来した症例は、極めて予後が不良であり、通常の化学療法では治癒に結び付けることは困難と思われた。従って、再発転移症例に対しては、新たな化学療法の導入、転移巣の切除、術後の造血幹細胞移植 (SCT) 併用化学療法を含めた治療法の呈示が必要と考えられた。

3Stage IV 症例の無病生存率は30%弱であり、欧米の成績と同様に不良である。従って、治療成績の向上のためには、Stage IV症例には造血幹細胞移植併用の超大量化学療法が必要と考えられた。


 以上の結果を踏まえ、日本国内の小児肝癌の子ども達の治療成績の向上をはかり、患児の健康と福祉に貢献すると共に、世界の小児肝癌治療に貢献できるように、組織の一部改編と大胆な治療プロトコールの改訂を行った。

これらを踏まえて、PRETEXTを導入したJPLT-2が提案され、これが現在進行中であり、現在は、早期例での化学療法剤減量による副作用の軽減、また、進行例に対する術前化学療法の有効性の検証を行うべく本治験を試みようとしている。また、近年、進行肝芽腫において、幹細胞移植を併用した大量化学療法が有効であるとの報告がなされ、本研究では進行例にて幹細胞移植を取り入れたレジメンを作成した。一方、肝移植の治療法が普及するに従い、小児肝癌症例の中で局所切除が不能な症例は、再発例では、肝移植療法が新たな治療のストラテジーとしてリストアップされてきた。

現時点では、日本の治療成績はアメリカ、ヨーロッパ各国と比べ、遜色のない成績をあげており3)、特に早期の腫瘍に対しては、欧米の1/2の量の抗癌剤で90%以上の生存率を得ている。しかし、肝4区域を占める腫瘍(PRETEXT4)の治療成績が満足するべきものではなく、病期IIの症例に化学療法が必要であるかどうかなど、多くの解決すべき問題が山積みである。

本研究では、小児肝癌の治療成績向上のために、全国の小児肝癌症例を対象に、早期例での治療減量と進行例での幹細胞移植を併用した大量化学療法の有効性と安全性を検証するJPLT-2プロトコールの評価判定を行うことを目的としている。さらに、その結果から、治療法に改良点が必要であれば、新たな治療法プロトコールを立案し、肝移植も含めた外科治療のガイドラインを作成し、より有効かつ安全な治療法を確立するべく、あらたなプロトコール作成を行う。また、治療成績が単に進行度にのみ左右されないことから、腫瘍の生物学的特性を研究し、予後予測因子や悪性度を反映する因子を同定し、悪性度の層別化から治療法を策定し、あるいは薬剤反応性を明らかにし、より有効かつ安全な治療法の開発を目的とする。

   
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