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「細胞壁メタボローム」について考えた・調べた・やってみたことについて - 安上がりな Metabolome-like 分析を考える

目次

安上がりな Metabolome-like 分析を考える

Roessner U らの方法 (Plant J. (2000) 23: 131-142) が、簡単に安上がりにできそうでよさそうである (GC-MS をいつでも使えるなら)。 しかし、実際にやってみると様々な問題が出てくる。それらにどう対処するかを考えていきたい(進行中)。残念ながら、まだたいしたことはできていない。

2016年5月: MTBSTFA を用いた前処理と測定についてわかったこと; 

MSTFA などでシリル化すると、水分のせいで加水分解しやすい。MTBSTFA で tert-ブチルジメチルシリル化する方が、糖は測れないがその他の化合物をうまく測れる。再現性もよい。糖は別の方法で測る方がよい。

MTBSTFA を使ったメタボローム分析の論文: Identification of Uncommon Plant Metabolites Based on Calculation of Elemental Compositions Using Gas Chromatography and Quadrupole Mass Spectrometry   Anal. Chem. 2000, 72, 3573-3580   Oliver Fiehn,* Joachim Kopka,† Richard N. Trethewey,† and Lothar Willmitzer

植物の抽出物には、無機の酸性イオンであるリン酸イオン、硫酸イオンが多量に含まれる。これらは MTBSTFA とよく反応して、肝心のアミノ酸などの有機化合物との反応を阻害する。また生成したアミノ酸と MTBSTFA の結合をきわめて不安定にする。だから丸ごと一度に、処理して測定するのは無理だとわかった(私の腕前では)。

DEAE セファデックスA-25 を通過させることで酸性物質を取り除くと、アミノ酸をとてもうまく測定できるようになった。よく反応して生成物も安定しているので測りやすい。酸性物質の一部は、炭酸アンモニウムの溶液を溶出液として用いて回収でき、これも測定できる。炭酸アンモニウムは減圧乾燥させると揮発しやすく、MTBSTFA の反応を阻害しない。しかしこの溶液ではカラムに付いたままで出てこない物質があり、それらはうまく分析できない。

炭酸アンモニウムよりも、0.1 N HCl のほうが有機酸をよく回収できることがわかった。しかしこれでもカラムに結合する茶色い成分がある。これらは仕方がない。またそういう成分が除かれることで他の成分がうまく測れる。

ポリアミン分析の際には塩酸による抽出が用いられている。あるサンプルの場合、0.1N HCl で直接摩砕抽出して、その上清をクロロホルムで抽出(クロロホルムによって脂質、変性タンパク質を中間層、クロロホルム層に除ける)すると、水画分にアミノ酸がうまく取れてきた。この方法では酸性の分子が取れにくいがカラムが必要なくなる。


(ここから下は、ずっと前に試したことでアップデートができていない)

抽出法について

とりあえず糖、アミノ酸、有機酸ぐらいが測れれば十分である。脂質は別の方法が必要になる。 Roessner U らの方法 (Plant J. (2000) 23: 131-142) では植物体をメタノールで 抽出している(凍結したまま粉にして、メタノールに浸して70℃で15分処理)。 さらに H20 を等量加えて(メタノール可溶、水不溶の成分を沈殿させる) vortex, 遠心して 上清を取る 上清は書いてあるとおりに処理

しかし、この方法で緑葉ではクロロフィルがあるのでうまくいかない。 Golm metabolome database にあるようにクロロホルム、水による分画が必要である。 Golm database や MassBank jp は大変有用である。

クロロホルム、水、メタノールの系はタンパク質を効率よく沈殿させ、界面活性剤と脂質を取り除く のにも使われている。いろいろなことに 使えるかもしれない。

以前どこかから拾ってきた文章 

 ---- ここから
 I use this method for quantitative protein recovery even from 
 dilute solutions, with or without detergents 
 
 (from 0.1ml but can scale to need).
 add 0.4ml MeOH (at RT)
 vortex, pulse-spin down
 add 0.1 CHCl3
 vortex, spin down
 add 0.3 H2O
 vortex, Spin hard 1-5'
 Carefully remove upper phase
 ppt. proteins with 0.3ml MeOH
 vortex, spin hard 2'
 remove sup and dry pellet.
 
