硫化ヒ素やセレン等のアモルファスカルコゲナイド半導体に光を当てると、基礎吸収端がレッドシフトする、いわゆる光黒化現象が起こることはよく知られている。また、この現象が、原子配列の中距離範囲にわたる構造不安定性に深く関わるものであることも、これまでの研究で次第に明らかになってきている。 アモルファスカルコゲナイドにおける最大の特徴は、孤立電子対が存在することである。孤立電子対は価電子帯の最上部を占めているが、空間的には、共有結合でつながったランダムネットワーク中のイオウやセレンなどのカルコゲン原子の周りに局在し、ネットワーク構造の安定性に重要な役割を果たしている。すなわち、隣合った孤立電子対の間に働く交換斥力のため、結合角や2面角が制限を受け、ネットワークのつながり方やねじれ具合いが規定される。一方、ネットワークをランダムにつなげていこうとすると、必然的に局所的な歪みが発生する。この歪みは、ネットワークに内在するトポロジカルな拘束によるものであるといえる。これら電子エネルギーの利得とトポロジカルな拘束が競合する結果、ネットワーク中には、アモルファスカルコゲナイドに特有の、中距離範囲におよぶ非常に緊張度の高い準安定構造が出現すると考えられる。従って、光照射により孤立電子対から電子を取り去ることが、構造の不安定性を引き起こし、構造緩和をもたらすことは容易に想像される。 我々のグループでは、このような”固体”としてのアモルファスカルコゲナイドに対し、トポロジカルな拘束条件はなく、分子の運動の自由度がはるかに大きい”液体”カルコゲナイドで、光誘起黒化現象や光誘起構造変化が起きるかどうかという点に興味を持ち、液体イオウや液体セレンにパルスレーザーを照射した後の光誘起吸収や光誘起伝導を調べている。その結果、これらの液体カルコゲンが予想外に顕著でバラエティーに富む光誘起現象を示すことが明らかになってきた。 |
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波長可変パルスレーザー | 光吸収係数の測定 |
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石英ガラス光学セル (Se:1マイクロメーター) |
過渡電気伝導度測定用 石英ガラスセル |