ペプシノゲン法の意義と解説

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1.ペプシノゲンは胃粘膜に由来する

・ペプシノゲン(pepsinogen,PGと略す)は胃液中に分泌される蛋白分解酵素ペプシンの前駆体である。

・ペプシノゲンは免疫学的にペプシノゲンI(PGI)とペプシノゲンII(PGII)に大別される。

・ PGIは主として胃底腺の主細胞より分泌され,PGIIは胃底腺の他に噴門腺,幽門腺,十二指腸腺にも存在する。

・ペプシノゲンの約1%の量が血中に存在し,測定できる。

・以下,PGI,PGIIとも特に断りのない限り,血液中の値のことである。

2.血中ペプシノゲン値は胃の炎症,萎縮,ピロリ菌感染の指標となる

・健常な胃にピロリ菌が感染すると胃粘膜の炎症を起こし,さらに慢性に経過すると,胃粘膜の萎縮をきたす。

・胃の粘膜にピロリ菌の感染,炎症が生じると,血中PGI,PGIIとも増加し,PGI/II比(PGI÷PGIIの値,PGI/II比)は低下する。

・胃粘膜が萎縮すると,血中PGIが低下し,PGI/II比(PGI÷PGIIの値,PGI/II比)も低下する。

・血清PG値は胃粘膜の炎症と萎縮を反映し,胃粘膜の状態が推定でき,胃粘膜の健康度を示す指標と考えられる(胃健診)。

3.胃がんの高危険群萎縮性胃炎は血中ペプシノゲン値で診断できる

・PGI値およびPGI/II比が低下したものを萎縮性胃炎,即ち胃癌のリスクの高い群と診断できる。

・ペプシノゲンを測定した5,808名の内視鏡検査の結果,PGI/II比が低い人ほど胃癌の発見率が高かった。

・ペプシノゲン法の胃癌診断感度の検討では,内視鏡検査を至適基準とした検討では,胃癌の80%がペプシノゲンで診断できた(厚生省がん助成金による三木班報告より)。

4.健常人の血中ペプシノゲン値

・健診者で,血清ペプシノゲン値の範囲を(5-95パーセンタイル値)でみると,PGI:12.6-108.7 (ng/ml), PGII:5.2-38.3 (ng/ml),PGI/II比:1.0-7.5であった。

・年代別の推移では,PGIは年代による変化はほとんどないが,PGIIは加齢とともに増加し,50-60才代でほぼ一定となる。PGI/II比は加齢と共に減少し,60才代を越えるとほぼ一定となった。

5.ペプシノゲン法の対象と受診に適さない状態

・ペプシノゲン法の対象は,胃癌の有病率を考えると,40歳以上がまず対象となるが,被曝等のリスクがないことから,さらに若年や妊娠の可能性のある女性にも適用できる。

ペプシノゲン法に適さない状態1

(→スクリーニングを受けるよりも最初から精密検査を受けるべき状態)

1)明らかな上部消化器症状のある者

2)食道,胃,十二指腸疾患で治療中の者

ペプシノゲン法に適さない状態2

(→血液中のペプシノゲン値に影響を及ぼすため)

1)胃酸分泌抑制剤プロトンポンプ阻害剤服用中の者

2)胃切除後の者

3)腎不全の者

6.ペプシノゲン法の基本的方法

1)採血は基本健康診査などに組み合わせてもよい。

2)絶食でなくともよく,午後でも可能である。

3)ペプシノゲン値が一定の値(カットオフ値,後述)よりも低下していれば,陽性として内視鏡検査による精密検査を勧める。

4)ペプシノゲン陽性者では以後管理検診とし,定期的に精密検査を行うことが望ましい。

7.判定基準,カットオフ値について

・ペプシノゲン法では,PGIの値とPGI/PGII比で判定する。

・PGIが70以下で,かつ,PGI/PGII比が3以下(これを基準値とよぶ)を陽性とし,さらにその中を1+,2+,3+とする。

・即ち,[PGI 70 ng/ml以下かつ PGI/II比3以下]を陽性(+),萎縮性胃炎ありとし,以下[PGI 50 ng/ml以下かつ PGI/II比3以下]を(2+),[PGI 30 ng/ml以下かつ PGI/II比2以下]を(3+)の判定とする。血清PG値の低下が進むに従い,陽性度,胃粘膜萎縮の程度も強くなっていく。

・原則として1+からを要精密検査とするが,X線との併用を行う上では,特異度も考慮したうえで2+以上(または3+以上)を要精密検査とすることも可能である。

8.形態学的検査との組み合わせ方

・胃癌検診精度及び早期胃癌発見率の向上のためには,ペプシノゲン法とX線検査との併用法とするのが望ましい。

・併用の仕方により,同時併用法,二段階法,異時併用法がある。

・同時併用法:ペプシノゲン法とX線検査とを両方全員に行ない,どちらか一方でも陽性なら精密検査を行なう。

・二段階法:まずペプシノゲン法を一次スクリーニングとし,陽性者には内視鏡検査,陰性者にはX線検査を行なう。

・異時併用法:年度をまたがってペプシノゲン法とX線検査を組み合わせる。交互に行なう場合も,3年から5年に1回ペプシノゲン法を行なう方法もできる。初年度は,ペプシノゲン法陰性癌をまずひろいあげるためにX線検査から始めるのがよい。

9.リスクマネージメント,注意点

・まず,ペプシノゲン法の原理を施行者も,受診者も十分に理解すること。

・常にペプシノゲン法陰性胃癌の存在を念頭に置き,受診者への説明,問診を十分に行い,その対策に配慮しておく。

・精検受診率を向上することが,精度管理上重要である。