 The reference is Anal. Biochem. 138:141-143. I have found that this
 to be *much* better than TCA or acetone precipitation.
 
 For very dilute solutions I have added carrier proteins to ensure absolute recovery.
 ---- ここまで

上の文書に習うと、Golm の方法で出てきた中間層と下層に3倍量のメタノールを加えて遠心した沈殿に、 変性タンパク質と細胞壁成分が回収できるはずである。実際にそれらしい沈殿を取ることが出来る。 さらにメタノールで洗浄することも出来る。 しかしそれらの成分が本来の性質をどの程度保持しているかはわからない。でも一応細胞壁画分として 分析することは可能である。

Weckwerth の抽出法

Weckwerth W らが「メタボローム的に細胞壁を含む全成分を分析」という論文を出している。

Proteomics (2004) 4: 78-83 この方法では、メタノール・クロロホルム・水の混合溶媒を使っている。 クロロホルムを含む溶媒にすることで分解酵素の活性を抑える。さらに熱処理すればもっと抑えられるかもしれない。 またタンパク質の変性が進んで十分に不溶化し、除タンパクされやすいかもしれない。

2007 年の植物生理学会で聞かせていただいた話では、クロロホルムを含む溶媒で抽出しさらに熱処理している と言うことだった(Weckwerth W らの論文にはそう書いてないが、その方がよいのだろう)。 きちんとふたの閉まる容器を使わないといけない(15ml ファルコンチューブなど)。 最初はファルコンチューブからフタル酸などが多量に溶け出してくるのではないかと考えていたが、その心配はないらしい。 (実際にプラスチックから溶け出す成分はあるだろうが、今の条件では検出されていないのだろう)。

実際にやってみると、確かに熱処理によって余計な不溶性成分(変性したタンパク?)が 減っているような気がする。この「Weckwerth式抽出」+「熱処理」が、一番良さそうであった (サンプルによっては、もっとよい方法があるかもしれないが)

と思ったが、私の場合熱処理によって一番注目している大切な成分の値が低くなってしまう傾向があることがわかった。 そういうこともあるので、条件は各人が試行錯誤で本人にとって最適なものに調節しないといけない。

Weckwerth らの混合溶媒を、凍結したまま粉砕した組織と混合しチューブに移す。チューブは堅くふたが閉められるもので なければならない。そうでないと熱処理したときに蒸発して失敗するし、環境汚染を引き起こしてしまう。

内部標準として、リビトールとノルロイシンの溶液を加える。

vortex したあと70℃処理(時間は試料や注目している化合物によって変えないといけない)する。 処理が長いと分解する成分があるかもしれない。 5分熱処理すれば十分なような気がする。

または、室温で5分間激しくボルテックスする。30分氷上に置き10分おきにボルテックスする。 この場合サンプルを乾燥させた後で不溶物が増える傾向がある(たぶん変性したタンパク質)。しかし溶かすのが面倒に なること以外は(私が注目している化合物には)問題がない。「ロースループット」で我慢できるなら問題はない。 熱処理しない方がいくつかの化合物のシグナルが強くなる傾向がある。しかし注目している化合物によっては問題が 出るかもしれない。 各人が試行錯誤で本人にとって最適な方法を見つけないといけない。

抽出法を変えると、結果が大きく変わると言うこともあり得る。その場合どちらが真実に近いかは、それだけではわからない。 そういう場合は他の方法で調べた知識(これまでに公表されているの論文を読む、教科書を読む、異なる原理に基づく方法で さらに測定してみる)を用いて、もっともらしい方を採用しなければならない。 物事を正しく判断するのはとても難しい。自分の仮説を支持する結果が出たからと言ってすぐそれを信用するようでは 大間違いをする可能性が出てくる(それに気づかないと大変なことになる)。常に critical に考えなければいけない。

遠心して不溶成分を除く。

最初の溶媒画分とメタノール・クロロホルム(1:1)に溶解した画分をまとめる。水を加えて相分離させ 水:メタノール可溶性画分(透明になる)を単離する。

クロロフィルを含む下層は、吸光度を測定することでクロロフィル量を測定できる。それによって、上層に含まれる 成分の量を(〜μg/mg クロロフィル)のように表すことができる。 メタボロームの場合、サンプルが多種類あり、しかも非常に小さく軽くて正確な重量を測定できないことが 多い。小さくて薄いロゼット葉一枚の重量を正確に測定するのは難しい。測定している間にも水分が蒸発してしまう。クロロフィル量あたりで表せば そういう問題がなくなる。

