研究 上部消化管(胃)グループ

NK細胞CD137刺激による胃癌抗腫瘍能増強の検討

トラスツマブ単独、トラスツマブと抗CD137抗体を併用CD137は様々な免疫細胞が活性化した際に表出する腫瘍壊死因子の1つであり、CD137を刺激することにより各種免疫細胞の抗腫瘍効果が増強することが報告されています。

NK細胞は腫瘍免疫において重要な役割を担っており、癌細胞に結合した分子標的薬のFc部分を認識し、腫瘍細胞を攻撃する抗体依存性細胞障害細胞作用(ADCC)がその機序の一つです。近年、B細胞性非ホジキンリンパ腫やHER2陽性乳癌、EGFR陽性頭頸部癌に、分子標的薬であるリツキシマブやトラスツズマブ、セツキシマブを投与することにより、NK細胞にCD137が高発現することが報告されています。CD137を発現したNK細胞は、CD137を刺激する抗体(Agonist CD137 Ab)を投与することにより、抗腫瘍効果の増強が得られることもわかってきております。(Kohrt,H.E. et al. J Clin Invest. 2014 Jun 2;124(6):2668-82.) (Kohrt,H.E. et al. J Clin Invest. 2012 122:1066-75) (Kohrt,H.E. et al. Blood. 2010 117:2423-32)。

胃癌においてはToGA試験により、HER2陽性胃癌に対するトラスツズマブの有用性が示され、さらにはEGFR陽性胃癌も30%近く存在することが知られています。我々は、HER2陽性胃癌細胞株・EGFR陽性胃癌細胞株をトラスツズマブ・セツキシマブとRecombinant CD137L proteinを投与することにより、CD137陽性NK細胞が増加し、抗腫瘍効果が高まることを見出しました(Fig1)。さらに、そのメカニズムの解析を行っています。

図1

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微小重力環境下での胃癌オルガノイドモデルの作製

近年、新たな培養のモデルとして様々な臓器のオルガノイドが研究開発されています。

オルガノイドとは、多能性幹細胞より誘導した幹細胞、あるいはヒト組織から採取した幹細胞を三次元培養したものであり、臓器特異的な複数の細胞型と特定の機能を持つ立体構造をもち、適切な培養を行えば部分的ではありますが患者由来の細胞の性質を再現できるミニ臓器です。

そして、オルガノイドはin vivoの臓器と同様に幹細胞を豊富に含むため、継代や長期培養、凍結保存も可能であり、さらには遺伝子の導入など、様々な実験に用いることができるという大きな利点があります。

現在、様々な臓器でオルガノイドが樹立されていますが、正常組織だけではなく癌オルガノイドの樹立の報告もなされてきており、我々は当院分子病理学教室と共同で胃癌オルガノイドの研究を行っています

手術した個々の胃癌症例から胃癌オルガノイドを作成することにより、抗癌剤の感受性や耐性獲得についてより精度の高い解析を行う事ができ、個別化治療へ応用することが期待されます。

さらに、従来のオルガノイドモデル研究では比較的難しいとされるADCCなど細胞療法を再現できる実験系の構築を目指し新たなモデルについて検討中です。これらを応用することで、先のCD137を標的とする治療やADCCなどcell-cell contactを必要としたモデルでの新たな治療法の開発に有用となるものと考えています。

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胃癌における高悪性化因子の同定と機能解析

癌治療時にしばしば遭遇する治療抵抗性の獲得や再発・転移機構について、様々な解析されてきており、それらを標的とした治療戦略を立てることで癌治療の治療成績の向上が可能となることが期待されています。CD24は、種々の癌腫における高悪性化因子であることが、主として臨床病理学的解析から報告されています。しかし、胃癌におけるCD24の発現の意義については定まった結論は得られておらず、胃癌細胞でのCD24の特異的な発現様式や制御機構に着目した基礎的検討も報告されていません。

そこで我々は、細胞膜アンカー型糖蛋白質であるCD24の発現が、胃癌細胞の悪性化因子・予後不良因子になりうる可能性を見出し、実験を行ってきました(図1、図2)。また、低酸素培養が胃癌細胞のCD24の発現促進因子になりうることを認めており、これらをまとめ2014年に報告しています。(Fujikuni N, et al. Cancer Sci. 2014 Nov;105(11):1411-20.)

