膀胱癌 Bladder carcinoma

1. 疫学的事項
膀胱癌患者の平均年齢は65歳と高齢者に多く、症例の90%は50歳以上であり、男女比は3:1と男性に多い。全症例の80%で再発するため、膀胱を温存する場合には定期的な追跡検査が重要である。
病因として、染料工場のアニリン取扱者に膀胱癌が高頻度に発生した事実から、職業性癌としての研究が続けられ、4-アミノジフェニール、ベンチジンなどの産業毒や紙巻タバコに含まれる2-ナフチラミンによる化学発癌の関与が知られている。また、膀胱結石による長期にわたる慢性膀胱炎では扁平上皮癌が、 膀胱外反症での慢性刺激による腺性化生から腺癌の発生、さらに寄生虫(シストソーマ)による慢性感染から扁平上皮癌が発生することが知られている。
2. 病理学的事項
肉眼的には、乳頭状(papillary)に発育するものが多いが、悪性度の高いものでは 非乳頭状、広基性(sessile)の形態を呈する。腫瘍形態によって浸潤度が大まかではあるが推定できるので、尿道膀胱鏡によって分類する。

増殖様式
a. 乳頭状(papillary)、有茎性(pedunculated)
b. 非乳頭状(non-papillary)、有茎性
c. 乳頭状、広基性(sessile)
d. 非乳頭状、広基性

細胞型としては、 移行上皮癌が全体の90%を占め、残りの10%未満が扁平上皮癌あるいは腺癌である。膀胱壁の固有筋層直下に脈管系が存在し、この部を越えて浸潤あれば血行性、リンパ行性転移の可能性が増大する。  
臨床病期は、腫瘍深達度を示すもので、日本泌尿器科学会・病理学会により作成された膀胱癌取扱い規約において壁内浸潤が粘膜下層までの表在癌と粘膜下層を越えて筋層およびそれ以上に浸潤している浸潤癌に分類されている。なお、異型度は細胞異型度と構造異型度でG1〜G3までの3段階に分類されている。

3. 診断
臨床症状として、無症候性血尿(asymptomatic or symptomless hematuria)が最も重要である。この血尿は突然出現し、自然に消退する特徴がある。また、浸潤度の高い腫瘍では膀胱刺激症状が、腫瘍浸潤による尿管閉塞のある症例では側腹部痛が見られる。

検査として、腫瘍の存在を確認するスクリーニング検査と、腫瘍深達度を診断する臨床病期診断に大別される。

腫瘍の存在診断
a. 尿検査;血尿
b. 尿細胞診;偽陽性、偽陰性がある
c. 尿道膀胱鏡;腫瘍の数、形態、部位、大きさ
d. 排泄性腎盂造影(IVU);尿管口近傍の浸潤癌では片側性水腎症、膀胱像に陰影欠損
臨床病期診断
a. CT;膀胱壁内浸潤度、骨盤内リンパ節転移の有無
b. 経尿道的膀胱エコー;膀胱壁内浸潤度
c. 遠隔臓器転移の有無;肺、骨、肝

4. 治療
治療の根本は、膀胱を温存できるか、否かである。治療法の種類としては、経尿道的腫瘍切除術と膀胱全摘除術および尿路変更術がある。その他の補助療法としては、抗癌化学療法、放射線療法、膀胱内注入療法がある。

治療方針に関連する重要な因子
a. 筋層浸潤(深層への浸潤);筋層深部浸潤例の予後は不良
b. 腫瘍細胞の異型度;異型度の高い例(G3)の再発確率は高い
c. 上皮内癌(CIS)の有無;異所性再発、浸潤度の進行

治療法の種類と適応
a. 手術療法
 1) 内視鏡手術(経尿道的腫瘍切除術);low stage
 2) 膀胱全摘除術+尿路変更術;多発性かつ筋層浸潤
b. 抗癌化学療法;深部筋層浸潤、遠隔臓器転移
 CDDPを主とする多剤併用化学療法
c. 放射線療法;深部筋層浸潤
d. 膀胱内注入療法
 1) BCG;CIS(上皮内癌、carcinoma in situ)
 2) 抗癌剤;MMC, ADM