地球微生物学(Geomicrobiology)

    生命は誕生以来,30億年以上にわたって顕微鏡サイズの微生物が優勢でしたが,その活動は地球環境を大きく変化させました.その痕跡は,地層中の炭酸塩鉱物・リン酸塩鉱物・鉄酸化物・マンガン酸化物などに記録されています.私たちの研究室では地質学的・地球化学的手法に加え,最先端の微生物学的手法も用いることで,堆積物・堆積岩から生命と地球環境の進化史を読み解くことを目指しています.以下では,最近の研究成果について簡単に紹介します.


地球史の概略.

 

気液界面に形成されるトラバーチンの成因を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    温泉成の炭酸塩沈殿物であるトラバーチンには,水面で形成されるペーパーシンラフトと,気泡表面で形成されるコーティッドバブルという組織がしばしば認められます.先行研究では,気泡表面でより活発な二酸化炭素脱ガス,そしてその結果としての活発な炭酸カルシウム沈殿が起きると解釈されていましたが,両者の圧倒的な体積差を考えると,実際にはその逆である可能性がありました.
   そこで私たちの研究グループは,大分県長湯温泉に見られるペーパーシンラフトとコーティッドバブルを対象とし,野外観察,微小電極測定,各種顕微鏡観察を実施しました.その結果,予想通り気泡表面よりも水面で二酸化炭素が活発に脱ガスしており,ペーパーシンラフトが水面での炭酸カルシウム沈殿によって形成されていることが示されました.一方の気泡表面では,異地性の炭酸カルシウム付着およびそれらの結晶成長が卓越し,それによってコーティッドバブルが形成されていることが示されました.このようなペーパーシンラフトとコーティッドバブルの特徴と成因は,地質時代に見られるトラバーチンの成因を考える上で重要な知見を提供します.
  本研究は,秋元貴幸さん(令和3年度修士卒)の修士論文の研究として実施され,その成果は科学雑誌「Sedimentary Geology」に掲載されました.

 

図.(左)ホテルの壁材に使われているトラバーチン中に見られるコーティッドバブル,(右)長湯温泉で形成されつつあるコーティッドバブル.

論文情報:Shiraishi F., Akimoto T., Tomioka N., Motai S., Takahashi Y. (2023) Formation processes of paper-thin raft and coated bubble: Calcium carbonate deposition at gas-water interface. Sedimentary Geology 456, 106514.

 

メタンハイドレート中に見られるマイクロドロマイトの特徴と成因を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    日本海のガスチムニーから掘削されたメタンハイドレート中に,直径約30-150 μmのマイクロドロマイトが存在することが近年発見されました.その形成には微生物の細胞外高分子(EPS)が重要な役割を果たすと推定されていましたが,その直接的証拠は見つかっていませんでした.
   そこで私たちの研究グループは,2つの典型的なマイクロドロマイト粒子を選定し,集束イオンビーム(FIB)加工によって作成した薄膜試料を走査型透過X線顕微鏡(STXM)と透過型電子顕微鏡(TEM)で観察しました.その結果,黒色の核を持つ粒子からはEPSの存在を示す形態的・化学的特徴が得られ,微生物EPS上においてドロマイトが非晶質前駆体(ACC)を介して形成したものと推定されます.一方,濁ったように見える核を持つ粒子は,ドロマイトのナノ結晶が油膜上で集積したような特徴を示し,活発に成長するハイドレートの隙間で 急激に飽和度が上昇することで形成したものと推定されます.これらマイクロドロマイトの特徴と成因は,他の環境・時代に見られるドロマイトの成因を考える上で重要な知見を提供します.
  本研究は,秋元貴幸さん(令和3年度修士卒)の修士論文の研究として実施され,その成果は科学雑誌「Frontiers in Earth Science」に掲載されました.

 

図.(左)高エネルギー加速器研究機構に設置されたSTXMを操作する秋元さん,(右)黒色の核を持つ粒子のSTXM分析結果.

論文情報:Shiraishi F., Akimoto T., Tomioka N., Takahashi Y., Matsumoto R., Snyder G.T. (2023) Microbial traces found in microdolomite associated with seep-related shallow gas hydrate. Frontiers in Earth Science 11, 1188142.