図1CD24はTMK-1細胞の接着/運動/浸潤能亢進因子

図2CD24は胃癌手術後の予後不良因子

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絶食刺激が自然免疫応答に及ぼす影響に関する検討 -NK細胞を中心に-

一般的に絶食により免疫能は低下すると考えられ、絶食に伴う免疫能低下のメカニズムは徐々に解明されてきています。NK細胞は感染初期の免疫反応や抗腫瘍効果に重要な役割を果たしていますが、外科周術期に重要と思われるNK細胞をはじめとした自然免疫に関する影響は未だ明らかとなっていないのが現状です。そこで、本研究では絶食が自然免疫に及ぼす影響について解析を行いました。絶食管理としたマウスの肝還流液中のリンパ球分画の変化をフローサイトメトリーにより解析した結果、絶食マウスは肝還流液リンパ球数の著しい低下とフェノタイプ変化を認めました。一般的に絶食により免疫能は低下すると言われていますが、我々の検討では、むしろ活性化されたNK細胞の割合が増加しているという、非常に興味深い結果でした。さらに、絶食条件によりHeat Shock Proteinなどのストレスタンパクの発現増加することが報告されていますが、我々はそれらのストレスタンパクがNK細胞の活性化に関与している可能性を見出し、これらをまとめて報告してきました。(Dang VT, et al. PLoS One. 2014 Oct 30;9(10):e110748.)

これらのメカニズムを解明することでNK細胞の活性化を効率的に誘導することや、ひいては外科周術期管理や抗腫瘍効果増加に有効利用できると考え、さらなる研究を行っています。

絶食(3日間)によりNK細胞活性化に変化が起こる,
		抗HSP70抗体の投与で、絶食によるNK細胞活性化が抑制される

NK細胞(-)のマウスにTRAIL-NK細胞を移植、絶食により、移植したNK細胞活性化に変化が起こる

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Hematopoietic progenitor cellから誘導したNK細胞の 胃癌に対する抗腫瘍活性の機能解析

胃癌は検診等の普及により早期発見・治療が可能となり、根治できる症例が増えている一方、進行・再発胃癌の予後は未だ不良であり、これまでの抗癌剤を中心とした治療に加え、新たな治療戦略が望まれています。自然免疫応答の主要因子であるNK細胞は腫瘍転移形成の初期段階で事前の感作の必要なく腫瘍細胞を選択的に攻撃が可能であり、癌に対する細胞療法のEffector細胞として期待されます。我々は、骨髄中のCD34陽性Hematopoietic progenitor cellをサイトカイン(IL-15,IL-7,SCF,Flt-3)存在下で培養することで、肝炎ウイルス感染細胞、肝癌細胞株に対して高い細胞障害性示すNK細胞に分化誘導する方法を確立しております。同様の方法で誘導したNK細胞は胃癌細胞株に対しても抗腫瘍効果がある事がわかりました。その一方で、NK細胞の活性化機構は厳密に制御されています。胃癌に対して強力な効果を持つ細胞療法の確立するため、誘導したNK細胞の胃癌に対する抗腫瘍活性のメカニズム解析を行っております。

また、種々の胃癌細胞株の肝転移モデル、腹膜播種モデルの作成し、誘導したNK細胞のIn vivoでの抗腫瘍活性の証明を行っています。

誘導したNK細胞は胃癌細胞株に対して強力な細胞障害活性を示す

胃癌肝転移モデル (細胞株:KKLS)

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病的肥満症の腹腔内脂肪における免疫細胞の解析

肥満症は世界規模で増加の一途をたどり、肥満症に伴う糖尿病や心血管疾患の罹患率、死亡率の増加は全世界において大きな問題となっています(Rubino F. Nature 2016)。肥満症患者の脂肪組織では慢性炎症が生じ、糖尿病や代謝疾患ひいては発癌の原因となることが明らかになっています。慢性炎症の原因としては、近年、腹腔内脂肪のマクロファージ・ナチュラルキラー(NK)細胞が活性化することで、肥満症の進行に関わることがマウスモデルで明らかにされています (Lee BC et al. Cell metabolism 2016)。これに対してヒトにおいては、腹腔内脂肪のマクロファージについては、肥満手術サンプルを用いることで解析が行われていますが(Cancello R et al. Diabetes 2006, Poitou C et al. ARTERIOSCL THROM VAS. 2011)、他の免疫細胞については解明されておらず、ヒトにおいて慢性炎症が生じる機構については、未だ不明な点が多いのが現状です。

そこで、肥満症患者において腹腔内脂肪の免疫細胞を解析することで、肥満症の病態解明ができるのではないかと考えています。当院では2015年より肥満手術を開始し、現在は保険治療で行うことが可能となっています。本研究によって、肥満症の病態生理を明らかにし、慢性炎症の抑制が可能となれば、より効果的な治療戦略を開発することで、肥満症やそれに随伴する合併症の改善など臨床面だけでなく、ひいては医療費削減など経済面においても大きな貢献ができると考えております。

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