下層はいくらか水溶性の成分が残っている可能性があるので、もう一回水を 加えて抽出することもできる。その場合、その水層も先ほどの水:メタノール画分と合わせる。 合わせるとメタノール濃度が低下する。それによって不溶化する成分が出ることがある。 「アブサン」という酒があって水を加えると濁ることで有名である。それと同じことが起きる。 アブサンも植物(ニガヨモギ)をアルコールで抽出したものなので、メタボローム分析と共通している。 その成分は遠心によって沈殿させることが出来る。これでさらに余計な成分を取り除ける。しかし、できる限り抽出にかける手間を減らさなければ処理できるサンプル数がほんの少しになってしまう。少しでも手数を減らすように工夫しなければならない。

特定の成分だけが抽出されにくくなっていたりすると、間違った結論を導く元である。出来る限りすべての 水溶性化合物を効率よく抽出できるようにしておかないと、後で「しまった」ということになってしまう。 また、出来る限り変成したタンパク質などの成分は取り除けなければならない。

しかし、できる限り手間を省けるようにしないと作業が恐ろしく面倒になる。実質的に実行不可能になる。 それでは困るので、ある程度は省略する必要もある。

分析する組織によっては中間層や不溶物が出てこなかったり多量に出たりする。 それらは何らかの高分子や両親媒性物質、脂肪酸等によるものらしい。 組織や遺伝形質によってタンパクなどの含有量が違うので、論文に書いてあるとおりにやるだけではどうもいけないらしい。 自分のサンプルに合わせた改変が必要かもしれない。 抽出法を確立することは手間がかかるが、どうしても必要になる。そういう土台が確立していないと 研究をうまく進められない。

水溶性画分は Roessner U らの方法で分析する。また HPLC等でも分析できる。

不溶画分(まだ緑色が濃い)については、さらに メタノール・クロロホルム(1:1)で抽出する。それでも溶けない画分は 細胞壁とデンプン、さらに変性タンパク質を含む。 この画分を細胞壁を主成分とする画分(デンプンも含む)と見なすことが出来る。 メタノールで洗浄しメタノールに浸して低温で保存する。

Weckwerth らは沈殿層からタンパクや核酸も分析できると言っているが、タンパクや核酸は水:メタノール画分 にも混入してしまっている可能性もある。また熱処理した場合は無理だろう。

細胞壁を主成分とする画分については、一部分を取って乾燥する。乾燥後の重量を量り空のチューブとの差から、重さを量る。 一定量 (数mg) を採取する。 「デンプン定量キット」(耐熱性アミラーゼとグルコシダーゼで処理、生成したグルコースを定量してデンプンの 量を見積もる。)で分析してデンプンを測定する。

細胞壁画分に関しては、まずデンプンを除くために DMSO で抽出する。DMSO 不溶画分はメタノール、 水で洗浄後 2M TFA で加水分解する。反応後の TFA は乾燥させ、 Roessner U らの方法で分析する。 こうすると細胞壁に含まれるタンパク質に由来するアミノ酸も検出できるかもしれない(可溶性のタンパクが沈殿した ものも混ざるだろうから、あまり正確ではない。プロリンの量でプロリンリッチタンパク質の量が見積もれるかもしれない)。 TFA 加水分解でも不溶性の部分(セルロースを多く含む)は硫酸で加水分解し、一部分をフェノール硫酸法で 糖の定量をする(セルロースの量)。理屈上はこれでデンプンと細胞壁を分析できるはずである。

細胞壁の分析には 近赤外分光法 も使われている。可溶性物質を抽出して残った不溶性画分をペレットに成形し吸収、反射スペクトルを測定することができる。スペクトルデータと、化学分析で得られた値を PLS回帰などで処理し、吸光度から成分量を求める式を作成できる。一度そういう式を作っておけば、スペクトルを測定するだけで成分量を推定することができる。