 

微生物炭酸塩の分解過程を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    ストロマトライトなどの微生物炭酸塩について,その形成過程に関する研究は多くありますが,分解過程に関する研究はほとんどありませんでした.
   そこで私たちの研究グループは,ブラジルのラグーン(ラゴア・ベルメーリャ)に見られる微生物炭酸塩に着目しました.ここは微生物起源のドロマイトが報告された場所として有名ですが,それ以外にもストロマトライトや微生物マットが見られ,しかも大きな環境変化にさらされています.それらを調べたところ,かつて微生物によって形成された炭酸塩堆積物は,多細胞動物による摂食活動のみならず,微生物代謝によっても分解されていることが明らかとなりました.これらの結果は,環境変化によって微生物群集構成が変わると炭酸塩堆積物が分解に転じうることを示しており,過去の炭酸塩岩の解釈に加え,現世ストロマトライトの保全を考える上でも重要な知見を提供します
    本研究の成果は,科学雑誌「Journal of Sedimentary Research」に掲載されました.

 

図.(左)ラゴア・ベルメーリャにおける調査の様子,(右)分解されつつあるストロマトライト.

論文情報:Shiraishi F., Hanzawa Y., Asada J., Cury L.F., Bahniuk A.M. (2023) Decompositional processes of microbial carbonates in Lagoa Vermelha, Brazil. Journal of Sedimentary Research 93, 202-211.  

 

酸素発生型光合成によってマンガン酸化が起きる条件を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    マンガン酸化物の形成に,底生の酸素発生型光合成微生物が関与しうることは,私たちの三瓶温泉での研究によって明らかにされていました.しかしながら,そのような現象がどのような条件下で起きているのかについては不明でした.
   そこで私たちの研究グループは,北海道オンネトー湯の滝に見られる緑藻に覆われたマンガン酸化物を調査しました.その結果,温泉水のpHが低いために酸素発生型光合成によるマンガン酸化過程は検出できないレベルであり,恐らくマンガン酸化菌による酸化過程が卓越していることを明らかにしました.これらの結果は,同様にpHの低かった先カンブリア時代の海洋におけるマンガン酸化過程を解釈する上で重要な情報を提供します.
    本研究は,千原亮二さん(平成26年度修士卒)の修士論文,および谷本理沙さん(平成30年度学士卒)の卒業論文の研究として実施され,科学雑誌「Island Arc」に掲載されました.

 

図.(左)オンネトー湯の滝における調査の様子,(右)マンガン酸化物表面近傍での微小電極測定の様子

論文情報:Shiraishi F., Chihara R., Tanimoto R., Tanaka K., Takahashi Y. (2022) Microbial influences on manganese deposit formation at Yunotaki Fall, Japan. Island Arc 31, e12448.  

 

熱帯性トゥファ形成における微生物の影響を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    トゥファは淡水環境で形成される炭酸塩沈殿物であり,微生物岩の”生きた化石”として,また古気候記録媒体として注目されています.私たちのこれまでの研究から,ストロマトライト・スロンボライト組織を示すトゥファが光合成によって形成されること,またそれら組織の違いは細胞外高分子特性の異なるシアノバクテリア群集によって生み出されることなどが明らかにされてきました.しかしながら,これらの結果は冷帯・温帯に分布するトゥファから得られたものであり,それらが季節的な気温変動の小さい熱帯のものにも当てはまるかは不明でした.
   そこで私たちの研究グループは,ブラジルのマトグロッソ・ド・スル州に見られる熱帯性トゥファを調査し,光合成以外にも炭酸塩の沈殿プロセスが寄与していること,ストロマトライトのような葉理組織の発達が弱いこと,円錐形の表面突起が発達することなどを明らかにしました.これらの結果は,微生物岩組織や古気候記録を解釈する上で重要な情報を提供します
   本研究の成果は,科学雑誌「Sedimentary Geology」に掲載されました.

  

図.(左)調査を行ったブラジルのトゥファ,(右)トゥファ表面に生息するシアノバクテリア.

論文情報:Shiraishi F., Hanzawa Y., Asada J., Cury L.F., Bahniuk A.M. (2022) Microbial influences on tufa deposition in the tropical climate. Sedimentary Geology 427, 106045. 

