腎腫瘍 (Renal tumors)

I. 腎細胞癌(renal cell carcinoma)

1. 頻度と死亡率 (Incidence and Mortality)
腎細胞癌(RCC)は,腎に発生する悪性腫瘍の85%から90%と大半を占め,残りの大部分が腎盂腫瘍であり,Wilms腫瘍は原則として小児に発生する。
1985年,腎癌は世界全体の悪性疾患の1.7%に相当し,世界全体における腎癌の頻度は,男性で人口10万人あたり3.1人,女性では2.1人である。本邦における1997年に新しく診断された腎癌は6,639例(男性4,681例,女性1,958例)であり,人口10万人あたりの頻度は,男性で3.7人,女性で1.6人である。1997年の腎盂癌を除く腎悪性新生物による死亡例は2,993例(男性2,103例,女性890例)である。

2. 原因と危険因子 (Causes and Risk Factors)
(1) 環境因子 (Environmental Factors)
RCCの原因として,喫煙,肥満,高血圧と降圧剤,その他石油製品,重金属あるいはアスベストとの職業的被爆,高蛋白食などのさまざまの環境因子が寄与する可能性が示唆されている。
また,(a) 慢性腎不全と関連する後天性嚢胞腎,(b) 結節性硬化症,(c) 多発性嚢胞腎患者にRCC発生のリスクが増加することも報告されている。
(2) 遺伝疾患 (Heredutary Disease)
RCCは散在性と家族性があり,家族性のRCCは過去想像されていたものよりかなり高頻度で存在し,およそ4%のRCCが遺伝性と推定される。遺伝性腎癌には4種類ある。
これらの家族性腎癌は,多中心性で,両側性の傾向を持ち,若年者に発生するなどの点が,散在性の非家族性のRCCと異なる。

●分類 (Classification) (WHO, 1998)
I. 腎実質の上皮性腫瘍
 A. 良性-腺腫 (Benign-adenoma)
  1) 乳頭状/管状乳頭状腺腫 (Papillary/tubulopapillary adenoma)
  2) オンコサイトーマ (Oncocytic adenoma)
  3) 後腎性腺腫 (Metanephric adenoma)
B. 悪性-腎細胞癌腫瘍 (Malignant tumors) ;腎実質性悪性腫瘍の89%
II. 腎盂の上皮性腫瘍
III. 腎芽性腫瘍(Nephroblastic tumors)
 A. ウィルムス腫瘍 (Nephroblastoma, Wilms' tumor)
B. Mesoblastic nephroma
 C. Multilocular cystic nephroma
IV. 非上皮性腫瘍
 A. 良性
  1) 血管筋脂肪腫 (Angiomyolipoma)
  2) 線維腫 (Fibroma)
  3) 血管腫 (Hemangioma)
  4) その他
 B. 悪性
V . その他 

●遺伝性腎癌
 (1) von-Hipple Lindau病 VHL遺伝子(3p25)
(2) Hereditary Papillary Renal Carcinoma (HPRC) Met遺伝子(7q31.3)
 (3) Hereditary Clear Renal Carcinoma (HPRC)
(4) Hereditary Renal Oncocytoma  Birt-Hogg-Dube症候群

3. 臨床症状と診断 (Clinical Presentation and Diagnosis)
 (1) 臨床症状 (Clinical Presentation)
RCCは,臨床症状,遠隔転移の部位,臨床経過の多様性が特徴であり多くの内科疾患の鑑別診断の一つと考えられている。
小さく局所に限局した腫瘍は,臨床症状がなく,局所で進行したり,遠隔転移が生じるまで診断が遅れることが多い。症状は,原発腫瘍に直接関連するもの,遠隔転移あるいはパラネオプラスティック症候群によるものがある。
最も多い症状は,血尿,腹痛,側腹部又は腹部腫瘤の触知である。古典的な三主徴の血尿,腹痛および腫瘤触知は5%に認められ,1%〜3%は両側性である。左腎静脈から起こる精巣静脈の閉塞のために,RCC患者の2%に精索静脈瘤がある。
CTスキャンや超音波断層検査時に偶然に発見されるRCCが増加している。これらの画像診断法が一般的になって,25%〜40%の症例が腎腫瘤として偶然発見される。偶然発見された腫瘍は症状を持つ腫瘍と比較して小さく,75%が腎被膜内に限局し,5年生存率は75%と、摘除によって治癒する可能性が高い。
  (2) 診断 (Diagnosis)
  a. 病理学的分類
細胞型(淡明細胞,顆粒細胞,紡錘細胞とオンコサイティック癌),増殖様式(胞巣状,管状乳頭状,肉腫様)で分類されていたが,臨床経過や組織発生をほとんど反映しないので,淡明細胞,好色素性,嫌色素性,オンコサイティック,集合管癌(Bellini管癌)の5つの細胞型に分類する新しい分類が提案された。
 b. 腎腫瘤の評価
静脈性腎盂造影(IVP)は,血尿の評価にスクリーニングとして有用であるが,超音波断層検査と造影CTスキャンは正確に腎腫瘤を発見し特徴を明らかにできる。長径が3cm以下の腫瘍に対する感受性は,IVP 67%,超音波断層検査79%,CTスキャンは94%である。
高濃度の嚢胞内容,隔壁を有する嚢胞,壁の厚さが不規則,広範な石灰化など,良性嚢胞の特徴でない所見を有する嚢胞性病変は,悪性腫瘍を考慮して精査する必要がある。