Weckwerth の方法(を改変した方法)で細胞壁が全く分解していないとは言えない。 またデンプンが一部可溶化したりしている可能性もある。 しかし野生型と変異体を比較するような場合なら、 よっぽど変な値になっていない限り「違いがある」ことを示すことには問題ないかもしれない。

細胞壁が抽出時に分解していたら、可溶性画分のガラクトースやキシロースなどの量が増えることが予想される。 デンプンが抽出時に分解していたら、マルトースの量が増えることが予想される。

しかし今のところ、そのようなことは見られていない。しかし分子量の平均が小さくなっていたりすることは あるかもしれない。糖組成を測るだけなら、何とかなるかもしれない。

Roessner U らの方法で乾固した沈殿はメトキシアミン・ピリジン溶液に溶かさないといけない。 しかしとても溶けにくい。 溶かすのには超音波洗浄槽を使うとよいようである。沈殿をチップの先で壁からはがし、押し拡げるようにして 溶液になじませてほぐす。チップの先で沈殿を小さい断片にする。チップは一番小さい P10 用の物を使う。 チップの先に沈殿がくっついて取れなくなったら、チップの先をハサミで切って溶液と一緒にボルテックスする。

沈殿が溶液に浮遊した状態で超音波を掛ける。 沈殿が激しく溶液内で動き回るような状態にする。沈殿が溶液から飛び出したら取り出してボルテックスする。 超音波は5分くらいでよいことが多いが、溶けにくかったら超音波→ボルテックス→超音波 のように繰り返す。 一応細かく分散したように見えたら、軽く遠心した後 90 分ゆっくりと振盪して反応させる。

沈殿に色素(アントシアニンなど)が含まれる場合、その色素が溶解して色が変わることが目安になる。 アントシアニンの色が変わらないならば、それはまだ反応していないことを示している。 反応してくると沈殿がほぐれてくる。沈殿の色も黄色がかってくる。 全然「ハイスループット」ではないが、安上がりにやろうというのだから仕方がない。 よく溶かさないと、メトキシム化されていない物質のピークが出てきて都合が悪い。

出来る限り試料を少なくすると溶解しやすい(当たり前だが)。 「30℃で90分」と論文に書いてあるが、室温で90分でも問題ないらしい。

この方法ではサンプルを濃縮するので微量でも混入している細胞壁成分、デンプン粒、変性タンパク質が不溶性の成分として 出てきてしまう。それらは溶かすことは出来ない(溶けると誤差の原因になるので溶けない方がよい)。 しかし試料を少なめにすると、溶解しない成分の量は減少して処理しやすくなる。

抽出物を濃縮乾固すると、不安定な化合物がシステインなどと反応して別の化合物を生成してしまうことが紹介されていた。   「謎の毒キノコ」の犯人とは……? ──シクロプロペンカルボン酸の特殊性   橋本貴美子・松浦正憲・犀川陽子・中田雅也 化学 2010年4月号

メタボロームのサンプルも、本来は乾固しない方がよいのかもしれない。

メトキシアミン・ピリジン溶液にはモレキュラーシーブ3Aを入れたままにしておいてある(脱水)。TMS化は水によって阻害される (産物が加水分解しやすい)ので水分は少ない方がよいだろう。また水分が中途半端に含まれると、その量が変化して結果が変わってくることもあるかもしれない。

この方法ではメトキシアミンでメトキシム化する。その後に MSTFA と反応させる(トリメチルシリル化)。 しかし MSTFA との反応は残存する水分などにより阻害されてしまうので、肝心のサンプルの方が反応しにくくなってしまう。 反応時間を延ばしても効果はない。

そのため、メトキシアミン溶液は論文の半分くらい、MSTFA は論文の1.5倍くらいに増やしてみた (メトキシアミン溶液:MSTFA = 1:2 )。

そうしないとほとんどシグナルが出なかった。 その条件でも、検量線を作成しようとすると直線になりにくかったり、時間経過によるピークの高さの変化が 大きかったりして問題があった。また特定の物質のシグナルが非常に低くなったりした。