 

トラバーチンの形成過程と鉱物組成に関する一般則を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    温泉成の炭酸塩沈殿物であるトラバーチンからは,過去のストロマトライトや微生物性石油貯留岩の成因を理解する上で重要な情報を得ることができます.大分県長湯温泉と北海道二股温泉における私たちの研究により,トラバーチンの形成過程と沈殿組織の関係が既に明らかにされていましたが,その普遍性は不明でした.また,トラバーチンは主に方解石やあられ石から構成されますが,それら鉱物の違いを生む原因もよくわかっていませんでした.
   私たちの研究グループは,長湯温泉と二股温泉を含めた日本の8つの温泉に見られるトラバーチンから網羅的にデータを収集することで,全体としては非生物的プロセスが卓越するものの,場所によっては生物的プロセスが卓越することを明らかにしました.また,温泉水中のマグネシウムイオンと硫酸イオン濃度が高いほどあられ石が形成されやすいことなども明らかになりました.これらの結果は,特徴の類似する石油貯留岩や,太古代・原生代に見られる炭酸塩岩の解釈に不可欠な情報を提供すると期待されます.
   本研究は,江野友樹さん,中村有希さん(平成27年度修士卒),森川朝世さん(平成29年度修士卒)の卒業論文・修士論文の研究として実施され,その成果は科学雑誌「Sedimentology」に掲載されました.

  

図.(左)共焦点レーザー走査顕微鏡による観察風景と(右)トラバーチン表面の観察結果.

論文情報:Shiraishi F., Hanzawa Y., Nakamura Y., Eno Y., Morikawa A., de Mattos R.F., Asada J., Cury L.F., Bahniuk A.M. (2022) Abiotic and biotic processes controlling travertine deposition: Insights from eight hot springs in Japan. Sedimentology 69, 592-623. 

 

シアノバクテリアの石灰化様式に差異を生じさせる原因を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

 酸素発生型光合成細菌であるシアノバクテリアは,その石灰化様式の違いによってストロマトライトやスロンボライトなどの微生物岩を形成します.石灰化の有無はシアノバクテリアが分泌する細胞外高分子の化学的特性に支配されていることは分かっていましたが,石灰化した場合の様式の違いについては原因がよくわかっていませんでした.
 私たちの研究グループは,人工的に石灰化させたシアノバクテリアを走査型透過X線顕微鏡(STXM)などで分析することにより,細胞表面の物理的特性が石灰化様式に大きな影響を与えることを解明しました.地球史を通して見られる微生物岩の増減や組織変遷が微生物細胞の表面特性に支配されている可能性があり,生命進化や環境変遷などについて新たな知見が得られるものと期待されます.
 本研究は,尾森武尊さん(平成30年度修士卒)の卒業論文・修士論文の研究として実施され,その成果は科学雑誌「Geochimica et Cosmochimica Acta」に掲載されました.

 

図.(左)高エネルギー加速器研究機構に設置されたSTXMを操作する尾森さん,(右)STXMによる分析結果.

論文情報:Shiraishi F., Omori T., Tomioka N., Motai S., Suga H., Takahashi Y. (2020) Characteristics of CaCO3 nucleated around cyanobacteria: implications for calcification process. Geochimica et Cosmochimica Acta 285, 55-69.

 

日本初のフィッシャーリッジ型トラバーチンを発見 

【本研究成果のポイント】

【概要】

 温泉成の炭酸塩沈殿物であるトラバーチンには様々な形態がありますが,日本ではドーム型トラバーチンが多く見られます.私たちの研究グループは,北海道二股温泉から日本で初めてフィッシャーリッジ型トラバーチンを発見しました.このトラバーチンは約2万年前から約7千年前までに形成された古いものであるため,顕著な続成作用を受けて石化しています.一方,約7千年前以降はドーム型トラバーチンが発達したと考えられます.これらの結果は,トラバーチンやそれに類する堆積岩の続成過程を解釈する上で不可欠な情報を提供すると期待されます.
 本研究は,森川朝世さん(平成29年度修士卒)の卒業論文・修士論文の研究として実施され,その成果は科学雑誌「Sedimentary Geology」に掲載されました. 
 

 

図.二股温泉に見られる(左)過去に形成されたフィッシャーリッジ型トラバーチン,(右)最近まで形成が続いていたドーム型トラバーチン.

論文情報:Shiraishi F., Morikawa A., Kuroshima K., Amekawa S., Yu T.-L., Shen C.-C., Kakizaki Y., Kano A., Asada J., Bahniuk A.M. (2020) Genesis and diagenesis of travertine, Futamata hot spring, Japan. Sedimentary Geology 405, 105706.