●組織学的分類
 
淡明細胞癌はRCCの75%に相当し,腫瘍細胞は,脂質とグリコーゲンから成る明るい細胞質を持つ。淡明細胞癌は第3染色体短腕の欠損が特徴である。
 
好色素細胞癌はRCCのおよそ14%に相当し,しばしば多中心性で両側性である。好色素細胞癌には第3染色体短腕の欠損はないが,Y性染色体のモノソミー,7,17染色体のトリソミーがある。好色素細胞癌は通常診断時にlow stageなので,淡明細胞癌より予後は好ましい。淡明細胞癌と好色素細胞癌はネフロンの近位尿細管由来であり,正常な近位尿細管細胞で認められる細胞表面タンパクを発現している。
 
嫌色素細胞癌はRCCの約5%に相当し,過小二倍体の染色体数と多数の染色体の欠損が特徴であるが第3染色体短腕の欠損は存在しない。この腫瘍の予後は一般的に良好である。
 
腎オンコサイトーマは遠隔転移は非常に稀な珍しい腫瘍である。腎オンコサイトーマには第3染色体短腕の欠損や7,17染色体のトリソミーはない。嫌色素性およびオンコサイティック腫瘍は供に皮質集合管の介在細胞に由来する。
 
集合管癌は髄質の集合管に由来し稀である。この腫瘍は全ての年齢に発生するが若年者に発生する傾向がある。しばしば診断時に遠隔転移を有し,臨床的に攻撃的であり予後不良である。

●生物学特性
a. 長期にわたり転移が出現する
b. 自然消退例の存在 ; 0.01%から0.02%
c. 尿路外症状(Paraneoplastic syndrome)
●パラネオプラスティック症候群 paraneoplastic syndrome
   i) 発熱 ; 発熱関連物質 (Il-1, IL-6など)
   ii) 消化器症状,体重減少,全身倦怠感
   iii) 高血圧 ; レニン,プロスタグランディン
   iv) 肝機能異常 (Stauffer症候群) ; 肝障害誘発物質
   v) 高Ca血症 ; PTH様物質
   vi) 多血症 ; エリスロポエチン

c. ステージング検査 
最も転移が多い肺と所属リンパ節に焦点を当て,胸腹部CT スキャンを行う。術前のステージング検査におけるCTスキャンの正確度は90%である。下大静脈への腫瘍進展が疑われる場合は,ガドリニウムによるエンハンスMRIが有用である。

4. 手術 (Surgery)
    局所に限局したRCCに対する唯一の治癒的な治療は外科的治療である。
(1) 根治的腎摘除術 (Radical Nephrectomy)
1969年,Robsonらは,腎,周囲脂肪織,所属リンパ節,同側の副腎の摘除と定義した根治的腎摘除術の結果を報告した。25年の間,(1) 副腎摘除の必要性,(2) 所属リンパ節郭清の範囲や必要性,特に偶然発見されたRCCの場合,(3) 対側腎が正常な小さい臨床的に限局した腫瘍に対する腎部分切術,が検討され修正されている。
(2) 腎部分切除術 (Partial Nephrectomy)
標準的な根治的腎摘除術によって透析が必要な程度の機能的に無腎となる場合が,RCCに対する腎部分切除術で適応となる。絶対的適応は,(a) 両側腫瘍,(b) 解剖学的あるいは機能的な単腎の癌の存在であり,相対的適応は対側腎が高血圧や糖尿病で冒されている場合がある。
偶然発見された小さなRCCが増加し,絶対的あるいは相対的適応に対する腎保存手術の成績が良好なので,対側腎が正常で小さな局在する腫瘍に選択的な腎部分切除術が施行されるようになってきた。
(3) 下大静脈進展
RCCは,高頻度で腎静脈に浸潤する傾向があり,これがさらに下大静脈まで進展し,右心房に達する場合もある。遠隔転移が認められない場合,下大静脈に腫瘍が進展した症例の約半数は,腫瘍摘除によって長期生存が達成される。心臓外科医と協力して,静脈静脈バイパスや,循環停止心肺バイパスを併用し腫瘍と腫瘍塞栓の摘除が行われる。突然死や致死的な出血の危険は減少したが,手術による死亡率は5%から10%に達する。

