Low Energy Positron Trap
産総研の電子線形加速器 (The electron LINAC at AIST)
実験室で陽電子を利用するためには、1) 陽電子を放出する放射性同位元素を用いる方法、2) 高エネルギー電子ビームを標的に当てることにより電子と陽電子を生成することが可能な電子線形加速器を用いる方法、または、3) 中性子線を用いる方法があります。
いずれの場合も、生成される陽電子のエネルギーが大きく、そのエネルギー広がりも大きいため低エネルギー陽電子ビームを生成するためには減速材を用いるのが一般的です。産業技術研究所(産総研/AIST)にある電子線形加速器では約40 MeVの電子ビームを水冷のタンタル標的に入射し、そこから生じる高エネルギー陽電子を透過型のタングステン減速材に入射します。タングステンの電位を制御することにより、5 ~ 30 eV の陽電子ビームを種々の実験に利用することが可能になっています。
電子線形加速器を用いた低エネルギー陽電子蓄積 (LINAC based low energy positron accumulation)
電子陽電子プラズマを実験的に実現するためには10^8個程度の低エネルギー陽電子を用意する必要があります。そこで本研究では1990年代から実用化が期待されていた電子線形加速器を用いた低エネルギー陽電子蓄積法を産総研の電子線形加速器を利用して開発しました。
左下の写真(a)は産総研の低エネルギー陽電子ビームラインの下流に低エネルギー陽電子蓄積器を設置した様子を示しています。約900 Gの一様磁場を発生することのできるソレノイドコイルの中に真空容器があり、写真(b)のような電極構造を持ったガスセルと蓄積装置が設置されています。
右下の図に示したのは,低エネルギー陽電子を蓄積したテスト実験の例です。右下図(a)-(c)は4秒間蓄積した陽電子を蓄積器下流に設置したMCPと蛍光面で計測した画像で,右下図(d)はその強度の断面図です。閉じ込め領域に高周波(回転電場)を加えることにより,蓄積陽電子の密度が制御できることを示しています。また,右下図(e)は引出された陽電子パルスの消滅信号,右下図(f)は(e)のtime of flightとパルス幅を示しています。
参考文献
K. Michishio, H.Higaki, A. Ishida and N. Oshima, New J. Phys. 24 (2022) 123039
H.Higaki, K. Michishio, K. Hashidate, A. Ishida and N. Oshima, Appl.Phys.Express 13 (2020) 066003
H.Higaki, C. Kaga, K. Nagayasu, H. Okamoto, Y. Nagata, Y. Kanai and Y. Yamazaki, AIP Conf. Proc. 1668 (2015) 040005
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