シリル化剤によるトリメチルシリル化は、ガラスやシリコンの表面に存在する水酸基を修飾することで半導体の 製造の際にも使われるらしい(表面の疎水化)。水分でシリル化反応は阻害される。また結合したシリル基は容易に 加水分解されてしまう。 メタボローム分析の試料は様々な種類の化合物を含んでいるので、それらに含まれる何らかの成分が分解を 引き起こす方向に作用するかもしれない。

反応液内では、「シリル化」→「分解」→「シリル化」→・・ が繰り返され平衡状態に達していると推測できる。 平衡状態にならない場合は、シリル化された物質の量が一定にならず経時的に変化してしまう。

シリル化剤を増量するのは、定量性や安定性を高めるのに効果があるらしい。しかしあまりたくさん入れすぎても かえってよくないらしい。 シリル化剤の最適量を求めて、その割合で加えなければならない。しかし MSTFA は比較的高価なので 出来る限り節約できれば都合がよい(しかし他に方法がなければ高価でも使わないといけないが)。

サンプルを溶かしたメトキシアミン溶液から一部(3μ箸らい)を採取して、それに MSTFA を何倍かの適当な量加えるようにすれば MSTFA を節約できる。
GC にはサンプルを一度に 1〜2μ箸靴打てないので、最終的な量は15μ箸發△譴仆淑である(手で打つ場合)。 私の場合、論文に書いてあるのとは異なり MSTFA の量をサンプルよりもずっと多くする必要があった。

6倍量加え37℃で30分反応(30分より長くしても変化はない・かえって悪い) 
さらに30分掛けてゆっくりと25℃に温度を下げる。 
それには温度スロープを設定できるサーマルサイクラーを使う。 
または、37℃で反応したあとヒーティングブロックごと取り出して室温に放置してゆっくりと温度を下げる。 
25℃(室温)になってからさらに 2 時間待って測定を始める。その日の内に全部測定する。 
これで以前よりはましになった(私の条件では)。 
MSTFAを加えるのを1時間おきにして、反応開始から GCMS に打ち込むまでの時間が常に 一定になるようにしたらよいかもしれない。 

温度が急に変化すると、平衡状態が崩れてしまい値が安定しなくなるらしい。37℃で反応させた後に ゆっくりと室温に下げていくのがよいらしい。また25℃にした後も出来る限り一定温度に保持するようにするべきらしい。

しかしすべての化合物についてよい結果が得られるわけではない。 メタボローム分析では、すべての化合物について満足できる条件を見つけるのは難しい。 ある程度注目する化合物を決めて、それらに関して最適化していくしかない。

MSTFA が少ないと、有機酸のピークがおかしな形状になってしまう。またシグナルも非常に弱くなる。 十分量加えると、ピークがきれいな正規分布の形になる。また検出できる化合物の種類が増加する。

MSTFA をたくさん加えなければならないのは試料の乾燥が足りないのかもしれないし、MSTFA に触媒 (TMCS)を加えて いないものを使っているからかもしれない。しかし TMCS を加えてみても何の改善も見られなかった。 また反応容器も最適でないのかもしれない。ガラスを使うべきだろうが、洗うのが面倒なのでプラスチックの 微量チューブを使っている。そのせいで反応効率が低いのかもしれない(多分そうではないと思うが)。 プラスチックの微量チューブは安いが、ガラスの方は使い捨てにするのは少しもったいない。プラスチックですむなら その方が楽である。また試薬やサンプルを分注するのもプラスチックのチューブの方がやりやすい。

私の試料に含まれる化合物の量が、Roessner らの場合よりもかなり多いということも考えられる。 彼らはもっと感度が高くてダイナミックレンジが広いGCMSを使っているのかもしれない。 そういう機械を使えればサンプル量を減らせるが、贅沢は言えない。

いずれにせよ、効率よく反応し安定な高い値が得られる条件を求めることは必要である。たとえ単にピークパターンをサンプル間で 比較することを目的とする場合でも、パターン自体が測定するたびに変化してしまうのでは正しい結論を導くことが 出来なくなる。

植物由来のサンプルの場合は、混入してきた不溶性のタンパク質等が反応を阻害するかもしれない。 元の論文には除タンパクのことは全然書いてないが、タンパク質の含有量が多い組織では反応、定量性を妨害する要因になりうる。 またリン酸イオン、硫酸イオンなども植物試料には含まれている。それらもシリル化剤と反応する。 それに対処するためには、試料は出来る限り目的の化合物が検出できる最小限の量ですませた方が都合がよい。