 

マンガン酸化物形成における微生物の影響を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    約24億年前のいわゆるヒューロニアン全球凍結後に形成された大規模マンガン鉱床は,酸素発生型光合成微生物が大量発生した証拠と考えられています.しかしながら,それに関与した酸素発生型光合成によるマンガン酸化過程については,よくわかっていませんでした.
   私たちの研究グループは,島根県三瓶温泉に見られるマンガンクラストの研究に基づき,底生の酸素発生型光合成微生物が放出する酸素が効率的にマンガン酸化することなどを解明しました.浅海で大規模にマンガン酸化が起きた可能性があり,先カンブリア時代の堆積性マンガン鉱床形成などについて,新たな知見が得られるものと期待されます.
   本研究は,千原亮二さん(平成26年度修士卒)・松村宥也さん(平成29年度修士卒)の卒業論文・修士論文の研究として実施され,その成果は科学雑誌「Geochimica et Cosmochimica Acta」に掲載されました.

 

図.(左)検討を行ったマンガンクラスト,(右)微小電極を用いたマンガンクラスト表面近傍でのMn(II)濃度測定の様子.

論文情報:Shiraishi F., Matsumura Y., Chihara R., Okumura T., Itai T., Kashiwabara T., Kano A., Takahashi Y. (2019) Depositional processes of microbially colonized manganese crusts, Sambe hot spring, Japan. Geochimica et Cosmochimica Acta 258, 1-18.

 

リン酸塩ストロマトライトは全球凍結後の特異な海洋条件の証拠 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    ストロマトライトは,底生微生物群集によって形成された葉理組織をもつ堆積物です.その多くは炭酸塩鉱物からなりますが,新原生代後期(約6.3億年前)の全球凍結と考えられる氷河期の後にはリン酸塩鉱物からなるストロマトライトが見られます.
   私たちの研究グループは,ブラジルの新原生界リン酸塩ストロマトライトの研究に基づき,海洋リン濃度が約5 μmol/L以上であれば光合成によってリン酸塩ストロマトライトが形成されることを解明しました.リン濃度が浅海でも非常に高かった可能性があり,全球凍結後の大陸風化や海洋循環について,新たな知見が得られるものと期待されます.
   本研究は,大西咲さん(平成28年度修士卒)の卒業論文・修士論文の研究として実施され,その成果は科学雑誌「Sedimentary Geology」に掲載されました.

 

図.(左)検討を行ったリン酸塩ストロマトライト,(右)全球凍結時に堆積したと考えられる氷河性堆積物.

論文情報:Shiraishi F., Ohnishi S., Hayasaka Y., Hanzawa Y., Takashima C., Okumura T., Kano A. (2019) Potential photosynthetic impact on phosphate stromatolite formation after the Marinoan glaciation: Paleoceanographic implications. Sedimentary Geology 380, 65-82.

 

トラバーチン微細組織の成因を解明 

【本研究成果のポイント】

【概要】

    温泉に形成される炭酸塩沈殿物は,トラバーチンと呼ばれます.トラバーチンの微細組織形成における生物的・非生物的プロセスの相対的影響の解明は,過去のストロマトライトや微生物性石油貯留岩の成因を理解する上で重要です.
   私たちの研究グループは,大分県長湯温泉郷の湯に見られるトラバーチンの研究に基づき,微生物的プロセスの影響が大きいと孔隙質な組織が,非生物的プロセスの影響が大きいと緻密な組織が形成されることを解明しました.この結果は,過去のトラバーチンやそれに類する堆積岩の解釈に不可欠な情報を提供すると期待されます.
   本研究は,江野友樹さん・中村有希さん(平成27年度修士卒)の修士論文の研究として実施されました.その成果は科学雑誌「Sedimentology」に掲載され,さらには研究対象となったトラバーチンの写真がSedimentology誌Volume 66 Issue 2の表紙を飾りました.また本研究は,注目のプロジェクトとしてブラジル石油庁の機関誌Boletins ANPにも紹介されました.

  

図.(左)長湯温泉郷の湯に見られるトラバーチン.(右)トラバーチン表面に生息するシアノバクテリア.

論文情報:Shiraishi F., Eno Y., Nakamura Y., Hanzawa Y., Asada J., Bahniuk A.M. (2019) Relative influence of biotic and abiotic processes on travertine fabrics, Satono-yu hot spring, Japan. Sedimentology 66, 459-479.

