第1章[課題]の解答例


吉田光演
2001/12/06 更新



1. 次の表現から形態素をそれぞれ取り出してみよう。


(1) 太郎はお母さんに買い物に行かせられた。


【解説】
日本語の形態素を切り出すには,ローマ字を使う方がよい。

Taroo- wa o- kaasan- ni kaimono- ni ik-ase- rare- ta

名詞(自由形態素):Taroo, kaasan, kaimono
(拘束形態素)

接頭辞: o
助詞: wa, ni, ni
動詞語幹:ik-
助動詞:ase(使役), rare(受動)
時制形態素:ta

【注】
・「さん」は「山田さん」のように氏名に付加できる接尾辞であるので,「母さん」はkaaとsanに分解
したくなるが,「かあ」だけでは「母」を表わすことはできないので,ここでは「母さん」を一つの形態
素と考える。
・「買い物」は一つの形態素ではなく,kaiとmonoに分解することは可能である。この場合は,「買い
物」,「売り物」,「借り物」のように,動詞V+iの形に「もの」が付いたものと分析される。

ところでもし,(1)を漢字とカナで形態素分解すると以下のようになる:

a. 太郎 は お 母さん に 買い 物 に 行か せ られ た
b. 太郎 は お 母さん に 買い 物 に 行 かせ られ た

これでは,動詞(述部)の形態素分解が困難になる。日本語の動詞は母音動詞と子音動詞に分解される。
母音動詞は,「見る/見た(mi-ru/ mi-ta)」,「食べる/食べた(tabe-ru/ tabe-ta)」のように,動詞
語幹が母音(-i, -e)で終わる。
子音動詞は,「読む/読みます(yom-u/ yomi-masu)」,「書く/書きます(kak-u/kak-imasu)」のよ
うに,動詞語幹が子音で終わる(「走る/走った(hasir-u/hasitta (<hasir-ta))のように子音が2つ連
続するときに音韻変化を起こす問題はあるが)。

「行か」と区切ると動詞語幹 ik-にaが余分にくっつき,使役形態素は,「せ」だけになってしまう。
また,「行」と「かせ」に区切ると,動詞語幹(ik-anai, ik-imasu, ik-u, ik-e, ik-oo)の-kが落ちてし
まう。従って,日本語の動詞の形態素を切り取るときは,ローマ字表記を用いるほうがよい。




(2) Lernbarkeit / learnability (習得可能性)


【解説】

    Lernbarkeit
       /     \
   lernbar       keit
   /   \
lern       bar


     learnability
      /    \
  learnabil-    ity
   /    \
learn   abil (=able)

 

【注】動詞語幹に「可能」を表わす接辞-bar /-ableが付いて,形容詞が派生される。その次に,形容詞
から名詞を派生する接辞-keit, (i)tyがくっつく。

(3) Kindergarten (幼稚園)


【解説】

Kind (名詞)+ er (複数接尾辞)+ garten(名詞)

    Kindergarten
      /      \
    Kinder     garten
    /  \
  Kind     er

(4) Unmenschlichkeit (非人間性) 【解説】 un (否定接頭辞) + mensch (名詞) + lich (形容詞は性接尾辞)+keit(名詞派生接尾辞)

      Unmenschlichkeit
      /     \
 unmenschlich-   keit
  /      \
un       menschlich
           /  \
       mensch    lich


【注】un-は形容詞に付く否定の接頭辞である。 だから,まず,mensch + lichから形容詞が派生され(「人間的な」),それから否定の接辞が付いて, “unmenschlich“となる。最後に,この形容詞に名詞を派生する接尾辞-keitが付いて,名詞が派生さ れる。



2. Fahrradは「自転車」を表わす( fahren 「乗る」+Rad 「車輪」)。しかし,「自転車の乗り手」 を表わすのはRadfahrer であり,FahrraderやFahrr?derではない。なぜだろうか?

【解説】
-erは,動詞語幹について,「動作主」や「道具」を表わすことが出来る:
spiel-en (=play) : spiel + er → Spieler (=player)
rechn-en (=計算する) : rechn + er → Rechner (=計算機)

しかし,上記のように,名詞に直接に-erを付けて,「人」や「道具」を表わすことはできない。だか ら,Fahrrad(自転車) + er →Fahrrader, Fahrraederを作ることはできない。
そこで,まず,「自転車に乗る」は,Rad fahrenであることを思い起こして欲しい。
これは旧正書法で は,rad|fahrenというように,分離動詞(複合動詞)として考えられていた。
この複合的な動詞 rad|fahrenの語幹 radfahr-には,人を表わす接尾辞-erはくっつけることができる(動詞の語幹である から!)。



3. 「花子はきのう次郎が送った手紙を読んだ」という文の曖昧性を説明しなさい。

【解説】

この文は,次のような構造をもっている。

花子は【主語】(きのう)[ [(次郎が(手紙を1)送った) 【関係節】 手紙1を] 【目的語】読んだ【動詞】

ここで,「きのう」という時間副詞がどの部分を修飾するかという点で解釈が2通りある。

(1) 花子は【主語】きのう [ [(次郎が(手紙を1)送った) 【関係節】 手紙1を] 【目的語】読んだ【動 詞】  
(「手紙を読んだ」のは昨日)

(2) 花子は【主語】[ [きのう(次郎が(手紙を1)送った) 【関係節】 手紙1を] 【目的語】読んだ【動 詞】  
(「手紙を次郎が送った」のは昨日)



4. ドイツ語の文の構造はどのような点で英語や日本語と似ているか,また,異なっているか?[読書案 内]の文献も利用して調べてみよう。

【解説】

この問題の解説は省略いたします。
第1章の本文を参考にし,更に読書案内の文献も読んで考えてくださ い(これはすこし難しいので,第2章の「統語論」を読んでから感あげるといいかもしれません。(あと で詳しい解説を掲載します)。