またメタボロームの場合は、大量に含まれる産物(ショ糖など)と、ごくわずかしか含まれない物質を同時に測定する ことになる。できればサンプルの量を何段階かに変えてそれぞれ測定するようにしたほうが、定量性を高めるためにはよい。

トリメチルシリル化については、ジーエルサイエンス社のホームページによい資料がある。 また他にもすばらしい解説などが見つかる。

実際にやってみると、いろいろと問題点が出てくる。

TMS 化だけでなく、TBS 修飾することでより多くの成分を分析できることが報告されている。

Plant Cell Physiol. 2007  
Changes in the sugarcane metabolome with stem development. Are they related to sucrose accumulation?  
Glassop D, Roessner U, Bacic A, Bonnett GD.

この場合 MTBSTFA をもちいたシリル化を行う。アミノ酸は非常にきれいに分析できる。しかしリビトールや糖は検出できなく なってしまう(条件が悪いのかもしれないが)。ノルロイシンを内部標準として加えておかなければならない。 一度にすべての化合物をうまく測定するのは難しい。

食品の成分を分析するために様々なキットが売られている。植物のメタボロームの場合、食品としても用いられる成分を 分析することになる。メタボローム分析にも、食品分析用のキットや装置などが使えるかもしれない。 それらのキットは十分に定量条件なども検討され価格もあまり高くないだろうから都合がよいかもしれない。

J.K インターナショナルという会社が、「F-kit」 (食品成分分析キットのシリーズ)を輸入販売している。 これは以前はベーリンガーが売っていた物である。F-kit の部門は別会社になったらしい。 これらのキットは全世界で使われ実績が十分にあるので信頼できる。 グルコース、フルクトース、ショ糖を定量的に測るのはこれがよいかもしれない。

F-kit の「グルコース、フルクトース、ショ糖測定キット」を実際に使ってみた。非常に楽に三つの糖の量を測定できた。測定値も安定している。メタボローム抽出物にはこれらの糖が大量に含まれる。大量すぎて、かえってメタボロームでは計りにくい。量が少ないものを検出する条件では、これらの糖が出てくる時に検出器が飽和してしまう。

GC-MS について

GC-MS は設定するところが比較的少ない機械だが、それでも性能を十分に引き出すのは難しい。

機械によって設定は全く変わるだろうが、当方の(四重極・国産・どちらかというと手軽に使える機種)場合、

カラム
微極性のキャピラリーカラム HPLC とは異なり種類は少ない。キャリアガスはヘリウムと決まっている。HPLC と比べると悩むところが少なくて済む。
注入
スプリットモードとスプリットレスモードがある。スプリットモードにしている。1:20
温度プログラム
約80℃から約300℃へ かける時間は20分〜45分 私はよく分離するのが好きなので45分かけている。しかし時間がかかりすぎるとたくさんのサンプルを処理できないので都合が悪い。
検出
スキャンモードと SIMモード 電圧を上げるとシグナルが強くなる。しかしノイズも高くなり安定性も低くなる。さらに都合の悪いことに、シグナルが強すぎて「検出器に過大な電流が流れました」といって機械が止まることがある(ダイナミックレンジが狭い)。高級機だとそんなことは起きにくいのだろうが、そうでないとそれが起きやすい。電圧は低めの適当な値にしないといけない。しきい値は低めにする。SIMモードのときは、検出したい物質に合わせて値を設定する。メタボローム分析の場合、検出したい物質はたくさんあるので設定する値も多くなる。タイムプログラムで時間ごとに設定する値を変える。毎回検量線を作ると、うまくいっているかどうかを確認できる。
保守
チューニングを行うことによって、ノイズが減ってシグナルが高くなることがある。最適な設定になっていなくても、そのことがわかりにくいので気がつかなかったりする。なるべく頻繁にチューニングをするのがよいかもしれない。またメタボローム分析の試料は様々な物質を含む。そのため注入部が汚れやすい。ガラスインサートやシリカウールを清掃したり頻繁に取り替えることが必要である。気化温度を高めにした方がよいかもしれない。