●TNM分類 (UICC 1997)
  T1 最大径が7cm以下で,腎に限局する腫瘍
  T2 最大径が7cmをこえ,腎に限局する腫瘍
  T3 腫瘍は主静脈内に進展,または副腎に浸潤,または腎周囲脂肪組織に浸潤するが, Gerota筋膜をこえない
  T4 腫瘍はGerota筋膜をこえて浸潤する
  N1 1個の所属リンパ節転移
  N2 2個以上の所属リンパ節転移
●外科的摘除
A. 根治的腎摘除術(radical nephrectomy)+リンパ節廓清 (lymphadenectomy)
(a) 経腹的 (transabdominal approach)
(b) 経胸腹的 (thoracoabdominal approach)
(c) 経腰的 (translumbar approach)
(d) 鏡視下手術 (endoscopic surgery)
腹腔内アプローチ
後腹膜的アプローチ
B. 拡大手術
(a) 下大静脈浸潤 (vena cava extension)
腎細胞癌の5%が下大静脈に進展
遠隔転移のない例では積極的な外科的処置
超低体温循環停止,心肺バイパス,駆血
(b) 局所浸潤癌( locally invasive cancer)
遠隔転移がなく切除可能な症例
(c) 遠隔転移の外科的摘除
C. 腎保存手術(nephron sparing surgery)

●選択的な腎部分切除術
 選択的な適応で腎部分切除術を施行した280例の集計では,局所再発率は1.4%であった。この比率は根治的腎摘除術後に対側腎に腫瘍が発生する危険と同じであり,対側腎の正常な小さい(4cm以下)局在性腫瘍に対する選択的な腎保存手術は選択肢の一つなりつつある。

(4) 遠隔転移
遠隔転移を有する症例に対する腎摘除術は,目的が局所症状の緩和など生活の質を改善する場合などに適応となる可能性がある。
孤立性の遠隔転移巣摘除後の5年生存率は15%から50%であることが示されている。

 5. 進行癌に対する治療法 (Systemic Therapy for Advanced Disease)
進行したRCCは,細胞傷害性化学療法,ホルモン療法,生物学的修飾物質(BRM)など検討された治療手段に,20%以上の奏効率を示す薬剤はないが,IL-2とIFN aは10%から20%の奏効率を示す。
RCCに対する全身治療に対する奏効率は低く,全て毒性を伴うので,症状のない症例は,腫瘍進行がはっきりしたり症状が現れるまで経過観察が選択肢の一つとなる。

●進行癌に対する治療
 A. 免疫療法
   インターフェロン,インターロイキン-2,癌ワクチン,ミニ移植とGVT
 B. 腎動脈塞栓術
   姑息的治療 ; 血尿や疼痛のコントロール
 C 放射線療法
   骨転移に対する疼痛管理や脳転移に対して施行
 D. 遺伝子治療
   GM-CSF,IL-2,IL-12

●予後
 
Robson stage別 5年生存率
Series

I

II

III

IV
deKernion (1986) 60-82 47-80 35-51 3
Skinner (1971) 80 50 25 2
Lieber (1981) 79 40 24 8
Waters(1979) 51 58.5 12.3 0
Giuliani (1990) 80 68 52(N1) 0 7 (N0)
里見 (1990) 70 65 42 4
広島大 (1976-1998) 94 83 72 11