 

微生物が鉄酸化物形成に寄与する条件を解明

【本研究成果のポイント】

【概要】

    先カンブリア時代の地層には鉄酸化物を多く含んだ縞状鉄鉱床がよく見られ,地球環境の酸化還元状態がどのように変化してきたかを知るうえで重要な情報を記録しています.ただし,その詳細な形成過程については不明な点が多く残されていました.
   私たちの研究グループは,温泉に発達する鉄酸化物の研究に基づき,酸素濃度が約50 μmol/L以下でなければ微生物による鉄酸化プロセス(鉄酸化細菌による直接酸化,およびシアノバクテリアによる間接酸化)の寄与が小さいことを解明しました.大酸化イベントに伴って海洋酸素濃度が上昇することで,主要な鉄酸化プロセスが微生物的なものから無機的なものに移り変わった可能性があり,縞状鉄鉱床の形成過程について新たな知見が得られるものと期待されます.
   本研究は,中尾鴻兵さん(平成28年度修士卒)の卒業論文・修士論文の研究として実施され,その成果は科学雑誌「Chemical Geology」に掲載されました.

 

図.(左)奈良県入之波温泉の源泉に見られる鉄酸化物.(右)微小電極を用いた鉄酸化物表面近傍でのFe(II)濃度測定の様子.

論文情報:Shiraishi F., Nakao K., Takashima C., Kano A., Itai T. (2018) Fe(II) oxidation processes at the surface of bacterially colonized iron deposits. Chemical Geology 476, 161-170.

 

ストロマトライトなどの組織に差異を生じさせる原因を解明

【本研究成果のポイント】

【概要】

    地質記録には微生物によって形成された岩石がしばしば認められ,微生物岩と呼ばれています.微生物岩には葉理組織を示すストロマトライトや凝集組織を示すスロンボライトなどがあり,スロンボライトは原生代―顕生代境界(約5.4億年前)で突如多産し始めることが知られています.
   私たちの研究グループは,現世のストロマトライト・スロンボライトの研究に基づき,微生物岩組織の差異が細胞外高分子特性の異なるシアノバクテリア群集によって生じていることを解明しました.原生代―顕生代境界でシアノバクテリアの群集組成が大きく変化するイベントがあった可能性があり,カンブリア爆発やそれに先行するエディアカラ動物群の絶滅について,新たな知見が得られるものと期待されます.
   本研究は,半澤勇作さん(平成26年度修士卒)の卒業論文・修士論文の研究として実施され,その成果は英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました.

図.現世微生物岩の表面に見られるシアノバクテリア(赤〜黄色),炭酸カルシウム(白色),およびその結晶核形成場となるカルボキシル基を多く含んだ細胞外高分子(緑色).(a)ストロマトライト,(b)スロンボライト.

論文情報:Shiraishi F., Hanzawa Y., Okumura T., Tomioka N., Kodama Y., Suga H., Takahashi Y., Kano A. (2017) Cyanobacterial exopolymer properties differentiate microbial carbonate fabrics. Scientific Reports 7, 11805.

 

マンガン団塊表面に密集する微生物群集を発見

【本研究成果のポイント】

【概要】

深海底で形成されるマンガン団塊は,有望な金属資源として注目されています.マンガン団塊には微生物が生息していることが知られていますが,それらが団塊から得るメリットや,団塊形成への寄与についてはよく理解されていませんでした.私たちの研究グループは,南太平洋の深海底(水深5130 m)から採集した試料の研究に基づき,マンガン団塊の表面約0.5 mmに微生物が周辺よりも約1000倍密集していることを発見しました.その微生物群集の一次生産者は,銅タンパクを持つ化学合成無機独立栄養アーキアであると考えられます.海の砂漠のような超貧栄養海域において,マンガン団塊に含まれる銅に依存した生態系が存在している可能性があり,マンガン団塊の成因や深海底での物質循環について,新たな知見が得られるものと期待されます.
   本研究の成果は,科学雑誌「Earth and Planetary Science Letters」に掲載されました.

 

図.(左)南太平洋の深海底から採集されたマンガン団塊の断面.(右)マンガン団塊表面に生息する微生物(明るい緑色の点).

論文情報:Shiraishi F., Mitsunobu S., Suzuki K., Hoshino T., Morono Y., Inagaki F. (2016) Dense microbial community on a ferromanganese nodule from the ultra-oligotrophic South Pacific Gyre: Implications for biogeochemical cycles. Earth and Planetary Science Letters 447, 10-20.