II. ウィルムス腫瘍
 1. 疫学
1814年,Ranceによって初めて報告されたが,1899年,Max Wilmsが7例の詳細を報告したことからWilms腫瘍と呼ばれている。
米国の統計では15以下の小児100 万人あたり年間7〜8人の発生があり,小児腫瘍の6〜8%に相当する。本邦では年間40〜50人が登録され,小児癌登録例の2.5〜3.5%にあたる。
年齢分布は1歳から5歳が75%で,3歳から4歳がピーク,90%が7歳以前に発症する。男女差,左右差はなく,5%が両側性,1%の症例で家族内発生を認める。
 2. 病因
ウイルムス腫瘍は組織学的所見が発生段階の後腎組織に類似するためにmetaneohric mesodermから発生すると考えられている。
a. 癌抑制遺伝子 WT1 (11p13),WT2 (11p15)
b. Beckwith-Wiedemann症候群 ; ゲノム刷り込み異常
 3. 症状
ウイルムス腫瘍は,腹部膨隆を初発症状値することが多く, 60から70%が家人あるいは医療機関での触診で発見される。20から30%が血尿,15%が疼痛を初発症状とする。また,血圧上昇を伴う症例が 50%以上で認められる。
 4. 診断
 超音波断層検査により水腎症や腎嚢胞性疾患と鑑別する。 CTスキャンで腫瘍の大きさや位置,領域リンパ節転移の有無,腎静脈あるいは下大静脈,さらに対側腎を評価する。ウイルムス腫瘍は肺転移が最も多く,次いで肝転移しやすいので,これら臓器を評価する。              
5. 治療
a. 外科的摘除
b. 放射線療法; stage I を除き行う
c. 化学療法;アクチノマイシンD,ビンクリスチン,アドリアマイシン
 6. 予後
2年生存率; Stage I :95%,II :90%,III :85%,IV :54%
●ウイルムス腫瘍と先天奇形
1) WAGR (Wilmsユ tumor, aniridia, genitourinary malformations, mental retardation)症候群
ウイルムス腫瘍,無虹彩症,泌尿生殖器奇形,先進発達遅延
 11番染色体短腕13領域の欠失
2) Denys-Drash症候群
  ウイルムス腫瘍,腎疾患,生殖器奇形
  WT-1遺伝子の異常
3) Beckwith-Wiedemann症候群
   肝芽腫,横紋筋肉腫,副腎皮質腫瘍の合併
  11番染色体短腕15.5領域の異常

●NWTS(National Wilms' Tumor Study Group)の病期分類
I : 腫瘤が腎内に限局し完全に切除できる. 破裂(-) , 残存腫瘍(-)
II : 腫瘤が腎を越えているが完全に切除できる.
生検や手術で腫瘍細胞がこぼれた可能性はあるが残存腫瘍なし
III : 残存腫瘍がある
IV : 血行性転移がある (肺, 肝, 骨, 脳)
V : 診断時両側にある
● ウイルムス腫瘍の治療指針(NWTS-4)
favorable histotogy
stage I AMD + VCR を6ヶ月
  stage II AMD + VCRを15ヶ月
stage III 腹部照射 (1,000cGy)とAMD + VCR + ADRを15ヶ月
stage IV 腹部照射 (2,000cGy)とAMD + VCR + ADRを15ヶ月
肺転移に対して肺照射(1,200cGy)
unfavorable histology (anaplastic tumor)
stage I AMD + VCRを6ヶ月
  stage II-IV腹部照射 (age-adjusted)とAMD + VCR + ADR + CPMを15ヶ月
AMD, actinomycin D ; VCR, vincristine ; ADR, adriamycin; CPM, cyclophosphamide
Stage V 可及的に腎機能を温存,両側の生検後に化学療法または放射線照射を行い,     
       second-look operationで腫瘍のみを摘出する。

III. 血管筋脂肪腫 (過誤腫 : hamartoma)


1. 病因と特徴
血管筋脂肪腫は,平滑筋,血管,成熟脂肪組織のさまざまな混合物から成る中胚葉由来の過誤腫である。血管筋脂肪腫は腎に最も高頻度で発生するが,肺,肝,皮膚,卵管,腟,精索,陰茎あるいは鼻腔の発生が報告されている。
血管筋脂肪腫と診断された症例の約50%は,染色体の9q34(TS 1)か16p13.3(TS 2)の遺伝子欠損による常染色体優性遺伝疾患である結節性硬化症の特徴である,皮脂腺腫,てんかんあるいは精神遅滞を呈する。結節性硬化症を伴う典型的な症例では,血管筋脂肪腫は多発性で両側性であり腎細胞癌を合併することがある。
2. 診断
散在性の血管筋脂肪腫は,通常,超音波断層検査やCTスキャンで偶然発見される。CTスキャンにおける血管筋脂肪腫中の脂肪スキャンが特徴である。逆に,CTスキャンで脂肪組織をを持つ腎細胞癌は血管筋脂肪腫が疑わしい。
3. 治療
血管筋脂肪腫の治療法の決定は,腫瘍径,症状,増殖率,合併だけではなく,放射線学的診断の確実性に依存する。長径4cm以上で増大する血管筋脂肪腫および重篤な症状を有する症例が治療の対象となる。重篤な症状のない,長径が4cm以下の血管筋脂肪腫は処置の必要なことはまれである。長径が4cm以上で,増殖が緩徐であり,症状を欠如するか軽度である症例は,一年に一度の超音波断層検査やCTスキャンで追跡し,特に,結節性硬化症を合併する場合は腎細胞癌の発生を除外する。脂肪成分が少なく診断が不確実なときは腎細胞癌を除外するために試験開腹と摘除が必要である。
症状を有したり大きな血管筋脂肪腫には,選択的動脈塞栓術や,腫瘍核出術,楔状切除術,あるいは腎部分切除術などのネフロン保存手術が試みられるが,腎摘除術が必要なこともある。血管筋脂肪腫が原因の激しい出血には,救急処置として選択的腎動脈塞栓術が行われる。

IV. 腎盂尿管腫瘍(Urothelial tumors of the renal pelvis and ureter)

1. 尿路上皮
尿路上皮は皮膚と同様に表面を被う単一の臓器と考えることができる。移行上皮で被われた尿路は最中枢の腎杯から近位尿道まで広がっている。
2. 疫学的事項
全尿路上皮腫瘍の分布は90%が膀胱,7%が尿道,3%が腎盂尿管であり,上部尿路腫瘍患者の15%から50%に膀胱の移行上皮癌が発生し, 2%から4%で対側の上部尿路に腫瘍が発生する。浸潤型の膀胱移行上皮癌患者の2%から4%に上部尿路腫瘍が発生する。尿路上皮の一カ所に癌が発生した症例では定期的に全尿路上皮を検索する必要がある。
腎盂尿管腫瘍の頻度は 人口10万人あたり0.1人であり,男女比2:1で,50歳代から70歳代に多い。腎盂腫瘍は全ての腎腫瘍の約7%に相当する。
3. 病因
(1) 化学発癌物質
 上部尿路の移行上皮癌の発生因子として化学発癌物質がある。上部尿路では尿が通過する時間は比較的短いので,膀胱病変と比較して頻度はかなり低い。
(2) その他の因子
尿路上皮癌患者の5%から8%に腎結石が合併するが,腎結石患者に腫瘍が発生する頻度は低く約1%に過ぎない。
タバコは少なくとも2倍(2〜6倍)相対的危険度を上昇させる。バルカン腎症(バルカン地方の風土病腎炎である慢性間質性腎炎)とフェナセ ン暴露は上部尿路病変と関連する。長期間のサイクロフォスフォマイド治療も尿路上皮腫瘍と関連する。
4. 臨床症状
60%から90%の患者が顕微鏡的あるいは肉眼的血尿を呈する。腎盂腫瘍の1/3,尿管腫瘍の1/6が側腹部痛を訴える。10%の患者が臨床症状なく偶然に発見される。

●臨床病期
 Ta: 粘膜上皮内に限局
 T1: 粘膜固有筋層までの浸潤
 T2: 筋層までの浸潤
 T3: 筋層をこえて尿管周囲あるいは腎盂周囲脂肪組織または腎実質に及ぶ浸潤
 T4: 隣接臓器への浸潤,または腎をこえて腎周囲脂肪組織におよぶ浸潤
  
●組織型
 a. 移行上皮癌
  腎盂腫瘍の85%,尿管腫瘍のほとんど全てが移行上皮癌,男女比は3:1
 b. 扁平上皮癌
  主として腎結石と慢性刺激に関連
 c. 腺癌
  非常に稀で1%以下,主として女性に発生,通常慢性感染や慢性刺激と関連,嚢胞性腎盂炎(pyelitis cystica)や結節性腎盂炎(pyelitis glandularis)を合併

5. 診断
(1) 画像診断
a. 排泄性尿路造影
放射線透過性の陰影欠損,水腎症,水尿管。
b. 逆行性腎盂造影
75%の症例に陰影欠損,静脈性腎盂造影より解像度が高い
c. 腹部CTスキャン
腎盂腫瘍と腎実質腫瘍の鑑別,リンパ節転移の検索
d. 腹部超音波断層検査
      放射線透過性の結石と軟部組織陰影の鑑別
(2) 尿細胞診
腎盂尿管造影の際に通常行う
(3) 内視鏡検査
上部尿路上皮を直接観察でき生検が可能
6. 治療
(1) 外科的治療
a. 腎盂尿管全摘除術と膀胱部分切除(with excision of bladder cuff)
b. 尿管部分切除
下部尿管の異型度の低い腫瘍
c. 内視鏡手術
(2) 抗癌化学療法
CAP,MVAC療法
(3) 放射線治療

7. 予後
5年生存率(n=611) ; 0% (栗山ら,日泌尿会誌81,1993)
Ta : 92.9%,T1:83.3%,T2: 100%,T3: 46.9%,T4:
     扁平上皮癌,腺癌の予後は極めて不良